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134.転売屋は基本に立ち返る

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鉱石は無事に金貨1.5枚で引き取られた。

安いといえば安い。

利益はわずか銀貨30枚だが、修理代が無料になった上に職人との縁もできたので結果大きなプラスになったといってもいいだろう。

修理は進行しており、二・三日で出来上がるそうだ。

これをバカ兄貴にもっていけばそれなりの利益になるし、今回も大成功と言っていいだろう。

「何うれしそうな顔してるの?」

「そんな顔してたか?」

「してたわよ。またお金のこと考えてたんでしょ。」

「よくわかったな。」

「シロウは女の人のことになってもあんまり表情変わらないもんね。」

「そうなのか?」

「そうですね、シロウ様はそういった部分で他の男性と違います。」

エリザだけじゃなくミラまで言うんだから間違いないだろう。

確かに毎日三人と楽しませてもらっているから女に飢えているって感じではないが、好みの女性がいたらつい見てしまうし、胸元が見えそうだったらのぞき込んでしまいそうになる。

むしろ男とはそういう生き物だ。

「でもお金のことになると人が変わるわよね。」


「そんなにか?」

「うん、頭の中でものすごい考えてるのが分かる。でね、あんまり儲かりそうになかったらすぐに興味を失くすの。」

「最近の傾向ですと銀貨10枚ほどの利益では満足されませんね、せめて銀貨30枚以上儲からないと動きません。」

「そんなことないぞ。銀貨10枚も立派な利益、それを捨てることはないは・・・ずだ。」

「なによ、自分でも自信ないんじゃない。」

最近の自分を思い返してみる。

確かに儲けが少ないと感じると、別の商材を探しているなぁ。

何でもかんでも買ってたら倉庫がいっぱいになってしまうので取捨選択は重要だ。

とはいえ、あからさまに儲けのボーダーを上げてきている気がする。

これは由々しき事態だ。

さっきも言ったが銀貨10枚も立派な儲け、それを無視すればいつか同じ金額で泣くことになるだろう。

昔それで痛い目に合ったじゃないか。

若かりし頃、高い転売にばかり目がくらみ結果として大損することになった。

それで破産するとかそういう事にはならなかったが、随分と苦汁を嘗めたのは今でも覚えている。

成功は人を駄目にする。

その最たる例が今の自分だ。

「今度は考え込んでるわよ。」

「何か思う所があるのだと思います。」

「ご主人様は今のままでもいいと思うんですけど・・・。お金を稼ぐのって駄目でしょうか。」

「ダメじゃないけどシロウ的になにかあるんじゃない?」

どうにかしなければならない。

だが染みついた成功感覚をはがすのは中々に大変だ。

どうするのが一番だろうか。

うーむ。

「シロウ様、我々は別に責めているのではありません。」

「私だって高く売れるものを見つけたいって気持ちは同じだし、何も変じゃないよ?」

「慰めてくれているんだろうが、俺の中では大問題だ。ちょっと出てくる。」

「どちらに?」

「市場だ、店は任せるぞ。」

俺はレジの銀貨10枚を手に取ると店をほったらかして市場へと向かった。

今日は出店するんじゃない。

僅かな利益を捨ててきた自分を戒めるための訓練に来たのだ。

「とりあえず今日中にどれだけ増やせるかだな。」

独り言を言いながら露店をぐるりと見て回る。

銀貨10枚。

普通に考えればそれだけで10日は寝泊まりできる。

かなりの大金といっていいだろう。

その金も積もれば山となるが、捨てれば何も残らない。

金儲けをするうえで大切なのはコツコツやっていく事だ。

大きく儲けるのも悪くないが、それは博打と同じ事。

相場スキルがあるから失敗しなかっただけで、それが無かったら今頃借金を抱えて奴隷に落ちていただろう。

俺は幸運に恵まれている。

恵まれているからこそ、それを有効に利用して稼がなければならないんだ。

「おばちゃん、それ見せて。」

「これかい?」

相場スキルを発動しながら歩いていると、一度も引っかかった事のない商品を発見した。

俺の相場スキルは一度でも触れた物と同じものがあれば、それに簡単な値段が表示される。

状態に関係なく表示されるので、その辺は鑑定スキルと並行して確認していかなければならないのだが、それを逆手に取り手に取った事のない品を発見する術を発見したのだ。

俺が見つけたのは一見何の変哲もない鍋の蓋。

普通の鍋の蓋なら銅貨5枚とか表示されるが、これには何も浮かび上がっていなかった。

「さわってもいいか?」

「昔使ってた大鍋の蓋でね、少々使い込んでるけどものは悪くないと思うよ。」

そう言いながらおばちゃんから鍋の蓋を受け取ると即座にスキルが発動した。

『燃えずの蓋。これをかぶせるとどれだけ燃え盛っていた火も抑えることが出来る。ただし、抑えられるのは蓋が出来る範囲まで。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨1枚、最高値銀貨12枚、最終取引日は229日前と記録されています。」

燃えずの蓋か、面白いな。

料理をしていてもこれを使えば抑えることが出来るんだろう。

揚げ物で火が出た時に使えばいいかもしれない。

とはいえ、それだけで売れるとは思えないしなぁ。

「いくらだい?」

「銅貨70枚でどうかな。」

「ん~・・・。」

「銅貨60枚!新しい奴がちょっと高くてねぇ、頼むよお兄ちゃん。」

売りにくい上に利益も少ない。

ていうか買う人がいるんだろうかって商品だ。

買ったところで倉庫のゴミになるだろうなぁ・・・。

おばちゃんに断りを入れるべく手渡そうとしたその時。

「うわ!お前の盾焦げてるじゃねぇか。」

「そうなんだよ、フレアバードの火を防いだのはいいんだけどボロボロだぜ。」

「やっぱ安い盾じゃダメだな。」

「でもなぁ、金属製の盾って高いんだよな。」

「わかる、安いからつい木製に手を出しちゃうんだよな。」

「あーあ、焦げないやつとかないかなぁ・・・。」

後ろを歩いていた冒険者からそんな会話が聞こえてきた。

話の感じから初心者なんだろう。

まだ金もなくそんなに高い物は買えない。

だが命を守るためにはそれなりな物を買わないといけない。

その矛盾を抱えながら日々ダンジョンに潜っているんだ。

高いからいいわけじゃない。

安くてもいい品はたくさんある。

そういった品も扱わないと今後の客はとっていけないだろう。

そういう意味でも利益に囚われてはいけないんだ。

「おばちゃん、銅貨70枚で買うよ。」

「え!いいのかい?」

「かわりにさ、そこの袋もつけてよ。」

「ボロボロだよ?」

「持ち帰るだけだから。」

「じゃあこれ、お釣りね。」

銀貨を渡し、お釣りをもらう。

後はこれをいくらで売るかだが、まだ仕入れは終わりじゃない。

またフラフラと歩き、それから三軒ほど回って銀貨10枚すべて使い切った。

『眠り針。この針で刺されるとどんな生き物も眠りについてしまう。ただし、効果は短い。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨50枚、最高値銀貨2枚、最終取引日は56日前と記録されています。』

『軟化のピッケル。このピッケルで叩かれたモノは硬度が落ちる。欠けている。最近の平均取引価格は銀貨4枚、最安値銀貨2枚、最高値銀貨6枚、最終取引日は185日前と記録されています。』

『飽食の豆。一粒食べるだけで満足感を得る不思議な豆。種豆。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値銅貨52枚、最高値銀貨2枚、最終取引日は21日前と記録されています。』

それぞれ手に入れたのはこの三つだ。

軟化のピッケルが一番高かったが、応用がききそうだったので買ってみた。

飽食の豆はこのままでは食べられないので一度植えなければならないらしい。

生育方法が不明なので図書館で調べればわかるだろう。

どれも昨日までの俺なら手に取らなかったような品ばかりだ。

だが、どれも個性があり、やり方次第では儲けることが出来る。

相場スキルに振り回されて、決して損はしなかったかもしれないが、自力で儲けることを忘れてしまった。

なので今回は自分の力で何とかするべく色々と仕入れてみた。

損はしないだろう。いや、もしかしたら売れないかもしれない。

でもそれは俺の腕次第ってやつで、やる気次第で何とかなるものだ。

「とりあえず明日も同じ感じで回るとするか。」

もちろん高値で売れるとわかるものがあれば速攻買い付けるつもりだ。

だが、ぱっと見安くて利益が出ない物にも可能性は秘められている。

それを再確認するためにも一から出直すとしよう。

戻ったら『どうしたの!?』とか言われるんだろうなぁ。

俺が頑張らなくても仕込みはあるし、アネットの薬だってある。

意外にこういう掘り出し物を探すだけでも面白いかもしれないな。

「っと、最後におっちゃんとおばちゃんに挨拶しないと。」

ここ数日留守にしていたから心配しているだろう。

情報収集も立派な仕事、次の仕入れのアイデアが眠っているかもしれないしな。

ってな感じで露店の中心部へと足を向ける。

その後、店に戻った時に『どうしたの!?』といわれたのは言うまでもない。
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