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216.転売屋は欲しい物を聞く

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無事に肉も売り終わり、来週には還年祭りが控えている。

12月ももう終わりだ。

前の世界では師走といって忙しくすぐに年末が来たものだが・・・、ぶっちゃけここでも同じだな。

で、年末にはもう一つメインイベントが待っている。

残念ながらこの国にその文化はない様だ。

ま、当然だけどな。

「こんにちはシロウ様、聖水の納品はまだだったと思いますが・・・。」

「あぁ、今日は別件で来たんだ。チビ共は?」

「今は御昼寝中です。」

朝は畑仕事、昼はデリバリーの仕事。

なんだかんだ忙しく働いている。

まだ小さいんだ、昼寝も必要だろう。

「これ、皆に食べさせてやってくれ。」

「この間沢山お肉をいただいたのに・・・。感謝します。」

「ただの菓子だぞ?」

「それでも彼らにしてみれば食事以上のご褒美です、きっと喜ぶことでしょう。」

いつものお菓子を渡しただけでこんなに喜ばれるとは。

安上がりな奴らだ。

「そこまで恩に感じるなら一つ頼まれてくれないか?」

「何をすればよいのでしょうか。」

「欲しい物を探ってほしいんだ。」

「えっと、子供達のですか?」

「あぁ、例えば玩具が欲しいとかお菓子が欲しいとか何でもいい。具体的な奴を聞いてくれないか?」

「それは構いませんが・・・。」

「ちなみにモニカが欲しいのはなんだ?」

「これだけ恵まれているのです、何もいりません。」

「いや、一つぐらいあるだろう。神に仕える者ではなく、一人の女としてはどうだ?」

そこまで言うと真剣な顔をして何かを考えだした。

時間にして一分かそこらだったとおもうが、まるで子供のような顔をして俺を見る。

「香水。」

「香水?そんなものが欲しいのか?」

「自分の物は中々思いつきませんが、香水であれば普段から使えると思いまして。」

「なるほどな。」

「でも、頂いてももったいなくて使えないかもしれません。」

「いや、そこは使えよ。」

「使わなくても、見ているだけで幸せになりますから。あ、子供達が起きたようですね。」

扉の向こうからモニカを呼ぶ声が聞こえて来る。

ここに居るのがバレたら遊べと絡まれるので今のうちに退散しよう。

「さっきの件よろしく頼むな。」

「明日ご報告しますね。」

背中で返事を聞いて急ぎ教会を出る。

折角だし香水を調べてみるか。

露店・・・ではなく商店街の方へとむかう。

還年祭を前にたくさんの人でにぎわっているようだ。

うちの店は・・・。

この間のような行列は無し。

血の匂いが取れないので当分はあのセールはしないでおこう。

店を通り過ぎて向かったのは五件ほど隣の小さなお店。

普段なら俺一人で入らないような店だ。

「いらっしゃいませ。あら、買取屋さんじゃない。」

「どうも。」

「珍しい人が来たわね、しかも一人だなんて。ミラちゃん達へのプレゼント?」

「探し物をしにきたんだ。」

店内をぐるりと見渡してみると、女性が好きそうな小物や雑貨が所狭しと並べられていた。

なんでこんなピンクとか赤とかのキラキラしたやつが好きかねぇ。

「お探しの物は?」

「香水だ。」

「あら、他の女の子にプレゼント?浮気はダメよ?」

「そもそも二人は奴隷、もう一人は・・・あれは何になるんだ?」

「抱いている時点で恋人だと思うけど。」

「この歳になって恋愛感情をもってもなぁ。」

「それは私に対する挑戦状?」

おっと、今の俺は20代だ。

目の前にいる男・・・じゃなかった女性は俺よりも年上。

これ以上の暴言は死を意味するだろう。

「気を悪くしたなら悪かった。だが本当にそう言う感情じゃないんだ。なんていうか、仲間か?」

「エリザちゃんも可哀想に。ちゃんと三人共愛してあげないとダメよ?」

「それはわかっているつもりだ。」

「ならいいけど。香水だったわね、ちょっと待ってて。」

見た目は完全に男。

何なら髭まではやしているけど、中身は女。

性同一性障害とか難しい言葉もあるが、要は見た目と中身が違うだけだ。

中身が女だから可愛い物が好き。

ま、男でも好きな人はいるか。

ダンディが店の奥へと消え、そして小脇で抱えられるほどの小さな木箱を持って来た。

因みに彼・・・彼女の身長は2mを超える。

名前に相応しい外見だが・・・女だ。

「香水と言えばこれよね。」

「随分と可愛らしいボトルだな。」

「綺麗でしょ?前に買い付けたんだけど、可愛すぎて売るのを迷ってたのよね。ちょうど四本あるからどうかなって思ったの。」

木箱の中にはキラキラと輝くピンク色のボトルが四本収められていた。

クリスタルカットのような細工が施され、瓶のふたもこれまたゴージャスだ。

どう見ても高そうなんだが・・・。

「さわっても?」

「もちろんよ。でも落とさないでね。」

手に取るといつものように鑑定スキルが発動する。

『蠱惑の香水。サイケバタフライから採れる体液は、魔物だけでなく人を惑わすことで有名である。その成分を抽出した香水は振りかけるだけで周りの異性を虜にする。ただし効果は数分、その後は自分の実力で何とかしなければならない。最近の平均取引価格は銀貨6枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨10枚。最終取引日は22日前と記録されています。』

香水にしては随分と怪しい効果が付与されているようだ。

惑わすことはできても効果は数分。

その後は自己責任って、中途半端と言えば中途半端だがきっかけにはなるだろう。

入れ物が綺麗なので、それだけでも喜ぶかもしれない。

「蠱惑の香水ねぇ。」

「きっかけは作るけど後は自己責任っていうのが良いわよね。」

「そもそも惑わすのはどうなんだ?」

「そうでもしないときっかけがつかめない子もいるのよ。特に奥手な子はね。」

「うちの女達には関係ないな。」

「そうでもないわよ。女は皆恥ずかしがり屋なの。」

「そういう物か?」

「恥ずかしがる女とそうじゃない女。どっちが好みかなんて、聞かなくても答えは出てるでしょ?」

確かにまぁ、言わんとすることはわかる。

何も考えずに目の前で脱がれるよりも、多少は恥じらってもらえる方が男としては嬉しい物だ。

がっつりやりたいって時もあるけどな。

「わかった、これをくれ。」

「ありがとう。せっかくだから個別の木箱もサービスしちゃう。」

「助かるよ。いくらだ?」

「そうねぇ・・・。」

電卓というかそろばんというか、ともかく不思議な計算機がこの世界には存在する。

それをパチパチ?ポチポチ?叩いて計算をし始める。

「銀貨30枚でどうかしたら。」

「んー・・・。まぁいいか。」

「そう言ってくれると思ったわ。」

「また何かあったら相談に乗ってくれ。」

「もちろんよ、皆によろしくね。」

代金をさくっと支払って、店に戻る。

割高な買い物だったが、今後につながると思えばそれでいいだろう。

見た目はあれだがあの人は嫌いじゃない。

「ただいま。」

「あ、おかえり。なにそれ。」

「目ざといな。」

「だってシロウがそんな可愛い袋持ってることなんてないから。」

「たしかにまぁ、そうだな。」

薄い革の袋にカラフルな刺繍が施されている。

男が持つにしてはちょっと派手だ。

「その袋はダンディさんの店ですね。」

「え!シロウがそこに行ったの!?」

「行ったら悪いか?」

「そうじゃないけど・・・。ねぇ、中身は何?」

「今度のお楽しみだ。」

「えーケチ!」

「じゃあいらないのか?」

「いるいる!」

「なら25日までお預けだ。」

エリザがブーブー言っているが無視して袋を鍵付きの棚にしまう。

これでよしっと。

「25日に何かあるのですか?」

「俺がいた地方ではその日に贈り物をしあう文化があるんだよ。」

「そんな文化が・・・でも素敵ですね。」

「欲しい物でもいいが、相手が貰ってほしい物ってのも乙な物だろ?」

「私もやる!」

「まぁ、期待しないで待ってるよ。」

クリスマスは送る方も貰う方も嬉しい文化だ。

子供にとっては年に一度のお祭りだな。

楽しそうに話し合う女達を横目に、これをどう結び付けるかを考えたわけだが・・・。

ちょいと仕込みが遅すぎた。

このネタは来年のお楽しみに取っておくとしよう。

翌日。

モニカが子供達の欲しい物を集計してやって来た。

「人形に、模造刀、お菓子。子供だなぁ。」

「子供ですから。」

「ま、そうだな。」

「これをどうされるんですか?」

「シロウがね、25日に配るんだって。」

説明してくれるのはありがたいが、それだけじゃわからないだろ。

あくまでも子供達を喜ばせるためのサプライズイベントっていうことにしておくが、どういう風に配るかはモニカにも内緒だ。

その方がおもしろい。

玩具配りの許可をとった帰り、エリザが上目使いで俺を見る。

「真っ赤な服は用意しないの?」

「逆に目立ちすぎるだろ。」

「似合うと思うのにな。」

「来年な。」

さて、ボスモニカの許可は取ったし準備を進めるとするか。

年に一度のお祭りだ。

還年祭が大人だけの祭りじゃないって教えてやらないとな。
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