上 下
210 / 1,063

210.転売屋は報告を受ける

しおりを挟む
街が活気づいてきた。

後二週間もすればお待ちかねの還年祭りだ。

町の至る所に特徴的な飾りが設置されている。

そう、ランタンだ。

そう言えばどこかの地域でランタン祭りってのをやってるって聞いたことがある。

写真で見ただけだが、中々神秘的な感じだった。

こっちも似たようなものなのだろうか。

でもなぁ、カラフルな感じじゃないんだよなぁ。

かぼちゃのモチーフとかだったらわかりやすいが、ごくありふれたランタンが家の軒下や店先にぶら下がっている。

これをどうするんだろうか。

わからん。

ま、その日が来たらわかるだろう。

なんて思いながら、俺の足はギルド協会へと向かっていた。

いつもの呼び出し。

主的向きは還年祭りの打ち合わせになっているが、間違いなく別の話だろう。

打ち合わせなら本人が来ればいいだけの話、それをわざわざ呼び出すんだから・・・。

ま、中身の関係上人に聞かれちゃまずいからってのがあるんだろうな。

ほら、余計な事をすると命を狙われちゃう身ですから。

やだねぇ、まったく。

「あ、おはようございますシロウさん。」

「打ち合わせに来たんだが、どこに行けばいい?」

「第二会議室へお願いします、場所は分かりますよね?」

「あぁ、何度も来てるからな。」

来過ぎて第四会議室の場所までわかるぞ。

最近じゃ案内すらしてくれないもんなぁ、別にいいんだけどさ。

通り過ぎる顔見知りに挨拶をしながら第二会議室を目指す。

第一は一番手前、ついで第三、第四、第二とつづいている。

え、どうして順番が違うのかって?

俺に聞くな。

「はいるぞ~。」

一応ノックはするが返事を待たずに中に入る。

もちろん誰もいなかった。

適当な椅子に座って待つこと30秒。

入ってきた入り口・・・ではなく一番奥の壁が忍者屋敷宜しくくるりと回転して羊男がやってきた。

「おはようございますシロウさん。」

「相変わらず変な機構だな。」

「外から見えずに移動できるのは便利ですよ。ほら、誰が見てるかわかりませんし。」

「わざわざ防音魔法と偽装魔法をかけてるなんてなぁ、ギルド協会も色々とあくどい事をしていたというわけだ。」

「それはギルド協会(うち)への挑戦状と受け取っても?」

「冗談だって。」

一瞬だけ目がマジになった。

まぁ、一瞬なので怒ってはいないんだろう。

「で、表むきの話からするか?」

「いえ、先に済ませてしまいましょう。これをお読みください。」

二枚の報告書が差し出される。

返事をせずにそれを受けとりまずは中身を確認する。

ふむふむなるほど。

そういう事か。

理解した。

「これを調べるのは大変だったんじゃないか?」

「そうですね、それなりに大変ではありましたがそれ以上の発見がありましたので問題ありません。」

「それはよかった。経費を請求されたらどうしようかと思っていたところだ。」

「請求した方がよろしかったですか?」

「請求されても払わないから安心しろ。」

報告書にはビアンカの借金騒動に関わる一連に流れが記載されていた。

加えて、それに関わっていた人物とその方法、そして証拠。

これだけあれば捕縛されるのは時間の問題だろう。

「読んで頂いた通り、今回の件に関して違法な違約金と違法な買い占めが発覚しました。まぁ、違約金に関しては規定がないので違法と言い切るのは難しいですが、通常の5倍以上となると異常であると言い切っていいと思います。さらに薬草の買い占め。定価ならばまだしも通常の販売価格よりも下げた値段で売り、高値で買った記録が見つかっています。まずはこれで立件し、余罪を追及することになるでしょう。もっとも、このやり方は錬金術師にしか使用できませんので、あまりたくさんの余罪は出てこないかもしれませんが・・・。」

「いや、十分すぎる内容だ。」

「これで何とかなりますか?」

「ん~、買主が居なくなれば強硬な手段はとらなくなると思うが、借金が無くなったわけじゃないからなぁ。」

「でも買主が居なければ売れないわけですよね?」

「その人に売れないだけで別の人に売ればいい。そうすれば金は戻ってくるしな。」

シモーヌが俺に対して余計な事をするなって言っているのは、売主が決まっているからだ。

そいつがいる限り彼女は手段を択ばないだろう。

だが、いなくなればそこまでの荒事はしないはず。

それに、俺とエリザに面が割れてしまった以上、ここで長居するのは彼女の匿名性を傷つける可能性が高くなる。

正体不明の冒険者専門金貸し。

それが彼女の正体だ。

「なるほど、あくまでも借金は借金というわけですか。」

「借りたものは返しましょう、まぁ至極当然の事だ。」

「そうですね。」

「ひとまず買主の件はそっちに任せた。違法な人身売買を立件するのは難しいかもしれないが捜査の手が入ったとわかれば少しは大人しくなるだろう。そうなればシモーヌも仕事がし辛くなるはずだ。」

「我々としては稼ぎ頭である冒険者が守られるのであればそれで構いません。」

「居辛くなればとっとと出ていくさ。」

「そうであることを期待しますよ。」

よし、あとはギルド協会に任せていればいいだろう。

買主さえ何とかすれば、シモーヌが動きだす。

だが俺が関わった証拠がない以上何もできない。

まぁ、文句は言われるだろうがその後彼女がどう動くかを見極めればなんとかなる・・・かもしれない。

はぁ、アネットの友人じゃなかったらここまですることは無いんだが・・・。

まったくめんどくさい。

「話は以上だな。」

「報告は以上です。」

「なら俺は店に戻って・・・。」

「次は還年祭に関する打ち合わせです、第三会議室へ移動してください。私もすぐに向かいます。」

・・・おのれ羊男謀ったな!

還年祭の件はあくまでもブラフ、本命はこっちのはずなのにまさかブラフの方でも働かされることになるとは。

ぐぬぬ。

まぁ、ここまで調べてもらったんだし仕方ないか。

書類は回収され羊男は壁の向こうへと消えて行った。

俺も席を立ち会議室の外に出る。

「あ!シロウさん、すみませんシープ様がなかなか見当たらなくて、待ちましたよね。」

なるほど、そういう体で行くのか。

会議室には誰も来なくて俺は一人待ちぼうけ。

で、それをお詫びするために職員が走って来たっと。

良く出来た芝居だ。

「なにかあったのか?」

「別の部屋で寝ていたそうなんです。きつく叱っておきましたので第三会議室にお願いします。」

「了解っと。」

小芝居を続けながら第三会議室へと向かう。

中には、ついさっき来ましたって顔をした羊男が待っていた。

この部屋には防音魔法などは施されていない。

だから会話は丸聞こえだ。

「おはようございますシロウさん、すみません寝坊してしまって。」

「昨夜はお楽しみだったのか?」

「残念ながら仕事です。あまりにも忙しくて転寝してしまって、帰ったら妻に怒られますね。」

「こっぴどく叱られてしまえ。」

っていう茶番でつかみはオッケーだろう。

「で、今日の呼び出し理由は?」

「この前買って頂いたお酒ありますよね。」

「あぁ、あのワインか。」

「二樽程融通してもらえませんか?」

「次の冬まで寝かすって話だっただろ?」

「そうなんですけど、予想外の人がオークションに来るそうでして・・・。」

露骨に嫌そうな顔をする羊男。

こいつもこんな顔するんだな。

あの女豹よりもイヤそうな顔してるぞ。

「で、誰なんだよ。」

「国王陛下です。」

「は?」

「だから、陛下がお忍びで来るんですよ。なんでもオークションに参加したいダンジョンが見たいとしこたまごねたようでして。」

いやいやいや、なんだよそれ。

それってつまり大統領や首相が来るって事だろ?

「一国の主がごねるのかよ。」

「普段は王都に缶詰めですから、たまには気晴らしをしたかったんじゃないですかね。」

「それでオークションに参加?意味が解らん。」

「よほど見たい品があるんじゃないですかね。」

「でも受け付け始まってないよな?」

「出品前でも噂は広がりますよ。よっぽどすごい品なんじゃないですか?」

俺の分は誰にも言ってない。

いや、店の女達は知ってるだろうけど彼女たちが言いふらすことはしないだろう。

って事は別の品を目当てに来るという事だ。

「で、その人に出すための酒が欲しいと。」

「私共の分は感謝祭まで置いておかねばなりません。そこでシロウさんの出番というわけです。」

「高いぞ。」

「それは仕方ないかと。で、いくらですか?」

「金貨4枚。」

「いやいやいや!あれから二カ月も経ってないんですけど!」

「じゃあ売らなくていいな。」

「シロウさん勘弁してくださいよ~。」

それからしばらく押し問答があったが、なんとか金貨3枚で決着した。

国王陛下に出すんだからケチるなよな、まったく。

でもまぁ俺には関係ないし、ほんの短期間でこれだけ利益が出れば上々だ。

今月末は忙しくなりそうだなぁ。

なんて他人事のようなことを考えながらギルド協会を後にするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...