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106.転売屋はダンジョンに入る
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結局オーブの停止方法はわからずじまいだった。
普通に営業を開始してからはオーブに引き寄せられてきたのか、それとも普通の客なのかは見分けがつかなくなったので考えるのを諦めたってのが正しいかもしれない。
何はともあれ客は来る。
そして物は売れる。
いや、うち買取屋なんでここでは売る方がメインじゃないんですけど・・・。
ま、いいか。
「シロウ、ダンジョン行かない?」
「行かない。」
「絶対に安全だから、私がついていくから。」
「行かないったら行かない。」
「も~、強情なんだから。」
夏を一層感じられるようになった七月。
何故かエリザが頻繁に俺をダンジョンに誘うようになった。
ダンジョンってあれだろ?
魔物が跋扈する危険な場所だろ?
一つ間違えたら命が無くなる。
そんな場所にどうして非戦闘員の俺が行かなきゃならないんだよ。
ってか何をさせたいんだこいつは。
「エリザ様あまりに誘いすぎるとシロウ様が拗ねてしまいますよ。」
「それは困る。わかった今日(・・)は諦めるね。」
「今日と言わず明日も諦めてくれ。」
「じゃあ明後日は?」
「エリザ様。」
「わかったって。いってきま~す。」
俺も意固地になって断り続けているんだが、何やらが事情を知っているようだ。
断ってもへこたれない所を見ると何かしらの事情があるんだろうな。
「ふう、やっと行ったか。」
「ご苦労様です。」
「ミラ、事情を知ってるんだろ?」
「もちろん存じております。ですが私が申しあげてよい内容ではございません。」
「主人である俺にも言えないのか?」
「いくらシロウ様とは言えこればっかりは。」
「むぅ、口が堅いなぁ。」
知っているのは間違いない。
だが言えない。
それこそ主人命令でも言えないのだそうだ。
無理強いすれば恐らく言ってくれるだろう。
というか首輪が発動してイヤでも言わなければならなくなる。
そうなるのはさすがに嫌なので俺はこれ以上聞くのをやめた。
やれやれだ。
「ちょっと出てくる。」
「かしこまりました、いってらっしゃいませ。」
こういう時は気分転換だ。
財布を持って店を出る。
向かった先はもちろん・・・。
「いや、それで俺の店に来る理由がわからん。」
「この前奢ってくれるって話だっただろ?だから話ついでに奢られに来た。」
「なんだよ奢られにって・・・。ったく、なんで俺もあんな約束したんだか。」
「まぁまぁいいじゃない、重宝してるんだろ?」
「あぁ、前のやつにひびが入ったから早めに替えたかったんだ。大きさもいい感じだし助かってる。」
「そりゃ何よりだ。」
オーブのせいとは口が裂けても言えないが、喜んでもらっているのならそれでいい。
「で、ダンジョンに誘われる理由だったか?」
「あぁ、今までこんなことなかったのに急に誘ってくるんだよ。」
「それはあれだ、ノロケだ。」
「いや、意味が解らん。」
「なんだ最近の流行を知らないのか。置いて行かれるぞ。」
「ダンジョンに行くのが流行なのか?死ぬぞ?」
「その為にエリザも一緒に行くんだろうが。ちょうど今が見ごろだからな、お前と見たかったんだろ。」
なんのこっちゃわからんが流行らしい。
流行には乗っかっておかないとまずいよなぁ、転売屋としては。
いち早く情報をキャッチして商材を集めそれを売りに出すのが俺の仕事だ。
「つまりダンジョンに行けばそれが見られると。」
「あぁ、期限はあと二日って所だな。」
「期限付きかよ。」
「行ってやれよ、あそこは魔物も少ないし行く途中もまぁ出くわすことはない。出たところでエリザが倒すだろ。」
「本当に大丈夫なんだろうな。」
「あぁ、ここの住民も行くからな。この時期は冒険者が巡回してるからまず大事はない・・・はずだ。」
そこで断定しない所がマスターらしい。
しかたない、そこまで言うなら行ってやるか。
「ちなみに必要な物は?」
「細い糸と紙、それとペンって所か。」
「それだけ?」
「残念ながら商売にはならないぞ、諦めろ。」
流行に乗っかった所で儲けは無し。
つまりは商売っ気抜きで楽しんで来いってことなんだろう。
「奢りはまた今度でいいや、行ってくる。」
「おぅ、気を付けてな。」
おそらくそうなる事を見越して俺の料理を作ってなかったんだろう。
全く料理を作る気配が無かったしな。
最近はミラとアネットに構いっぱなしだったし、久方ぶりにエリザとのんびりするのも悪くない。
アイツもそれをしたくてしきりに誘っていたんだろうなぁ。
わかってる。
わかってるんだが、場所が場所だけに二の足を踏んでいたんだ。
ビビリと笑いたければ笑え、流石に二度も死にたくはない。
死んだらまた元の世界に戻る可能性だってあるんだ。
そんなのはごめんだからな。
店に戻るとエリザが裏庭で土いじりをしていた。
芋も果物も確実に成長している。
生育が楽しみだ。
「エリザ。」
「あ、シロウお帰り。みて、こんなに大きくなったよ!」
「みたいだな。後二カ月で食べごろって所か。」
「楽しみだねぇ。」
「ホント芋好きだよな。」
「当たり前よ、美容にもお通じにもいいんだから。ダンジョンにいるとね、甘いもの食べられないから干し芋をかじると元気が出るの。」
なるほどなぁ、そういう理由もあって好きなのか。
確かに限られた荷物しか持ち込めないダンジョンでは甘いものは邪魔になってしまうだろう。
それでもクッキーとかなら持ち込めると思うんだが・・・。
そうか、粉々になったら味も減ったくれもないもんな。
「ダンジョンで食べる芋か、それもまたありだな。」
「え?」
「ダンジョン行くんだろ?ついてってやるよ。」
「ほんと!」
「ただし死ぬ気で守れよ、魔物に襲われるとかマジで勘弁してくれ。」
「大丈夫!私が一緒だし何があっても守るから!」
「はいはい、よろしく頼むぜ。」
「うん!」
まぁ嬉しそうな顔しちゃって。
慌てて店に戻りドタバタと二階に上がる音がする。
そんなに慌てなくても良いと思うんだが、よっぽど嬉しいと見える。
「ダンジョンへ行かれるんですね。」
「何もないと思うが後は任せた。」
「この時期は魔物の掃討が行われますので問題はないと思われます。」
「らしいな。」
「楽しんできてくださいね。」
「まだ教えてくれないのか?」
「それは行ってからのお楽しみという事で。あ、戻って来られましたよ。」
再びドタバタと音がして完全武装・・・ではないな、軽装のエリザが戻ってきた。
予備の武器は無し。
一応ハーフプレート的なのは着ているが下はいつものズボンだ。
そんなので本当に大丈夫・・・なんだろうなぁ。
「じゃあ行ってくるね!」
「どうぞ楽しんできてください。」
気を付けてくださいじゃない所が安全さを物語っているんだろう。
店を出て大通りを抜け何度も見たダンジョンの入り口へと到着した。
が・・・。
「あ~、入場制限か。」
「入場制限?」
「あまり人が入りすぎると比例して魔物の数が増えるから制限してるの。」
「どこのアトラクションだよ。」
「この感じだと三十分もあれば入れると思うからちょっと待ってね。」
俺のダンジョンに対するイメージが根底から変わっていく。
見てくれ俺の前に並ぶ人を。
どう見てもカップルだ。
それがずっと列をなし、ひたすらいちゃついている。
一体何がどうなってるんだ?
「シロウが来てくれるとは思わなかった、本当に有難う。」
「そういうのは入ってから言え、ぶっちゃけもう帰りたい。」
「まだ並んだところじゃない。」
「並ぶのは嫌いなんだよ。」
「中はすっごい綺麗だから、それまで我慢してよね。」
綺麗ねぇ。
ますます意味が解らない。
それからしばらくしてダンジョンから大勢の人が出てきた。
そして出てきた人数と同じだけ中に入っていく。
俺達も一回の移動で何とか中に入ることが出来た。
街の真ん中にあった小さな祠。
その扉を開けるとダンジョンに繋がっているのだが・・・。
「なんで草原があるんだよ。」
「ダンジョンだもん。」
いや、ダンジョンだもんって説明になっていないんだが?
扉を開け階段を下った先に広がったのがこの光景だ。
さっきまでダンジョンの名にふさわしい洞窟みたいな感じだったじゃないか。
なのになんで草原があるんだよ。
上を見て天井があるからダンジョン内だってわかるけど、そもそも光源は一体どこにあるんだ?
「ここを抜けたら今度は沼に出て、その先にある洞窟が目的の場所だから。」
「ダンジョン内の洞窟?」
「時間的にちょうどいいんじゃないかな、ほら前が動いたよ。」
もう意味が解らない。
よし、考えるのはやめよう。
ダンジョンとはこういうものだ。
アトラクション宜しく前の人をひたすら追いかけ、草原を抜け、沼地の遊歩道を進み(何で遊歩道があるかは考えない)、そして分かれ道を進んだ先に本当に洞穴があった。
前の人が入った所で入り口に立っていた冒険者が道をふさぐ。
「ここまでだ、次を待て。」
「え~、いいでしょ入れてよ。」
「ダメだ。ってエリザかよ。」
「ねぇいいでしょ、横の通路からでも見えるんだしさ。」
「あっちは魔物が出る、横にいるのは買取屋だろ?大丈夫なのか・・・って聞くまでもないな。」
「そ、だからお願い。」
なんだか不吉な単語が聞こえたんだが?
俺はこのまま順番待ちしてもまったくかまわないんだが?
「わかった。ギルド長には言うなよ。」
「さっすが、話が分かる。今度いっぱい奢るね。」
「そのセリフ忘れるなよ。」
エリザが塞いでいた冒険者と拳をぶつけ合い並んでいた列から外れた。
「お、おい。」
「ほら、早くしないと始まっちゃう。」
何が始まるかすら説明が無いんだが?
エリザを追いかけ洞窟の横を壁沿いに進んでいくと途中で小さな切れ込みを見つけた。
「ここ、先に入るからあとから入ってきて。」
「本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫だって。」
壁すれすれを横歩きで20歩程進むと小さな空間に出た。
さっきまでと違いかなり暗い。
かろうじてエリザの背中が見える程度だ。
「シロウ、こっち。」
エリザが俺の手を掴み少し強引に引っ張ってくる。
抵抗することなくそれに従い、エリザの胸にすっぽりと収まった。
丁度掌に胸が収まっている。
「ちょっと、こんな所で触らないでしょ。」
「仕方ないだろ目の前にあるんだ。」
「もぅ、ムードも何もないんだから。」
「いったい何が始まるんだ?」
「いいから。あ、始まった。」
小声で話すエリザがハッと顔を上げる。
それに釣られて上を見たその先には・・・。
見たことも無い光景が広がっていた。
普通に営業を開始してからはオーブに引き寄せられてきたのか、それとも普通の客なのかは見分けがつかなくなったので考えるのを諦めたってのが正しいかもしれない。
何はともあれ客は来る。
そして物は売れる。
いや、うち買取屋なんでここでは売る方がメインじゃないんですけど・・・。
ま、いいか。
「シロウ、ダンジョン行かない?」
「行かない。」
「絶対に安全だから、私がついていくから。」
「行かないったら行かない。」
「も~、強情なんだから。」
夏を一層感じられるようになった七月。
何故かエリザが頻繁に俺をダンジョンに誘うようになった。
ダンジョンってあれだろ?
魔物が跋扈する危険な場所だろ?
一つ間違えたら命が無くなる。
そんな場所にどうして非戦闘員の俺が行かなきゃならないんだよ。
ってか何をさせたいんだこいつは。
「エリザ様あまりに誘いすぎるとシロウ様が拗ねてしまいますよ。」
「それは困る。わかった今日(・・)は諦めるね。」
「今日と言わず明日も諦めてくれ。」
「じゃあ明後日は?」
「エリザ様。」
「わかったって。いってきま~す。」
俺も意固地になって断り続けているんだが、何やらが事情を知っているようだ。
断ってもへこたれない所を見ると何かしらの事情があるんだろうな。
「ふう、やっと行ったか。」
「ご苦労様です。」
「ミラ、事情を知ってるんだろ?」
「もちろん存じております。ですが私が申しあげてよい内容ではございません。」
「主人である俺にも言えないのか?」
「いくらシロウ様とは言えこればっかりは。」
「むぅ、口が堅いなぁ。」
知っているのは間違いない。
だが言えない。
それこそ主人命令でも言えないのだそうだ。
無理強いすれば恐らく言ってくれるだろう。
というか首輪が発動してイヤでも言わなければならなくなる。
そうなるのはさすがに嫌なので俺はこれ以上聞くのをやめた。
やれやれだ。
「ちょっと出てくる。」
「かしこまりました、いってらっしゃいませ。」
こういう時は気分転換だ。
財布を持って店を出る。
向かった先はもちろん・・・。
「いや、それで俺の店に来る理由がわからん。」
「この前奢ってくれるって話だっただろ?だから話ついでに奢られに来た。」
「なんだよ奢られにって・・・。ったく、なんで俺もあんな約束したんだか。」
「まぁまぁいいじゃない、重宝してるんだろ?」
「あぁ、前のやつにひびが入ったから早めに替えたかったんだ。大きさもいい感じだし助かってる。」
「そりゃ何よりだ。」
オーブのせいとは口が裂けても言えないが、喜んでもらっているのならそれでいい。
「で、ダンジョンに誘われる理由だったか?」
「あぁ、今までこんなことなかったのに急に誘ってくるんだよ。」
「それはあれだ、ノロケだ。」
「いや、意味が解らん。」
「なんだ最近の流行を知らないのか。置いて行かれるぞ。」
「ダンジョンに行くのが流行なのか?死ぬぞ?」
「その為にエリザも一緒に行くんだろうが。ちょうど今が見ごろだからな、お前と見たかったんだろ。」
なんのこっちゃわからんが流行らしい。
流行には乗っかっておかないとまずいよなぁ、転売屋としては。
いち早く情報をキャッチして商材を集めそれを売りに出すのが俺の仕事だ。
「つまりダンジョンに行けばそれが見られると。」
「あぁ、期限はあと二日って所だな。」
「期限付きかよ。」
「行ってやれよ、あそこは魔物も少ないし行く途中もまぁ出くわすことはない。出たところでエリザが倒すだろ。」
「本当に大丈夫なんだろうな。」
「あぁ、ここの住民も行くからな。この時期は冒険者が巡回してるからまず大事はない・・・はずだ。」
そこで断定しない所がマスターらしい。
しかたない、そこまで言うなら行ってやるか。
「ちなみに必要な物は?」
「細い糸と紙、それとペンって所か。」
「それだけ?」
「残念ながら商売にはならないぞ、諦めろ。」
流行に乗っかった所で儲けは無し。
つまりは商売っ気抜きで楽しんで来いってことなんだろう。
「奢りはまた今度でいいや、行ってくる。」
「おぅ、気を付けてな。」
おそらくそうなる事を見越して俺の料理を作ってなかったんだろう。
全く料理を作る気配が無かったしな。
最近はミラとアネットに構いっぱなしだったし、久方ぶりにエリザとのんびりするのも悪くない。
アイツもそれをしたくてしきりに誘っていたんだろうなぁ。
わかってる。
わかってるんだが、場所が場所だけに二の足を踏んでいたんだ。
ビビリと笑いたければ笑え、流石に二度も死にたくはない。
死んだらまた元の世界に戻る可能性だってあるんだ。
そんなのはごめんだからな。
店に戻るとエリザが裏庭で土いじりをしていた。
芋も果物も確実に成長している。
生育が楽しみだ。
「エリザ。」
「あ、シロウお帰り。みて、こんなに大きくなったよ!」
「みたいだな。後二カ月で食べごろって所か。」
「楽しみだねぇ。」
「ホント芋好きだよな。」
「当たり前よ、美容にもお通じにもいいんだから。ダンジョンにいるとね、甘いもの食べられないから干し芋をかじると元気が出るの。」
なるほどなぁ、そういう理由もあって好きなのか。
確かに限られた荷物しか持ち込めないダンジョンでは甘いものは邪魔になってしまうだろう。
それでもクッキーとかなら持ち込めると思うんだが・・・。
そうか、粉々になったら味も減ったくれもないもんな。
「ダンジョンで食べる芋か、それもまたありだな。」
「え?」
「ダンジョン行くんだろ?ついてってやるよ。」
「ほんと!」
「ただし死ぬ気で守れよ、魔物に襲われるとかマジで勘弁してくれ。」
「大丈夫!私が一緒だし何があっても守るから!」
「はいはい、よろしく頼むぜ。」
「うん!」
まぁ嬉しそうな顔しちゃって。
慌てて店に戻りドタバタと二階に上がる音がする。
そんなに慌てなくても良いと思うんだが、よっぽど嬉しいと見える。
「ダンジョンへ行かれるんですね。」
「何もないと思うが後は任せた。」
「この時期は魔物の掃討が行われますので問題はないと思われます。」
「らしいな。」
「楽しんできてくださいね。」
「まだ教えてくれないのか?」
「それは行ってからのお楽しみという事で。あ、戻って来られましたよ。」
再びドタバタと音がして完全武装・・・ではないな、軽装のエリザが戻ってきた。
予備の武器は無し。
一応ハーフプレート的なのは着ているが下はいつものズボンだ。
そんなので本当に大丈夫・・・なんだろうなぁ。
「じゃあ行ってくるね!」
「どうぞ楽しんできてください。」
気を付けてくださいじゃない所が安全さを物語っているんだろう。
店を出て大通りを抜け何度も見たダンジョンの入り口へと到着した。
が・・・。
「あ~、入場制限か。」
「入場制限?」
「あまり人が入りすぎると比例して魔物の数が増えるから制限してるの。」
「どこのアトラクションだよ。」
「この感じだと三十分もあれば入れると思うからちょっと待ってね。」
俺のダンジョンに対するイメージが根底から変わっていく。
見てくれ俺の前に並ぶ人を。
どう見てもカップルだ。
それがずっと列をなし、ひたすらいちゃついている。
一体何がどうなってるんだ?
「シロウが来てくれるとは思わなかった、本当に有難う。」
「そういうのは入ってから言え、ぶっちゃけもう帰りたい。」
「まだ並んだところじゃない。」
「並ぶのは嫌いなんだよ。」
「中はすっごい綺麗だから、それまで我慢してよね。」
綺麗ねぇ。
ますます意味が解らない。
それからしばらくしてダンジョンから大勢の人が出てきた。
そして出てきた人数と同じだけ中に入っていく。
俺達も一回の移動で何とか中に入ることが出来た。
街の真ん中にあった小さな祠。
その扉を開けるとダンジョンに繋がっているのだが・・・。
「なんで草原があるんだよ。」
「ダンジョンだもん。」
いや、ダンジョンだもんって説明になっていないんだが?
扉を開け階段を下った先に広がったのがこの光景だ。
さっきまでダンジョンの名にふさわしい洞窟みたいな感じだったじゃないか。
なのになんで草原があるんだよ。
上を見て天井があるからダンジョン内だってわかるけど、そもそも光源は一体どこにあるんだ?
「ここを抜けたら今度は沼に出て、その先にある洞窟が目的の場所だから。」
「ダンジョン内の洞窟?」
「時間的にちょうどいいんじゃないかな、ほら前が動いたよ。」
もう意味が解らない。
よし、考えるのはやめよう。
ダンジョンとはこういうものだ。
アトラクション宜しく前の人をひたすら追いかけ、草原を抜け、沼地の遊歩道を進み(何で遊歩道があるかは考えない)、そして分かれ道を進んだ先に本当に洞穴があった。
前の人が入った所で入り口に立っていた冒険者が道をふさぐ。
「ここまでだ、次を待て。」
「え~、いいでしょ入れてよ。」
「ダメだ。ってエリザかよ。」
「ねぇいいでしょ、横の通路からでも見えるんだしさ。」
「あっちは魔物が出る、横にいるのは買取屋だろ?大丈夫なのか・・・って聞くまでもないな。」
「そ、だからお願い。」
なんだか不吉な単語が聞こえたんだが?
俺はこのまま順番待ちしてもまったくかまわないんだが?
「わかった。ギルド長には言うなよ。」
「さっすが、話が分かる。今度いっぱい奢るね。」
「そのセリフ忘れるなよ。」
エリザが塞いでいた冒険者と拳をぶつけ合い並んでいた列から外れた。
「お、おい。」
「ほら、早くしないと始まっちゃう。」
何が始まるかすら説明が無いんだが?
エリザを追いかけ洞窟の横を壁沿いに進んでいくと途中で小さな切れ込みを見つけた。
「ここ、先に入るからあとから入ってきて。」
「本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫だって。」
壁すれすれを横歩きで20歩程進むと小さな空間に出た。
さっきまでと違いかなり暗い。
かろうじてエリザの背中が見える程度だ。
「シロウ、こっち。」
エリザが俺の手を掴み少し強引に引っ張ってくる。
抵抗することなくそれに従い、エリザの胸にすっぽりと収まった。
丁度掌に胸が収まっている。
「ちょっと、こんな所で触らないでしょ。」
「仕方ないだろ目の前にあるんだ。」
「もぅ、ムードも何もないんだから。」
「いったい何が始まるんだ?」
「いいから。あ、始まった。」
小声で話すエリザがハッと顔を上げる。
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見たことも無い光景が広がっていた。
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