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152.転売屋は天敵に会う

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この間の槍は無事にエリザの紹介した人が買って行った。

中々の品だと大満足だったので、磨いた俺も鼻が高い。

よくもまぁあんな品を放置していたものだなと、我ながら情けなくなったが売れれば問題ない。

その後も倉庫整理をしながら良さげな品を発掘しては、きれいに磨き店頭に戻していった。

オーブのおかげか、それとも先日の恩返しのおかげかはわからないが買取客だけでなく購買客も結構くる。

有難い話だが、店が混雑するのがネックなんだよな。

「ありがとうございました~っと。」

ピカピカに磨いた鍋を抱えて主婦が去って行った。

ちなみに買っていったのは焦げずの鍋。

もちろん絶対に焦げないわけではないが、焦げにくい処理をしてあるらしい。

テフロンだろうか。

原理は良くわからないが面白いから買い付けて、そのまま放置していたやつだ。

それを磨いて展示したら即売れしてしまった。

一体どこで情報を仕入れてきたのか謎だな。

「シロウ様査定が終わりました。」

「なら先に飯にするか、戻るのは夕刻って話だったし。」

「そうですね。でもギルド協会に呼ばれているのではなかったですか?」

「しまった、忘れてた。」

そういえばそんなこと言われてたな。

昼過ぎに来てくれって話だったし、今から行けばちょうどいいだろう。

でも急に呼び出しなんていったい何の用だろうか。

ここ最近店と畑で忙しかったのでギルド協会に呼ばれる理由はないはずなんだが。

「なんだか嫌な予感がするんだが・・・。」

「では止められますか?」

「いや、行かないと後で何を言われるかわからないからなぁ。」

「今日の夜はイライザ様のお店に行く予定です、頑張りましょう。」

「だな。じゃあ行って来る。」

「行ってらっしゃいませ。」

ミラに見送られて店を出る。

大通りにはいつも以上の人でにぎわっていた。

祭りか何かあっただろうか。

心なしか冒険者よりも商人が多い気がするな。

いや、商人だけじゃない。

商人でも冒険者でもない、なんていうか職人?マートンさんのような人が多い気がする。

何故だろうか。

「ま、行けばわかるか。」

行き交う人の間をすり抜けてギルド協会まで行くと、目の前に豪華な馬車が止まっていた。

まるでおとぎ話に出て来たかぼちゃの馬車のように装飾されている。

こんな豪華な馬車はこの世界に来てまだ見た事が無い。

それこそ、オークションに来ていた貴族が乗る馬車でもここまでゴテゴテした装飾はついていなかったなぁ。

よっぽど自分の事を良く見せたいのか、それとも悪趣味なのか。

いや、そのどちらともかもしれない。

「いらっしゃいませ。あ、シロウさんこんにちは。」

「前にすごい馬車が止まってるな。」

「あれですか?隣町から来たやつですよ。」

「隣町?」

「えぇ、今日は隣町から職人団がやって来てるんです。」

「職人団が?何しに?」

「なんでも素材の卸しについて協議しに来たとか。今シープさんが話してるところです。」

再び嫌な予感がした。

それに加えて寒気もする。

風邪でも引いたかな?

さっさと仕事終わらせて・・・。

「あら?」

「げ。」

「素敵な反応どうもありがとう、シロウさんだったかしら。」

「出会った人すべての顔を覚えているのか?」

「男なんて吐いて捨てるほどいるのよ?そんなの無理に決まってるじゃない。私が名前まで覚えているなんて、かなり珍しい事なんだから。」

あぁそうですか、としか言えなかった。

まさかこんな所で出会うとは・・・。

俺の一番苦手なタイプで天敵ともいえる存在。

隣町のギルド協会統括、ナミル女史。

そんな名前だったはずだ。

「で、アンタがどうしてここに?」

「今受付で聞いていたのではなくて?」

「あぁ、職人団を率いて交渉に来たとか。」

「なのに貴方が居ないんだもん、探しに来ちゃった。」

探しに来ちゃったって、まさか・・・。

「シロウさん遅かったですね。」

「どういうことか説明してくれるよな?」

「えぇ、ゆっくり説明しますのでこちらにお越しください。ナミルさんもご一緒にどうぞ。」

「ウフフ、じゃあ行きましょうか。」

強引に俺の腕に絡みつき胸を押し付けてくる女豹。

だが残念なことに俺は乳派ではないので、そんな事では靡かない。

それにハリであればエリザ、形であればミラの方が勝っている。

つまり二人一緒に揉めばこんな乳など敵ではないのだ。

「何をぶつぶつ言ってるの?」

「恨み節だよ。」

「まぁ怖い。」

「いや~、シロウさんが来てくれて助かりましたよ。これからかなり大変な事になりそうなので、意見が聞きたかったんです。」

「俺はこの街の商人だが、役人じゃない。俺の意見なんてどうでもいいだろ。」

「そういうわけにはいきませんよ。隣町と頻繁に行き来しているのは今の所シロウさんだけなんですから。」

まさかの行商関係かよ。

って、そりゃそうか。

そうじゃないとこの女豹がこの街に来る理由がないよな。

あー、めんどくさい。

嫌な予感ってのはなんでこう的中するかね。

そのまま引きずられるようにして一番大きな応接室へ連れていかれる。

そこでやっと手を放して貰えた。

「それじゃあ役者もそろいましたし再開しましょうか。」

「改めての自己紹介は要らないわよね?」

「隣町のナミルさんだろ。」

「貴方も名前を憶えているじゃないの。」

「そりゃ嫌でも覚えるさ。」

「そうよね、男ってみんなそう。」

「残念ながらシロウさんにも私にも色仕掛けは通用しませんよ。」

「あら、残念。せっかく勝負下着を着けてきたのに。」

「どんな勝負なんだか。」

というかなんで俺がここにいるんだか。

面倒だからさっさと終わらないだろうか。

「説明要ります?」

「当たり前だろ。何しに呼ばれたのかすら知らないんだから。」

「そうでしたっけ?」

「・・・いいから続けろ。」

「今日隣町の視察団がやって来たのは、両者の需要を確認する為です。これまではお互いの街を行き来する各業者がそれぞれに必要なものをやり取りしていましたが、今後はギルドがそれを管理して必要なものを随時提供し合う関係を作らないかという提案を受けました。」

「お互いに必要なものは持っているのにそれを融通し合わないのはおかしな話でしょ?必要な時に必要なものが手に入り、かつ利益もしっかり残せる。最高の関係だと思わない?」

「こちらとしても極端に吊り上げられた値段で仕入れをする必要がなくなりますから決して悪くない話だとは感じています。ただ・・・。」

「個人業者が仕事を奪われ、かつ利益も失うって話だな。」

話は分かるが、やはり俺がいる意味が解らない。

確かに行商はしているが、あくまでも個人レベルで困るのは俺よりもアインさんなんかの輸送業者じゃないだろうか。

「別に利益は失わないわ、『適正な価格』でこれからも卸してもらうだけよ。」

「その価格が適正かどうかは誰が決めるんだ?」

「それはもちろん私達よ。」

「商売ってのは常に需要と供給で成り立ってるんだ。需要が増えれば値段が上がり、供給が過度に増えれば値段が下がる。それを一律の値段でやられたんじゃ誰も売ろうとしないだろう。話にならないな。」

「もちろん我々が危惧しているのはそこです。商売する人が居なくなれば結果として、物の行き来が無くなってしまいます。ですので、固定買取の制度は導入しないというのがこちらの意見なのですが・・・。」

「向こうがそれを拒んで話は平行線。で、俺が呼ばれたのか。」

「現場の意見は重要ですからね。」

ドヤ顔をする羊男はさておき、多少なりとも行商で利益を得ている身としては由々しき事態だ。

値段を固定されてはうまみがなくなる。

俺の儲けの為に何としてでもそれは阻止したいが、向こうはそれを許さない。

「物はあるのに出し惜しみして値を吊り上げるのがそもそもおかしな話。高い値段で売れば結果として製品の値段も上がって消費者がその被害を被るのよ。消費者の為にも適切な価格で卸すことは必要不可欠なの。」

「もちろんそれもわかる。だが、世の中そんな綺麗事だけで生きていけないんだよ。商人ってのは少しでも利益を出したい生き物だ、慈善事業なら役人が勝手にやるんだな。」

「まぁ怖い。」

「買占めや不当な値上げは我々も監視しています。その為のギルド協会ですからね。」

買占めや不当な値上げで苦労しているのは消費者だけじゃない。

俺みたいな弱小転売屋もその一人だ。

もちろん、そんなことを言えば『転売ヤーが何言ってんだ!』って袋叩きにあうだろうが、元来商売とはそういう物だ。

少しでも安く仕入れて高く売る。

歴史をさかのぼれば過去にも胡椒や茶葉で同じような事が行われてきた。

需要があるのに供給されない。

結果値段が高騰する。

胡椒一粒と金貨一粒なんて普通に考えたらあり得ない話だからな。

でもそれがまかり通っていた時代もあるんだ。

元の世界ではそれが通じなくなってしまったが、ここはまだ違う。

輸送の危険、手間、保管や入手のコストを考えれば相場より高くなるのは当たり前。

それを否定されれば転売屋じゃなくても商売が出来なくなってしまう。

それこそ俺以外の商人全員に言える事だ。

「ってことだ。この街ではギルド協会が値段に関してはしっかり見てくれているから固定買取を導入することはしない。それを信じて俺もこれまで通り商売させてもらおう。」

「シロウさんならそう言ってくれると思ってましたよ。」

「でもそれじゃ困るのよ。」

俺達の意見は言った。

だが、そんな事でこの女豹が引き下がるはずがない。

ですよね~。

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