上 下
200 / 1,027

200.転売屋は様子を伺う

しおりを挟む
ベルナの所に間違った手紙が投函されてから二日。

俺は予定通り大人しく店番をしていた。

オークション用の品は準備してあるし、お歳暮用の仕込みも終わった。

なのですることと言えば庭の土いじりと倉庫の整理、後は店番だ。

「あれ、シロウさんが店番なのか。」

「ダン、久々だな。最近どうしてたんだ?」

「毎日毎日隣町との往復だよ、いい加減飽きてきたが安全に稼げるんでまぁ文句はない。」

「リンカも喜んでるだろうな。」

「おかげさんで。個人的にはもう少し収入を増やしたいんだがなぁ。」

「おい、まさか。」

「お察しの通りだ。」

孕ませ・・・って言ったら失礼だな。

そうかリンカは報告出来たのか。

「マスターには言ったのか?」

「あぁ、リンカの口から報告してもらった。で、すぐ呼び出された。」

「うへぇ、ご苦労さん。」

「別に何も言われてないぞ、ただ無理はするなと言われただけだ。」

「子供の為に無茶をして怪我でもされたらたまらないからなぁ。」

「くれぐれも気をつけるよ。」

「もし俺にできることがあったら言ってくれ。」

「その時は頼りにさせてもらうよ。」

子供が生まれたらお祝いしないとなぁ。

すっかり忘れてた。

「で、今日はそれだけじゃないんだろ?」

「噂で聞いたんだが、ヤバイのに目をつけられたって?」

「なんだよそっちの耳にも入ったのか?」

「まぁな、でもワザとなんだろ?」

「ご明察。」

俺とダンはお互いにニヤリと笑った。

そう、これはワザとだ。

あの手紙をもらった翌日、すぐにレイブさんと羊男に報告を入れた。

二人の反応はやっぱりって感じだったなぁ。

一先ず二人から情報を仕入れてみたが未だ手掛かりは無し。

だが、ビアンカが標的であるという情報を追加で伝えるとレイブさんがハッと何かに気付いた。

「今、街中が金貸しの噂で盛り上がってるぜ。正体を見極めたら金貨5枚、捕まえたら金貨10枚だもんな。盛り上がらない方がおかしいだろ。」

「おかげで俺は店にカンヅメだけどな。」

「外に出て殺されるよりはましだろ?」

レイブさんが気付いた情報を元に犯人探しが始まったわけだが、個人でやると消される可能性がある。

そこで、噂好きの冒険者に今回の件を面白おかしく教えて噂を流させた。

冒険者を狙った金貸しがいて、そいつが俺を狙っている。

もし犯人を見つけたら金貨5枚、捕まえたら金貨10枚を俺が払うということになった。

それを聞いた冒険者、というか街中の人間は大いに盛り上がり、自称探偵の皆さんが色々と探し回っているというわけだ。

「まぁ、そうだな。」

「俺も一枚噛みたい所だが消されるのは御免だからな、大人しくしとくよ。」

「そうしてくれ。そうだ、ハーシェさんに店に来るように伝言頼めるか?」

「わかった、今日の夕方会う予定だから伝えとく。」

「よろしく。」

土産にレレモンをいくつか持たせてダンは出て行った。

再び店が静かになる。

「御主人様、シープ様が来られていますがよろしいですか?」

「あぁ。」

ダンが出て行ってすぐにアネットが扉から顔だけ出して教えてくれた。

現在この店は普通に立ち入ることはできなくなっている。

入り口で身分証を提示し、武器を預けた人のみ中に入ることを許されている。

外で待機するのは冒険者ギルドの職員。

そしてアネットだ。

「どうもシロウさん。」

「忙しいのに悪いな。」

「いえ、仕方がありません。これもこの街で悪さをさせない為ですから。」

「何かわかったか?」

「色々と情報はもちこまれますがどれも偽情報ばかりで、有力な情報はありません。」

「そうか・・・。」

情報提供先はギルド協会になっている。

この店でも構わなかったのだが、そうすると不特定多数がここに来ることになりその中に犯人が忍び込んでくる可能性もある。

なのでギルド協会を窓口にして、随時俺に情報を流してもらっているというわけだ。

「冒険者相手の金貸し、うわさでは聞いていましたがまさか本当に居るとは思いませんでした。」

「ビアンカの様子は?」

「今の所いつもと変わらない感じです。でも本当にいいんですか?保護しないで。」

「保護すると向こうが何をしてくるかわからないだろ?申し訳ないが彼女はエサだ、自分が追われている状況でも彼女を狙うのか、それとも・・・。」

「シロウさんを殺しに来るのか。」

「金を貸すのは簡単だ。だが、金を渡して彼女が助かり俺だけが死ぬってのはどうもな。」

「自分で稼いでくれるといいんですけどねぇ。」

「その為に冒険者ギルドも色々と動いてくれているそうじゃないか。嫁に感謝しないとな。」

正攻法で金儲けをするしか彼女が助かる道はないという事で、優先的に実入りの良い依頼をこなしてもらっている。

ダンジョンに潜るだけじゃなく錬金術師としての依頼もだ。

この辺は街の錬金術師にも事情を説明して快諾を貰っている。

ダンジョンに潜った時に当たりをひければ・・・。

でも残念ながら今のところその報告は受けていない。

「今の報酬状況は?」

「金貨3枚って感じかな。この分で行くと月末までに15枚は稼げるだろうけど・・・。」

「足りないなぁ。」

正攻法で終われば万々歳。

でもそれで難しい場合は、金を貸して助ける事になるだろう。

「そうなんですよねー。」

「それまでに犯人が捕まればいいんだが。」

「時期が悪いですよね。」

「オークションに合わせて不特定多数が出入りしているからなぁ。怪しい奴ばかりだ。」

「還年祭りも通常通り行ないます。」

「それを悔やんでも致し方ない。俺達はやることをやるだけだ。」

「レイブさんが色々と聞いて回っているようです、そちらの情報を待ちましょう。」

「だな。」

「あ、これ嫁からです。外に出られなくて運動不足だろうからって。」

羊男が出したのは一本のゴム紐。

縄跳びでもしてろって?

「お気遣いどうも。」

「では私は戻ります、もう一度言いますがくれぐれもお気をつけて。外出、そして食事にも。」

「さすがに毒はないだろ。」

「わかりませんよ。アネットさんがいますから解毒は問題ないと思いますが、下手な物は口にしないようお願いします。」

「好きな物も食べられないとはねぇ。」

「文句は犯人にお願いしますね。」

「へいへい、わかったよ。」

羊男を見送り、再び店に静寂が・・・。

「御主人様・・・。」

「レイブさんだろ、通してくれ。」

「畏まりました。」

羊男とレイブさんで事前に打ち合わせしてくれたらいいんだけど、微妙に仲が悪いんだよなぁあの二人。

最初はそうでもないと思ってただけど、親しくなればなるほど微妙な違いがよくわかる。

おそらくレイブさんはあまりギルド協会と関わり合いたくないんだろうな。

あまり親密になると、癒着だ何だと言われてしまう。

人の命を売買する商売だからこそ、そういう部分に敏感なんだと思う。

「こんにちはシロウ様。」

「すみませんこんな所まで来てもらって。」

「状況が状況ですから、進展はありましたか?」

「残念ながら犯人の見当もついていません。そちらはいかがですか?」

「今錬金術師を欲している顧客について、裏の繋がりから探ってもらっています。もしビアンカさんを欲している人間が分かれば・・・。」

「そこから犯人が導き出されると。」

「可能性の話ですが。」

「引き続きよろしくお願いします。」

「かしこまりました。ですがもし期限までにお金がたまらなかった場合、どうされるおつもりですか?」

そこが問題なんだよなぁ。

一応考えてはいるんだけど、それで犯人が納得・・・するはずないよなぁ。

「これは私の考えですが、犯人は手を出すなと言っています。これは他人がという事ですよね?」

「私もそう考えています。」

「あくまでも自分で金を用立てて、返済すれば犯人も納得すると。」

「納得するしかないでしょう。まぁ、かなり厳しい状況ですが。」

「足りないのは金貨15枚。ぶっちゃけてききますが、錬金術師って高いですか?」

「素質に寄りますね。」

「ちなみにビアンカさんは?」

「中の中って所でしょうか。」

「つまり普通と。」

高くもなく安くもない。

なんとまぁ微妙な。

「それなりに仕事はできますし、ダンジョンにも潜れます。ですがその程度なのです。」

「難しい仕事が出来るわけでもなく強い冒険者でもないと。」

「そういう事です。」

「ちなみに売り出すのならばいくらですか?」

「この街で売り出すのならば金貨40枚という所ですね。」

「錬金術師が3人もいますからね、新規で商売を起こすのは難しい訳ですか。でも他の街ならもう少し高いですよね?」

「他の街でしたらよくて金貨50枚、いえ45枚でしょう。」

そこから逆算されるのは・・・。

「せいぜい金貨20枚って所か。」

「良くお分かりですね。」

「ギリギリかぁ。」

「ちなみに私は金貨18枚しか出しません。」

「厳しいなぁ。」

「私も命は惜しいですから。」

残るは本人次第ってことか。

「どうもありがとうございました。」

「また何かわかりましたらご連絡に上がります、それとこちらを。」

「これは?」

「外出しないとなると色々と大変でしょう。気晴らしになればと思い持参しました。」

そう言って手渡されたのは・・・。

『精豪の秘薬。これを使うと三日三晩ハッスルし続ける。ただし、その後三日三晩使い物にならなくなるとか。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨10枚。最終取引日は7日前と記録されています。』

レイブさんは俺をどうしたいんだろうか。

俺は苦笑いをしながら受け取るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...