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195.転売屋は現実を突きつける

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「は、初めまして!ビアンカといいます!」

そう言って勢い良く立ち上がったと同時に机に膝をしたたかに打ち付け、なんとかそれに耐えて頭を下げたら今度は勢いがつきすぎて机にデコをぶつけた。

なんていうか、この一動作で彼女がどういう人物かわかった気がする。

ドジなのだ。

涙目になりながら頭を押さえ、恥ずかしそうに着席する。

「も~、大丈夫?ビアンカ。」

「うぅ・・・大丈夫じゃない。」

「ダンジョンでもそうだけど、外でもそそっかしいのね。」

「普段はそうじゃないんですけど、緊張しちゃって・・・。」

緊張していたとしてあんなに頭を下げるだろうか。

確かに背は低い。

中学生?と見紛う低さだ。

だから頭を90度に下げたら確かに机には当たる。

当たるが・・・。

「買取屋のシロウだ。」

「お、お話はアネットから聞いています!あの、アネットを買って下さってありがとうございました。」

「別に誰かの為に買ったわけじゃない、俺の金の為に買っただけだ。」

「ね、言ったでしょ。」

「でも、大事なアネットが変な人に買われないで良かったよ。」

大事なアネット・・・ねぇ。

ま、その辺はおいおい聞いていけばいいだろう。

「話の前に飯にするか、腹ペコなんだ。」

「あ!もう料理は頼んであります。」

「気が利くな。」

「えへへ、有難うございます。」

緊張でガチガチに固まっているドジっ子とは対照的にニコニコ笑顔のアネット。

数少ない?友人と一緒でうれしいんだろう。

多分。

「お待たせしました。今日は新しい子と一緒なんですね。」

「誤解しないでくれ、ただの客だ。」

「あら、そうでしたか。かわいい子なのでてっきり。」

「てっきりなんだよ。」

「若いってうらやましいと思っただけです。」

「イライザさんも十分若いだろ。」

「あら、うれしい。熱くなっていますのでお気をつけて、たっぷり食べてくださいね。」

今日のメニューは一角亭の新メニュー『ペコラの野菜たっぷり鉄板焼き』だ。

アツアツの鉄板の上に少し厚切りにしたペコラの肉を敷き詰め、大量の野菜と一緒に焼く。

ペコラの肉は甘辛いタレで漬け込まれているので、まるでジンギスカンのような感じになる。

鉄板の上に肉を置くとジュージューと肉が焼けタレが跳ねる音が響き、匂いも店中に広がる。

「お、美味そう。」

「すみませーん、隣のアレお願いします。」

「は~い!」

で、こうなる。

この匂いは反則だ。

これでコメがあればなぁ・・・ないんだよなぁ・・・。

「お待たせしました。」

「お、ミラ、来たか。」

「遅くなり申し訳ありません。」

「いや、今から始める所だ。」

さすがミラ、ナイスタイミング。

「とりあえず話は食ってからだな。」

「は、はい!」

「いっただきま~す!」

「バカ、まだ生だっての。」

とりあえず飯を始める。

最初は緊張していたものの、食が進むと少しずつ表情も柔らかくなるドジっ子ビアンカ。

酒も進み皆いい感じに出来上がってきた。

「で、そろそろ話をするか。」

「そうですね、エリザさん出来上がっちゃってますし。」

「まだまだ~これからよ~。」

「お前は飲みすぎなんだよ。人の金だと思ってまったく・・・。」

横でふにゃふにゃになっているエリザの尻を揉んでやるも自分で押し付けてくる始末だ。

まぁ放っておくか。

「話はアネットからおおよそ聞いているが、もう一度聞かせてくれ。」

「わかりました・・・。」

頬は酒で少し赤いがきちっと姿勢を正しこちらを向く。

加点1。

「事の始まりはギルドの依頼を達成できなかったことです。いつも頼りにしていた仕入れ先がまとまった数の薬草を手配できず、私も色々と手を尽くして探したんですが最終的に規定のポーションを納品することが出来ませんでした。普段から備蓄を作るようにしていればこんなことにはならなかったんですけど・・・。その後違約金を支払うために色々な所からお金を借りて再出発しましたが、上手く仕事が集まらず、ずるずると借金が増え金貨30枚にもなってしまいました・・・。」

「で、宜しくないところがその借金を買い集め支払期限が12月の終わりになったそうだな。」

「エリザさんと一緒にお仕事をさせて貰ってなんとか頑張ってはいるんですけど、難しい状況です。」

「で、俺に金を借りたいと。」

「無茶を承知でお願いします!私にはもうこれしか方法がないんです!」

ん~、減点1。

やってはいる、みたいな言い方は宜しくないな。

まだ死に物狂いじゃない。

俺という可能性があるからかまだそこまで必死じゃない。

そんな空気がありありと見て取れる。

「ギルドに聞いた話では違約金は報酬の2倍から3倍が相場だそうだ。そんな高価な報酬額だったのか?」

「・・緊急依頼らしくていつもよりも高い報酬ではありました。」

「具体的には?」

「金貨5枚です。」

「条件は?」

「五日以内にポーション100本の納品、条件は上級品質です。」

「で、できなかったと。」

「・・・はい。」

ガクリとうなだれるドジっ子。

確かポーション一本が銀貨1.5枚。

100本で金貨1.5枚。

上級ポーションがその倍で計算しても破格の報酬だ。

「いつもの仕入れ先はすぐに用立ててくれるのか?」

「そうなんです。常に大量の在庫を抱えていて、安心して注文出来ました。ここ数年切らしたことはありません。薬草だけはたくさんある町でしたから。」

「ビアンカのいた町は山の近くにあって、付近の森にはたくさん薬草が生えているんです。」

「だが手に入らなかったんだろ?」

「なんでも大口の依頼があったとかで、あまりいい状態の薬草が手に入りませんでした。ほかの問屋に聞いても結果は同じで・・・。」

「大口の依頼ねぇ。」

「かき集めるのにお金を借りて、違約金にお金を借りて。なんでこんなことになっちゃったんだろ。」

「それは自分で言ってただろ。備蓄しておかなかった自分が悪いってな。」

とどめの一言で頭が机に付きそうなぐらいうなだれてしまった。

これも減点1。

うなだれるのが悪いんじゃない、どうにかしなきゃっていう必死さが感じられないからだ。

「それで、シロウ様からお金を借りて返す見込みはあるのですか?」

横で話を聞いていたミラが店で話していた内容に切り込む。

パッと顔を上げるドジっ子。

「ダンジョンに潜りながらにはなりますが、何とかします!」

「何とかでは困ります、具体的にどうするつもりなのですか?」

「えっと・・・アネットから聞いていませんか?」

「シロウ様はビアンカ様に聞いておられるのです。」

おぉう、なかなか容赦ないなぁ。

「ひとまず12月の終わりまでに何としてでも金貨10枚、稼いでみせます!アネットが貸してくれる分が金貨5枚。なので金貨15枚貸していただき、それを来年一年かけて返済させて頂きます!」

「一年の根拠は?」

「前の街では一年で金貨25枚稼ぐことが出来ました。ここに道具はありませんが、街には道具を残してきているのでそれを使って稼ぐつもりです。」

「では道具は向こうに?」

「はい!店を開けて来ていますが、お金を払ったらすぐに戻ります!」

「ちなみにそれは賃貸か?」

「え?」

「いや、だから借りている店なのか?それとも自前で持っている店なのか?」

さっきまでの勢いがまたしぼんでいく。

おいおい、どうなんだよ。

「・・・借りています。」

「で、家賃は支払い済みなんだよな?」

「こ、今回の件で先月分がまだ・・・。」

「マジで言ってるのか?」

「で、でも今月までは待ってくれるようにお願いしています!」

「それは書面を交わしたか?」

「いえ、そこまでは・・・。」

はい、アウトー。

俺の予想だが、っていうか確信だが間違いなく店は無い。

道具も家賃のかたに売り払われているだろう。

見込みの甘さ、そして思い込み、減点2だな。

「仮にこの街で金を返すのならどのぐらいかけるつもりだ?」

「そ、それは・・・。」

「どうなんだ?」

「わかりません。道具が無かったら簡単なポーションしか作れませんし、ダンジョンに潜ってもどれだけ稼げるか・・・。」

「それで俺から金を借りるのか?」

「なんとか!なんとかします!」

いや、だから具体的にどうするかをだな。

って、この状態で聞いても無駄か。

「アネットにも借りているのに?っていうか今月中に金貨10枚とか言うがどう考えても無理だろ。エリザと潜っていて偶然稼げたからっていい気になるなよ?この街の冒険者の収入は年金貨5枚、良くて10枚だ。これは経費を含んでないから実際の収入はこの半分、もしくは三分の一になるだろう。」

つまり自由に使えるのは良くて金貨三枚程だ。

それでも十分だけどな。

「私、もうちょっと稼いでるよ?」

「それは最近だろ?たった金貨5枚稼げずに奴隷に落ちそうになったやつが何を言うか。」

「えへへ、そうでした。」

まったく、このよっぱらいは。

過去の栄光にすがるのは悪い事ではない。

だが、あまりにも見えてなさすぎる。

減点2、これで合計減点5。

試合終了だ。

「まぁ、事情はわかった。色々と苦労してるみたいだが、現状では金は貸せない。」

「そんな!」

「時間はまだあるだろ、一先ず自分の置かれている状況をよく考えるんだな。おい行くぞ。」

「畏まりました。」

「え、ちょっと、まだのみたりない!」

「ビアンカ、ごめんね!」

「ここの支払いは気にするな。じゃあな。」

現実を突きつけられ項垂れるドジっ子。

その頭は確実にテーブルについていた。

さぁて、どうするんだろうなぁ。
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