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138.転売屋は賞をもらう

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出番ですよと言われてもどこに行けばいいかもわからないんだが。

そもそも特設ステージはどこにあるんだよ。

「シロウ、呼ばれてるわよ!」

「わかってる。どこでやってるんだ?」

「ご主人様、大通りの交差点です。」

「あんなところに作ったのか。」

そういえばウロウロしている時になんかでかいのがあるなと思っていたが、まさかあれがそうだったとは。

人間興味のない事には何の反応も示さないんだな。

「行かないと駄目か?」

「拡声魔法であれだけ大々的に言われてしまっては逃げるのは難しいかと。周りの方々も期待されてるようですし。」

「期待されてもなぁ。」

「私達もちゃんと近くで見てるから。あ、でもおかわり貰ってからね。」

俺だって呼ばれてなかったら食いたかったさ。

まったく、俺がこういうの嫌いなの知ってて何で呼ぶかね。

ブツブツ文句を言いながら一人大通りを戻っていくと、通りのど真ん中に高さ2m幅5m程のお立ち台がそびえていた。

「お、やっと来ましたね。待ってましたよ。」

「まったく、勘弁してくれ。」

「まぁまぁそう言わないでください。一応私は止めたんですから。」

「って事は別にいるのか?」

「えぇ、私が呼んだの。いけなかったかしら?」

お立ち台の上で俺を待っていたのは羊男とニア。

何かの仮装をしているようだが俺には全くわからなかった。

で、その奥から出てきたのがおなじみ副長の奥さんアナスタシア様。

やっぱり貴女が犯人ですか。

「こういう場合は事前にアポを取るべきでは?」

「それじゃあ面白くないじゃない。こういうのは驚かしてこそ意味があるのよ。」

「驚かされる方の身にもなってもらえると助かるのですが。」

「あら、私はされるの好きよ?」

どんな告白だよ。

大通りのど真ん中に設けられた特設ステージだけに四方八方から視線が注がれる。

サプライズなのは分かったからさっさと終わらせてくれ。

「それでは、栄えある優秀商人賞に選ばれたシロウさんにはアナスタシア様より賞状と商品が送られます。皆様盛大な拍手をお願い致します!」

羊男のアナウンスに割れんばかりの拍手が巻き起こる。

賞状はともかく商品は気になるな。

出来れば賞金が良かったんだが、残念ながら違うらしい。

「貴方はこの賞に相応しいだけの貢献をしてくれたわ。私達の大切な冒険者に収入と道具を与え、また住民に対しては薬師という安心を、ギルドからは感謝祭の肉の手配や、聖布、聖糸の提供、その他運営に関わる必要素材を暴利を貪るでもなく快く提供してくれている事への感謝の言葉が届いています。その貢献に報いるべく我々は住民と街を代表して賞状と商品を送らせてもらうんだけど・・・不服そうな顔ねぇ。」

「身に余る光栄だと思っていますよアナスタシア様。」

「個人的にも色々とお世話になったわね、あのペンダントは今でも私のお気に入りなの。」

「それは何より。では、手早く終わらせて祭りに戻りましょうか。皆さん食べたりない、飲み足りない、そんな顔をしていますから。」

「そうね。じゃあこれが賞状、それとこれが商品の目録よ。」

目録?

今くれるんじゃないのか?

ここで開けるのもあれなので有難く頂戴して、足早に舞台を降りる。

「え~、出来れば一言貰いたかったんですが恥ずかしがり屋なので逃げてしまわれたようですね。街としては繁盛して下さいと言いにくいですが、これからもどうぞよろしくお願いします。では!気を取り直して飲み比べ大会途中経過の発表です!」

後ろでは盛り上げ損ねた羊男が悪態をついていたが、問題なく進行しているようだ。

さてっと、案外早く終わったがまだ並んでいるんだろうか。

「お帰りなさいませ。」

「見てたわよ、案外普通だったわね。」

「お疲れ様です。」

イライザさんの屋台まで行くと案の定三人は通りのよく見える場所で待機していた。

というか食べてた。

「ここから見えるのか?」

「見えるわよ。」

「どんだけ目がいいんだよ。」

魔物と戦うとそうなるのか?

かなり距離があると思うんだが・・・。

「さすがのシロウもこれだけの人の前だと大人しかったわね。」

「そりゃあな、アナスタシア様に変な口をきいていると思われても困る。」

「今更だと思うけど、何もないに越したことないものね。」

「ご主人様何貰ったんですか?」

「目録、と聞こえましたが。」

「あぁ、これだ。」

三人に貰ったばかりの目録を差しだす。

どれどれ、何が書いてあるのかなっと。

「えーっと、パン一年分とお肉が6か月分、お酒が50樽分もありますよ!」

「なんだよパン一年分って。」

「あれじゃない、パン屋に行けばタダでもらえるんじゃない?」

「あぁ、そういう事。」

「毎朝食べるものですから有難いですね。お肉も同様なんでしょうか。」

「酒も肉もエリザが速攻で食っちまうからなぁ、実質三か月分って所か。」

「やった、食べ放題飲み放題!」

「俺が貰ったんだから金払えよ。」

「え~ケチ!」

横でエリザがぶーたれているが気にしない。

肉はともかく酒は消費してもらえるから助かるけどな。

「あ、まだあります。」

「お?」

てっきりそれで終わりかと思ったらまだもらえるものがあるらしい。

大盤振る舞いだな。

「え~っと、土地・・・でしょうか。」

「はぁ?」

「指定した土地を譲渡する、それしか書いてないんです。」

「いや、土地って・・・。」

この街に空き場所なんて無かったはずだ。

この店だってホルトが出て行かなかったら空かなかったんだし、いったいどこにそんな場所があるんだろうか。

っていうか説明ぐらいしてから渡せよな、こういうのは。

「あーいたいた!」

四人で首をかしげていると仮装したままのニアさんがこちらに走ってきた。

「すみません、追加で渡すものがあったの忘れてましたよ。」

「だろうな、四人で悩んでいたところだ。」

「これ、賞状入れです!」

「って違うだろ!」

おもわず素早いツッコミをしてしまった。

大事なのそこじゃないから。

もっと別の部分について説明していただけませんかね。

「え、何がですか?」

「何がですかじゃないって、肉や酒はともかく土地って何だよ土地って。」

「え!?そんなの書いてませんよ?」

「いや、書いてるし。」

「ほら、ココ見てよ。」

エリザが目録をニアに向け突き出す。

最後まで読んだところで、何故か首をかしげてしまった。

「どういう事なんだ?」

「私にはさっぱりです。恐らく夫もこの件については知らないと思います。」

「つまり、誰かが書き足したって事か?」

「多分ですけど・・・。だってこの街に空いている土地なんてないですよ。」

「だよなぁ。」

ってことは悪戯って可能性もあるのか。

むしろそうであってほしい。

土地を貰ったところで使い道は無いし、それで税金をよこせなんて言われたら溜まったもんじゃない。

それなら行商した時の税金を免除するとかそんな特典の方が有難いんだけど。

マジで誰が何のつもりでこんなことをしたんだろうか。

「とりあえずこの件は夫にも報告しますので、すみませんもう行かなきゃ。」

「ニア頑張ってね~、あと可愛いわよ。」

「ふふ、ありがとうエリザ。」

で、その恰好は何の仮装なの?

フリフリのスカートなのに上は背広みたいな感じでとってもちぐはぐだ。

まさかそれがこの街の正装とかいわないよな?

そうだとしたらダサすぎる。

「いったいどういう事なんでしょうね。」

「わからん。というか土地を貰ったところで何をどうすればいいんだ?」

「街の中ならともかく外だと魔物に襲われる可能性もあるわよ。」

「そもそも街の外には明確な土地の所有権は存在していなかったと記憶しています。もちろん私が知らないだけで、あるのかもしれませんけど。」

「街の外に出て行けって事か?」

「もしそうだったら突き返してやればいいのよ。シロウが街から居なくなったら大変な事になるんだからね。」

別に前までいなかった人間だから大丈夫だと思うが、アネットが居なくなるのは困るだろう。

今や街にはなくてはならない存在だ。

その点俺やミラはいなくても大丈夫。

エリザは半々って所だが、冒険者としての実力はかなりのものなのでギルドとしては手放したくないだろう。

もし追い出されるなら別の街で新しく商売を始めればいいだけの話だ。

隣町は絶対に嫌だけどな。

「まぁ後で何かしらの報告があるだろう。パンと肉に困らなくなっただけでもいいじゃないか。」

「毎朝パンを買いに行けるなんて、なんて贅沢なんでしょう。」

「一日経っても美味しいけど、やっぱり焼きたてのパンが一番よね。」

「私、毎日買いに行きますね!」

三人は土地のことなど忘れパンの話に夢中になってしまった。

美味しいから仕方がないよな。

菓子パンは無いがハード系のパンは結構種類がある。

この世界に来て初めてパンについていろいろと勉強した気がするなぁ。

「この肉もはさんで食べたらうまいんだろうな。」

「それ絶対に美味しいよ!」

「中に野菜を挟んでも良いと思います。」

「簡単なお昼ごはんにもなりますよね。もしかして、これでお商売できたりしませんか?」

「貰ったパンで商売か?そのためにはイライザさんから毎日肉を提供して貰う必要があるぞ。」

っていうか、まだ商売を広げるつもりなのかアネットは。

でもまぁ、することが無くなったら考えてもいいかもしれない。

問題は薄利多売であの巨額の税金が払えるかどうか・・・。

うん、どう考えても無理だろうな。

そんなことを思いながらも、三人が楽しそうに話し合っているのを眺める俺であった。
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