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112.転売屋はべた褒めされる

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あの夜の出来事はミラには聞こえていなかったらしい。

結構まともな声で会話していたはずなんだが、それもあのバカ神の遣いの力なんだろうか。

何はともあれアネットは元気になり、俺は絞られた。

下品だがそれこそもう出ないぐらいにだ。

翌朝何があったのかという顔でミラに見られ、アネットは何も言わずつやつやの顔で食事をモリモリ食べていた。

その後再び上に戻り蒸留水を作りながらバリバリと残りの製薬をこなしていたようだ。

その後無事に冷感パットは完成し、販売の運びとなる。

「すっごいの、どこ行っても皆あれを付けてるのよ。」

「そりゃあな、これだけ暑ければ使いたくもなるだろ。」

「でも結構な値段するのよ?それをみんなだなんて・・・。」

「それはあれだ、再利用できるからだ。」

てっきり一回だけと思いきや、魔力を使って冷やすので魔力が戻る限りもしくは素材が消耗しない限り使用できるらしい。

俺の中では使い捨てするものだったので、翌日以降も使えるのは驚きだった。

だがこっちの世界ではそれが当たり前らしい。

だからあの値段でもみんな買うんだな、納得だ。

「普通ならすぐに使えなくなるのに、アネットのやつは長持ちするから不思議よね。」

「腕がいいんだろ。そこが素人との違いだな。」

「そうよね、じゃないとみんな買わないわよね。」

「あまりにも長持ちするものだから色んな方面から引く手数多らしい。一万個じゃ足らないぐらいだ。」

「じゃあまた作る?」

「いや、様子を見る。あまりにもばらまき過ぎると飽きるからな。夏はまだ長いし、次のタイミングで売り出しても問題ないだろう。」

「そこで値上げするのね。」

「あれだけ長持ちするとわかったんだ、それでも買うさ。」

素人の作ったやつが銅貨5枚、熟練者で銅貨10枚程で取引されている。

そんな中アネットの作ったやつは銅貨20枚でも飛ぶように売れた。

理由は二つ。

一つ目は薬師が作ったので効果がしっかりしており、安心だという事。

二つ目は効果が他の物よりも三倍以上長いという事だ。

銅貨5枚で買えるやつよりも三倍長持ちするという事は、実質三枚分の価値がある。

プラス薬師の効果で銅貨5枚。

それじゃあ安いので次回以降は銅貨25枚で販売するつもりだ。

供給し続けないのも価格を維持する為。

それと、他の薬を作るためだ。

いつまでも蒸留水ばかり作っているわけにもいかないからな。

他にも個人的な依頼とか緊急性の高い物がちょくちょく入ってきているから、そっちにも時間を割かないといけない。

それに、次回は8人じゃなくて倍の16人で作業を行うつもりだ。

これだけで納期が15日から一気に五日前後へと短縮できる。

それでいて支払う金額は同じなんだからやらない理由は無いよな。

その為にも素材を準備する必要がある。

継続販売しないのはその為の時間だと思ってくれてもいい。

商売はただ売ればいいってもんじゃない、タイミングを見計らってガッツリ稼ぐ、やっぱりこれだろう。

需要と供給が安定してしまうと値段が落ち着いてしまうからな、多少波があってくれた方が俺みたいな元転売屋には合うんだよ。

「まぁ私達の分があるならそれでいいわ、もうあれ無しでは寝れないのよね。」

「それはわかるな、寝苦しい夜もあれのおかげでスッキリだ。まぁ若干だるくなるのは仕方ないだろう。」

「シロウは魔力ないもんね。」

「そもそも魔力ってのがわからないんだがな。『気』とか何かなのか?」

「うーん、それを言われると説明しづらいなぁ。」

これだから脳筋は。

俺の質問にキョロキョロと天井を見上げるエリザ。

その様子を見ていたミラが珍しく横で笑っている。

「あー、笑ったぁ!」

「申し訳ありませんエリザ様、ついその反応が可愛らしくで。」

「可愛いが似合うのはミラの方だよ。私なんてほら、筋肉凄いし。」

「そうでもありませんよ。エリザ様にも可愛らしい所はたくさんあります。」

「え!どこどこ!」

「そうですねぇ・・・。」

顎に手を当て少し考えるミラ。

いや、考えないといけないのは無いのと同じじゃないだろうか。

「まずは仕草、それに反応でしょうか。時々少女のような可愛らしい発想をされますし、甘いものが好きなところも可愛らしいですよね。」

「うぅ、いきなりそんなにだされると恥ずかしいな。」

「自分で聞いておいて何を言うか、甘んじて受け入れろ。」

「わかってるんだけどさぁ。」

「その点私はこの性格ですから、可愛らしいとはほど遠いかと。」

いやいや何を言っているのかな。

ミラに可愛らしい所が無い?

そんなバカな話があるか。

ふぅとため息をつくミラを見て俺とエリザは顔を見合わせた。

「ミラって時々おかしなこと言うわよね。」

「そうでしょうか。」

「ミラが可愛く無かったらシロウが可愛いって事になっちゃうわ。」

「いやいやどういう理屈だよ。」

「それぐらいあり得ないって話よ。」

「例え方が悪すぎるだろ。」

まぁ言いたいことはわかるけどさぁ。

「参考までにどういう所でしょうか。」

「例えば考え事をしている横顔とか、好きなものを食べた後の顔とか、買取が成功して裏でこっそりガッツポーズしているとことか。」

「なに、そんなことしてるのか。」

「え、シロウ知らないの?すっごい可愛いんだから。」

「そんなに見られると恥ずかしいのですが・・・。」

「他にもいっぱいあるけど、言う?」

「これぐらいでどうかご勘弁下さい。」

早くもミラがギブアップ宣言だ。

エリザは結構人を見る目があるよな。

バカ兄貴の時も良い所悪い所をしっかりアドバイスしたおかげで成功しているわけだし。

そういう部分はさすがだと思う。

そうか、ガッツポーズしてるのか。ちょっと見てみたいな。

「アネットは何もかもが可愛いわよね。」

「それはわかります。」

「あの顔で微笑むのは反則よ。女の私でもクラクラ来ちゃう。」

「獣人だからというのもあるかもしれませんが整った顔立ちをされてますね。」

「凛とすました仕事の時はカッコいいし、遊ぶ時はとことん楽しんでるし。あー、私もあんな風になりたかったなぁ。」

女は女で望む事があるようだ。

男の俺にはわからない部分だな。

「まぁ、そんな三人にも共通することがあるぞ。」

「え、そんなのあるの?」

「俺に抱かれてる時は三人ともいい顔してる。」

「シロウ最低。」

「そういうのはちょっと違うのではないでしょうか。」

「えぇ、今の流れだったらアリじゃないのか?」

「お酒の席ならともかくこんなお昼からなんて・・・。」

急にセクハラされたみたいな顔をするんだが、どこで何を間違えた?

だって本当に幸せそうないい顔するんだぞ。

俺にしか見せない最高の顔だ、何も間違ったことは言ってないと思うんだが。

「うるさい脳筋、昼間っから酒飲んで襲ってきたのはどこの誰だ。」

「そ、それはそれよ!」

「ミラも仕事終わりの夕刻、誰もいない事を良い事にくっついて来たよな?」

「そ、それはシロウ様との関係を再確認したくて。」

「アネットは・・・。昼間は無いが朝方が多いんだよな、まぁいいんだけど。」

「夜型だもんねぇアネットは。」

そろそろ外が明るくなってきた頃にベッドへやって来てモゾモゾし始めるんだから困ったものだ。

ってかなんだよ、なんだかんだ言ってそういう話題に乗ってくるじゃないか。

「あ、あのぉ・・・。」

と、申し訳ないような声に全員で後ろを見ると壁から真っ赤な顔を出したアネットがこちらを覗き込んでいた。

「仕事は終わったのか?」

「は、はい。お陰様で急ぎの分は終わりました。納品に行こうと思いましたらお話が聞こえて来まして・・・。」

「あー、どこから聞いてた?」

「皆さんのどこが可愛いかという部分から。」

結構前だな!

ってことは自分の話になった時も恥ずかしさで一人悶えていたのか。

そういう所だぞ、アネット。

「アネットは可愛いわよね。」

「えぇ可愛いです。」

「そんな!エリザ様もミラ様も私以上に可愛いです!」

「つまり三人とも可愛いという事だ、それでいいじゃないか。」

なんだか話がめんどくさくなってきたのでさっさと打ち切る方向に動こうとした。

しかし、世の中そうは上手くいかないようだ。

「シロウ様も可愛いですよ。」

突然ミラが理解できない発言をする。

「あ、わかる!」

「わかります!」

それに同調するエリザとアネット。

こいつらは一体何を言っているんだ?

俺が可愛い?

40過ぎ(見た目は20)のオッサン捕まえて何を言い出すんだ?

「シロウ様は良い買取をした時ものすごい嬉しそうな顔しますね。」

「そうそう、高値で売れた時もよね。お客さんが見えなくなってから子供みたいにニコって。」

「お食事がおいしかった時もそうです。特にお魚の日は食べる前から嬉しそうに笑われます。」

「お、おぉ・・・。」

「仕事中のキリっとした顔もいいけど、その辺がやっぱり子供っぽくて。」

「流石エリザ様。ですが私は仕事が忙しくて若干疲れた時に見せる顔が好きです。」

「ミラ様深いなぁ・・・。私はまだそこまでご一緒してませんけど、心配して下から覗き込んでくる顔が好きです。」

止めてくれ。

本人を前にしてそういう会話は止めてくれ。

背中がかゆくてたまらない。

「そ、それじゃあ俺は依頼主に薬を届けてくる。」

「ダメよ、この後ニアが来るんだから。」

「そうです。買い溜めておいたウォータースライムの核を売りつける絶好の機会ですから頑張ってください。」

「ではお薬は私が持っていきますね。でも、約束の時間までもう少しありますので・・・。」

あるからなんだよ。

ニヤニヤと笑う女達。

追い詰められる俺。

「それじゃあシロウの好きなところ告白ターイム!」

「たくさんありすぎて長くなりそうですので香茶を準備しましょう。」

「あ、ミラ様私もやります!」

「ではお茶菓子の準備をお願いしますね、頂き物のお菓子をそろそろ食べてしまわないといけません。」

「わかりました。」

それはもう楽しそうに裏へと消えていくミラとアネット。

普段は見えないはずのアネットの尻尾が左右に揺れているのが見えた気がする。

よっぽどのことが無いと見せないって言ってなかったっけ。

銀狐ってことはイヌ科だもんな。

尻尾ぐらい振るか。

「って事だから時間いっぱい付き合ってね。」

「俺が悪かった、勘弁してくれ。」

「だ~め。」

可愛らしく言ってもダメだぞこの脳筋!

いや、そういう部分も可愛いんだけどさぁ。

結局ニアが来るまで延々とべた褒めタイムは続けられ、あろうことかニアまで参戦する運びとなるのだった。

まぁ後半は羊男との惚気だったけども。

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