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213.転売屋は無茶を言う

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「無理無理無理絶対に無理!」

「そうか無理か。」

「当たり前じゃない!炎牢の岩戸って言ったら下層の下層、まっすぐ行っても三日は戻ってこられないわよ!」

「そんなに深い所にあるんですね。」

「魔物は強いし罠は多いし、でも見返りも多いのよね・・・。」

最後の部分は随分と小さい声だったが、かなり危険な場所ではあるらしい。

そうか、難しいか。

「ちなみに何が目的なの?」

「ボンバーカウの肉が美味しいと聞いてな、金儲けに使えると思ったんだ。」

「あの火牛かぁ・・・。」

「エリザは食べたことあるのか?」

「あるといえばあるわね。」

「中途半端だな。」

「あの時は逃げるのに必死で味なんて覚えてないのよ。」

どうやら思い出したくない記憶を思い出させてしまったようだ。

「ちなみに強いのか?」

「ん~、倒しちゃえば火は消えるし弱いと言えば弱いけど・・・。」

「けど?」

「他の魔物が面倒なのよね、暑いし邪魔だし暑いし。」

大事なので二回言ってしまったようだ。

名前だけ聞いても暑いってわかる場所だし。

「暑さ対策の薬ならありますよ?」

「ちょっとアネット!」

「冷感装備もこの間手に入りましたね、身に着けるだけで体温を下げてくれるネックレスです。」

「あぁ、そう言えば買い取ったな。」

『寒冷のネックレス。身に着けるだけで体温を下げる事が出来る不思議なネックレス。冷やし過ぎにはご用心。最近の平均取引価格は銀貨80枚、最安値銀貨66枚、最高値金貨1枚。最終取引日は398日前と記録されています。』

たしかこんな感じのネックレスだったはずだ。

「確かにそれがあれば・・・でもでも一人じゃ無理!罠が多いのよ!」

「ではバカ兄も一緒に同行させましょう。」

「そうだな、フールがいればそれなりの罠は解除できる。」

「で、でも・・・。」

「ご安心ください、拒否はさせませんから。」

なんともまぁ、恐ろしい妹だ。

兄を危険場所に送り込むのに何の躊躇もしないとは。

まぁ、好都合だけども。

「報酬は銀貨50枚出そう。」

「え、そんなに!」

「あぁ、持ち帰れるだけ持ち帰るのが条件だ。」

「収納装備は?」

「中型のやつを持って行け、たしか倉庫にあったはずだ。」

「そこまで言われたら行かないわけにいかないじゃない。」

「やってくれるか?」

「やりますやりますやればいいんでしょ!でも、戻ってきたら二日は独占させてもらうから、覚悟してよ!」

ふむ、そんなもので良いのか。

随分と安上がりな女だな。

「と、言ってるが?」

「致し方ないかと。」

「これも御主人様の為ですから。」

「ってことで明日潜ってくれ。」

「えぇ明日!?」

「善は急げっていうだろ、必要な道具や食料も必要経費でいいぞ。」

「いいもん、いっぱい食べて買い込んでやる。」

よし、後はエリザが戻って来れば材料は手に入る。

後はそれを加工して、そして・・・。

「はいお待ちどうさま!」

「お、きたきた!」

「海鮮鍋とボア肉の火鍋だよ。熱いから気をつけて。」

「は~い。」

「イライザさんお酒おかわり!」

「はいはい。エリザちゃんも大変だね。」

「そうなの!シロウったら人使い荒いんだから。」

「でもいいじゃないか、好きな男に奉仕できるんだから。私もそんな人がいたらねぇ。」

未婚いや、離婚してるんだっけ?

忘れてしまった。

イライザさんの何とも言えない視線を感じつつ、鍋の方に意識を向ける。

「奉仕ってそんな事・・・。」

「わかります。」

「誰かの為に働くっていいですよね。」

「ちょっと二人共!」

「なにか?」

「エリザ様だって本当は嬉しいくせに。」

「うぅ・・・。」

ミラとアネットが両サイドからエリザを責め立てる。

それぐらいにしてやってくれ、あまり虐めると後が面倒なんだ。

「失礼します・・・。」

「お、来た来た。」

そんな事をしているとお待ちかねの人物がやってきた。

「ハーシェさんこっちです。」

「悪かったな、一回戻らせて。」

「いえちょうどご報告したいと思っていましたから。」

最初は四人でここにくるつもりだったんだが、途中でハーシェさんに会ったんだ。

買い物の途中という事だったので食事に誘うと喜んでついてきた。

で、ついでに行商の話を聞こうと思ったら資料があるとのことで一度戻ったんだよな。

「随分と盛り上がっておられますね。」

「好きな男に奉仕できるのは嬉しいって話だったんです。」

「ミラとアネットはわかるっていうんだけど、私は別に奉仕とかそんな・・・。」

「わかります。」

即答!

ほぼノータイムだったな。

「好きな人が喜んでくださるのであれば多少の苦痛や困難など問題になりません。」

「なんだい、アンタもかい。随分と惚れられてるねぇ。」

「おかげさんで。」

「どうだい、私も混ぜちゃくれないかい?」

「えぇ!イライザさんまで!?」

なんだなんだ、これが俗に言うモテ期って奴か?

元の世界でこんなに好かれる事等なかったと思うが、これも金の力って奴だろう。

それか見た目の若さだな。

「ここに居る全員がこの人に助けてもらってるんだろ?恩返ししたいと思うのは当然さ。」

「あ、そういう事。」

「もちろん、それ以外の感情もあるけどこの人は中々答えてくれないからねぇ。」

何とも言えない目で俺を見て来るイライザさん。

もちろんこの人の気持ちもハーシェさんの気持ちもわかっている。

恩以外の感情、女としての感情も理解しているつもりだ。

だが、この人たちに関しては一度嵌まると抜け出せない感じがするんだよなぁ。

お互いに。

俺以外に良い男がなんていうつもりはさらさらないが、身体がな、持たないんだよ。

「イライザさんもですか?」

「あぁ、アンタもそうだろ?」

「年が年ですから若い三人には敵わないのはわかっているんですけど・・・。」

「年齢なんて関係ないさ、別に色恋を求めてるわけじゃないんだろ?」

「えぇ。私達ではお荷物になっちゃいますから。」

「そうだねぇ。でも女一人生きるには人生は長すぎる。」

「はい・・・。」

あー、うん。

そう言う話は俺がいない所で二人っきりでやってくれ。

今は飯を食いにきてるんだから。

「私、頑張るわ。」

「どうした急に。」

「だって、若いだけじゃ構ってもらえなくなりそうだから。」

「馬鹿、お前はそんなこと考えなくていいんだよ。俺の為にダンジョンに潜って生きて戻って来ればいそれでいい。」

「うん・・・。」

「私達にはそれが出来ないんですよね、ミラ様。」

「えぇ。エリザ様が羨ましいです。」

「えへへ、そうかな。」

あまりにも甘い雰囲気に食欲がどんどんなくなって来る。

もうお腹一杯って感じだ。

これ以上は耐えられないのでさっさと仕事の話をするか。

「ハーシェさん、とりあえず資料を見せてくれ。」

「あ、すみませんこちらです。」

奪い取る様にして資料を貰い、中身に目を通す。

ふむふむ、今の所目的のものは見つからずか。

かわりにドゥーリアっていう果物を見つけたのか。

ん?確かそれって・・・。

俺は図書館で書き写したメモを取り出す。

ボンバーカウの横にさっきの果実の名前があった。

なになに、これと一緒に食べると今までに感じた事のない味を体験できる。

それは美味いのか不味いのかどっちなんだ?

でもわざわざ書くってことは美味いんだろう。

元々柔らかい肉だし煮込むんじゃなく焼く方向で作ってみるか。

「このドゥーリアっていう果実を一箱仕入れておいてくれ。」

「畏まりました。急ぎですか?」

「あぁ、一週間ぐらいで戻るように手配を頼む。」

「かしこまりました。」

「引き続き例の果実は捜索を頼んだぞ。」

「ふふふ、楽しそうねぇハーシェさん。」

「もぅ、揶揄わないでくださいイライザさん。」

「じゃあ、私も・・・。」

そう言うとイライザさんがおれとエリザの間に割り込んでくる。

肉付きの良い体に、美味しそうな匂い。

あ、料理的な意味でな。

「折角の料理が冷めちまうよ、ほらこれが食べごろだ。」

「ん、あぁ。」

「なんで当たり前みたいに食べさせてもらってるの!?」

「いい女に食わせてもらうんだ、断る理由はない。」

「じゃ、じゃあ私も!」

「では私もいかがですか?」

「ずるいです、私も!」

女達が鍋の具材を掬い俺に差し出す。

うーん、ハーレムだ。

他の男たちの視線が痛いが、気にしなければ問題ない。

「一人ずつで頼む、全員まとめては無理だ。」

まったく、無茶を言うなぁ。

と、女達に無茶を言った事を棚に上げ思うのだった。
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