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230.転売屋は倉庫を視察する
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翌日。
予定通り朝一番でレイブさんの店に行き倉庫について聞いてみた。
が、返事はNoだった。
どこもいっぱいで空きは無いそうだ。
「お力に慣れず申し訳ありません。」
「いや、そうだろうと思っていたから気にしないでくれ。それと、首輪の件だが・・・。」
「最初はあのように申しましたが主人であるシロウ様が許可すれば問題ありません。最初は分かりやすい様あのようにご説明しましたが、お気づきの通りそこまで制約の強い物ではありませんから。」
「だが反抗的な奴隷には効果があるんだろ?」
「主人が悪意を感じたり攻撃を受けたりすると発動しますね。ですがそれはあくまで心の底からそう思った場合にはです。むしろそういう奴隷であればさっさと手放す方が多いですよ。」
「わざわざ気に入らない奴隷を置く理由もないか。」
「奴隷を粗末に扱ってはならないという決まりを守るためにはお金がかかります。そのお金を垂れ流してまで養う必要はないという事です。」
なるほどなぁ。
とりあえずアネットの件は問題ない事が分かった。
元々行商に出ている時点で気づけよって話だよな、まったく。
さすがに絞め殺すことは無くても、戻ってきてアネットが失神したままだったら精神衛生上よろしくない。
これからは気を付けるとしよう。
「これからどうされるんですか?」
「空きがないのは分かったから今の倉庫を何とかやりくりするつもりだ。だが、もう一件回ってみる。」
「ギルド協会ですね?」
「まぁ、そんな所だ。」
実際はそのまた一つ上だが、受付はギルド協会だ。
流石にアポなしで話をしに行くほど馬鹿ではない。
レイブさんにお礼を言ってギルド協会へ行き、アナスタシア様にアポを取ってもらう。
時間が掛かるかと思いきや、昼過ぎにはすぐに来るようにと連絡が来た。
連絡が来たというか、迎えの馬車が直接来たんだけども。
「すっごい馬車!」
「フカフカですね。」
「なんで二人が一緒なんだ?」
「一人で行くのはイヤなんでしょ?」
「確かにそうだが・・・。」
「ミラ様は店番が有りますから仕方ありません。私は、ご主人様のご命令通り休暇中です。」
本当は昨日だけの予定だったが、今後のスケジュールを考えるとかなりタイトなので隣町に行って帰ってくるまでを休みとした。
たまには羽を伸ばすのもいいだろう。
ミラも働きづめだし、たまには親孝行させてやるかな。
あっという間にお屋敷の前に到着し、馬車を下りる。
「あら、一人じゃなかったのね。」
「ついてくるって聞かなくてな、迷惑だったか?」
「そんなことないわ。話はシープから聞いているからさっさと行きましょう。」
「行くってどこへ?」
「倉庫を見たいんでしょ、ちょうどいいのがあるから特別に連れて行ってあげる。」
馬車を下りて早々アナスタシア様が乗ってきた馬車に乗り込む。
三人で顔を見合わせるも本人は素知らぬ顔だ。
確かに倉庫の話はしたが、まさかいきなり見に行くことになるとは。
っていうかレイブさんでも知らない物件とか大丈夫なのか?
絶対後で何か言われるだろ、これ。
とはいえ、このまま待たせるわけにもいかないので再び馬車に乗りこむと何も命令せずに馬車は動き出した。
どうやら行く場所は連絡済みのようだ。
「ちなみにギルド協会からは何と連絡が?」
「貴方が倉庫を探しているそうだから何処か知らないかって相談だったわ。」
「なるほど。で、この馬車は?」
「その探している倉庫に決まっているじゃない。物件も見ずに決めるっていうの?」
「決めるも何も値段すら聞いていないんだが・・・。」
「それは見てからのお楽しみよ。」
お楽しみになるんだろうか。
俺には恐怖しかないんだが・・・。
それ以上は怖くて聞けず、本人も何も言わなかったので無言のまま馬車は街の北側へと向かっていった。
町長のお屋敷などがある一角を抜けると、突然寂れた景色に変わる。
「へぇ、ここってこんな感じになってるんだ。」
「エリザも見たことないのか?」
「北側は貴族の家ばかりだし、行くと白い目で見られるから。」
「冒険者がうろつくと余計な事をしに来たと誤解されるのよね。あの辺は自分を金持ちだと誤解している人が多いから。」
「副長の奥様が言うセリフとは思えないな。」
「あら、本当の事よ。確かにお金が有ったら何でもできるし納めるものを納めてくれたら文句は言わないわ。だけどね、人間的に受け入れにくい事だってあるのよ。」
つまりはあまりよろしくない事をしている人が多いんだろう。
寂れているのは単純に人が近づかないだけか。
「で、そんな所に倉庫があるのか。防犯は問題ないのか?」
「さすがに他人のお金に手を出すことはしないわよ。」
「本当だろうな。」
「むしろ一般人が出歩かないからこそ安心なのよ。何かあったら真っ先に自分たちが疑われるってわかっているしね。」
「なるほどなぁ。」
「倉庫への行き来は馬車を使って他の場所に停車しなかったら大丈夫。ほら、見えてきた。」
小窓から見えたのは鮮やかな青い屋根が目を引く倉庫だった。
近づくとそれなりの大きさなのが分かる。
「あの敷地全部か?」
「倉庫と、囲われている所がそうね。」
「馬車二台が悠々停車できる広さに、あのでかい倉庫。中身は?」
「もちろん空っぽ・・・のはずよ。」
「いや、はずって。」
「だって自分で確かめたわけじゃないもの。鍵はあるから、ほら開けてごらんなさい。」
渡されたのは普通の鍵、ではなく20cm程の鉛筆ぐらいの金属棒だった。
「わ!魔導鍵だ!」
「初めて見ました。」
エリザとアネットが驚いた顔をしてその棒を見る。
一見するとただの黄色に輝く金属製の耳かきだが、魔導っていうぐらいだから魔法関係の何かなんだろう。
「マドウキー?」
「魔法の力が込められている鍵で、対になる鍵穴に入れないと形が変わらないの。」
「へぇ、すごいな。」
「魔法でも開錠できないから無くしたら大変なのよね。」
「複製は?」
「専門家に頼めば出来るけど、普通は無理よ。それに複製は一目でわかるように真っ黒い見た目になるから、これは正真正銘本物ってわけ。」
「って事はこれ一つだけか。」
「そういう事。正面に穴が開いてるから、差し込んでごらんなさい。」
馬車は倉庫の正面に止まり、馬車から降りる。
倉庫は三階建てぐらいの高さがあり、横は10mぐらい。
奥は・・・その倍?
言われた通り倉庫の前まで行くとつるつるとした壁の腰の高さに小さな穴が開いていた。
鍵穴が無ければただののっぺりとした壁なのだが、鍵を差し込んだ途端壁にまっすぐな筋が入り、鍵を回すと同時に音も無くスムーズに開きだす。
「すごいな。」
「音がしませんね。」
「気持ちわるぅ。」
「中は・・・なんだ空っぽね。」
「いや、何期待してるんだよ。」
「お宝でもと思ってたんだけど残念。」
「本当に知らなかったんだな。」
「えぇ、急死した貴族の遺品だからちょっと期待してたんだけど。あの人はあまり裕福じゃなかったし、仕方ないわね。」
遺品が倉庫?
っていうか何でそんなものをこの人がもっているだろうか。
相続人が居ないから街が引き取るってのは、可能性的にゼロじゃないがそれでもこの人個人が持っているのはおかしいだろ。
「・・・どういう関係だったんだ?」
「それは内緒。でも悪い事は絶対にしない人だったから、安心していいわよ。」
「安心しろって言われてもなぁ。」
「シロウすごい広いよ!」
「おい、勝手に入るなって!」
慌てて二人の方に視線を戻すと早くも倉庫の中に入っていた。
さっきまで真っ暗だったのに今は奥まで見通せるぐらいに明るい。
「へぇ、明かりの魔道具が勝手につくのね。」
「自動で点くのか、すごいな。」
「奥には冷蔵用の魔道具がありますよ、とっても大きいんです!」
「アレだけあったらお酒が入れ放題ね。」
「いやいや、ここ仕事用だから。」
「いいじゃない好きに使ったら。」
「っていうかまだ借りるとも何も言ってないんだが?」
「あら、そうだったかしら?」
いや、そうだったかしらって・・・。
倉庫内に窓はないのであの扉を開けるしか方法はない。
加えてこの広さ、奥行きは20m程の直方体で天井には自動で点く明かりが付いている。
天井が外見より低いことを考えると上にも同じ広さの階があるんだろう。
大型の魔導冷蔵庫が二基。
馬車荷台二分の停車場。
防犯対策もしっかりされていて中の設備もそろっている。
こんなすごい倉庫、値段をつけたらいくらになるのやら。
「じゃあ買うのね。」
「どうしてそうなる。」
「お金、あるでしょ?」
「ある、けどない。」
「残念ね、彼からは相応しい人に譲るよう言われているのよ。貴方が買わないなら別の人を待たなきゃ。」
「買うこと前提なのか?借りるのはダメなのか?」
「管理が面倒なの。」
あぁ、この人はこういう人だった。
面倒な事はすべて他人に押し付けて自分が楽をしたい。
この倉庫も、放置したままではすぐに痛んでくるだろうから早く誰かに譲りたいってのが本音なんだろう。
でもなぁ、買うのはなぁ。
立地は最高なんだけどなぁ。
「ちなみに、敷地の端は貴方の畑と隣り合わせだから壁の強度を落とさないのなら扉をつけてくれても構わなくてよ。さすがに馬車が通れるぐらいは無理だけど人の出入りぐらいなら問題ないでしょ。」
「なぁ、畑の土地ってもしかして・・・。」
「さぁ何のことだか。」
とぼけた所で答えは出ている。
この建物を含んだ一角がその人の持ち物だったんだろう。
建物跡がなぜあるのかとずっと不思議だったんだが、昔はこの大きな壁も無かったのかもしれない。
いやー、参った。
こんなに計画的だったとは。
「で、いくらで売るつもりだ?」
「金貨200枚。」
「それぐらいするよな・・・て安すぎだろ。」
「まぁ土地と建物で考えたらそうだけど、それぐらいじゃないと買ってくれなさそうだし。」
「いやまぁ、確かにそうだが・・・。」
「ここが有れば商売もやりやすいでしょ、貴方にはもっと稼いでもらわないといけないんだから。頑張ってね。」
頑張ってね、か。
いずれにせよ倉庫は必要なんだしここを買わない理由はぶっちゃけない。
ここまでお膳立て、いや計画的に来たのにもこの人なりの理由があるんだろう。
それこそ亡き人との約束とかな。
「はぁ、仕方ないか。」
「代金はギルド協会に渡してくれたらそれでいいわ、権利書関係もお金と引き換えてくれるように頼んでおくから。じゃあ後は好きにしてね。」
ヒラヒラと手をひるがえしてアナスタシア様は一人馬車へと戻って行った。
視察がまさかこんなことになるとは。
「おい二人共、一度戻って代金を支払うぞ。それから宝探しだ!」
「「は~い!」」
前のままって事は何かが隠されている可能性もあるはず。
まぁ無くてもいいんだけど。
何はともあれ倉庫を手に入れたんだから、色々やらないとな。
予定通り朝一番でレイブさんの店に行き倉庫について聞いてみた。
が、返事はNoだった。
どこもいっぱいで空きは無いそうだ。
「お力に慣れず申し訳ありません。」
「いや、そうだろうと思っていたから気にしないでくれ。それと、首輪の件だが・・・。」
「最初はあのように申しましたが主人であるシロウ様が許可すれば問題ありません。最初は分かりやすい様あのようにご説明しましたが、お気づきの通りそこまで制約の強い物ではありませんから。」
「だが反抗的な奴隷には効果があるんだろ?」
「主人が悪意を感じたり攻撃を受けたりすると発動しますね。ですがそれはあくまで心の底からそう思った場合にはです。むしろそういう奴隷であればさっさと手放す方が多いですよ。」
「わざわざ気に入らない奴隷を置く理由もないか。」
「奴隷を粗末に扱ってはならないという決まりを守るためにはお金がかかります。そのお金を垂れ流してまで養う必要はないという事です。」
なるほどなぁ。
とりあえずアネットの件は問題ない事が分かった。
元々行商に出ている時点で気づけよって話だよな、まったく。
さすがに絞め殺すことは無くても、戻ってきてアネットが失神したままだったら精神衛生上よろしくない。
これからは気を付けるとしよう。
「これからどうされるんですか?」
「空きがないのは分かったから今の倉庫を何とかやりくりするつもりだ。だが、もう一件回ってみる。」
「ギルド協会ですね?」
「まぁ、そんな所だ。」
実際はそのまた一つ上だが、受付はギルド協会だ。
流石にアポなしで話をしに行くほど馬鹿ではない。
レイブさんにお礼を言ってギルド協会へ行き、アナスタシア様にアポを取ってもらう。
時間が掛かるかと思いきや、昼過ぎにはすぐに来るようにと連絡が来た。
連絡が来たというか、迎えの馬車が直接来たんだけども。
「すっごい馬車!」
「フカフカですね。」
「なんで二人が一緒なんだ?」
「一人で行くのはイヤなんでしょ?」
「確かにそうだが・・・。」
「ミラ様は店番が有りますから仕方ありません。私は、ご主人様のご命令通り休暇中です。」
本当は昨日だけの予定だったが、今後のスケジュールを考えるとかなりタイトなので隣町に行って帰ってくるまでを休みとした。
たまには羽を伸ばすのもいいだろう。
ミラも働きづめだし、たまには親孝行させてやるかな。
あっという間にお屋敷の前に到着し、馬車を下りる。
「あら、一人じゃなかったのね。」
「ついてくるって聞かなくてな、迷惑だったか?」
「そんなことないわ。話はシープから聞いているからさっさと行きましょう。」
「行くってどこへ?」
「倉庫を見たいんでしょ、ちょうどいいのがあるから特別に連れて行ってあげる。」
馬車を下りて早々アナスタシア様が乗ってきた馬車に乗り込む。
三人で顔を見合わせるも本人は素知らぬ顔だ。
確かに倉庫の話はしたが、まさかいきなり見に行くことになるとは。
っていうかレイブさんでも知らない物件とか大丈夫なのか?
絶対後で何か言われるだろ、これ。
とはいえ、このまま待たせるわけにもいかないので再び馬車に乗りこむと何も命令せずに馬車は動き出した。
どうやら行く場所は連絡済みのようだ。
「ちなみにギルド協会からは何と連絡が?」
「貴方が倉庫を探しているそうだから何処か知らないかって相談だったわ。」
「なるほど。で、この馬車は?」
「その探している倉庫に決まっているじゃない。物件も見ずに決めるっていうの?」
「決めるも何も値段すら聞いていないんだが・・・。」
「それは見てからのお楽しみよ。」
お楽しみになるんだろうか。
俺には恐怖しかないんだが・・・。
それ以上は怖くて聞けず、本人も何も言わなかったので無言のまま馬車は街の北側へと向かっていった。
町長のお屋敷などがある一角を抜けると、突然寂れた景色に変わる。
「へぇ、ここってこんな感じになってるんだ。」
「エリザも見たことないのか?」
「北側は貴族の家ばかりだし、行くと白い目で見られるから。」
「冒険者がうろつくと余計な事をしに来たと誤解されるのよね。あの辺は自分を金持ちだと誤解している人が多いから。」
「副長の奥様が言うセリフとは思えないな。」
「あら、本当の事よ。確かにお金が有ったら何でもできるし納めるものを納めてくれたら文句は言わないわ。だけどね、人間的に受け入れにくい事だってあるのよ。」
つまりはあまりよろしくない事をしている人が多いんだろう。
寂れているのは単純に人が近づかないだけか。
「で、そんな所に倉庫があるのか。防犯は問題ないのか?」
「さすがに他人のお金に手を出すことはしないわよ。」
「本当だろうな。」
「むしろ一般人が出歩かないからこそ安心なのよ。何かあったら真っ先に自分たちが疑われるってわかっているしね。」
「なるほどなぁ。」
「倉庫への行き来は馬車を使って他の場所に停車しなかったら大丈夫。ほら、見えてきた。」
小窓から見えたのは鮮やかな青い屋根が目を引く倉庫だった。
近づくとそれなりの大きさなのが分かる。
「あの敷地全部か?」
「倉庫と、囲われている所がそうね。」
「馬車二台が悠々停車できる広さに、あのでかい倉庫。中身は?」
「もちろん空っぽ・・・のはずよ。」
「いや、はずって。」
「だって自分で確かめたわけじゃないもの。鍵はあるから、ほら開けてごらんなさい。」
渡されたのは普通の鍵、ではなく20cm程の鉛筆ぐらいの金属棒だった。
「わ!魔導鍵だ!」
「初めて見ました。」
エリザとアネットが驚いた顔をしてその棒を見る。
一見するとただの黄色に輝く金属製の耳かきだが、魔導っていうぐらいだから魔法関係の何かなんだろう。
「マドウキー?」
「魔法の力が込められている鍵で、対になる鍵穴に入れないと形が変わらないの。」
「へぇ、すごいな。」
「魔法でも開錠できないから無くしたら大変なのよね。」
「複製は?」
「専門家に頼めば出来るけど、普通は無理よ。それに複製は一目でわかるように真っ黒い見た目になるから、これは正真正銘本物ってわけ。」
「って事はこれ一つだけか。」
「そういう事。正面に穴が開いてるから、差し込んでごらんなさい。」
馬車は倉庫の正面に止まり、馬車から降りる。
倉庫は三階建てぐらいの高さがあり、横は10mぐらい。
奥は・・・その倍?
言われた通り倉庫の前まで行くとつるつるとした壁の腰の高さに小さな穴が開いていた。
鍵穴が無ければただののっぺりとした壁なのだが、鍵を差し込んだ途端壁にまっすぐな筋が入り、鍵を回すと同時に音も無くスムーズに開きだす。
「すごいな。」
「音がしませんね。」
「気持ちわるぅ。」
「中は・・・なんだ空っぽね。」
「いや、何期待してるんだよ。」
「お宝でもと思ってたんだけど残念。」
「本当に知らなかったんだな。」
「えぇ、急死した貴族の遺品だからちょっと期待してたんだけど。あの人はあまり裕福じゃなかったし、仕方ないわね。」
遺品が倉庫?
っていうか何でそんなものをこの人がもっているだろうか。
相続人が居ないから街が引き取るってのは、可能性的にゼロじゃないがそれでもこの人個人が持っているのはおかしいだろ。
「・・・どういう関係だったんだ?」
「それは内緒。でも悪い事は絶対にしない人だったから、安心していいわよ。」
「安心しろって言われてもなぁ。」
「シロウすごい広いよ!」
「おい、勝手に入るなって!」
慌てて二人の方に視線を戻すと早くも倉庫の中に入っていた。
さっきまで真っ暗だったのに今は奥まで見通せるぐらいに明るい。
「へぇ、明かりの魔道具が勝手につくのね。」
「自動で点くのか、すごいな。」
「奥には冷蔵用の魔道具がありますよ、とっても大きいんです!」
「アレだけあったらお酒が入れ放題ね。」
「いやいや、ここ仕事用だから。」
「いいじゃない好きに使ったら。」
「っていうかまだ借りるとも何も言ってないんだが?」
「あら、そうだったかしら?」
いや、そうだったかしらって・・・。
倉庫内に窓はないのであの扉を開けるしか方法はない。
加えてこの広さ、奥行きは20m程の直方体で天井には自動で点く明かりが付いている。
天井が外見より低いことを考えると上にも同じ広さの階があるんだろう。
大型の魔導冷蔵庫が二基。
馬車荷台二分の停車場。
防犯対策もしっかりされていて中の設備もそろっている。
こんなすごい倉庫、値段をつけたらいくらになるのやら。
「じゃあ買うのね。」
「どうしてそうなる。」
「お金、あるでしょ?」
「ある、けどない。」
「残念ね、彼からは相応しい人に譲るよう言われているのよ。貴方が買わないなら別の人を待たなきゃ。」
「買うこと前提なのか?借りるのはダメなのか?」
「管理が面倒なの。」
あぁ、この人はこういう人だった。
面倒な事はすべて他人に押し付けて自分が楽をしたい。
この倉庫も、放置したままではすぐに痛んでくるだろうから早く誰かに譲りたいってのが本音なんだろう。
でもなぁ、買うのはなぁ。
立地は最高なんだけどなぁ。
「ちなみに、敷地の端は貴方の畑と隣り合わせだから壁の強度を落とさないのなら扉をつけてくれても構わなくてよ。さすがに馬車が通れるぐらいは無理だけど人の出入りぐらいなら問題ないでしょ。」
「なぁ、畑の土地ってもしかして・・・。」
「さぁ何のことだか。」
とぼけた所で答えは出ている。
この建物を含んだ一角がその人の持ち物だったんだろう。
建物跡がなぜあるのかとずっと不思議だったんだが、昔はこの大きな壁も無かったのかもしれない。
いやー、参った。
こんなに計画的だったとは。
「で、いくらで売るつもりだ?」
「金貨200枚。」
「それぐらいするよな・・・て安すぎだろ。」
「まぁ土地と建物で考えたらそうだけど、それぐらいじゃないと買ってくれなさそうだし。」
「いやまぁ、確かにそうだが・・・。」
「ここが有れば商売もやりやすいでしょ、貴方にはもっと稼いでもらわないといけないんだから。頑張ってね。」
頑張ってね、か。
いずれにせよ倉庫は必要なんだしここを買わない理由はぶっちゃけない。
ここまでお膳立て、いや計画的に来たのにもこの人なりの理由があるんだろう。
それこそ亡き人との約束とかな。
「はぁ、仕方ないか。」
「代金はギルド協会に渡してくれたらそれでいいわ、権利書関係もお金と引き換えてくれるように頼んでおくから。じゃあ後は好きにしてね。」
ヒラヒラと手をひるがえしてアナスタシア様は一人馬車へと戻って行った。
視察がまさかこんなことになるとは。
「おい二人共、一度戻って代金を支払うぞ。それから宝探しだ!」
「「は~い!」」
前のままって事は何かが隠されている可能性もあるはず。
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