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224.転売屋は錬金術師を買う

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目の前に状況をよく理解していないビアンカがいる。

それもそうだ、自分を売る覚悟をしてレイブさんの店に来たら俺達が居るんだから。

部屋に入ってすぐの一言目が『え!?』だったしな。

俺が同じ状況なら同じようになる自信はある。

「ようこそビアンカ様、今日はどうされました?」

そんな状況でもいつもと変わらずレイブさんがにこやかに話しをはじめる。

「えっと、その・・・。」

「俺達の事はいいから話を進めてくれ。」

「そうですけど・・・。」

「奴隷をお求めですか?」

「ち、違います!私を、私を買っていただきたいんです!」

「ほぉ、貴女を。」

「はい。借金をしてしまって、色々と手を尽くしたんですけどお金が集らなくて。このままだと良くわからない人に売られるので、せめてまともな人に買われたくて・・・。」

うんうん、ここまでは予想通りだ。

さすがのシモーヌもレイブさんの店の中までは監視できないだろう。

「そういう事情でしたか。ですが、私も商売です望むだけのお金で貴女を買うわけには参りません。借金はいくらですか?」

「金貨15枚です。」

「では貴女にそれだけの価値があるか見せていただきましょう。」

「え、見せてってどういう・・・。」

「名前や職業、出来る事を教えていただけなければ値段はつけられません。加えて身体の外も中も全て拝見します。まさかその覚悟もなく自分を売りに来たのではありませんよね?」

「だ、大丈夫です!」

震えているのがここからでも分かるな。

覚悟しているといいながら実際その状況になると怖いものだ。

「ミラ達も同じ事をしたのか?」

「もちろんです、それが奴隷になるということですから。」

ウンウンとアネットも頷いている。

まぁ、他人に裸を見られたから無理とかそんな子供みたいな事を言う事は無い。

むしろ値段をつけるのであれば細部にわたってしっかりと確認するのが普通だろう。

欠陥や病気があって売った後で問題になるのはイヤだからな。

「では少し席をはずします。」

「どうぞごゆっくり。」

「頑張ってビアンカ!」

何を頑張るのかはわからないが、アネットの応援にかすかに応じて二人は部屋から出て行った。

「シロウ様、どういうことかご説明いただけますよね?」

「説明も何もさっき言った通りだよ、レイブさんと賭けをして俺が勝った。だから仕入れ値に金額を足してビアンカを買う。」

「ですが買った所で生かす場所がないと申していたはずです。」

「あぁ、ここでは無理だ。だが他所だと話は変わる。」

「というと?」

「そもそもビアンカが売られた理由から話す必要があるんだが・・・、時間もあるしイチから説明するか。」

ビアンカが古参の錬金術師と揉め、そして組織ぐるみで追い込まれ、そして借金を重ねた事。

そしてその犯人達が悉くしょっ引かれて、街に錬金術師も薬師すらも居なくなってしまった事。

最後に、工房には道具も全て残っており、ギルド協会の力でそれを抑えている事。

その辺を説明してやった。

ミラは終始頷くだけだったが、アネットは百面相をして面白かったな。

エリザ?

酔いつぶれて寝てるよ。

こいつのことだからもう少し寝たら起きるだろうさ。

「ってな感じだ。」

「そんな事があったんですね。」

「なので表向きは自分で借金を返済させ、シモーヌとの縁を切ってから俺が買い付けるという約束をレイブさんとしたんだよ。快く了承してくれたんだが、迷惑を掛けるわけだし割増しで買うと言ったんだが聞き入れてくれなくて、そこでこの賭けを思いついたんだよ。」

「結果、シロウ様が勝ち、最少の金額に金貨10枚を乗せて買われるのですね。」

「そういうこと。借金が金貨15枚、そこにいくら乗せるかは分からないがおおよそ金貨20枚って所だろう。最後に金貨10枚を加えれば全部で金貨30枚になる。」

「それを肩代わりしてビアンカに返済させるんですね。」

その予定なんだけど・・・。

さて、どうしたもんか。

「そこで三人・・・一人寝てるから二人の意見を聞きたい。」

「なんでしょうか。」

「この街で稼ぐ事は不可能だが、元の街なら十分やっていけるだろう。工房は押さえているし、元居た錬金術師と薬師が不在だからな、何をしてもやっていけるはずだ。」

「年商は金貨15枚と仰っていましたし、普通に行けば二年で完済ですね。」

「あくまでも俺の奴隷だからアネットと同じ方式を使うつもりだ、一割を自分で残り9割を納めてもらう。」

「それで好きに生きられるのであれば十分だと思います。見知らぬ男に犯され、稼ぎを全て奪われる未来ではなく働けば働くだけ自由になれる未来、考えるまでもないですよ。」

「おおよそ20年で自由になる計算だ、ぶっちゃけ抱く気もさらさらない。」

残念ながら好みじゃないんだ。

奴隷だからって抱く必要は無いだろう。

「お好きになさって良いと思います。」

「私もです、ビアンカを救ってくれただけで十分です。それに、私は自由になる気はありませんから。仮に完済できたとしても私はご主人様のものです。」

「いいのか?」

「ビアンカ以上に稼いでいる自信はありますけど、それでもあと50年はかかると思います。その頃には死んじゃってますよ。」

「ま、確かにな。」

二人で声を出して笑う。

アネットの金額はビアンカの十倍以上。

年商が倍で計算しても百年、四倍で五十年か。

ぶっちゃけ一年でいくら稼いでいるんだろうな。

薬師が居ないって事はとなり街にも卸すチャンスが出来たわけだし、無理のない範囲で稼いでもらうとしよう。

「私も自由になる気はありませんよ?」

「そうなのか?」

「解放されて妻になるよりも、奴隷のままで居る方が一生一緒にいられますから。」

「ミラ様の言うとおりです。一生傍に置いてくださいご主人様。」

二人が俺の両腕に絡んでくる。

うーむ、愛が重い。

重いが嫌じゃない、むしろありがたい。

まぁ手放す気もないけどな。

「お待たせしました。」

ノックの音からキッチリ一呼吸おいて扉が開き、二人が戻ってきた。

ミラとアネットはその一瞬のうちに腕からはなれ、何食わぬ顔をしている。

おや、さっきと違ってビアンカの顔は真剣そのものだ。

恐らく話を聞いてきたんだろう。

真っ直ぐに俺を見てくる。

「商談は終了しました、金貨15枚で買取させていただいております。シロウ様には諸経費を含め金貨30枚でお譲りする形になりますが、よろしいですか?」

「あぁ、予算内だ問題ない。」

「では契約書を作成し代金を持って参ります。しばらくお待ち下さい。」

ビアンカを残しレイブさんが再び部屋を出る。

「話は聞いたか?」

「はい、聞いてきました。」

「金を貰ったらすぐにシモーヌの所に行き借金を返して来い。」

「そして戻ってきたら私は奴隷としてシロウさん、いえシロウ様に買っていただくんですね。」

「そうだ、買った以上はしっかり働いてもらうから覚悟しろよ。」

「あの、一つ聞かせてください。」

真剣な顔を崩さずにビアンカが俺に尋ねてくる。

「なんだ?」

「どうして買う気になったんですか?」

「金になると判断したからだ。」

「でもこの街じゃ・・・。」

「この街では無理だが元の街に戻れば十分にやっていけるだろう。工房は押さえてあるし、商売敵も何故か居なくなったそうだ。錬金術師はお前一人、その状況で稼げないとは言わせないぞ。」

「え、それってどういう・・・。」

「精しい話はアネットに聞け。それよりも今は金の話だ。」

「は、はい!」

同じ話を二回するのはめんどくさい。

先輩奴隷のアネットに聞いてもらうとしよう。

「お前は俺に金貨30枚で買われたわけだが、ぶっちゃけこれ以上奴隷を増やすつもりは無い。だから身分上は奴隷だが錬金術師として隣町に出稼ぎに行かせる。ようは借金として扱うから働いて返せってことだな。もっとも材料費を除いた利益の9割が俺の取り分で、残りの1割がお前の取り分。そこから生活費を抜き残った金を毎月利益と一緒に持って来てもらう。完済できれば奴隷から解放すると約束しよう。俺の計算だと20年も働いたら自由になれるはずだ。その間は俺の奴隷というワケだから、なにか面倒な事になれば俺に言え。俺の持ち物に手を出すのならば俺が片をつけてやる。分かったな?分かったら返事を・・・っておい、聞いてるのか?」

「え、あ、はい!聞いています!」

「ならいい。詳しい事は先輩奴隷になるミラとアネットに聞け。」

「はい、分かりました。」

「良い顔になったじゃないか、あの時自分がどれだけ甘かったか良くわかったか?」

「・・・はい。どうにかなる、そう思っていたのが間違いでした。」

「それが分かったなら死ぬ気で働け。」

「はい!一生懸命働かせていただきます!」

勢いよく頭を下げるビアンカ。

さぁ、新しい金づるが手に入った。

しっかり稼いで俺に金を運んできてもらおうじゃないか。

明日から13月。

とりあえず面倒ごとは今月中に片付いたな。

「お待たせしました。」

「おかえりなさい。」

「こちらがビアンカの買取証と金貨15枚になります。サインしなさい。」

「はい。」

契約書を素早く確認し、一番下にサインをしている。

こんな状況でもちゃんと契約書を見るのは偉いな、加点1だ。

「ではこれが金貨15枚です、すぐに借金を返済してきなさい。」

「かしこまりました!」

代金を受け取り笑顔で部屋を出て行くビアンカ。

奴隷になってあの顔になる奴は他にいないだろう。

「そしてこちらがシロウ様の契約書です。ビアンカが戻って参りましたら代金と引換に身柄を譲渡いたします。金額をご確認下さい。」

「内容も問題なしっと。これでいいか?コレが代金だ。」

財布代わりの袋から袋を取り出し、金貨を30枚積み上げる。

「確かに頂戴しました。これで3人目の奴隷ですね。」

「まさかこの短期間でこんなに買うことになるとは思わなかったよ。」

「次の半年もどうぞご贔屓に、新しい奴隷が必要な折は遠慮なくお申し付け下さい。」

「これ以上は部屋が狭くなるから無理だなぁ。」

「なんでしたら新しい住居もお探ししましょうか?」

「・・・はい?」

「実は私、奴隷だけでなく不動産も取り扱っておりまして。良い物件が出ましたらご連絡させていただきます。」

いや、初耳なんですけど。

奴隷だけじゃなく不動産もって、どんだけ高い家を売りつけるつもりですか?

「広い住居に大きな倉庫も必要ですね、それに店舗もとなると条件は限られますが無くはありません。もっとも、今は別の方が使用しておりますので空きましたらになりますが・・・、そういえばあの家がお金に困っていましたね。」

「お願いだから無理はしないで下さい。っていうか、買うと言ってないんですけど?」

「そういいながら三人もお買い求めいただきましたから。」

「それはそれ、これはこれです。」

確かに金はある。

だが家を買うとなるともっと金が必要になるだろう。

目標は高くというが・・・、流石に高すぎだって。

「頑張りましょうね、シロウ様。」

「いっぱい稼ぎます!ビアンカにもそう言っておきますから。」

「私も頑張るわよ。」

「なんだ起きたのか。」

「今起きたの。で、ビアンカを買ったの?」

「面倒だからミラに話しを聞いてくれ、疲れた。」

もういい、好きにしてくれ。

こうして俺は新しい奴隷を手に入れ、還年祭の夜は更けていった。
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