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153.転売屋は意見を求められ続ける

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納得できないという顔でこちらを見る女豹。

そりゃそうだ。

一方的に俺達の意見を聞かされていい気分なはずがない。

っていうか、やっぱり俺がここにいるのっておかしくないか?

女豹が姿勢を正すと胸がより主張される。

普通の男ならあの胸に魅了されるんだろうけど、残念ながら俺は・・・以下略

「それじゃあ今と何も変わらないわ、多少値段が下がっただけじゃうちの職人たちは納得しない。彼らが本気になったらこの街との取引を中止することだってあり得るのよ?」

「それは脅しですか?」

「現実の話よ。」

「もしそれが本当なら・・・。」

おいおい、こんな嘘に何で引っかかるんだよ。

取引全てを中止するなんてどう考えても無理だろうが。

素材を売る時にいちいちどこの街から来たのか確認するのか?

そんな面倒な事・・・こいつならしかねないんだよなぁ。

売るのは売るけど、街の出口でこの前のように停車させて街の商材だったら没収。

もちろんお金は返しませんとか言ってさ。

でもな、それはこの女豹の中での話だ。

「で、それを誰が判断するんだ?」

「職人自身よ。」

「つまりギルドは職人が売らないと決めたらそれに賛同するんだな?」

「えぇ、彼らが売らないんなら我々はそれに従うまでよ。」

「じゃあ逆だったらどうだ?」

「どういう事かしら。」

「彼らが売りたいと言ったらギルドは拒否するのか?」

「だから、彼らがそっちに売らないというかもしれないって話で・・・。」

「どうなんだ?」

論点はすり替えさせない。

ギルドがどうするのか、その答えが聞きたいんだ。

「・・・彼らが決めたんなら拒否しないわ。」

「そうか、わかった。」

「でもこのままならそうなるわよ。実際ここに来たのも、不当に釣り上げられた値段に抗議する為なんだから。」

「具体的にどの素材についてだ?」

「沢山あるんだけど?」

「構わない出してくれ。」

待ってましたと言わんばかりに女豹がカバンから取り出した書類にはびっしりと素材名が書いてあった。

そのどれもがダンジョンから持ち帰られる魔物の素材で、いわばこの街の生命線だ。

因みに俺が出荷していたブラウンマッシュルームもその中に含まれている。

っていうか俺が取引した素材全部入ってないか、これ。

「かなりの量ですね。」

「それだけ不満があるって事よ。」

「シープさん、こっちからそう言う不満は出ていないのか?」

「う~ん、無くはないけどそこまでひどくないかな。」

「そりゃそうよ、こっちから一方的に搾取してるんだもの。」

搾取、搾取ねぇ。

それは違うと思うぞ。

搾取ってのはこっちが向こうの富を搾り取るのに使う表現で、そんなことはもちろんしていない。

あくまでも対等な関係のはずだ。

そうじゃないと商売なんて成り立たない。

それにだ、一方的に固定買取を行い管理をし始めたのってこいつだよな?

その不満が爆発してるんじゃないのか?

「搾取か、じゃあ取引を止めればそれもなくなるよな。」

「シロウさん?」

「だってそうだろ?取引しなくなれば向こうは搾取から解放される。俺達は別の取引先を探してそこから仕入れればいいじゃないか。」

「口では簡単ですが、コストもかかりますよ。」

「値上がりした分で考えれば相殺されるだろ。わざわざ得られる利益を捨てるってことは入ってくる税金も少なくなるんだぞ?その分別の場所で稼げば問題ない。その為にここには冒険者もたくさんいるんだ、彼らに金を払って護衛してもらっても十分に釣りは出るさ。」

「まぁ、そうですけど。」

「向こうは搾取から解放され、こっちは別の取引先で変わらぬ取引をする。お互いwin-winの関係じゃないですか。」

まぁ取引先を探すまでが大変だろうけど、ダンジョン産の素材は替えが聞かないらしいから取引先には困らない。

事実隣町以外の場所とも取引してるわけだし、案外簡単かもしれないぞ。

俺達の話を変わらぬ顔で聞いていた女豹だったが、取引を止めると言った辺りから様子が変わって来た。

「なぁ、それでいいんじゃないか?そうすれば職人たちも不当な搾取から解放されて喜ぶだろう。」

「そ、そうね。」

「うちは別の取引先があるし、そっちはそっちで頑張って探してくれ。もっとも、うちみたいな消費地はなかなかないと思うけどな。」

エリザに聞いた話では、この街のようにダンジョンを中心にして発展している街は他にもあるが、かなり離れているらしい。

つまり隣町はかなり恵まれた環境にあると言ってもいい。

冒険者が使う武器は他の街で作られた素材でも代用できるが、彼らが作った素材は誰が消費してくれるんだろうな。

さぁ、どうする?

どう切り返す?

こんな事でアタフタする相手じゃないだろうけど。

「そういう事なら職人に意見を聞きましょう。彼らがどう思っているか、直接聞いてみればいいわ。」

「それはいい。うちも消費者に聞いてみるとしよう。」

「当てがあるんですか?」

「マートンさんならここの職人連中に顔が利く、話を聞くにはうってつけだろう。」

「確かにあの方ならそうですね。」

「それにだ。これだけ職人が来てるってことは、そこにも人が行ってるだろうしな。」

俺が立ち上がるとそれに続いて二人が立ち上がる。

戦いの舞台は応接室から現場へってね。

どこぞの俳優がドラマで叫んでたっけ。

事件は現場で起きているってさ。


「で、ここに来たのか。」

「そうなんだ。でもまぁ、大かた予想通りだったよ。」

職人が多くいる通りは、これまた多くの職人でにぎわっていた。

誰もが楽しそうに難しい話に花を咲かせている。

職人同士気が合うからかもしれないが、搾取されていたらこんな風に会話する事なんてできないはずだろ?

「確かに素材の値段は俺達も気になってるが、別に高すぎるとは思っていない。そりゃ安いに越したことはないさ、この間みたいに適正な価格で卸してくれれば俺達は嬉しいし冒険者も喜ぶだろ。」

「だよな。」

「つまりは多少値上がりしても問題ないと?」

「それだけの仕事をしてくれている。この間の素材だって粗悪品はほとんどなかったんだ、ほんと隣町の連中はいい仕事してるよ。」

「それを言うならアンタ達もだ。俺達の素材をこんな武器にしちまうんだからなぁ。俺は細工仕事しかできないから尊敬するよ。」

「俺に言わせればよくもまぁこんな細かい仕事が出来ると感心するよ。」

職人同士が肩を叩いてたたえ合っている。

これのどこにいがみ合う要素があるんだろうか。

まぁ、こんな事だろうとは思っていたが・・・。

やはり現場の意見って大切だよな。

「じゃあその職人に聞くんだが、こっちが持って行く素材は高いか?」

「う~ん、種類による。」

「例えば?」

「頻繁に使用する骨や甲羅、魔物の革なんかはもうすこし引き下げてもらいたいな。」

「なるほど。」

「それ以外は妥当だと俺は思ってる。そりゃあ、他にも高いと思う奴はいるかもしれないがそれを言い出したらこっちも同じだろ?」

「まぁなぁ。」

高いのは高い、でも仕方がない。

そう言う感覚だろう。

それなら時々は安く卸してあげるだけでも十分に喜ばれるんじゃないだろうか。

それこそ、俺達みたいな業者じゃなくギルドが仕入れてギルドに卸す。

そうすれば不当に値段を上げられることもないし、安定した供給が行われるだろう。

「アラクネの糸は?」

「それは俺の口からはいえねぇな。」

「あはは、ですよね。」

「俺達は安く仕入れられたら文句は言わねぇ、足元を見てくる奴は追い返せばいいだけだ。」

「そりゃこっちも同じだな。」

「つまりこのままでいいと?」

「今日ここに来たのは隣町の技術を確認したかったからだ。仲間も同じだよ。」

「だ、そうですよナミルさん。」

そこで初めて女豹の方を振り返る。

どんな顔をしているか期待していたが、案外普通だった。

面白くない。

「せっかくシープを揶揄いたかったのにとんだ邪魔が入っちゃったわ。」

「そうなるだろうと思ってシロウさんを呼んだんです、おかげで助かりました。」

「こういうのは役人同士でやれよ、現場を巻き込むな。」

「でもおかげで不当な取引はなくなりましたよ?」

「それを回避するのが自分の仕事だろ・・・って、まぁそうだな。」

「では隣同士引き続き良好な関係を続けるという事で、よろしいですねナミルさん。」

「仕方ないわ。でも、何種類かの素材に関しては本当に値を下げてもらうわよ。今の話聞いてたでしょ?」

「その辺のすり合わせは向こうで行いましょうか。ここじゃ邪魔になりますから。」

話は済んだとばかりにマートンさん達は職人談議の続きを始めてしまった。

邪魔するのもあれだし俺も帰るか。

「って、何で手を握られてるんだ?っていうか胸を押し付けるな。」

「ここで帰るなんて野暮なこと言わないわよね?」

「最後まで付き合ってもらいますよ、シロウさん。」

「マジかよ。」

「私をコケにしたんだもの、当然じゃない。たっぷり可愛がってあげるんだから。」

「あ、そう言うのは私は遠慮します。妻がいますので。」

「俺だって・・・。」

「でも結婚してないんでしょ?じゃあ大丈夫よ。」

何が大丈夫なんだよ。

抵抗も空しくそのままギルド協会に連れて行かれ、日が暮れるまでたっぷりと意見を求められ続けるのだった。

こういうのは役人同士でやってくれ、マジで。
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