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115.転売屋は客と交渉する

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「俺の顔に何かついているか?」

「いや、何でもない失礼した。どれも魔道具のようだな。」

「あぁ、俺が作ったやつなんだが事情があって手放すことになった。多少安くても構わない、即金で買い取ってほしい。」

「それは構わないが・・・。」

盗品である可能性は否定できない。

自分の物と言いながら盗んできた物だってのは十分にある。

だがそれを証明する事が出来ない以上、この人の物として買い取るべきだろう。

どれ、改めて確認するか。

順番に魔道具に触れていく。

『火の魔道具。火起こしや小型のコンロとして使用できる。最近の平均取引価格は銀貨25枚、最安値が銀貨14枚、最高値銀貨33枚、最終取引日は31日前と記録されています。』

『水の魔道具。水中の毒素などを分解ろ過して飲み水に変える事が出来る。最近の平均取引価銀貨56枚、最安値銀貨43枚、最高値銀貨71枚、最終取引日は45日前と記録されています。』

『土の魔道具。地面に突き刺すと小さな穴を開ける事が出来る。最近の平均取引価銀貨39枚、最安値銀貨27枚、最高値銀貨48枚、最終取引日は78日前と記録されています。』

風の魔道具はないらしい。

火と水は結構使えそうな感じだが、土の魔道具は何に使うんだろうか。

穴を開けるってことは罠か何かか?

その為にわざわざこいつを使うと考えると・・・。

ぶっちゃけ微妙じゃね?

「各属性の魔道具が各三つずつ。属性の魔石は風以外ないのか?」

「それがすべてだ。」

「そうか、あればすぐ使えて便利だったんだがな。」

「通常の魔石でも代用できるぞ。」

「だが出力が違うだろ。」

「そうだな。」

「まぁその辺は自分で仕入れればいいか。」

「それで、いくらになる。」

ざっと計算して金貨2枚。

となると半値の金貨1枚が相場なんだが・・・。

「あんた魔道具技師か?」

「だったら何だ。」

「修理してもらいたい魔道具があるんだ。買取価格は全部で金貨1枚と銀貨10枚だが、直してくれるなら銀貨50枚まで増やそう。即金が必要なんだろ?悪くない取引だと思うんだが、どうだ?」

「うーむ・・・銀貨80枚はどうだ?」

「銀貨70枚だ、そこまでなら出そう。」

「まずはモノを見てからでも構わないか?」

「そうだな、ちょっと待っててくれ。」

直せないじゃ話にならない。

一度裏に戻ると、ミラが壊れた魔道具を持ってこちらに向かって来るところだった。

話を聞いていて取りに行ってくれたんだろう。

さすがだ。

「助かった。」

「直ると良いですね。」

「そうだな。」

魔道具を受け取り再び店に戻る。

そのまま男に手渡すとくるくると回転させながら見分をはじめた。

話しかけるのもあれなのでそのまま待つ。

「恐らく回線の故障だろう。魔力を伝える線が切れているんだ。」

「なるほど。で、直るのか?」

「この線のどこかが切れてしまっているんだ、だから同じものを取り寄せて交換してやれば動くだろうさ。」

「持ってないのか。」

「済まないが魔動線の在庫はない。街に戻ればあるんだが・・・。」

「そこに戻るための路銀がないんだろ?」

「その通りだ。途中で盗賊に襲われてな命からがらこの街に駆け込んだんだが、金を途中で落としてしまったんだ。残っていたのはこの魔道具だけ、命があっただけでも良しと思うしかない。」

なるほどな、突然入って来て何事かと思ったがそう言う事情だったのか。

とはいえそれで買取価格を上げる気はさらさらない。

金貨1.7枚も出してしまったらほとんど儲けが無くなってしまう。

修理代と思えばいいのだがそれはそれ、これはこれだ。

「直る保証は?」

「他に故障個所がない、交換して直らないのなら隣町の私の店まで押しかけて来てくれて構わない、無料で修理させてもらうよ。」

「ふむ、今はそれを信じるほかないか。」

「その魔道具もそれなりの品だ、ドルグ作と言えば買い手はすぐつくはずだ。」

自信たっぷりの言い方、職人気質な性格、何より真剣な目。

盗品なら途中で視線をそらしそうなものだが、この人はそれをしなかった。

「わかった、さっきの値段で買い取ろう。」

「かたじけない。」

「魔動線だったか、代用品とかはあるのか?」

「元はミスリルゴーレムの素材を加工しているから、直接引っこ抜いて来てつなぐ方法もある。魔封テープでしっかりと接合すれば魔力漏れもないはずだ。」

「魔封テープねぇ、色々あるんだな。」

「作業はそんなに複雑じゃない、頑張ってくれ。」

「そうさせてもらうよ。これが代金だ。」

「確かに。もし魔道具が必要なら隣町の工房に来てくれよな。」

最後の最後にやっと笑顔になり男は店を出て行った。

「帰られましたか。」

「あぁ、どうにか直りそうだが道具が必要だ。ミスリルゴーレムって珍しいのか?」

「申し訳ありません、そこまでは・・・。」

「エリザが戻ってきたら聞くか。買い取った魔道具は倉庫に入れておいてくれ、欲しい物があったら使っても構わないぞ。」

「主に冒険用の魔道具のようですから大丈夫だと思います。あら・・・?」

大丈夫ですと言いながら魔道具を触ったミラの手が止まった。

鑑定スキルが発動したんだろう。

あれはたしか土の魔道具か?

「どうした?」

「いえ、この魔道具は初めて見たなと。」

「なんでも穴を開ける事が出来るそうだが、何に使うんだ?」

「これで土を耕せないかと思ったんです。」

「おぉ、なるほど。」

「試していませんから何とも言えませんが、普通の魔石を使えば出力が下がるのでちょうどいい塩梅にほぐれるかも知れません。」

それは面白い考えだ。

さすがミラ、発想が素晴らしい。

頭の固い俺とはやはり違うな。

「早速耕してみるか?」

「使うのはお芋が終わってからでもいいと思います。」

「特に植えたいものもないし、それもそうだな。」

どうしても試してみたくなったら街の外に行けばいい。

あそこなら何も気にすることなく穴を開けまくれるだろう。

もちろん魔物が出ないように近くでしかやらないけどな。


それからちょくちょく客が来たので魔道具を試すことはできなかったが、充実した一日になった。

例のオーブが来てから店頭でも物が売れるようになったのはありがたい。

買取が別に来てもミラに任せれば問題ないしな。

さらに属性付きの魔石も買い取れたので一緒に販売できるようになったのも大きい。

ミラが言うように冒険者向けの魔道具のようなので今度ギルドに話を持って行ってみよう。

「たっだいまー。」

「おかえり、今日は遅かったな。」

「まぁね、少し深い所まで潜ってたから。」

「依頼か?」

「そんな所。あー疲れた。」

「エリザ様食事の前にお風呂に入られてはどうですか?」

「あ、やっぱり匂う?」

クンクンと自分の体を嗅いでいるエリザ。

残念だが自分の体臭というのは自分では気づかない物なんだ。

因みに汗臭くはないが返り血がついているので、ミラはそれが気になったんだろう。

「飯作っててやるから行ってこい。」

「今日はシロウの当番なんだね。」

「不服か?」

「そんなはずないわよ!いってくる!」

せかされた子供のように全速力で階段を駆け上がるエリザ。

騒がしいったらありゃしない。

「そうだ、いくつか素材を持ち帰ってるんだけど使えそうやつ勝手に見といてー。」

上がったと思ったらまたすぐに降りて来て置きっぱなしのカバンを指さす。

「全部いいんだな?」

「うん、依頼品はもう持っていったから大丈夫。」

「そちらは私がしましょう、シロウ様は食事をお願いします。」

「任せた。」

今日はパスタだ。

ソースはもう出来上がっているので後は麺をゆでるだけ。

エリザは長湯しない派なのでさっさと降りて来るだろう。

潜った後ってことは結構食べるはずだ。

二人前、いや三人前で足りるか?

足りなきゃ肉でも食わせればいいか。

大鍋に水を入れ沸騰させる。

そこに塩を入れてさらに温度を上げ、麺を入れてしばし待つ。

この世界には何分っていうパッケージはないので、時々すくっては固さを確認しなければならない。

今日はこんなもんで・・・いい感じのアルデンテだ。

「ふぅ、さっぱりした。」

「あいかわらず早いな。」

「だって暑いんだもん。あー、風の魔道具が欲しいよぉ。」

「残念だがまだ故障中だ。」

「ブーブー、早く直してよ。」

「一応見てもらったんだがな、線が切れているんだとさ。」

「それをつなげばいいんじゃないの?」

「魔動線とかいう奴がいるらしい。ミスリルゴーレムから採れるそうなんだが・・・。」

「え、それあるよ?」

なに?

気配を感じて後ろを振り返るとミラがこれですと言う感じでキラキラ光る何かを持っていた。

グラスファイバーがあんな感じだった気がする。

随分と細いなぁ。

「恐らくこれだと思われます。」

「貸してくれ。」

『ミスリルゴーレムの配線。ゴーレムは体内の核からこの配線を通じて各所に魔力を送っている。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値が銀貨3枚、最高値が銀貨8枚、最終取引日は4日前と記録されています。』

「確かなようだな。」

「えへへ、すごいでしょー。偉い?偉い?」

「でかした。だがこれだけじゃダメなんだ、魔封テープがないと修理できない。」

「それでしたらエルロースが持っていると思います。確か魔術道具を作るのに使うはずですから。」

「案外なんとかなるもんなんだなぁ。」

「私すぐ行って来る!」

「せめて飯食ってから、いやズボンぐらいはいて行け。」

「あ、えへへ・・・。」

まったく、良い女が下着とシャツ一枚で出て行くなっての。

恥ずかしそうに席に座りパスタを頬張り始めるエリザ。

「私も脱いだ方がよろしいですか?」

「いや、そのままでいてくれ、頼む。」

「わかりました。」

そしてミラも変な所で張り合わないでくれ。

上は普通でも下は下着とか、俺を興奮させてどうするつもりなんだろうか。

何はともあれ足りない物ばかりだと思っていたが気付けば全て揃ってしまった。

後はくっつける事が出来れば修理は完了だ。

これで寝苦しい日々ともおさらば出来ると最高なんだがなぁ・・・。
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