上 下
166 / 1,027

166.転売屋は装備を増やす

しおりを挟む
そろそろ準備をするか。

準備をしていなかったのは決して忘れていたからではない。

ちょいとやらないといけないことが重なっていたからだ。

だがこれだけ露骨に買取が増え、そして同時に販売も増えると嫌でも意識せざるを得ないだろう。

「ねぇシロウ・・・。」

「わかってる、それ系の装備が入ったら教えてやるから。」

「うん!お願いね!」

「取引板には掲示しておりますので少しは反応があるかもしれません。もっとも、同じことを考えている人も多いようですが。」

「仕方ないわよ、もうすぐだもの。」

もうすぐ始まる。

10月最後のお祭り。

そう、武闘大会だ。

毎年10月に行われ、近隣の猛者たちが集結して己の武を競い合う戦い。

一つ勘違いしてもらいたくないのは、決して殺し合いじゃないという事だ。

あくまでも武を競い合う大会である。

その証拠に得物の刃は全て潰されており、用意した物しか使用できない。

唯一持参できるのは魔装具と呼ばれる身体能力を高める装備のみ。

だからこの時期はそれが飛ぶように売れる。

例え効果が薄くとも、藁にもすがる思いで参加者は買い漁っていくのだ。

そんな時期の昼下がり。

珍しい奴が店に助けを求め突然やってきた。

「シロウさ~ん、たすけてくださ~い!」

「ルティエじゃないか、どうしたんだ?」

「冒険者の皆さんが押しかけてきて商売にならないんです。」

「あ~・・・。」

ルティエの商売はアクセサリー作りだ。

特に涙貝の雫を使った一点ものは金貨10枚の価値があるとも言われている。

副長の奥様が広めてから爆発的にファンが増え、今では一年の予約待ちらしい。

そんなルティエの店に冒険者が殺到する理由は普通ないのだが、どうやらおまけの方に殺到しているようだな。

「この間の宝石、まだ残ってたのか。」

「だってあの量ですよ?気晴らしに作っていた程度ですし、数が全然足りなくて。」

「で、噂を聞きつけた冒険者が集まって来たと。」

「もうありません!って言っても聞いてくれないんです。おかげで依頼の品が作れなくて大ピンチなんですよぉ。」

ルティエの作るおまけ。

っていうか、気晴らしで作っていたアクセサリーに冒険者が群がっているようだ。

そもそもの始まりは、ルティエの知り合いが下水で見つけてきた屑宝石を大量に持って来たことから始まる。

どうしても買い取ってほしい、という事だったので仕方なく俺が買い付け、そのままルティエに押し付けたのだ。

宝石には様々な効果が込められており、モノによっては火の加護、水の加護などを少し、本当に少しだけ付与してくれるらしい。

加えてものによっては素早さや力の向上もなされるらしく、冒険者の中で隠れたヒット商品になっていた。

ソレが店先に並べられる日は決まっておらず、予約もできない為に余計に物欲をそそられるらしい。

で、いつ行ってもないからそれなら店の前で待とうってな感じになって、終いに早く作れとプレッシャーをかけて来たと。

待つのは全然かまわないが、仕事の邪魔をするのはやり過ぎだ。

どれ、俺が行って蹴散らしてくるかな。

「私も行く?」

「いいや、お前が絡むと話がややこしくなる。俺が行こう。」

「そっか。」

「お前は鍛錬を続けとけ、確か図書館にいい感じの本があったぞ。」

「いやよ、本なんて読んだら眠くなっちゃうもん。」

「じゃあダンジョンに潜ってお目当ての品を見つけて来いよ。」

「それもヤダ、同じこと考えてる冒険者でいっぱいなんだもん。」

全く面倒な女だ。

店番をミラに頼んでルティエと共に裏通りへと向かう。

通りを進むとルティエの店の周りに人だかりが出来ていた。

ただでさえ狭い通りなのに、こんなにいたら通行の邪魔だな。

「あ、戻って来たぞ!」

「早く作って俺達に売ってくれよ!」

「そうだそうだ!」

「金ならいくらでも出すって言ってるだろ!」

「俺が一番だからな。」

「何言ってやがる、俺の方が先だ!」

戻って来て早々小競り合いが始まってしまった。

まったく、狭い道に大声が反響してうるさいったらありゃしない。

「おい、街の中では静かにしろって誰にも教わらなかったのか?」

「なんだてめぇ!」

「こいつ、街の買取屋じゃないか。」

「何でこんな所にこいつが・・・。」

「おたくらが熱望している職人のパトロンだよ。」

「「「パトロン!?」」」

周りの冒険者が驚いた声を上げる。

これを知らないって事はこいつら普段この街にいない連中だな。

そういやどれも見たことない顔ばかりだ。

「あぁ、今回の装備も俺が宝石を提供してるんだ。うちの職人を脅すような奴らに売る義理は無い。さっさと帰れ。」

「何を偉そうに。」

「買取屋如きがとっとと失せろ!」

武器に手をかけて威嚇してくるような奴までいる。

いい度胸だ。

「失せろだとさ、じゃあ戻るかルティエ。」

「え、でも・・・。」

「こんな状況で仕事なんてできないだろ?ちょうど涙石の買取があったんだ、見に来い。」

「わかりました!」

「あ、待て!お前は・・・。」

「言っただろ、こいつは俺の職人だ。お前らが失せろっていうのならこいつも一緒さ。」

入らせる気が無いのならそれはそれ。

しばらくしたらどこかに行くだろう。

その折を見て工房に戻ればいい。

冒険者の文句を背中で聞きながらルティエと共に店に戻る。

「ただいま。」

「お帰りなさいませ、ルティエ様もお疲れ様です。」

「お邪魔します。」

「随分と礼儀の知らない冒険者が増えたな。」

「仕方ないわよ、そういう時期だもの。」

「ギルドは手を打たないのか?」

「一応礼儀正しくするようにって勧告はしてるけど、聞く耳もつと思う?」

まぁ聞くわけないよな。

とはいえ闘技大会までこれが続くのはさすがに困る。

何とかした方がいいだろう。

「う~む。」

「どうしたの?」

「いやな、せっかくだから金儲けに使おうと思って。」

「またぁ?」

「どういうことですか?」

「ルティエ、本業はどんな感じなんだ?詰まってるのか?」

儲けを出そうにもそっちの状況次第だ。

俺の金儲けの為に首を絞めさせるわけにはいかない。

「えっと、月末までは余裕があります。こうなるんじゃないかなって思って前倒しで仕事をしたので。」

「偉いぞ。」

ポンポンと頭を撫でてやると恥ずかしそうに肩をすくめるルティエ。

それを見たエリザが何とも言えない目を向けてきた。

「なら闘技大会までひたすら装備を作れるな。一日に何個できる?」

「えっと、種類を絞れば8つぐらいは。」

「結構作れるんだな。」

「指輪とか、耳飾りは比較的簡単なので。」

「なるほどな。じゃあ指輪に絞れば10はいけるか?」

「台座が有れば。」

ならその線で行こう。

外を静かにさせつつ、俺も儲ける。

ついでにエリザ用の装備も手に入れば万々歳だ。

と、いいタイミングで外が騒がしくなってきた。

奴らが今度は俺の店をターゲットにしに来たんだろう。

ドアを汚される前に片を付けるか。

「ルティエ、お仲間に言って台座を作らせておけ。あそこの連中なら一日に10個ぐらい余裕だろ。」

「え、あ、はい!」

「んじゃ、行ってこい。」

ドアを開けると同時にルティエが駆け出す。

「あ、出てきた!」

「待て!」

「待つのはお前等だ、良い感じに集まってるし耳かっぽじってよく聞けよ。」

ルティエを追いかけようとした冒険者の視線をこちらに集める。

「明日から一日10個限定で毎日指輪を販売する。ただし、購入するにはここで発行する引換券が必要だ。引換券を手に入れる方法はただ一つ、ダンジョンに潜って買取品を持ってくる事。どんなものでもいい、ダンジョン産の装備を持ってきたら引換券を一枚渡す。一日一回先着順だ、わかったな?わかったら今すぐダンジョンに潜ってこい。あぁ、うちではギルドより高値で買い取ってる素材もあるから一緒にもってきても構わないぞ。さぁ行った行った!」

余りの早口に呆然とする冒険者たちをパンパンと手を叩いて覚醒させる。

「ほ、本当に装備を買えるんだな?」

「あぁ、その為の引換券だ。何が何でも10個作らせる、だが先着10人だ。」

「買い取る品は何でもいいのか?」

「ダンジョン産の装備なら武器でも防具でも何でもいいぞ。もしかするとルティエよりも性能のいい装備が見つかるかもしれないし、そうなったら万々歳だろ?」

「期限は?」

「武闘大会の前日までだ。」

「よし、いこうぜ!」

「お、おう!」

「頑張って来いよ~。」

先着順という事もあって群がっていた冒険者が慌てた様子でダンジョンへと向かっていった。

あっという間に静かになる。

「悪い男ね。」

「そうか?」

「そうやって装備を集めるつもりなんでしょ?」

「どんなものを持ってくるかはわからないが、この時期はあればあるだけ売れるからな。」

「ルティエちゃんも大変ね。」

「馬鹿言うな、場を上手くまとめたと褒められても良い所だぞ。」

荒くれどもを暴れさせることなくダンジョンに行かせ、俺の為に装備を持ってこさせる。

相場スキルのおかげで俺が損をする可能性はほとんどない。

加えて魔物の素材を買い取ればどう転んでも儲けしか出ないだろう。

その中に当たりが一つでもあれば最高だな。

特にエリザ関係の装備があればなおいい。

もちろん、そんな簡単にはいかないかもしれないが・・・。

「いいのが有ったら教えてね。」

俺の女の為に働くのもたまには悪くないだろう。

ま、働くのは俺じゃなくて他の男どもだけどな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...