転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

文字の大きさ
上 下
162 / 1,415

162.転売屋は福袋を披露する

しおりを挟む
いよいよその日はやって来た。

町中がソワソワしているのが肌で伝わって来る。

まぁ、そわそわしてる大半は大人だけども。

子供達は早くも店の前でスタンばっている。

まだ日が登ってすぐだぞ?

飯はどうした飯は。

「もう並んでるわよ。」

「健康的な事だ。」

「どうしますか?少し早いですが配ってしまいますか?その、準備もありますし。」

「そうだなぁ・・・。」

俺は見ないようにしていた庭の方を見る。

倉庫だけでなく庭全てを覆い尽くすほどの品々に目がくらみそうだ。

これでも総数の四分の一。

残りはギルド協会の倉庫と中に押し込められている。

早く撒いてしまわないと業務に差し支えるのだが・・・。

「まぁ、のんびりでいいんじゃないか?今日は仕事しないらしいし。」

今日はお休みなので問題なしだ。

「では香茶をもう一杯入れましょう。」

「あぁ、頼む。」

「アネットは余裕ねぇ。」

「今日は子供達にお菓子を上げるだけですから。」

「いや、まぁ、表向きはね。」

「それに今更慌てた所で仕方ありません。むしろ菓子作りが終われば地獄が始まりますから、この時間を楽しむべきです。」

地獄、地獄か。

配るだけならそうかもしれないが、俺にとっては別の意味がある。

そう、戦いだ。

貴族と商人の全面戦争。

今までは金に物を言わせて勝利を得てきたかもしれないが今回はそうはいかない。

この俺がその連勝記録を止めてやる。

ゆっくりと香茶を楽しんだ所でそろそろ時間だ。

「それじゃあ始めるか。」

大きな横長の机を店の前に設置し、準備は完了だ。

「さぁガキ共、お待ちかねの時間だぞ!」

「「「わ~い!」」」

店を取り囲んでいた子供達が歓声を上げる。

「順番に並んでからよ!」

「沢山ありますからあわてないで。」

「一人一個、でも食べ終わったら並び直してもいいですよ。」

ちゃんと列に並ばせてから菓子を配り始めた。

ってか並び直しても構わないのか。

まぁ、あの量だしなぁ。

庭は例のブツでいっぱいだが二階はお菓子の袋が山積みだ。

もちろん大人に配る分もあるのだが、それにしても作りすぎだろう。

金貨3枚分だもんなぁ。

「はい、どうぞ。」

「わ~い!」

「落とすんじゃないわよ。」

「は~い!」

「食べたら歯を磨いてね?」

「わかった!」

三列に並んだ子供達にそれぞれ一声かけながら渡していく。

「ねぇシロウ私にも頂戴。」

「なんで俺の方に並ぶんだよ。」

「暇なんでしょ?」

「俺にもくれよ!」

そして何故か俺の方にも列が出来ていた。

並んでいたのは孤児院のガキ共。

「で、お前もか?」

「えへへ、保護者でも貰えますか?」

「まぁいいんじゃないか?」

そしてモニカだった。

見た目はまぁガキみたいなもんだし別に構わないだろう。

「ありがとうございます!」

「それと、これもな。」

「これは?」

「今日来られないやつもいるだろ?そいつと、神様の分だ。」

「ありがとうございます。」

よくみるとファンの姿がなかった。

おそらくイライザさんの方を手伝っているんだろう。

孤児院の中では一番年長で唯一定職を持っている。

でもまだまだガキだ。

菓子を貰う権利だってあるだろう。

神様はついでみたいなものだ。

祭壇に捧げておけば何か見返りがあるかもしれない。

それこそ勝利の祝福とかな。

朝一から配り出したので昼前には菓子を配り終える事が出来た。

そして、いよいよその時が始まる。

周りの大人たちはその時を今か今かと待ちわびていた。

正直目が怖い。

特に女性の目が。

「福袋なんてよく考えついたわね。」

「これなら入れ物は一つだし複数個には該当しないだろ。」

「それでいて数を配る事が出来ます。」

「中に何が入っているかわからないのもいいですよね。」

一袋で何度も楽しめるのが福袋の良い所だ。

もちろんハズレも入っているだろうがそれはそれ。

そこも含めてが福袋ってね。

「鐘が鳴ってからだったな。」

「はい。途中一回二回と鳴りまして三回なったら終了です。それまでにどれだけ証を獲得できるか・・・。」

「まぁ間違いなく俺達が一位だ。」

「もちろんです。これだけのお金を費やしたんですから。」

「金貨20枚。ほんと馬鹿じゃないの。」

「勝てば50枚だ、悪い勝負じゃない。」

「でも負けたら?」

「負けはあり得ません、だって御主人様ですから。」

そう、この俺が負けるはずがない。

負ける勝負など端からする気もない。

勝つ。

その為だけにこれだけ準備してきたのだから。

カ~ンと鐘が鳴る。

それと同時に雄叫びの様な音が町中に響き渡った。

人が殺到する。

さぁ、楽しい楽しい地獄の始まりだ。


「調子はいかがですか?」

「見ての通りだ。」

「まだまだありますからじゃんじゃん配ってくださいね。」

「言われなくてもそうするさ。」

後ろでは女たちが交代で福袋と証を交換している。

俺は休憩中だ。

「それにしても福袋ですか。中身はバラバラで貰ってみないとわからない、こんな楽しいやり方があったなんて思いもしませんでした。」

「使えるのは今回だけ、次回からは貴族も真似をしてくるだろうさ。」

「このままいけば我々の勝ちは必然。今回だけ勝てばいいんです。」

「そんなにあの人アナスタシア様に勝ちたいのか?」

「それはもう。こういう時にしか勝てませんからね。」

確かに色々と無理難題を突き付けて来る人ではあるが・・・。

羊男にも思う所があるのだろう。

「それはどうかしら。」

と、その時だった。

聞き覚えのある声が後ろから聞こえて来る。

「これはこれはアナスタシア様」

「まったく、とんでもない物を用意したわね。」

「お褒めにあずかり光栄ですと言うべきなのか?」

「別に褒めてないわよ。まったくギルド協会を抱き込むなんて前代未聞だわ。」

「我々はあくまで公平な立場にいますよ。」

「嘘仰い、ギルド協会が全面的にバックアップしたのは知ってるんだから。」

「でも金を出したのは俺だ。貴女だって貴族に色々と助言をしたそうじゃないか。」

「だって私は向こう側の人間だもの。せっかくとっておきを用意したのに、完勝するはずが予想外もいい所だわ。」

その口ぶりは勝つ気でいるようだ。

「確か食事券でしたっけ?換金性の高い物は禁止されていたと思うんだが。」

「逆に聞くけどあんな紙切れ何処で換金するの?」

「確かに使用者は換金できないが、使用された店は換金できるよな?」

「えぇ、終わってからね。」

「それはいいのか?シープさんよぉ。」

「誰もが現金にできるわけではありませんから、限りなく黒に近い白と言えます。」

「食事券を別の物と交換したりするのは白なのか。」

「そんな事言ったら貴方だってそうでしょ?」

まぁそうなんだけども。

今回用意した福袋には各商店自慢の品々が大きな笊に乗せられている。

本当は福袋ではなく福笊というべきなんだが、まぁいいだろう。

その自慢の品々だが、あまりにも数が多すぎるので笊には乗り切らない。

そこで、笊ごとに入れる物を変えて楽しめるようにしたわけだ。

「大通りは物々交換会場になってしまって収拾がつかない状況よ。まったく、面倒な事をしてくれたわね。」

「欲しい人が欲しい物を手に入れられるんだ、配った後の事まで面倒見切れないね。」

「そちらは警備やギルド協会の職員が統制していますので問題ありません。」

「まったく何が公平な立場なんだか。」

「そちらの品も物々交換されてるそうじゃないか、お相子だよお相子。」

「仮に全住民がそっちの品を交換したとしても、こっちも全住民が交換すれば負けないわ。」

「同票の場合は引き分けですが、残り一つの票が貴族か庶民かで勝敗が決まる事になります。」

「残り一つがどこに集まるのか、それはもうわかり切ってると思うがなぁ。」

俺は後ろの列を振り返る。

福袋に並ぶ列の隣には、もう一つの列が出来ている。

そう、女達が用意した菓子に並ぶ行列だ。

「食べるだけで痩せるってのは本当なの?」

「もちろん個人差はあるだろうが、体脂肪を燃やし新陳代謝を活性化させる成分が含まれている。後は本人次第だ。」

「それ、ずるくないかしら。」

「欲しいなら並べよ。」

「分けてくれないの?」

「票を貰ってるんだろ?あくまでも公平に、貴族だろうが関係ないね。」

「もぅ、仕方ないわねぇ。」

その後金鐘が三つまで列が途切れることは無く、用意した福袋は無事に全て配り終わった。

渋谷109の物々交換会よろしく町中で行われていた交換も無事に落ち着き、お目当ての品を手に入れた住民達は嬉しそうに家へと帰って行った。

で、結果はどうなったかって?

もちろん俺達の完全勝利だ。

俺とアナスタシア様陣営が同票。

そして過半数を得た女達の分で一勝一分け。

完全勝利とはいかなかったが、それでも勝ちであることは間違いない。

こうして初の庶民側勝利で企画は終了したのだった。

だが・・・。

「申し訳ありませんシロウさん。」

「話が違うぞ。」

「私も掛け合ったんですが、さすがに金貨50枚はむりでした。」

「男の約束じゃないのか?」

「それとこれとは話が別よ。ギルド協会が許しても、街長と副長が許可しないわ。」

「本当に申し訳ありません。」

減税してもらえるはずがまさかまさかの展開になってしまった。

どう考えてもこの人アナスタシア様が何か言ったんだろうな。

俺に負けたのが悔しいからって全く・・・。

「それでも金貨30枚は減らしてくださるそうです。」

「プラス家賃な。」

「・・・善処しますとだけお答えします。」

税金は街の管轄だが家賃は別だ。

それぐらいならこの男が何とかするだろう。

金貨25枚はかかったが金貨30枚の減税に家賃の減額。

けして悪い戦いではなかった。

何より楽しかったしな。

「次は負けないわよ。」

「こっちこそ、みすみす負けるつもりはないさ。」

次の為にも今から作戦を練らなければ。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...