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232.転売屋は畑を荒らされる

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「こりゃまたすごいな・・・。」

「申し訳ありませんこんな事になってしまって。」

「魔物がやったんだ、誰のせいでもない。それで、ルフはどんな感じなんだ?」

「エリザ様の話では魔物に立ち向かい何匹か倒していたようですが、多勢に無勢で負傷してしまったとの事です。幸い傷は浅くポーションで治癒しておりますが、今は疲れて眠っているようです。」

「無事ならそれでいい。」

昨夜の襲撃は主に狼系の魔物が襲ってきたそうだ。

グレイウルフだけでなくシルバーウルフやダイヤウルフという上位の魔物も多く居たらしく、エリザたちも随分とてこずったらしい。

幸いにも火には弱かったらしく、大量の松明と火の魔法で追い払ったそうだが結果はご覧の通り。

辺りは黒焦げになり、折角作った塀も全てなぎ倒されている。

昨日みんなで作った畑は見るも無残な状況だ。

何処が畝で何処が薬草を植えた場所かも分からない。

あ、黒薬草のある場所だけは何故か無事だな。

嫌ったんだろうか。

結構奥に植えたから免れたのかもしれない。

「いやー、良い感じにボロボロだな。」

アグリと二人で変わり果てた畑を見ている。

なんていうか、言葉も出ないとはこのことを言うんだろう。

昨日までは綺麗な畑だったのになぁ。

ポジティブに考えるならば収穫前じゃなくて良かったてことか。

昔収穫前の米や果物が台風なんかで水に浸かってだめになったのを農家さんが呆然と見ていたのを思い出す。

それと同じ顔をしているんだろう。

これが街の外に畑を持つという事だ。

早めに分かってよかったじゃないか。

「どうされますか?」

「どうするもなにもすることは変わらないさ、塀を直して土を耕してまた植えれば良い。その為にはこの死骸をどうにかする所からか。」

夜中の乱戦で皆戦っている場所が畑とは思わなかったんだろう。

襲撃後倒した魔物の死骸を積み上げたのだが、それが畑の一部だった。

「このままでは別の魔物を呼びますからね、燃やして灰を埋めるのが一番でしょう。」

「何かに使えるか?」

「毛皮が綺麗であれば再利用も出来たでしょうが、こうもボロボロですと・・・。」

『シルバーウルフの死骸。銀色の毛並みを持ちグレイウルフよりも素早く動く魔物。その死骸。傷ついている。最近の平均取引価格は銅貨45枚、最安値銅貨30枚、最高値55枚。最終取引日は21日前と記録されています。』

綺麗だとそれなりの値段で売れるんだろうが、残念ながら至るところが焦げたり切りつけられたりして使えそうにない。

勿論肉を食べる場所も無いので、燃やすしか無さそうだ。

「ガキ共には見せられないからな、俺達で何とかするか。」

「手の空いている冒険者にも声を掛けてみます。」

「宜しく頼む。」

とりあえず畑から離れたところに持っていかなければ。

手押し車に屍骸を乗せ、少し離れた所に積み上げる。

それに油をかけ火をつけると、晴れ渡った空に真っ黒な煙が昇り、そして消えた。

魔物とはいえ生き物は生き物だ。

手を合わせるのは変かもしれないが、燃える屍骸に無意識に手を当てていた。

「シロウこんなところに居たの。」

「おぅ、昨日はお疲れ。」

「冒険者に被害は無し、まぁけが人は山ほど居るけど重傷って程じゃないわ。」

「夜中の乱戦で被害無しか、すごいな。」

「城壁前に集まったところを魔法で弱らせていたしね、ダイヤウルフは確かに危険だけど囲めばどうって事ないから。」

「とりあえず無事でよかった。先に戻って休んでいても良いぞ。」

「うん・・・。畑、だめになっちゃったね。」

「畑ぐらいまた耕せば良いさ。」

「そっか。」

疲れているのに俺のことを心配してくれたんだろう。

お礼とばかりに尻を揉むと文句を言わずに揉ませてくれた。

「じゃあ、先に戻るね。」

「おぉ、俺はルフの様子をみてから帰るつもりだ。」

「怪我はもう大丈夫のはずよ。」

「あぁ、怪我はな。」

でも心はそうじゃないかもしれない。

魔物の気持ちは分からないがなんとなくそんな気がする。

燃やした横に穴を掘って灰や骨を埋めればこれにて作業は終了。

結局昼過ぎになっちまったな。

畑に戻ると男達が倒れた塀の残骸を集めていた。

「シロウさん・・・。」

「そんな顔するなって、元はもっと酷い状況だったんだまた作れば良いさ。」

「そうっすね!」

「また耕しましょう!」

「今日は残骸整理だが明日からまた忙しくなる、無理するなよ。」

「了解っす!」

「アグリは?」

「アグリさんならギルド協会に行ってます。」

今日の件で話を聞かせてくれとか言われているんだろう。

そっちは任せれば良いか。

荒れた畑の真ん中を突っ切り、無事だった倉庫に向かう。

さすが丈夫に作られていただけある、この状況でも全く痛んでいなかった。

俺の気配を感じたんだろう、倉庫の奥で寝ていたルフが身体を持ち上げる。

脚と胴体には包帯が巻かれ、血がにじんでいた。

キズはポーションで治っているはずだから念のためだろうな。

「ルフ、大丈夫か。」

パタパタ。

いつもはぶんぶん振られる尻尾が力なく動く。

「そうか、大丈夫じゃないか。でも畑を守ろうとしてくれたんだってな、礼を言うよ。」

「わふ。」

「そんな顔するなって、畑がぐちゃぐちゃになったのはお前のせいじゃない。お前が無事ならそれで良いさ。」

ごめん。

そう言っているような気がしてルフの頭を優しくなでてやる。

目を細め、そして力なく顔を下ろした。

「畑はすぐに元通りになる、そうだな2日もあれば大丈夫だろう。」

パタパタ。

「そしたらまた作付けと種蒔きをするつもりだ。塀が直るにはもう少し時間がかかるだろうから、それまではお前が頼りだ。しっかり頼むぞ。」

パタパタ。

「今回の襲撃は狼系の魔物だったそうだな、殆ど撃退したが手負いは北に逃げたらしい。でだ・・・。」

なんとなく違う雰囲気を感じたんだろう。

俯いていた顔を上げ俺を見てくる。

「やられっぱなしで良いのか?」

え!?という顔をした。

いやぁ、犬って表情豊かだよな。

いや狼か。

「手負いの連中はお前を見てる。ってことは裏切り者のレッテルを貼られているわけだ。今度はお前を狙って襲ってくるかもしれない。今ルフに死なれるのは色々と困るんだ、これから畑は大きくなるだろうしそれをしっかり管理できるのは人間じゃなくてルフお前だ。」

ブンブン。

今日初めて尻尾が強く振られた。

「それとな、仕方ないとは思っているが畑を潰された事を許したつもりはない。俺達の畑をこんな事にした連中をこのまま野放しにして良いのか?」

ブンブンブン。

「だよな、いいわけないよな?じゃあ落とし前を付けさせようじゃないか。戦えるよな?」

「ワフ!」

「良い声だ、俺達には分からなくてもお前には奴らが何処に行ったかわかるはずだ。連れて行ってくれるな?」

「ワフ!」

「よし、それじゃあ道案内を頼む。って言っても俺は戦えないからほかの冒険者に行って貰う事になるだろう。俺が行っても足手まといだ、ここでのんびり待たせてもらうさ。」

仕方ないなぁ、そんな顔をするルフ。

だがさっきまでと違い、その顔は生気に満ち溢れていた。

やられたらやり返す。

俺達の畑を潰した事を後悔させてやらないと・・・。

「そんな事だろうと思った。」

「なんだよ、盗み聞きか?」

「シロウが自分の物を壊されて黙ってるはずないって思ったのよね。」

「よく分かってるじゃないか。」

「道案内はルフがしてくれるんでしょ?今から追撃部隊を編成するからちょっと待ってね。」

「わざわざ遠くまで行くんだぞ、集まるのか?」

「みんなシロウの畑を潰された事を怒ってるのよ。それと、お詫びも。」

「暗かったんだから仕方ない、それは怒ってないぞ。」

「シロウは良くても私たちは良くないの。いつもお世話になってるんだから、たまには恩返しさせてよね。」

そういうことなら受けない理由はない。

自由で横暴でめんどくさがりな連中だが、何故か義理人情には厚いんだよなぁ。

何処の江戸っ子だよ。

「ってことだ、手柄を取られないようにしっかりと暴れてこいよ。」

「ワフ!」

ルフの声が冬の寒空に響く。

その後すぐに追撃部隊が編成され、ルフの誘導の元落とし前を付けに行った。

帰ってきたのは日が暮れてから。

畑で火を焚き、帰りを待っていた俺の前に敵将の首をぶら下げたルフ達が戻ってきた。

その顔は誇らしげで、返り血まみれの彼女を俺はしっかりと抱きしめた。

「よくやったな。」

ブンブン!

「ねぇ、私も頑張ったんだけど。」

「そうだな、エリザも頑張ったな。」

「え、ついで!?」

エリザが不満そうに尻尾を振っているように見えたのは錯覚だろう。

「さぁ祝杯だ。倉庫の前に肉を用意してるからしっかり食べろよ。」

「私は?」

「マスターの店を確保してる、討伐隊のみんなを連れて先に行って来い。」

「やったー!みんなー!シロウがお酒おごってくれるってー!」

「「「「あざーーーっす!」」」」

ったく、現金な奴らだぜ。

焚き火に当たりながらルフが幸せそうに肉を食べきるのを見届け、俺も三日月亭へと急いだ。

寒空に満月が輝いている。

「アオーーン!」

ルフの勝利の遠吠えが天高く上り、その夜何度も響くのだった。
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