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145.転売屋は子供について考える

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「じゃあ行ってくるわね。」

「くれぐれも気を付けてな。」

「大丈夫よ、いっぱい買って帰るから楽しみにしててよね。」

まぁ、買いつけるのはお前じゃないけどな。

「では出発します!」

「いってらっしゃ~い。」

アインさんが馬車を操りダンとエリザをのせた馬車は街を出て行った。

リンカと一緒に見送りに来たわけだが、思っている以上に顔色が明るい。

もっと心配すると思ったんだがな。

「もう慣れたのか?」

「慣れるわけないよ、いつも心配で心配でマスターのご飯を二回もおかわりしちゃうんだから。」

「そりゃ安心だ。」

「けど、今回はエリザさんも一緒だし一回だけで済むかな。」

「それでも食いすぎだっての。」

「食べ盛りなの!それに・・・、ね。」

いつもの子供らしい表情から急に女っぽい顔になるリンカ。

ん?

その反応はもしかして・・・。

「出来たのか?」

「やだ!なんでわかるの!?」

「そりゃわかるだろ。めでたい事じゃないか。ダンは知ってるのか?」

「この間調べたばかりだからまだ言ってないの。来月見てもらってから、かな。」

「マスター…は知ってそうだな。」

「多分ね。お酒飲むの控えるように言われたし。」

「あの人はほんと鋭いよなぁ。」

「体重がどれだけ増えたか見ただけでわかるんだよ?だから結婚できないんだって。」

「本人の前でそれ言うなよ。」

「言わないよ。」

言えば何が起こるか想像もできない。

本人は好んで結婚しないって言っていた気もするが、良い年だし浮いた話の一つや二つあっただろう。

それを経て結婚してないって事はそういう事だ。

言わぬが花ってね。

「今度なにか持ってきてやるよ。なにがいい?」

「え~、お金?」

「却下だ。」

「ケチ!あれだけ儲けてるのにいいじゃない。」

「金は稼ぐもんだ、やるもんじゃない。」

「まぁ、そうだよね。」

「妊娠初期は無理するなよ、安定期に入るまでは大人しくしとけ。」

「シロウさんってそういうのも詳しいんだね。」

「年の功ってやつだ。」

なにいってるの!とリンカに背中を叩かれてしまった。

見た目はあんまり変わらないもんな。

二人で馬車が見えなくなるまで見送り、念の為に三日月亭まで連れていく。

案の定マスターは知っており、俺が何か言う前に無理をするなとだけ言っていた。

で、そのタイミングでかなり客が下りてきたものだから致し方なく手伝いをして、戻ったのが昼前。

案の定こちらもなかなかの混み具合だった。

「お帰りなさいませ。」

「結構な客入りだな。」

「査定待ちが三件、うち二件はシロウ様の判断が必要な物です。」

「わかったすぐに入る。」

「お次の方どうぞ。」

店内には三人の冒険者がおり、それぞれが受付待ちの状況だった。

つまり合計6件の買取をしなければならない。

とはいえ、それが俺の仕事なので文句を言うのはおかしな話だ。

番号札の若い奴から順番に査定を済ませ、何とか昼過ぎに一息つく事が出来た。

「ふぅ、ご苦労さん。」

「今日は中々に盛況でしたね。」

「聞いた話じゃ未発見地域が最後まで踏破されたそうじゃないか。そのせいだろうな。」

「残念ながらさらに奥は無かったそうです。」

「巨大な宝箱があったが中身は空っぽ、隠し部屋も確認できなかったと嘆いていたな。それでも魔物がかなり多く素材で潤った感じはある。これで少しは大人しくなるだろう。」

査定をしながら情報を仕入れるのもまた仕事だ。

月頭から始まっていた忙しさもこれで一段落といった感じだろう。

素材での稼ぎは微々たるものだが、それでも全く無いわけじゃない。

何種類かは仕込みに使えそうなやつだったので、また冬まで眠らせておこう。

「うわ、すごい量ですね。」

「そっちも落ち着いたか?」

「はい。急ぎの製薬は終わりましたので、後は材料の準備ぐらいです。」

「なら今のうちに飯にするか。」

「お疲れでしょうから今日は私が作りますね。」

少し遅い昼食を済ませ三人で香茶を楽しむ。

はぁ、美味い。

「そういえばリンカが妊娠したらしいんだが・・・。」

「「え!?」」

「まだダンには伝えていないらしい、今度医者に診てもらって確定だそうだ。」

「そうですか。」

「若いなぁ・・・。」

「本人の口から伝えると思うから口外しないように頼む。」

こういうのは自分の口で言うからこそ意味がある。

外野は大人しくしておかないとな。

「お祝いを考えなければいけませんね。」

「そうですね。産前産後に使用できるものが喜ばれるでしょう。しかし、もうお子さんが・・・。」

心無しか、いや明らかに二人のテンションが低い。

うーむ、俺はまだまだ予定していないんだが、女性はやはり敏感なようだ。

振る話題を間違えたかもしれない。

「二人も欲しいと思うのか?」

「シロウ様がおイヤでなければ産みたいと思っています。」

「私もです!でも、奴隷の身ですからご主人様のお役に立てなくなるのは困ります。」

「ちなみにエリザとこういう話は?」

「過去に何度か。エリザ様もいずれはとお考えのようです。」

「年齢的な問題もありますから、出来れば早い方がと母なら言うでしょう。」

何度かおばちゃんに孫はまだかって言われてるんだよなぁ。

大きな病気をしたこともあっていつ死ぬかわからない、そう考えてしまうんだろう。

そりゃ孫の顔は見たいよな。

だがそうすると仕事に差しさわりが出る。

先がわからない以上当分はこのままってのがなりそうだなぁ。

「気持ちは分かるが、まだ店が軌道に乗ったわけじゃない。落ち着くまでは待ってもらう事になるだろう。」

「致し方ありません。」

「私もその辺りは割り切っていますので。お薬は切らさず飲みますね。」

「仮に産むとなるとこの家じゃ手狭になる、そういった問題も出てくるな。」

「出来ればこの倍は欲しい所です。」

「畑を潰して庭に子供部屋を作るという手もありますよ。街の外に畑を移設すれば空き地になりますから。」

そうか、その手があったか。

デカい土地を貰ったんだし、そっちで栽培すれば問題ない。

そこそこ広い庭だし、倉庫との通路さえ確保すれば何とかなるか。

「子供が増えるたびにレイブさんから奴隷を勧められそうだ。」

「家事の手間を考えると、家政婦さんがいてもいいですね。」

「仕事中に、世話をしてもらえると助かります。」

「子供が成長するまでそれぞれに休んでもらうという手もあるんだが・・・。」

「奴隷は働くのが役目です。」

「そうです。働かずに子供を育てるだけとか申し訳なくて。」

二人はそういう認識なのか。

奴隷だから働くのが当たり前、そんな風に思っているんだろう。

個人的には休んでもらっても構わないんだが、二人とも替えのきかない仕事をしてくれているだけに抜けられるとなかなかしんどい。

結果、働いてもらう事になるんだろう。

いっそのこと乳母でも頼むか?

「まぁ、それも出来たらの話だ。三人同時に出来るわけでも無し、当分はこのままで行かせてもらう。」

「シロウ様が子供を望んでおられると知れてよかったです。」

「私もです、ご主人様との子供ならいつでも大歓迎ですよ。」

女は強い。

それはどの世界でも同じのようだ。

「ま、その為には稼ぐことが重要だ。何年先になるかはわからないが、食うに困らないぐらい稼げるようにならないとな。」

「はい!頑張ります!」

「お手伝いさせて頂きます。」

「リンカへの祝いは三人で考えてくれ、そういうのは苦手なんだ。」

「多少予算が掛かっても構いませんか?」

「よほどの値段じゃなければ構わないぞ。そうだな、上限は銀貨10枚って所か。」

「さすがに多すぎます。」

「銀貨3枚ぐらいで探しますね。」

そうか、多すぎるか。

扱っている金額が大きくなり過ぎて金銭感覚がおかしくなってきたようだ。

気を付けよう。


その後も夕方までそれなりの客に恵まれ、充実感のある一日になった。

「たっだいまー!」

日没後しばらくして、馬車が店の前に止まると同時にエリザの元気な声が聞こえてきた。

「おぅ、お帰り。」

「お帰りなさいませエリザ様、大丈夫でしたか?」

「うん!帰りにちょっかい掛けられたけど積み荷は無事よ。」

「やっぱりか。」

「ただ野盗だから関係ないと思うけど・・・あ、首はダンが詰め所にもっていったから後で折半しとくね。」

「首?」

「野盗とかは討伐すると報奨金が出るの。懸賞金とかかけられている場合もあるし、そうだったらそこそこ美味しいわ。」

首を持って帰ってくるのか・・・。

よかった、同乗してなくて。

「シロウ様、ご依頼の荷物お届けに参りました。」

「アインさんもご苦労だった、首尾はどうだ?」

「詳しい金額については改めて書面にてご報告させて頂きますが、予定通りの品を買い付けてあります。野盗の襲撃もありましたがエリザ様のご協力もあり無事に対処いたしました。商品の確認をお願いできますか?」

「わかった。ミラ、一緒に頼む。」

「お任せください。」

「これがお釣りね。」

エリザから売り上げと買付分のお釣りをもらう。

中身を確認すると5枚持って行った金貨が2枚に減っていた。

他にも銀貨がたくさん入っているようだ。

アインさんに連れられて馬車の裏側へと回る。

荷台に満載された木箱が中々に壮観だ。

「加工用インゴット、ならびに板金針金各種になります。素材は通常の鉄、鋼、ダマスカスを同量確保致しました。」

「念のため確認させてもらおう。エリザ、降ろしてくれ。」

「は~い。」

エリザが降ろした木箱を開封し、中身を鑑定していく。

流石に初回で嵩増ししたり偽物を掴ませたりはしないだろうが念の為だ。

特に問題なく、注文通りの品が詰め込まれていた。

「問題なさそうだな。」

「もちろんです、大切なお客様ですから精一杯頑張らせて頂きました。」

「予算よりも安く買ってもらい感謝している。」

「では受領書にサインを頂けますか?」

書類にサインをすると満足そうにうなずきアインさんは去って行った。

いい仕事にはいい報酬を。

報告書を確認してからになるが、追加の報酬を渡してもいいかもしれない。

「倉庫に運んだら飯を食いに行こう、酒を飲みながら今日の事を聞かせてくれ。」

「やった!ちゃちゃっと終わらせるね!」

流石にエリザ一人にやらせるわけにはいかないので俺も手伝ったが、一つ運ぶ間に三つ運ぶエリザにはかなわなかった。
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