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124.転売屋は物々交換をする

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「探してほしい武器がある?」

「あぁ、俺みたいなのが使っても問題ない軽い剣が欲しいんだ。できれば隕鉄以上の固さが欲しい。」

「なんでまたそんなものが?」

「この間魔物に襲われた時に仲間が怪我しちゃったのよ。フールは素早く動けたから大丈夫だったけど、魔術師の子がね。」

「俺が一番近くにいたんだ。あの時一太刀でも浴びせる事が出来れば問題なかった。」

「で、それを悔やんで武器を探してるんだって。」

なるほどなぁ。

最近は色々なパーティーに引っ張りだこらしくそれなりに実力もついてきた。

だからこそ、もっと強くなりたいんだろう。

「戦うってことは死ぬかもしれないってことだぞ?」

「仲間が死ねばどうせ俺も死ぬ、生きて帰るには仲間が無事な方が良いんだ。」

「ダンジョンで単独行動する方が危険よ。」

「お前が言うな。」

なんだかんだ言って一人でダンジョンに潜るエリザ。

もちろん実力があるからこそ出来る事だが、できればバカ兄貴のように複数人で動いてほしいと思っている。

って言っても絶対に聞かないけどな。

「武器屋に行ってもぼったくられるだけだし、その点ここならその心配はない。頼む一週間で何とか見つけてくれないか?」

「探すのは構わないが約束はできないぞ。それと、予算位言え。」

「金貨1枚までならなんとか。」

「少ないなぁ。」

「俺の全財産なんだよ。」

「まぁ知らない間柄でもない、足りない分は分割って方法もある。とりあえず探すだけ探してみるか。」

「助かる!」

パチンと両手を合わせ頭を下げるバカ兄貴。

そしてそのまま勢いよく店の外に出て行った。

何でも次のパーティーと待ち合わせをしているそうだ。

人気者は大変だねぇ。

「甘いわねぇ。」

「うるせぇ、奴隷の身内なんだ無碍にできるか。」

「まったく、あれがご主人様に物を頼む態度なんでしょうか。」

「アネット、聞いてたのか。」

「製薬が一段落したので・・・。兄が申し訳ありません。」

「別にいいさ、あいつが活躍すればうちに商品が持ち込まれる。そうすれば俺が儲かるわけだからな。」

冒険者が活躍すればするほど、珍しい品がダンジョンから持ち出されてくる。

不思議な事にダンジョンの中には常に新しい不思議な道具が現れる。

一度開けた宝箱も、気付けば蓋が閉じられ、また新しい品が入っている。

それを目当てに日々冒険者がダンジョンに潜っているというわけだ。

まるで獲物を引き寄せるエサみたいだな。

冒険者を喰ってどうするんだろうか。

「当てはあるの?」

「ない。だから地道に足で探すさ。」

「隕鉄で軽いのなんてなかなかないわよ?しかもあの予算じゃ・・・。」

「お前もそうだっただろ?借金抱えてダンジョンに潜ってたんだから。」

「それもそうね。」

隕鉄はかなり丈夫だがその点重く、エリザのような冒険者が扱う素材だ。

フールのように腕っぷしで戦わない盗人が使うには軽量化の効果が付与されていないと難しいだろう。

そういう効果がつくと必然的に高くなる。

さらに言えばなかなか市場に出回らなくなる。

極稀に鑑定すらしてない品が露店に出ていたりするので、そういう品を狙ってみるか。

それか呪われてるやつだな。

「ミラが戻ってきたら市場に行って来る。」

「私もギルドで聞いてみるわ。」

「なんだかんだ言って手伝うんだな。」

「フールがいると結構儲かるのよ。あの腕を失うのはいただけないわ。」

なんだかんだ言うけどアネットの兄貴だからって事なんだろうな。

しばらくして取引所の確認に行っていたミラが戻って来たので事情を説明して店を出た。

良い武器はなかなか見つからない。

だがそういう武器ほど、ひょんなところから出てくることもある。

今までそんな感じで仕入れてきたんだ。

刑事じゃないが転売は足で稼ぐしかないんだよ。

「いらっしゃい。」

「その短剣見せてくれ。」

「これかい?」

市場に到着してすぐに相場スキルを発動させると、過去に扱った事のある品には価格が表示される。

それを頼りに表示されていない物を見つけ、片っ端から声をかける。

ちゃんと短剣でキーワード設定できるの優秀だよなぁ。

一体どういう仕組みなんだか。

おっちゃんが手渡してくれた短剣を手に持つと、鑑定スキルが即時発動した。

『鋼の短剣。軽量化の効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値銀貨42枚、最高値銀貨61枚、最終取引日は121日前と記録されています。』

残念、効果は乗っていたが鋼の短剣だった。

だが物は悪くなさそうだ。

「何かの属性がついているらしいぞ。銀貨40枚でどうだ?」

「高いな。」

「そうか・・・。息子は良い品だっていうんだが魔物と戦わない人間には無縁の品でさ。銀貨35枚はどうだ?」

「銀貨30枚なら買うよ。」

「それじゃだめだ。」

「そうか、ありがとう。」

無理に買う必要もない。

おっちゃんに武器を返し、また別の品を探しに行く。

露店をほとんど見終わった時点で見つけた短剣は4つ、どれもそれなりの品ではあったが目的の隕鉄ではなかった。軽量化の効果もない。

まぁ1日目で見つけるほうが無理か。

「そろそろ帰るかな。」

短剣以外にいくつか目ぼしい品を仕入れる事が出来たので帰ろうとしたその時だった。

出入り口の真横に店を出していたヨボヨボの婆さんの店に、黒光りする短剣を見つけた。

小走りで駆け寄り、転寝する婆さんに声をかける。

「婆さん、それ見せてよ。」

「あぁ?」

「その横の短剣だよ。」

「これかい?ダメだよ、刃が欠けてるんだ。」

「別に構わないって。」

刃渡り25cm程。

持ち手を入れると40cm前後って所か。

フラフラの婆さんの代わりに取ってやろうかとしゃがんでみたが、特に問題なく婆さんは短剣を渡してきた。

『ダマスカス鋼の短剣。軽量化と技巧の効果が付与されている。刃が欠けている。最近の平均取引価格は銀貨82枚、最安値銀貨66枚、最高値金貨1枚と銀貨12枚。最終取引日は473日前と記録されています。』

なるほど、どおりで婆さんが簡単に持てたわけだ。

軽量化の効果のおかげで大丈夫だったんだな。

それに加えて技巧という効果がついている。

確かこれは器用さを上げるための効果だったはずだ。

まさに鍵開けをする盗賊(シーフ)にはうってつけの装備だが・・・。

欠けてるんだよなぁ。

「結構欠けてるなぁ。」

「私みたいな婆さんでも使えてよかったんだけどねぇ、落とした時に欠けちまったのさ。」

「そりゃ残念だ。」

「何か変わりの物があればいいんだけど、兄ちゃん何か持ってないかい?」

「そう言ったのは持ってないなぁ。」

「そうかい。あれば交換してもらおうかと思ったんだけどねぇ。」

やれやれと言う感じで座り込む婆さん。

まてよ、交換って言ったか?

欠けであればもしかすると直るかもしれないし、さらに言えばこれは実戦用じゃない。

あくまでも緊急時に持ち出すようだから多少かけていても使えるかもしれない。

となればだ。

「代わりのがあったら交換してくれるのか?」

「もちろんだよ。もしあったらそれと一緒に昨日漬けたピクルスもあげよう。」

漬物は要らないが短剣は欲しい。

急いで最初に見たおっちゃんの店に行くとちょうど店じまいをするところだった。

「おっちゃん!」

「お、誰かと思ったら朝に来た兄ちゃんじゃないか。」

「あの短剣まだあるか?」

「あるよ。なんだ、買ってくれるのか?」

「銀貨35枚だよな?」

そういいながら用意しておいた銀貨を手前の台に並べていく。

「確かに。でもなんで急に?」

「ちょっとな。」

「まぁいいや、これで母ちゃんに怒られなくて済んだよ。」

「そりゃよかった、じゃあな!」

短剣を受け取りその足で再び婆さんの店へと戻る。

相変らず商売するわけでもなくうとうととしていた。

「婆ちゃん、起きなよ。」

「んぁ?」

「この剣でどうだい?」

「そんな大きなの持てないよ。」

「大丈夫だって、持ってみなよ。」

婆さんの使っていた短剣よりかは短いが、刃が少し太い。

恐る恐ると言った感じで両手で受け取ったが、受け取った瞬間に目が大きく開いた。

「これは軽いねぇ。」

「だろ?」

「これならボアの肉でも簡単に切れそうだ。あー、良かった。また美味しい料理が作れるよ。」

「アレと交換でいいんだよな?」

「もちろんだよ。ついでに漬物持って行きな。」

「いや、それはいいよ。」

「いいからいいから。」

まるで実家に帰った息子のようにあれこれ一緒に渡してくる。

結局短剣の他に漬物の入った壺と、刺繍の入ったきんちゃく袋を3個渡されてしまった。

それだけ嬉しかったんだろう。

ありがとうよと何度も頭を下げる婆さんに見送られながら店へと戻った。

「あ、おかえり。」

「おかえりなさいませ。」

「なんだかいい匂いする、それは?」

「短剣を買ったら婆さんに押し付けられた。」

壺と巾着をカウンターの上に乗せる。

ミラとアネットが巾着を、エリザが壺を覗き込み中に入っていた漬物を頬張る。

「美味しい!」

「これ、すごい出来ですね。こんな素敵な細工見たことありません。」

「珍しい縫い方です。あれ、これって・・・。」

ミラが何かを思い出したかのように店の奥へと消えて行った。

その間にもパクパクとエリザが漬物を食べている。

「食い過ぎだ。」

「えー、ケチ!」

「俺にも食わせろ。」

そんなに美味しいんだろうか。

一切れ摘まんで取り出すと、大根の漬物のようなやつだった。

口に頬張ると適度な塩加減にポリポリとした歯ごたえが何とも言えない。

こりゃ癖になる。

「美味いな。」

「でしょ!どこに売ってたの?」

「市場の東出口すぐの露店だ。ヨボヨボの婆さんが一人でやってたぞ。」

「ちょっと行って来る!」

財布を手に慌てた様子でエリザが店を出て行った。

確かに美味いがそんな慌てる程か?

とか言いながら俺も手がなかなか止まらない。

うーむ。

美味い。

しばらくすると古ぼけた本を持ってミラが戻って来た。

なにやらミラも興奮した目をしている。

「どうしたんだ?」

「もしかしてと思って調べてみたのですが、かなり珍しい刺繍細工のようです。伝承者が亡くなってしまったので復元不可能と言われているのに・・・。もしかすると被服ギルドが泣いて喜ぶ品かもしれません。」

「なんだって?」

「何処におられたんですか?必要であれば被服ギルドに紹介したほうがいいと思います。もし本当にこの技術ならかなりの報奨金が期待できます。」

「それよりも品を買うのはどうでしょう。珍しいのであれば高く売れるんじゃ・・・。」

その通りだ。

技術の伝承も大事だがそれよりも商売の方が大事だ。

まさかあのヨボヨボの婆さんがそんな金づるだったなんて。

「今すぐ店を閉めて露店に行くぞ。」

「「はい!」」

財布にお金を追加して急いで露店へと向かう。

待ってろ婆さん、今全部買い占めてやるからな!
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