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202.転売屋は犯人を発見する

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歳暮を配り一息ついた・・・わけがないだろ?

人間一度成功すると二度三度としたくなるものだ。

「え、今日も出かけるの?」

「あぁ、昨日も大丈夫だったんだ、問題ないだろ。」

「問題ないだろって・・・、シロウが出かけるとダンジョンに行けないんだけど。」

「そう言うなって、いつもの日課とルフの散歩だけだから。」

「それだけならいいけど、他はダメよ?」

「わかってる。じゃあ、いってくる。」

「いってらっしゃいませ。」

ミラに見送られてまだ薄暗いうちに外に出た。

因みにアネットはまだ寝ているようだ。

夜中までガサゴソしていた音が聞こえて来た。

おそらく、というか間違いなくビアンカの為に何かしようとしているんだろう。

自分が稼げばその分ビアンカに渡せる金が増える。

報酬の一割しかもらえないので雀の涙だが、無いよりはましだろう。

帰ってきたら無理をしない様に釘をさしておくべきだろうか。

「寒いな。」

「日の出前だもの、当然よ。」

「だがこいつのおかげで首元は温かい。」

「私は手が温かいわ。」

「片方貸してくれ。」

「いやよ、マフラー貸してくれるなら考えてあげる。」

それは困った。

この状況で首元が寒くなるのは困る。

本当はこういう事はあまり好きじゃないんだが・・・。

「いいから右手の手袋貸せって。」

「あ、ちょっと!」

「代わりにこうすれば温かいだろ。」

右手の手袋を奪い取り俺の手に嵌めるかわりに、左手を俺のコートのポケットに入れる。

カップルが良くやっている奴をまさか俺がすることになるとは。

だが仕方ない、寒さから身を守るためだ。

「え!え、えへへへ。」

「なんだよ気持ち悪いな。」

「なんでもな~い。あ、じゃあさ!こういうのは?」

今度はエリザがマフラーの端を自分の首に回した。

だがあまり長くないからかエリザとぴったりとくっつく感じになる。

温かいが・・・動きにくい。

「今襲われたらどうするんだよ。」

「その時はその時よ。」

俺が家にいるようになってから朝の二人っきりってのはなかったな。

たまにはこんな時間もいいだろう。

いつものように日課をおわらせ、その足でルフの所へ行く。

「ワフ!」

「おはようルフ、元気にしてたか?」

ブンブン。

エリザが一緒だというのに尻尾を振るルフ。

よっぽど嬉しいんだろうな。

「朝飯はアグリが持ってくるから散歩に行くか。」

散歩と聞いて尻尾のフリがより強くなった。

エリザとルフで俺をはさむようにして畑を見て廻り、街の外周をぐるりと一周する。

ふぅ、暖かくなってきた。

マフラーを外し、火照った身体を少し冷ます。

と、そのときだった。

「うぅぅ・・・。」

珍しくルフがうなり声を上げ身を低くする。

「どうした?」

「待って、あそこに誰か居る。」

エリザが指を指すと同時に何かの影が動いたのが見えた。

誰かが俺達を監視していた。

理由はまぁ、わかる。

俺を狙っているんだ。

今から追いかけたところであそこは町の入り口だ、発見することは出来ないだろう。

「監視されているってわけか。」

「だから言ったでしょ、危ないって。」

「エリザだけじゃなくルフも居るから近づいてこなかったんだろうなぁ。」

「たぶんね。」

「ありがとうな、ルフ。」

姿が見えなくなった後も唸り声を上げるルフ。

頭を撫でてやるとやっと落ち着いてくれた。

「とりあえず散歩の続きをするか。」

畑は監視されていた出入り口の先にある。

そのまままっすぐ進み、入り口の手前まで行くとふと足元に何かが落ちていた。

「なんだこれ。」

「ハンカチ・・・かな?」

「見た感じ女物っぽいな。」

真っ白いハンカチで、花の刺繍が施してある。

落ちていた割にほとんど汚れていなかった。

「もしかして、さっきの?」

「いやいやそんなヘマは・・・するか。」

「うん、間違ってベルナの店に手紙を入れるぐらいだもの。」

「だなぁ、俺達に見つかったと思い慌てて逃げて落したと。」

今思えば随分と間抜けな奴だよな。

そんな相手にビビっていたのかと思うと、ちょっと残念な気分になる。

このまま抑圧された生活を続けるぐらいなら、ガツンと言った方がいいのではないだろうか。

その方がいい。

「ルフ、この匂いを嗅いで持ち主を探せるか?」

「ワフ!」

「え!犯人を追いかけるの?」

「あぁ、せっかく落としてくれたんだから有効に利用してやろうじゃないか。お前もいるし、荒事になっても守ってくれるだろ?」

「そりゃ守るけど・・・、でもそうじゃなかったら?」

「ただの落とし物を届けただけの人助けだ、だろ?」

「そっか、そうよね!」

お、エリザもヤル気になったようだ。

ハンカチをルフの鼻先に近づけてやると、クンクンと臭いをかぎ始めた。

確か犬は人間の何万倍も嗅覚が鋭いと聞いたことがある。

って事は狼も同じではないだろうか。

それを信じてルフの反応を待つ。

しばらくすると顔を上げてまっすぐに俺を見てきた。

「わかるか?」

「ワフ!」

「じゃあ連れて行ってくれ。」

流石にリード無しで街中を歩くことは出来ない。

なのでルフの真横に立ち、ルフの首元を触りながらゆっくりと歩いた。

「え、何でこんな所にグレイウルフが・・・。」

「横にいるのって例の買取屋だろ?」

「冒険者のエリザも一緒だ、でも服従の首輪はしてないんだな。」

「畑の傍で番をしている子だよ、だから大丈夫さ。」

最初は驚いていた街の人も、暴れず真剣に地面の匂いを嗅ぐ様子を見て騒ぐことはしなかった。

ルフは周りを気にすることも無く、自分の仕事を全うするべくただひたすら臭いをかぎ続ける。

裏通りを何度も何度も曲がりながら奥へと進んでいく。

地元民しか来なさそうな路地裏。

その途中でルフはとまった。

「ここか?」

ブンブン。

尻尾を振って応える。

「エリザ、武器の用意を頼む。」

「任せて、シロウも火の魔道具ぐらい構えておいてよ。」

「ヤバそうならな。」

古ぼけた平屋。

その前に武器を構えて立つエリザと、いつでもとびかかれるように姿勢を低くするルフ。

深呼吸を一つしてから俺は扉を叩いた。

一回、二回。

返事はない。

「そこにいるのはわかってる、無理やり押し入っても構わないがその時は無事で済むと思うなよ。」

まるで犯人を追い詰める刑事のようだ。

もう一度扉を叩こうとしたところでゆっくりと戸が開いた。

「・・・お前は買取屋。どうしてここに。」

「これ、お前のだろ?」

「それは!落としてたんだ・・・。」

「そそっかしいのは手紙だけじゃなかったようだな。どうする、ここで一暴れしてもいいんだが、俺としては事を荒立てるつもりはない。」

「え?」

「話をしようじゃないか、色々と誤解があるようだからそこを正しておきたい。いい加減家に引きこもるのも飽きてきたんだよ。」

「そんなこと言って、私を警備に突き出すつもりでしょ?」

「何の罪で突き出すんだ?噂は聞いているが所詮は噂、立証できないから今まで捕まって来なかったんだろ?」

薄暗い路地裏、戸は開いたものの相手の顔は陰に見えない。

わかるのは若い女だという事だけだ。

ハンカチからそうかなとは思っていたが、まさか闇の金貸しが女だとはなぁ。

「・・・武器を下ろしてくれる?それとそこのグレイウルフも。」

「エリザ、ルフ、もういいぞ。」

「でも・・・。」

「一対三だ、他に人がいないのはルフもわかってる。だよな。」

ブンブン。

中に誰か隠れている可能性も考えたが、ルフが大人しく警戒を解いたって事は誰もいないという事だ。

エリザが武器を下ろすと相手の緊張が少しとけた。

そして一歩前に出てくる。

「嘘・・・!」

「ほぉ、これは中々。」

出てきたのは金髪の美人。

流石にエリザも想像してなかったようで、感嘆の声をもらした。

「何よ。」

「いや、非情な金貸しという割に随分と美人なんだなと思ってな。」

「男はこの顔だけで油断してくれるから楽でいいわ。」

「違いない。でもそんな美人に騙されて売られた相手はどうなったのやら。」

「だまされるなんて人聞きの悪い、私は困っている人にお金を貸しただけよ。」

自信たっぷりの顔で肩までかかった金髪をさらりと撫でる。

思わず魅入ってしまいそうになった。

危ない危ない。

「貸しただけねぇ、それじゃあ色々と裏で画策しているのはどういう事なんだ?」

「さぁ、何の事かしら。」

「金を貸した後、相手が稼ごうとするのをことごとく邪魔をする。賄賂、買収、加えて色仕掛けか。ギルドの職員も所詮男だったって事だな。」

「・・・どこまで知ってるの?」

「色々と調べさせてもらった、って言っても調べたのは俺じゃないが。ビアンカの時も随分と無茶をしたみたいだな。」

「えぇ、それが依頼主の希望だもの。彼女が悪いのよ、ちょっと腕がいいからって調子に乗るから。」

「それでわざと美味しい依頼を作り、受注させた後失敗するように持ち込んだ。薬草を定価の三倍で買うなんて固定買取違反だよな。」

「質のいい品は高いもの、それにあの時は大病を患う母の為にどうしても薬草が必要だったのよ。」

「じゃあなんで依頼失敗の後ギルドに定価で買い取ってもらったんだ?一個も使わずに。」

美人がじろっと俺を睨んで来る。

そんな顔も中々に素敵だが・・・美人過ぎるのはちょっとなぁ。

気の強い女はあんまり好きじゃないんだ。

「男っておしゃべりね、絶対に喋らないって約束してくれたのに。」

「抱いてやれば静かにしてたんじゃないか?」

「いやよ、あんな男に抱かれるなんて。でも貴方ぐらい頭の回る人なら・・・。」

「ちょっとシロウ!」

「生憎女には困ってなくてね、胸も尻も俺の女の方がデカいし揉み心地が良さそうだ。」

「失礼しちゃう。」

「色仕掛けはそのぐらいにして、真面目な話をしようじゃないか。」

そう言っておれは手を伸ばした。
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