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109.転売屋は冷感商品を販売する
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毎日氷が届くようになり住環境は大きく改善した。
特に眠りの質はかなり良くなったと言えるだろう。
あの蒸し暑かった部屋が、ひんやりとした冷気に包まれている。
まぁ夜中には全部とけてしまうから途中から蒸し暑くなるけど、それでも無いよりかは全然マシだ。
後はサーキュレーター的な何かがあれば助かるんだが・・・。
「ミラ、魔道具はどこに行ったら手に入るんだ?」
「二つ隣の街に取り扱っているお店があったと記憶しています。」
「やっぱりそこまで行かないと駄目か。」
「便利な道具ですが高価ですし、そこまで必要な物とは思いません。」
「氷のおかげで幾分かマシになったからな。」
ミラの足元にはこの前から金タライが置かれている。
そしてそこには氷が浮かんでいた。
霜焼けにならないのだろうか。
日中に半分使用し、残りを冷蔵用の魔道具・・・まぁ冷蔵庫的な奴に入れておけば夜までもつ。
冷蔵庫、湯沸かし器があるんだから扇風機があってもいいんじゃないだろうか。
いらない?
俺は欲しいんだけどなぁ。
「ちなみにいくらぐらいするんだ?」
「小型の物でも金貨1枚はすると思います。」
「そりゃ高すぎだ。」
「風を起こすだけでその金額です、それなら風魔法を使う方が安上がりですよ。」
「一晩風を起こすだけで人を雇うとか、どんな金持ちだよ。」
「貴族の中には専属の魔術師を雇用しているところもあるそうです。」
その為だけに魔術師を雇うのか。
俺には絶対に無理だな。
「俺には縁がない事が良く分かった。当分はこのままで行こう。」
「後二カ月の辛抱です。9月になれば涼しくなるでしょう。」
「長いよなぁ。」
元の世界の倍夏が続く。
もう少し涼しければ我慢できるが、まだまだ涼しくなりそうもない。
扇風機が無いのならせめて冷感パット的なものが欲しいよな。
冷え〇た的な冷たく感じる何かがあるだけでも違うんだが・・・。
「ご主人様、頼まれていた薬が出来上がりました。」
「お、早かったな。」
「素材が早く集まりましたので。」
ミラと話していると上からアネットが下りてきた。
手には頼んでおいた薬が握られている。
「後は秋までに量産できれば完璧だ、引き続き片手間でいいから続けてくれ。」
「わかりました。素材が集まり次第作製し続けます。」
よしよし、これで秋の花粉には対処できそうだな。
春にあれだけ患者が出たんだ、秋にも同じぐらいの患者が出てもおかしくない。
他に薬師が居ない以上アネットが独占することになる。
春ほど難しい素材も無いので、ぼろ儲けできるだろう。
笑いが止まりませんなぁ。
って。
「何つけているんだ?」
アネットのおでこに茶色い何かが貼り付いている。
まるで俺の求めていた冷たく感じるあれのような見た目だが・・・。
「熱を逃がす張り薬をちょっと。」
「つけると冷たく感じるやつか?」
「これは感じるのではなく実際に冷たくしますよ。」
マジか!
俺の求めていた物がまさか目の前にあるなんて、信じられない。
「それはすごいな、是非一枚、いや三枚ぐらいくれ。」
「それは構いませんがあまり貼りすぎるのはお勧めしません。」
「何故だ?」
「体内の微弱な魔力を吸収して、それを冷気に変換しているんです。あまり貼りすぎると魔力不足で全身がだるくなってしまいます。」
「そ、それは中々危ないな。」
「魔術師でしたら大丈夫だと思いますが、ご主人様は難しいですね。」
「むぅ、涼しくなれると思ったんだが・・・。仕方ない。」
仕方ないが、これは使えるんじゃないか?
「これはありふれた物なのか?」
「そうですね、素材さえあれば比較的簡単に作れます。後は蒸留水を用意するのが面倒なぐらいでしょうか。」
「何を使うんだ?」
「アイスタートルの甲羅を粉末にして蒸留水に溶き、ゼラチンで固めるだけです。不純物が多いと効果が上手く出ないので、貼り付ける紙も出来れば上質なものがいいでしょう。」
「アイスタートルの甲羅か。」
「それでしたら倉庫にいくつか在庫がありますが、量は心もとないですね。」
横で話を聞いていたミラがすかさず在庫数を報告してくれる。
短時間で俺の欲しい答えを出してくれるんだからすごいよなぁ。
とりあえず、量産は出来ないと。
あれだな、俺が使うなら効果が出ない方がいいんだろうな。
「とりあえず店の在庫を使って全員分作ってくれるか?俺とエリザは普通の紙を使ってくれ。」
「ミラ様はある程度魔力をお持ちでしたね。」
「何に使うわけでもありませんが。」
「いいじゃないか、無いよりも。」
「そうですね、おかげで涼しくなれそうです。」
魔力の無い俺とエリザは品質を落とし、魔力のあるミラとアネットは上質な奴を使う。
どちらにしろ涼しくなれるのであれば問題ない。
「で、俺はいつものようにギルドへ行ってくる。」
「取引所にも依頼を出しますか?」
「いや、まずはギルドだ。量が少なければ考えよう。」
「畏まりました。」
「戻るまでにどのぐらいの需要があるか過去の履歴を探っておいてくれ。」
外に出るのは億劫だが、これも涼しくなるためだ。
時には耐えることも必要だな。
ギルドで話を聞くと、アイスタートルの甲羅は比較的簡単に集められるそうだ。
だが一般人でも加工が出来るためこの時期は需要が多く、買い取り金額は高めに設定されているらしい。
幸い固定買取の対象では無いようだが、これで利益を出すのは正直難しいかもしれない。
後はミラに頼んだ需要次第って所だろう。
良い感じの利益が出るかもと期待したが、まぁそうなるよな。
素人が作るよりも薬師が作った方が効果は強いのでそっちで売る手もあるが・・・。
これといったネタがない現状を考えれば儲かるのであればそれでいいかもしれない。
「また必要になったら連絡する。」
「薬師様の貼り薬は効果が高いですからね、ギルドでも買取してますので是非。」
「ちなみにいくらだ?」
「一枚銅貨15枚です。」
「安いな。」
「元が元ですから。でも他が銅貨5枚で売られている事を考えるとものすごく高いんですよ。」
確かに高い。
イメージとしては一枚1500円もする。
どこの金持ちが使うんだよってレベルだが、それで丸一日涼しいのであれば決して無駄ではないのかもしれない。
ギルドでの買い取り価格がそれならば、自分で販売するともう少し高いかもしれないな。
ニアにお礼を言って店に戻ると取引履歴をひっくり返していたミラと目が合った。
「どうだ?」
「ものすごい高値というわけではありませんね、一枚銅貨20枚、高くて25枚でした。この暑さから需要は望めますので決して損は出ないと思います。そちらはいかがでしたか?」
「需要が多いからまとまった数を手配するのは難しそうだ。だが、一個でそれなりの数を作れるからそんなに数は必要ないかもしれない。」
「アネットさんによると甲羅一つで100枚作れるそうです。素人でも粉末に出来るそうなので我々が空き時間に砕けば数を作れそうですね。」
「甲羅一つで銀貨20枚。買い取り価格が銀貨5枚だから一個で銀貨15枚の利益か。100個買い取ってやっとって感じだな。」
「シロウ様が稼ぎ過ぎなのです。一般的に考えて短期間でそれだけ儲けることが出来れば十分かと思われます。」
確かにそうだ。
甲羅を100個買い取ったとして利益が金貨15枚。
一泊銀貨1枚の三日月亭に1500日泊まれることになる。
素人でも作れる難易度でそれだけ儲ければ上々だろう。
「アネットは?」
「シロウ様が大量に作ることを想定して蒸留水の生成に入られました。私は急ぎ貼り付ける用の台紙を手配しに行くつもりです、店番をお願い出来ますでしょうか。」
「アテがあるのか?」
「母の知り合いが製紙問屋でして、お願いすればそれなりに安く仕入れることが出来ると思います。」
「そうか、紙代も必要だな。」
蒸留水もタダではない。
ゼラチンの原料になるスライムトローチはかなりの量があるので問題ないが、それも原価に乗せることを考えると利益はどんどんと減ってくる。
うーむ、買取を下げられれば利益も増えるが・・・。
ここはあれだな、イライザさんの力を借りるか。
「外は暑いぞ、日傘を忘れるなよ。」
「行って参ります。」
ドア横に立てかけてあった日傘を持ち、ミラが店を出ていく。
上からはアネットがどたばたと走り回る音がする。
そんじゃま、俺も何か案を考えるとしますか。
ペンと紙を取り出して原価を計算し、幾つかの案を考えてそこから生まれる利益をはじき出す。
食事券、買い取りアップクーポン、抱き合わせ。
八月って何かイベントあったっけな。
そんなことを考えているとあっという間に時間が過ぎ、夕日が店に差し込んできた。
「ただいま戻りました。」
「おつかれさん、どうだった?」
「台紙の手配は出来ました。古い紙ですが物は悪くありませんし甲羅100個分で金貨2枚で譲ってくれるそうです。」
「いい感じだな。これで一つ当りの原価が銅貨7枚だ。20枚で売れれば銅貨13枚の儲けになる。」
「一万枚分ですから凡そ金貨13枚ですね。」
「悪くない儲けだな。」
「はい、中々の収入かと。」
八月の終わりまでこれといった仕込みは無かったので良い感じの収入と言えるだろう。
「問題はそれだけの数を俺達で作れるかだな。」
「アネットさんによると台紙と蒸留水があれば私達でも同等の効果を得られるそうですから、皆で分担すればそんなに時間はかからないと思われます。」
「砕き、混ぜ、塗り、乾かす。四人で分担して一分で一枚作るとして半日働いても14日、いや15日はかかる。流石にこれにつきっきりってわけにもいかないから倍かかるとして工期は30日。こう考えると微妙な感じだな。」
「別に我々が動く必要はありません。銀貨1枚で人を雇い、15日で終わらせれば費用は銀貨60枚。十分採算が取れます。」
「結局金貨10枚ぐらいの利益で収まるんだろうな。」
「それでいいじゃありませんか。何もせず金貨10枚儲かるんですから。」
確かにそうだな。
自分たちでやればめんどくさいが、人を雇えば苦労はない。
加えて雇用を作ったと喜ばれるだろう。
簡単な仕事なら孤児院のガキ共にやらせてみてもいい。
彼らの働き口が出来ればモニカも喜ぶはずだ。
なるほどな、金を稼ぐのは決して自分の為だけというわけじゃないのか。
冒険者も儲かる。
住民も儲かる。
何より俺が儲かる。
使用者はこの暑さをしのぐことが出来快適さを得る。
誰も損をしないわけだな。
「そうだな。じゃあやるか。」
「はい、頑張りましょう。」
「ほんじゃま、とりあえずアネットの様子を見てくる。さっきの感じだとまた休まず動いてそうだからな。」
「その間に夕食の準備をしておきましょう。そろそろエリザ様も戻って・・・。」
「たっだいまー!」
ほら、早速帰ってきた。
丁度いい、台紙をしまう為に倉庫を整理してもらうとしよう。
「お帰り、手空いてるよな?飯の前にもうひと頑張りだ。」
「え~!!」
エリザの悲鳴が夕空に響く。
ぶーたれるエリザを宥めながら閉店の札をドアにかけた。
明日から忙しくなるぞ。
さぁ金儲けだ。
特に眠りの質はかなり良くなったと言えるだろう。
あの蒸し暑かった部屋が、ひんやりとした冷気に包まれている。
まぁ夜中には全部とけてしまうから途中から蒸し暑くなるけど、それでも無いよりかは全然マシだ。
後はサーキュレーター的な何かがあれば助かるんだが・・・。
「ミラ、魔道具はどこに行ったら手に入るんだ?」
「二つ隣の街に取り扱っているお店があったと記憶しています。」
「やっぱりそこまで行かないと駄目か。」
「便利な道具ですが高価ですし、そこまで必要な物とは思いません。」
「氷のおかげで幾分かマシになったからな。」
ミラの足元にはこの前から金タライが置かれている。
そしてそこには氷が浮かんでいた。
霜焼けにならないのだろうか。
日中に半分使用し、残りを冷蔵用の魔道具・・・まぁ冷蔵庫的な奴に入れておけば夜までもつ。
冷蔵庫、湯沸かし器があるんだから扇風機があってもいいんじゃないだろうか。
いらない?
俺は欲しいんだけどなぁ。
「ちなみにいくらぐらいするんだ?」
「小型の物でも金貨1枚はすると思います。」
「そりゃ高すぎだ。」
「風を起こすだけでその金額です、それなら風魔法を使う方が安上がりですよ。」
「一晩風を起こすだけで人を雇うとか、どんな金持ちだよ。」
「貴族の中には専属の魔術師を雇用しているところもあるそうです。」
その為だけに魔術師を雇うのか。
俺には絶対に無理だな。
「俺には縁がない事が良く分かった。当分はこのままで行こう。」
「後二カ月の辛抱です。9月になれば涼しくなるでしょう。」
「長いよなぁ。」
元の世界の倍夏が続く。
もう少し涼しければ我慢できるが、まだまだ涼しくなりそうもない。
扇風機が無いのならせめて冷感パット的なものが欲しいよな。
冷え〇た的な冷たく感じる何かがあるだけでも違うんだが・・・。
「ご主人様、頼まれていた薬が出来上がりました。」
「お、早かったな。」
「素材が早く集まりましたので。」
ミラと話していると上からアネットが下りてきた。
手には頼んでおいた薬が握られている。
「後は秋までに量産できれば完璧だ、引き続き片手間でいいから続けてくれ。」
「わかりました。素材が集まり次第作製し続けます。」
よしよし、これで秋の花粉には対処できそうだな。
春にあれだけ患者が出たんだ、秋にも同じぐらいの患者が出てもおかしくない。
他に薬師が居ない以上アネットが独占することになる。
春ほど難しい素材も無いので、ぼろ儲けできるだろう。
笑いが止まりませんなぁ。
って。
「何つけているんだ?」
アネットのおでこに茶色い何かが貼り付いている。
まるで俺の求めていた冷たく感じるあれのような見た目だが・・・。
「熱を逃がす張り薬をちょっと。」
「つけると冷たく感じるやつか?」
「これは感じるのではなく実際に冷たくしますよ。」
マジか!
俺の求めていた物がまさか目の前にあるなんて、信じられない。
「それはすごいな、是非一枚、いや三枚ぐらいくれ。」
「それは構いませんがあまり貼りすぎるのはお勧めしません。」
「何故だ?」
「体内の微弱な魔力を吸収して、それを冷気に変換しているんです。あまり貼りすぎると魔力不足で全身がだるくなってしまいます。」
「そ、それは中々危ないな。」
「魔術師でしたら大丈夫だと思いますが、ご主人様は難しいですね。」
「むぅ、涼しくなれると思ったんだが・・・。仕方ない。」
仕方ないが、これは使えるんじゃないか?
「これはありふれた物なのか?」
「そうですね、素材さえあれば比較的簡単に作れます。後は蒸留水を用意するのが面倒なぐらいでしょうか。」
「何を使うんだ?」
「アイスタートルの甲羅を粉末にして蒸留水に溶き、ゼラチンで固めるだけです。不純物が多いと効果が上手く出ないので、貼り付ける紙も出来れば上質なものがいいでしょう。」
「アイスタートルの甲羅か。」
「それでしたら倉庫にいくつか在庫がありますが、量は心もとないですね。」
横で話を聞いていたミラがすかさず在庫数を報告してくれる。
短時間で俺の欲しい答えを出してくれるんだからすごいよなぁ。
とりあえず、量産は出来ないと。
あれだな、俺が使うなら効果が出ない方がいいんだろうな。
「とりあえず店の在庫を使って全員分作ってくれるか?俺とエリザは普通の紙を使ってくれ。」
「ミラ様はある程度魔力をお持ちでしたね。」
「何に使うわけでもありませんが。」
「いいじゃないか、無いよりも。」
「そうですね、おかげで涼しくなれそうです。」
魔力の無い俺とエリザは品質を落とし、魔力のあるミラとアネットは上質な奴を使う。
どちらにしろ涼しくなれるのであれば問題ない。
「で、俺はいつものようにギルドへ行ってくる。」
「取引所にも依頼を出しますか?」
「いや、まずはギルドだ。量が少なければ考えよう。」
「畏まりました。」
「戻るまでにどのぐらいの需要があるか過去の履歴を探っておいてくれ。」
外に出るのは億劫だが、これも涼しくなるためだ。
時には耐えることも必要だな。
ギルドで話を聞くと、アイスタートルの甲羅は比較的簡単に集められるそうだ。
だが一般人でも加工が出来るためこの時期は需要が多く、買い取り金額は高めに設定されているらしい。
幸い固定買取の対象では無いようだが、これで利益を出すのは正直難しいかもしれない。
後はミラに頼んだ需要次第って所だろう。
良い感じの利益が出るかもと期待したが、まぁそうなるよな。
素人が作るよりも薬師が作った方が効果は強いのでそっちで売る手もあるが・・・。
これといったネタがない現状を考えれば儲かるのであればそれでいいかもしれない。
「また必要になったら連絡する。」
「薬師様の貼り薬は効果が高いですからね、ギルドでも買取してますので是非。」
「ちなみにいくらだ?」
「一枚銅貨15枚です。」
「安いな。」
「元が元ですから。でも他が銅貨5枚で売られている事を考えるとものすごく高いんですよ。」
確かに高い。
イメージとしては一枚1500円もする。
どこの金持ちが使うんだよってレベルだが、それで丸一日涼しいのであれば決して無駄ではないのかもしれない。
ギルドでの買い取り価格がそれならば、自分で販売するともう少し高いかもしれないな。
ニアにお礼を言って店に戻ると取引履歴をひっくり返していたミラと目が合った。
「どうだ?」
「ものすごい高値というわけではありませんね、一枚銅貨20枚、高くて25枚でした。この暑さから需要は望めますので決して損は出ないと思います。そちらはいかがでしたか?」
「需要が多いからまとまった数を手配するのは難しそうだ。だが、一個でそれなりの数を作れるからそんなに数は必要ないかもしれない。」
「アネットさんによると甲羅一つで100枚作れるそうです。素人でも粉末に出来るそうなので我々が空き時間に砕けば数を作れそうですね。」
「甲羅一つで銀貨20枚。買い取り価格が銀貨5枚だから一個で銀貨15枚の利益か。100個買い取ってやっとって感じだな。」
「シロウ様が稼ぎ過ぎなのです。一般的に考えて短期間でそれだけ儲けることが出来れば十分かと思われます。」
確かにそうだ。
甲羅を100個買い取ったとして利益が金貨15枚。
一泊銀貨1枚の三日月亭に1500日泊まれることになる。
素人でも作れる難易度でそれだけ儲ければ上々だろう。
「アネットは?」
「シロウ様が大量に作ることを想定して蒸留水の生成に入られました。私は急ぎ貼り付ける用の台紙を手配しに行くつもりです、店番をお願い出来ますでしょうか。」
「アテがあるのか?」
「母の知り合いが製紙問屋でして、お願いすればそれなりに安く仕入れることが出来ると思います。」
「そうか、紙代も必要だな。」
蒸留水もタダではない。
ゼラチンの原料になるスライムトローチはかなりの量があるので問題ないが、それも原価に乗せることを考えると利益はどんどんと減ってくる。
うーむ、買取を下げられれば利益も増えるが・・・。
ここはあれだな、イライザさんの力を借りるか。
「外は暑いぞ、日傘を忘れるなよ。」
「行って参ります。」
ドア横に立てかけてあった日傘を持ち、ミラが店を出ていく。
上からはアネットがどたばたと走り回る音がする。
そんじゃま、俺も何か案を考えるとしますか。
ペンと紙を取り出して原価を計算し、幾つかの案を考えてそこから生まれる利益をはじき出す。
食事券、買い取りアップクーポン、抱き合わせ。
八月って何かイベントあったっけな。
そんなことを考えているとあっという間に時間が過ぎ、夕日が店に差し込んできた。
「ただいま戻りました。」
「おつかれさん、どうだった?」
「台紙の手配は出来ました。古い紙ですが物は悪くありませんし甲羅100個分で金貨2枚で譲ってくれるそうです。」
「いい感じだな。これで一つ当りの原価が銅貨7枚だ。20枚で売れれば銅貨13枚の儲けになる。」
「一万枚分ですから凡そ金貨13枚ですね。」
「悪くない儲けだな。」
「はい、中々の収入かと。」
八月の終わりまでこれといった仕込みは無かったので良い感じの収入と言えるだろう。
「問題はそれだけの数を俺達で作れるかだな。」
「アネットさんによると台紙と蒸留水があれば私達でも同等の効果を得られるそうですから、皆で分担すればそんなに時間はかからないと思われます。」
「砕き、混ぜ、塗り、乾かす。四人で分担して一分で一枚作るとして半日働いても14日、いや15日はかかる。流石にこれにつきっきりってわけにもいかないから倍かかるとして工期は30日。こう考えると微妙な感じだな。」
「別に我々が動く必要はありません。銀貨1枚で人を雇い、15日で終わらせれば費用は銀貨60枚。十分採算が取れます。」
「結局金貨10枚ぐらいの利益で収まるんだろうな。」
「それでいいじゃありませんか。何もせず金貨10枚儲かるんですから。」
確かにそうだな。
自分たちでやればめんどくさいが、人を雇えば苦労はない。
加えて雇用を作ったと喜ばれるだろう。
簡単な仕事なら孤児院のガキ共にやらせてみてもいい。
彼らの働き口が出来ればモニカも喜ぶはずだ。
なるほどな、金を稼ぐのは決して自分の為だけというわけじゃないのか。
冒険者も儲かる。
住民も儲かる。
何より俺が儲かる。
使用者はこの暑さをしのぐことが出来快適さを得る。
誰も損をしないわけだな。
「そうだな。じゃあやるか。」
「はい、頑張りましょう。」
「ほんじゃま、とりあえずアネットの様子を見てくる。さっきの感じだとまた休まず動いてそうだからな。」
「その間に夕食の準備をしておきましょう。そろそろエリザ様も戻って・・・。」
「たっだいまー!」
ほら、早速帰ってきた。
丁度いい、台紙をしまう為に倉庫を整理してもらうとしよう。
「お帰り、手空いてるよな?飯の前にもうひと頑張りだ。」
「え~!!」
エリザの悲鳴が夕空に響く。
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