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207.転売屋は材料を探してもらう

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ナンパ女・・・いや、全裸女の方がいいか。

ともかくレイラ(全裸女)はあの一件以降ぱったりと来なくなった。

俺としては別に会いたいわけでもないので構わないんだけど、多少は説教が効いたということだろうか。

「ただいま戻りました。」

「おかえり、どうだった?」

「今までの量でしたら何とかなるんですけど、今回受注した分を常時仕入れるのはやっぱり難しいみたいです。」

「羊男(シープ)さんでもダメだったか。」

「ニアさん経由で冒険者にも聞いてもらったんですけど、そもそも冒険者は南方に行かないので。」

大量の注文を受けた以上応える義務が発生する。

一応今回の依頼は、二月までに必要数を確保するという内容なので緊急性はない。

だが、今のうちから準備しておかないとすぐに手詰まりになる可能性が有った。

ビアンカじゃないけど、違約金は払いたくない。

なにより信用が落ちるのがよろしくない。

商売は信用がすべてだ。

一度でも依頼に失敗すると、次から依頼を回してもらえなくなる。

もしくは代金を渋られるか、納期を厳しくされるか。

どちらにせよ良い事は何もないわけだ。

「ってことは自分たちで何とかしないといけないわけか。」

「ミラ様が取引所に依頼を出してくださいましたが、過去の取引履歴を見てもあまり入って来ないみたいですね。」

「ここは一種の陸の孤島だからなぁ。欲しいものは自分で取りに行くしかないんだよ。」

「ということは南に、ですか?」

「そうなるなぁ。まぁ、生産地まで行かなくてもその近くまで行けば手に入るだろうし、それで手打ちにすればそこまで難易度は高くない・・・はずだ。」

もちろん現地の方が安いだろうけど、今回欲しいのは実ではなく種だ。

種ならば日持ちもするし、原料になる事が知られているから備蓄している可能性が高い。

何より食べ物は腐るんだよ。

仕入れた物の売る機会を逃し、捨てて種だけ確保する。

そういう事が起こりえるのは産地よりも離れた場所の方があり得そうじゃないか。

向こうも損をしたくないだろうから、ある程度の値段は要求されるだろう。

それでも現物を仕入れるよりかは安い。

安く買って高く売る、商売の基本をしっかりと満たすわけだな。

「それで、誰が行くんですか?」

「誰もいかないぞ。」

「え?」

「俺もミラも店があるし、アネットも自分の仕事があるだろ?エリザだってダンジョンに潜ってるからそもそも行く人間なんていないんだよ。」

「じゃあ・・・。」

「その為にあの人がいるんじゃないか。確か昨日、商隊が戻ってきたと報告があった。そろそろ来てくれるはずだ。」

買取屋の他に行っているもう一つの商売。

まぁ、厳密に言えば俺が行っているわけじゃないけれど、ともかく俺にカネを運んでくるものがある。

そう、行商だ。

「失礼します、シロウ様はおられますでしょうか。」

「ナイスタイミング、ハーシェさん。」

「えっと、お待たせしてしまいましたか?」

「いや、ちょうど噂していたところだ。立ち話もなんだしそのまま中に来てくれ、そこで報告を聞く。」

「かしこまりました。」

待望の未亡人がやって来た。

いや未亡人ってのはどうでもいいんだが、響きがいいよね。

俺が若い頃なんてその単語でドキドキできたものだが、肉体は若くても中身がこれなので最近はそうでもなくなってしまったなぁ。

「ハーシェ様どうぞ。」

「ありがとうございますアネット様。」

「年下ですから呼び捨てでいいですよ。」

「そういうわけにはいきません、私の方が後でお世話になっているのですから先輩になります。」

「ま、アネットは奴隷だけどな。」

「私もシロウ様に助けて頂かなければ奴隷になっていましたよ。」

そんなことも有ったなぁ。

俺からしてみれば面倒な仕事を変わってくれて、かつ今月に控えているオークションにぴったりの品を譲ってくれたってだけで十分なんだけど。

お茶を一口飲み少しリラックスしたところで、ハーシェさんがカバンから紙を取り出した。

「こちらが11月の集計と、こちらは先日の報告書になります。」

「拝見しよう。」

全体の儲けは金貨12枚か。

そのうちの七割は俺の分で、残りの三割から生活費を引いた残りがハーシェさんの返済分になる。

ワザワザ生活費の内訳まで書いてくれたんだな。

生活費と備蓄、それと税金やらなんやらで金貨1枚と銀貨50枚か。

貴族って金掛かるんだなぁ。

てっきり特権階級か何かだと思っていたのに、そうではないようだ。

まぁ、ハーシェさんの場合は流れ着いての貴族だからその分の支払いがあるらしい。

「11月の支払いが金貨2枚っと、まぁそんなもんだろう。」

「あれだけ手広くやったのに、それしか稼げず申し訳ありませんでした。」

「いや、一ヵ月で金貨12枚とか上々過ぎる内容だ。よくやってくれた。」

「そのうちの半分は最初の儲けですから、後は細々としたものです。」

「それでも失敗してないだろ?」

「アイン様のおかげでいい隊商を紹介して頂いていますから。今まで失敗していたのは何だったんでしょう。」

それは焦りと不安で目を曇らせていたんだろうな。

いくらアインさんの紹介とはいえ、全ての隊商が善人というわけじゃない。

それなりに悪い事を考えている奴もいただろう。

それをちゃんと避けて当たりだけを引く当たり、人を見る目があるという事だ。

「ちゃんと成功しているんだから今のが実力なんだろう、これからも頼むぞ。」

「かしこまりました。」

もう一枚の報告書の儲けは金貨2枚。

一週間でそんな感じだから今月の儲けは金貨8枚ってところかな。

そこから税金やらなんやらを今月と同じ分だけ引くと残りは銀貨60枚。

これを平均と仮定すると年間で金貨14枚ちょっとか。

四年もあれば俺への借金は返済できる計算だ。

大目に見ても五年。

元の世界で換算して10年。

まぁ、そんなもんだろう。

もちろん事業は拡大するかもしれないからもっと期間は短くなるかもしれない。

逆もしかりだ。

俺としては何もしないで年間130枚以上稼いでくれるんだから文句のつけようがない。

借金返済後もそのまま働いてほしいぐらいだ。

「今月も引き続きよろしく頼む。還年祭で食料品と酒の消費が多くなってる、もしいい話があったら余分に買って帰ってくれ。」

「わかりました、そのように話をしてみます。」

「それとな、もう一つ頼みがあるんだが・・・。」

「私に出来ることであれば何でもおっしゃってください!」

ハーシェさんがやる気満々!と言った感じで顔を近づけてくる。

ふわりと甘い香りが香ってきた。

香水・・・じゃないな、お香かなにかだろう。

香水のような強い香じゃなく、優しい香るだった。

思わずもう一度かぎたくなってしまうのをグッと抑えて呼吸を落ち着かせた。

「アプロの実って知ってるか?」

「南方でとれる果物ですね。夫が貰ってきたのを食べたことが有ります。」

「美味かったか?」

「はい。甘くてみずみずしい果物でした。でも、妊娠していると流産する可能性が有るので食べたのは一度だけですね。」

「そうか、貰い物か。」

「どうされたんですか?」

「いやな、アプロの実っていうかその種がアネットの薬の材料になるんだ。仕事の関係で大量に必要になったからどうにか手配できないかと思ったんだ。」

俺の話を聞き、身を乗り出していたハーシェさんが元の場所に戻る。

そして目を瞑って何かを考え始めた。

話しかけるのもあれなのでアネットの淹れた香茶を飲みながら待つ。

うむ、美味い。

「申し訳ありません、思いつきませんでした。」

「そうか。まぁ、期限はまだあるから南方に向けて隊商を派遣してもらえないか?これに関しては最悪儲けは無くてもいい。あくまでもアプロの実もしくは種だけでも手に入ればと考えている。」

「種だけですか。」

「これは俺の勝手な想像だが、生産地よりも流通先、それも生産地から見て一番北方にあたる場所では種だけが手に入るんじゃないかって考えている。」

「それは何故ですか?」

「アプロの実は果物だよな?さっきの話じゃ果汁が多く傷みやすい。って事はだ、輸送の最中に売れなくなったり、時期がきて腐ってしまったものもあると思うんだ。向こうとしては売り物にならなかったら大損だからな、幸い種は薬に使えると知れ渡っているらしいからそれ目当てに残している・・・と考えている。」

話を聞いていたアネットとハーシェさんがおぉ!と驚いた顔をした。

「もう一度言うがこれは俺の勝手な想像だからな。」

「いえ、十分理に適っているかと。」

「そうなるとしか思えません。」

「もしそうであれば、一番南方まで行かなくても手に入るし、かつ値段も安い。どこまで南下しなければならないかはわからないが、可能性はあるだろう。南方で売れそうな品を調べて、道中売りながら探してもらう事になる。かなりリスクの高いやり方だ。」

「途中で逃げられてもおかしくありませんね。」

「あぁ、だがそうしてでも手に入れたい。頼まれてくれるか?」

俺からの初めての注文だ。

これを聞いてハーシェさんがどんな対応をするか・・・って聞くまでもなさそうだな。

「お任せ下さい。何が何でも成功させます。」

「期限は1月の終わりまで、アネットそれで間に合うか?」

「一ヵ月あれば大丈夫です。」

「もちろんそれよりも早くてもいい、吉報を期待する。」

「はい!」

ハーシェさんが勢いよく立ち上がり大きく頭を下げた。

この寒さだというのに胸元の空いた服を着ていたので、谷間が丸見えになる。

つい、そこに目線が吸い込まれてしまった。

なんなら胸の先端まで・・・っとこれ以上はまずい。

「売れそうなものはギルド協会か図書館に行けば分かるだろう。」

「そうですね、まずは色々と調べてみようと思います。」

「アネット、他に南方でしか手に入らないようなものはあるか?」

「ちょっと調べてみます。ハーシェ様、またお知らせしますね。」

「はい。では失礼します。」

今までで最高の笑顔を見せてハーシェさんは店を後にした。

残り香が鼻腔をくすぐる。

甘いだけじゃないなぁ、これは。

女の匂いだ。

「ご主人様、不可抗力とはいえあの目線はちょっと。」

「あ、やっぱり?」

「ハーシェさんもその気ですし別に構いませんが、他の女性にはしないでくださいね。」

「気をつけよう。」

「はぁ、早く手を出してあげればいいのに。」

「いやいや、それをアネットが言うのはどうなんだ?」

「私は別に構いません。というか、奴隷がご主人様のすることに文句なんて言うはずないじゃないですか。」

「それはそうだが・・・。」

「ミラ様も同じ意見です。確かエリザ様も構わないと仰っていましたよね?お膳立ては済んでいるのにどうして抱いて差し上げないんですか?未亡人だからでしょうか。」

今日は随分と突っ込んで来るなぁ。

いつもはアネットとミラがいるからそれで聞けなかった、そんな感じなのか?

「そういうわけじゃない。だが、金で縛っている間に抱くのは・・・。」

「なんだ、そんな事ですか。」

「そんな事なんだよ。」

「では早々に抱いて差し上げてください。確かハーシェ様は次の夏で28になるそうです、子供を産むにはギリギリですから。」

「はぁ?」

「私達には先が有りますが、ハーシェ様に残された時間はありません。借金を返し終えたら一人きり、それなら未来を用意してあげてもいいじゃありませんか。」

俺が父親になる?

しかもハーシェさんの?

いやいやないない。

「ちなみに結婚する必要はありませんよ、認知さえすればいいだけです。産むのはハーシェさんですから家の跡取りも出来て万々歳ですね。」

「簡単に言うなぁ。」

「女にとって妊娠出産は夢ですから。」

「アネットもか?」

「もちろんです。みんなご主人様の許可があれば産みたいと思っていますよ。」

そんな事を急に言われてもなぁ。

ぐぬぬ。

「っと、私も薬草の種類を調べに図書館に行ってきます。ご主人様、よく考えてあげてくださいね。」

そう言ってアネットも店を出て行ってしまった。

はてさてどうしたもんか。

店に戻ってきたミラに声を掛けられるまで、俺はうんうんと悩み続けるのだった。
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