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163.転売屋はダンジョンに同行する

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「お願い!一緒について来て!」

血まみれの鎧を着て帰って来たと思ったら、いきなりエリザに拝まれた。

俺は神様でも何でもないんだが?

「ついて来いってどこにだ?」

「もちろんダンジョンよ。」

「断る。」

「お願い!絶対に危険はないから!何かあってもシロウだけは無事に地上に帰すから!」

「俺だけの時点でアウトだ。戻るならお前も無事に戻って来い。」

「えへへ、シロウのそういう所好きよ。」

「惚気は良いからとりあえず説明しろ、それから考える。」

とりあえず話を聞いてからだ。

ミラが持って来た水を一気に飲み干し、一息ついてからエリザは話し始めた。

なんでも、バカ兄貴と一緒にダンジョンに潜っていたら宝箱からアイテムを見つけたらしい。

それがかなり禍々しい雰囲気を醸し出しているので、俺に鑑定してほしいとのことだった。

なぁ、鑑定するためには触らないといけないんだが、そこんとこ分かってるのか?

「分け前は三等分だよな?」

「う、やっぱり?」

「そりゃそうだ、鑑定するためにわざわざダンジョンの奥に行くんだぞ?必要経費と思え。」

「うぅ、仕方ないわ。」

「それと、絶対に無事で帰せよ?魔物との戦闘なんざごめんだからな。」

「今回は低層の探索だったし問題ないわ。」

低層ならまぁ大丈夫だろう。

一応念の為に短剣を腰に差してからミラに後を任せて店を出た。

だが、エリザはダンジョンへ向かう前に何故か冒険者ギルドへと入って行く。

「ニア、お願いがあるんだけど。」

「何よ改まって。」

「シロウをダンジョンに連れて行くんだけど、初心者用の装備を貸してもらえない?」

「おい。」

「念の為よ。何もない自信はあるけれど、何かあった時に後悔したくないから。」

「今日は低層だったっけ?大丈夫だと思うけど、心配なら使っていいわよ。」

「やった!借りてくね!」

俺の事を心配してくれての事だし、念には念を入れてくれるのは助かる。

革製の鎧とブーツ、小手を身に着けていよいよダンジョンに突入だ。

前にも一度入っているからそこまで感動はないが、やはり緊張はする。

「大丈夫よ、私が守るから。」

「よろしく頼む。」

エリザを先頭にダンジョンの入り口をくぐる。

中は前と同じ様子だ。

「とりあえずここをまっすぐ行って、二階層までいくわ。少し距離があるけど大丈夫よね。」

「歩くだけならな。」

「上等、じゃあ行くわよ。」

マイペースで前を進むエリザの後ろを二歩ほど離れて追いかける。

低層に魔物は少ない。

少ないだけで出ないわけではない。

そう言う知識があるからついきょろきょろしてしまうのだが、本当に何も出てこないな。

「ね、大丈夫でしょ。」

そんな俺の心を読んだようにこちらを振り向かずに声をかけてくる。

「そうみたいだな。」

「ここは全く出てこないの。たまにはぐれた魔物が出るくらいで、そう言うのもすぐに退治されるわ。」

「だが先は違うんだろ?」

「まぁね。」

出てきた所でエリザの敵ではないだろう。

俺は何も気にせず後ろを追いかけていくだけだ。

「ごめんね。」

しばらく無言で進み、二階層も半ばという時だった。

急にエリザが謝って来る。

「どうした急に。」

「シロウはダンジョンになんて来たくなかったのに、私が勝手に連れて来たから。」

「勝手じゃないぞ、俺は俺の意思でついていく事にしたんだ。もちろん、お前が守ってくれる前提だがな。」

「怒ってない?」

「怒るかよ、お前が俺を頼ってくれた。それは純粋に嬉しい事だ。」

「えへへ、良かった。」

くるりと反転してはにかむ姿に思わずドキッとさせられる。

いつもは脳筋だ犬だと言っているが、なんだかんだ言って俺はエリザが好きなんだろう。

だろうっていうのは恋愛とかそう言うのではない気がするからだ。、

仲間とか運命共同体とか飼い主とか、色々な要素が含まれている。

飼い主はあれだけどな。

と、いつもよりも三割増しでデレデレしていたエリザの顔が急に引き締まった。

真剣な面持ちで正面を向き直し、俺を手で制する。

「魔物か?」

「うん、遠いけどいる。」

「任せるぞ。」

「まかせといて。」

さっきまでの真剣な表情はどこへやら、パチンとウインクをして瞬く間にダンジョンの奥に消えて行った。

それからすぐに何かの叫び声が聞こえる。

エリザが魔物を仕留めたんだろう。

しばらくして真っ赤な肉塊を手にエリザが戻って来た。

「ただいま。」

「これはまたすごいな。」

「これ?ボアの肉だよ?」

「これが?」

「そう。いつもイライザさんの所で食べてるでしょ?」

確かに食べているが・・・。

ま、肉だし血まみれなのは当たり前か。

「持って帰ってイライザさんに料理してもらおうよ。」

「それはいいな、だけどやる事やってからな。」

「えへへそうだった。」

肉塊を革袋に入れ、さらに収納カバンへと仕舞う。

こうすることで血の臭いは漏れず魔物に襲われる心配もない。

らしい。

再びエリザを先頭にして三十分ほど進んだだろうか。

二階層を越え三階層に降りた後、壁と壁の隙間に細い道があるのを見つけた。

「この奥にフールがいるのか?」

「そう、この細さなら魔物は入れないし安全地帯みたいなものなの。」

「宝箱はこの奥に?」

「そうなんだけど・・・。」

「なんだ、歯切れが悪いな。」

「いつも使ってる部屋の隅に穴が開いててね、ちょっと叩いたら道があったのよ。」

「それちょっとなのか?」

「私からしたらね。」

脳筋だから加減が出来なかったんだな、そういう事にしておこう。

細い道を進むと6畳ぐらいの小部屋についた。

「お、シロウさん来てくれたんですね。」

「エリザに言われて仕方なくな。で、物はどこだ?」

「この奥です。」

バカ兄貴が指さしたのは部屋の右奥に出来た切れ目だ。

あの奥に道があってさらに宝箱があったと。

ここまで持ってこなかったのは触りたくなかったから。

触ると何か起きそうなものって事だな。

それを鑑定させるなんて・・・。

いや、言うだけ無駄か。

「んじゃちょっと行って来るわ。」

「え、シロウだけで行くの?」

「何もいないんだろ?」

「そうだけど・・・。」

「そもそも俺を呼んだ時点で何か起きたらお前の責任だ、あきらめろエリザ。」

まぁ俺もそれを覚悟でついてきたんだけども。

俺も男だ、やる時はやるさ。

そんな気持ちは最初だけで、切れ目の奥に置いてある宝箱を見て後悔した。

何だよあれ、明らか気持ち悪いじゃないか。

明かりが無いからじゃない。

あの周りだけ禍々しい何かが漂っている。

素人の俺でもわかるんだからやばすぎだろ。

「あった~?」

「あったぞ。」

「中身は何だった?」

「今から見るからちょっと待て。」

そんなせかすなよ。

ゆっくりと宝箱に近づき上から中身を確認する。

中に入っていたのは鍵だった。

鍵一つでこんなに禍々しい何かが出るのか?

ゆっくりと手を入れてそれを取り出す。

それと同時に鑑定スキルが発動した。

『開かずの鍵。これを刺しても普通の鍵は開かないが、開けてはいけない鍵は開けられる。最近の平均取引価格は銀貨5枚。最安値銀貨3枚、最高値銀貨7枚。最終取引日は2年と344日前と記録されています。』

よくわからない品だった。

普通の鍵は開けられないが、開けてはいけない鍵は開けられる。

扉を開けたりするんじゃないのか。

開けられない鍵を開ける。

まるで矛盾している。

不思議な道具であることは間違いないようだけど、使い道はなさそうだ。

「どうだった~?」

「残念だったな、珍しいが価値のある物じゃなかった。」

「え~そんな~。」

「呪われてなかったんですか?」

「解呪は必要なさそうだ。」

禍々しい雰囲気を醸し出しているのはあの箱のようだ。

「ちなみに箱を開けたのは?」

「俺だ。」

「特に変わったところは?」

「え、何かあるんですか!?」

「いや、わからない。わからないから念の為教会に行ってみてもらえ。」

「そうするよ。」

鍵をポケットに入れて部屋を後にする。

「おかえり。」

「ほら、これだ。」

「ちっちゃい鍵。」

「開かずの鍵だとさ。」

「それって開くの開かないの?」

「開かないのを開けるんだとさ。」

「ふ~ん。」

「ちなみにいくらなんですか?」

「一人銀貨1枚って所だ。」

値段を聞いてがっくりと肩を落とすバカ兄貴。

頑張りが報われない、そんな日もあるさ。

「まぁまぁそんな顔するなって。地上に戻って飯にするぞ。」

「え、奢りですか?」

「エリザがボアを仕留めたからな。」

「おっしゃ!」

「酒代は自腹だからね。」

「もちろんですって。」

そう言いながら残念そうな顔をするのを俺は見逃さなかった。

「それじゃあ帰るぞ。」

「鍵はシロウにあげるわ。」

「まいどあり。」

もう一度ポケットに押し込んでダンジョンを後にする。

安全なら中々に楽しい場所だが、命を懸けてこんな物しか見つからない場合もある。

ハイリスクハイリターン。

やっぱり俺には向いてないな。

そんな事を思いながらダンジョンを後にするのだった。
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