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156.転売屋は貴族と競い合う

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秋も深まってきたころ。

ギルド協会にまた呼び出された。

もちろん前回のような目に合うのは御免なので内容を確認したが、そう言った話ではないらしい。

さらに言えば教会からモニカも来るらしい。

一体何の話だろうか。

「とりあえず行って来る。」

「行ってらっしゃいませ。」

「また変な事に巻き込まれるんじゃないわよ。」

「それを俺に言うなよ。」

巻き込まれたくて行くなんてどんだけ暇人なんだ。

店をミラに任せて大通りへ向かうと、ちょうどモニカが歩いているのが見えた。

「よぉ。」

「あ、シロウ様こんにちは。」

「今からか?」

「はい。呼び出しして申し訳ありません。」

「それは別にいいんだが、一体何の話なんだ?」

「聞いておられないんですか?」

「あの男が俺に説明なんてするかよ。」

まったく、俺を何だと思っているんだろうか。

呼べばくる便利屋じゃないんだがなぁ。

「今日は、今度の休みに行われる子供達への贈り物について相談しようと思っていたんです。」

「贈り物?」

「シロウ様は初めてでしたね。毎年秋の中ごろに、子供達へ菓子を配る催しを行うんです。健やかな成長を神様が喜んでいる、それを実際に感じてもらうために行ったのが始まりとされています。」

「仮装はしないのか?」

「しませんが、いろんな所を回ってお菓子を貰うんです。」

仮装無しのハロウィン的な感じか。

で、なんで俺が呼ばれたんだろうか。

そんなの回覧板かなんか『いついつにやるから用意しておけ』で済む話じゃないのか?

謎だ。

「街中となるとかなりの数になるな。」

「すみません、大通りというべきでしたね。」

「大通りの各店店を回って菓子を回収する。なるほど、うちにも関係があるのか。」

「特にシロウ様はこの街一番のお店ですから、期待されているんだと思います。」

「まて、どういうことだ?」

この街一番ってのはまぁわかる。

でも何故に期待されねばならないんだ?

とか何とか言っている間にギルド協会に到着してしまった。

詳しくは中で聞けという事だろうか。

呼ばれて且つ到着してしまったのなら致し方あるまい。

中に入るとすぐに応接室へと案内された・・・・が、なかにはだれもいなかった。

「呼んでおいて不在とはいい度胸だ。」

「シープ様もお忙しい方ですから。」

「忙しいのはわかる。だがそれは我々も同じだろう?」

「まぁ、そうですけど・・・。」

子供達の面倒を見つつ解呪や聖水の生成、最近では教会らしく住民の困りごとなんかも聞いているらしい。

結構忙しいんだぞ、二人共。

「すみませんお待たせしました。」

と、重役出勤の羊男が応接室に入って来た。

「俺達を待たせて遅刻とはいい度胸だ。」

「まぁまぁそう言わないでくださいよ、アナスタシア様のせいなんですから。」

「げ、あの人が関係しているのか?」

「直接は関係ありませんが、間接的には。」

「微妙な所だな。」

「あの方には貴族間の調停をお願いしているんです。ここぞとばかりにいい顔をする貴族が多くて多くて・・・あぁ、聞き流してくださって結構です。愚痴ですので。」

こいつはこいつで大変なのはわかる。

それにしても貴族も関係してくるのか。

ぶっちゃけめんどくさくなって来たぞ。

「モニカから少し話は聞いたが、菓子を配るんだって?」

「そうなんです。」

「だがそれだけじゃないと。」

「今年一番のお店には特に力を入れていただく決まりになっていまして・・・。」

「子供の健やかな健康を祝う祭りか何かだよな?」

「表向きは。」

「じゃあ他にはどんな意味があるんだ?」

「稼いだ分を皆さんに還元していただく、そう言う意味も含まれています。」

「・・・・・・は?」

すまん良く聞こえなかった。

なんだって?

「その気持ちはよくわかります。なんで自分で稼いだ金を他に還元しなきゃならないんだ?ですよね?」

「よくわかってるじゃないか。」

「そう言う決まりなんです。昼までは子供達に菓子を配って・・・。」

「で、昼以降は大人に金を配るのか?」

「別にお金じゃなくても構いません。大抵は酒をふるまったり物を配ったりする程度ですから。」

「その物に期待されてるんだろ?じゃあ聞くが貴族は何をしてるんだ?」

「貴族も同様にここぞとばかりに物を配ります。」

「物を配るのと同時に、証を回収するんです。その数が一番多い人が神様に祝福される、そういうお祭りでもあるんです。」

最初の子供の健やかな成長を祈るって部分はどこに行ったんだろうか。

後半物欲全開じゃねぇかよ。

「最近は貴族に負けてばかりなので、今年は是非シロウさんに一発かましてもらいたいんですよ。そうじゃないと、またアナスタシア様の勝ち誇った顔を見せられることになります。」

「つまりは庶民対貴族の戦いというわけだな?」

「そういう事です。元々は菓子を配るだけだったんですけど、いつの間にかこんなことになってしまって・・・。」

「じゃあやめろよ。」

「いまじゃ住民全体がこれを待ち望んでいるんです。今更やめられませんよ。」

物欲全開だなぁ・・・。

貰える者は何でも貰う。

貴族なんてここぞとばかりにため込んだ金を使って、自分の凄さをアピールするのか。

宝石でも配って破産しやがれってんだ。

「あくまでもお菓子が本題ですから・・・シロウ様はそこを間違えないで下さいね。」

「神様は良いのか?こんな物欲にまみれた催しにされて。」

「それで皆様が喜ぶのであれば。」

「懐広すぎだろ。」

適当にもほどがある。

まぁ、ハロウィンもクリスマスも元は慎ましやかな感じだったが今じゃお祭り騒ぎだ。

そう言う意味ではここも同じって事だろう。

全く、どれだけ祭りが好きなんだか。

「ちなみに勝ったら何かあるのか?」

「特にありません。」

「じゃあやらねえ。」

「嘘です冗談です!」

「税金半額とかなら喜んでやるが?」

「さすがにそれは無理ですって。」

「じゃあ四分の一。」

「増えてますって。」

「なら四分の三にしてくれ。金貨50枚、それだけ減らしてくれたら根性見せてやる。もちろん負けたら負けたで文句は言わないさ、勝った時の楽しみが無くちゃやる方にも気合が入らない。それはわかるよな?」

俺の提案を受け羊男が思案を巡らせる。

自分一人の権力で税金を減らせるのか。

その辺を考えている・・・わけないか。

「いいでしょう、それで手を打ちます。」

「マジかよ。」

「ずっと考えていたんですよ、貴族に勝つためにはどうすればいいかって。成程、税金・・・その手がありましたか。」

「本当に大丈夫なのか?」

「あくまで名目は減税としておけば怒られることもありません。っていうか、それぐらいしないと皆さんやる気出してくれませんしね。」

「ギルド協会がそれでいいのなら喜んで根性見せようじゃないか。」

「ただし負けたら何も出しませんからね、経費なんて言葉もありません。」

「わかってるって。」

どうやら本当に税金を減らしてくれるようだ。

そこまで言ってもらって本気にならないわけがないよな。

時間はまだある、一番何が喜ばれるか全員で考えなければならないぞ。

勝てば減税、負ければ自腹。

どちらに転んでも子供も大人も大喜びってわけだ。

「ちなみに現金や宝石、換金性の高い物は禁止されていますのでその辺よろしくお願いします。」

「まぁそうだよな。」

「過去にばら撒いた人が居ましてね・・・。」

「金持ちの考える事はみんな同じか。」

「貴族間で袋叩きに合いまして、いなくなってしまわれました。」

「その怖い言い方止めてくれないか?」

それは死んだのか出て行ったのかどっちなんだよ。

ってか前者だったらどれだけ気合入ってんだ?

その相手を庶民代表でやらされる身になってくれないかなぁ。

「ちなみに去年は誰がやったんだ?」

「レイブ様です。」

「まぁ、あの人なら妥当か。」

「その前が三日月亭のマスターですね。」

「どんだけボロ儲けしてんだよ!」

「その年はダンジョン未発見地域が多数見つかりまして、街を挙げてのお騒ぎだったんですよ。」

「そりゃ儲かるか。」

全部部屋が埋まれば連日かなりの収入が安定して入ってくるわけだしな。

一発逆転はないがその分堅実にいくタイプだ。

「今年もなかなか善戦されましたが、シロウ様には敵わなかったようです。」

「俺、来年から大人しくするわ。」

「まぁまぁそう言わないで。」

「ともかく話は分かった。菓子は準備するしそっちはそっちで何とかすればいいんだろ?」

「お力になれることがあれば遠慮なく仰ってください。」

「いいのか?公平じゃないぞ?」

「今回に関してはギルド協会を挙げてシロウ様を応援させていただきます。」

貴族対庶民。

ギルド協会は庶民側って事ね。

なるほどなるほど。

「シロウ様頑張ってください。」

「神様に応援されてるんだ、頑張らない理由はないよな。」

「え、シロウさんまだ足りないんですか?」

「馬鹿野郎もう十分だよ。」

なんでモニカまで食べる前提なんだよ。

残念ながら俺の守備範囲外だって、モニカも残念そうな顔をするな。

せめて後二年、いや三年?

ともかくまだまだその域に達してない。

というかお前聖職者だろうが。

そんなツッコミを入れながら、俺は店に戻るのだった。
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