上 下
102 / 1,027

102.転売屋は砂糖を売る

しおりを挟む
『ホワイトアスカールの結晶。サッカロンの近くに住むホワイトアスカールからのみ採取できる希少な結晶。サッカロンの蜜を体内で凝縮する過程で体外に結晶化したと考えられている。甘みは強いが雑味はなく毒もない。現在様々な観点から調査研究が進んでいる。別名蟻砂糖。』

エリザが摂ってきた結晶を手に取ると新しい鑑定結果が表示されるようになった。

そもそも鑑定スキルとはどういう仕組みなんだろうな。

まるでクラウド上に辞典があってそこから結果を引き出しているような感じだけど・・・。

まぁその辞書は無事更新されたみたいだし、世界の理を調べる気もない。

便利ならそれで良いじゃないか。

「これでおしまいっと、あ~疲れた。」

「ご苦労様でした。」

「ギルドはなんて言って来てる?」

「今のところ好きな値段で買い取っても構わないみたいだけど、この流れから察するに定額買取品になるだろうだって。」

「まぁそうだよなぁ。」

あの後必要数を集めた俺達はホワイトアスカールの結晶についてギルドに報告した。

実物を提出し採集方法を提示、それをギルドが確認して情報が世に出る事になった。

出るまでに色々と大変な事があったようだが、その辺は俺達の知る所ではない。

結果だけいえば、砂糖よりも甘くそして使いやすい。

マスターもイライザさんも驚いていたし、十分実用で使えるとのお墨付きも貰った。

そして情報が出た翌日から、この間の宝石宜しく冒険者がダンジョンに殺到。

巣が空になるまで狩り続けられたそうだ。

「何もないこの街で急に砂糖が取れるようになったんだもん、混乱しないほうがおかしいわよ。」

「ですが今回のように乱獲すれば居なくなっちゃいますよ?」

「その辺は心配ないわ。ダンジョンは魔物を産むのが仕事だから狩りつくしてもまたすぐ復活するから。」

それが凄いよな。

そもそもダンジョンがどういう原理で動いているのかは知らないが、同じような場所に同じような魔物が生まれるんだろ?

それこそゲームみたいに。

ときどき変なのも混じるみたいだが、それで飯を食っている冒険者からしたらありがたいことこの上ない。

宝箱だって何時の間にかひょっこり現れるらしいし。

一体何なんだろうな。

「ですが・・・。」

「今のところ結晶化するまでにどれだけ時間がかかるかは分かっていない。今回狩りつくされた事によってギルドが介入して生態調査に乗り出すことは確実だろう。そうなれば結晶は当分世に出なくなる。一時は供給された品が枯渇したらどうなると思う?」

「需要と供給のバランスが崩れ一気に値上がり。特に話題に聡い貴族はこぞって買い求める事でしょう。」

「それを分かって私にしこたま集めさせたんだから。当分蟻は見たくないわね。」

「その分の報酬は払っただろ。一体につき銀貨5枚もな。」

「でもそこから取れるのはもっとでしょ?」

今日までの金額は一キロ銀貨3枚。

一体からおおよそ5キロ取れるのでそこそこの儲けになる。

最初はちょっとしか取れないと思ってたが、ところがどっこい巣の中には全身真っ白の蟻が山ほどいたって訳だ。

さすがホワイトって名前がつくだけあるわ。

最初に名づけた人はコレを見て名前をつけたんだな。

それ以降なんで白いのかって疑問に思った人は山ほどいたんだろうけど、今回のように推測から答えまで導き出せた冒険者は居なかったようだ。

しかし、砂糖の代わりになるとはいえ高いなぁ。

普通の砂糖がキロ銀貨1枚だから三倍だぜ?

何処の和牛だよって話だが、それも昨日までの話だ。

枯渇して手に入らなくなった明日以降は今の二倍、いや三倍の値段が付く事だろう。

エリザが今回狩ってきたのはざっと百匹分。

しめて500kg分になる。

一人だと大変だからダンとバカ兄貴を呼び出して店まで何度も往復させた。

あの量の魔物を無傷で倒しきるとかエリザだからこそ出来た荒業だな。

最後の方は自棄になって巣をぶっ叩いて誘き出したらしい。

体長1mの蟻が大量に巣から出てくるとかホラー以外の何ものでもない。

「砂糖の確保は出来たわけだが・・・バターの方はどうだ?」

「今最後の工程です。ホエーと分離させて成形すれば完成です。無塩のほうが良いと聞きましたので塩は入れません。」

「これでなんとか菓子作りに間に合いそうだな。」

「あと三日ですから明日から頑張れば何とか。」

「この二日は店を閉める、頑張って作ってくれ」

二日も休むのは初めてだがたまにはいいだろう。

なんせ例の砂糖を使ったお菓子と銘打って販売するんだ、客が殺到するぞ。

それこそお金を持ったお貴族様とかな。

ちなみに普通の砂糖をマスターとイライザさんから交換してもらったので、お安いお菓子も作る予定だ。

そうじゃないとお子様達が買えないからね!

今回はただの蚤の市、住民が楽しめないとやる意味がない。

「シロウはどうするのよ。」

「俺は俺でやることがあるんだよ。」

「販売先探しですね?」

「探さなくても向こうから来るだろうが、恩は売っておきたいからな。」

「そうやってまたお金を集めるのよね。」

「当たり前だろ、それが俺だ。」

金は集めて何ぼだからな。

オークションで散財してしまった分をここでしっかりと回収させてもらおう。

あと六ヶ月で金貨200枚。

仕込みもまだあるし大丈夫だとは思うが、金はあればあるだけ良いからな。

稼いで稼いで稼ぎまくるのが俺の楽しみだ。

蚤の市まで休業する張り紙を出してから大通りへと繰り出す。

明後日には蚤の市が始まる。

周りの店もその準備に追われているようで、所々うちと同じように店を閉めている様だった。

ちなみに裏通りも参加するのでルティエ達も通常業務とは別の作業に追われている。

ご苦労な事だ。

そんないつもと違う街の雰囲気を感じながら向かったのはギルド協会だ。

目的の相手はもちろん、羊男である。

「お待ちしておりました、シロウさん。」

「今日は玄関先まで出迎えかよ。」

「それはもう、大切な商談相手をお待たせするなとのアナスタシア様からのお達しですので。」

「うげ、あの人も来てるのか?今日呼んだのってレイブさんだけだよな。」

「どこで嗅ぎつけられたのかは存じませんが、随分と楽しみにしておられますよ。」

「困ったなぁ、どんだけの量要求されるんだ?」

「さぁ・・・。」

こりゃ想定外だ。

恩を売るために売りに来たはずがその逆になってしまう。

あの人には涙貝の恩があるからなぁ、あまり強気に出れないんだ。

言われるがままいつもと違う場所を通り大きな部屋に案内された。

「やっときましたわね。」

「お待ちしておりましたシロウ様。」

「お待たせしてすみません。」

どうして謝らないといけないのかは謎だが、つい謝ってしまうのは何故だろうか。

こっちの方が立場は上・・・。

いや、なんでもないです。

「では皆さんお時間もありますので早速始めましょうか。」

「忌々しい魔物がまさかあんなに素晴らしい物を持っているとは思いませんでしたわ。」

「しかも長年その生態について検証されていなかったとは。もしかするとこのような魔物がもっといるかもしれませんね。」

「魔物の素材については今でも研究が続けられていますが、ギルド協会としても引き続き冒険者ギルドと連携を取って対応していきます。ではシロウさん、後お願いしますね。」

羊男が俺に話題を振ってくる。

まぁその為に来たんだしこのメンバーなら挨拶は不要だ。

「今回融通できるのは150㎏。ある程度はまだ在庫しているが値上がり必至の品をここで一気にばらまきたくない商人の気持ちも察してくれ。だが、ここにいる面々にはいろいろと縁もあるので今回優先的に卸させて貰う事になった。で、どうする?」

「ここは公平に50kgずつじゃダメかな。」

「それじゃ足りないわ、せめて半分は融通してもらわないと。色々と問い合わせが多いのよ。」

「それはさすがに多すぎでしょう。ギルド協会としても関係各所に融通する分がありますから半分は欲しい所です。」

「そうなると私の分が無くなってしまいますね、それは困りました。」

三者三様。

それぞれの思惑が絡み合っているようだ。

本来であればレイブさんと羊男だけなので公平に分けて終わるはずだったんだが・・・。

まったく困った人だよ。

「レイブさんは何に使うんです?」

「奴隷業なんてしているとね、ここ以外の場所で色々な縁が出来るんです。ホワイトアスカールの結晶は今の所この街だけの特産ですからねぇ、話題になっているんですよ。」

「よそにばらまく前に街で消費するべきだと私は思うわ。」

「そうはいってもレイブさんがこの街に落としてくださるお金はかなりの量ですから。そういったところにも必要という考えはわかります。」

「じゃあギルド協会が減らしたらいいじゃない。」

「そういうわけにはいかないんですよねぇ。」

「私だってそうよ。この街にいながらその富を享受できないとなれば他の貴族から反感を買うわ。分け隔てなく分配するためにもこれだけの量が必要なの。」

つまり誰も引くつもりはない。

俺としては売れるのはありがたいが・・・。

喧嘩のタネを持ってきたわけじゃないしここは俺が譲歩するべきだろう。

商売とは時にこういう駆け引きも重要だ。

「ではこうしましょう。追加で30キロ出しますから一人60㎏で手を打つというのは?」

「その分値下げしてくれるのよね?」

「いえ、それはできません。聞けば三人共それぞれの思惑があるようですが、振り分ける量を考えれば十分に足りると私は判断します。ここは私の顔を立ててそれで納得していただけませんか。」

「うーん、まとまった量を持っているのはシロウさんだけですし、減らされないために妥協も必要という事ですね。」

「私が儲かれば街も儲かる、そうでしたねアナスタシア様。」

「・・・そうね。私達から稼ぐよりも他所から稼ぐ方が貢献度は高いわ。」

よしよし、頭の回転がいい三人だからこそ話が早い。

「レイブさんが外で出稼ぎ、私は中で稼ぐ。その金は巡り巡ってこの街の税として納められる。誰も損をせず、この富を享受できる。悪い話ではないはずだ。」

「シロウ様のおかげでこれだけの量が手に入るわけですしね。わかりましたそれで手を打ちましょう。単価はいくらですか?」

「キロ銀貨10枚・・・と言いたい所ですがキロ銀貨7枚でいいですよ。」

「金貨4.2枚、経費としては高いですが何とかしましょう。」

「それぐらいならあの人に言わなくても何とかなるわ。足りなくなったら優先的に回してよね。」

「今後冒険者ギルドから供給される可能性もありますから、様子を見てご連絡させて頂きます。」

前の巣は冒険者が壊してしまったが今後自然発生する可能性は十分にある。

次回以降は冒険者ギルドが供給をコントロールしてくれるだろう。

この特需もそれまでの話だ。

「では交渉成立という事で。」

「代金は商品と引き換えで結構です、後で馬車を回してください。」

三人が大きく頷くのを確認してから俺は立ち上がった。

これにて商談終了だ。

代金はしめて金貨12.6枚。

その金を明後日の蚤の市に全部ぶち込むというわけだ。

そしてそれが新たな富を生む。

笑いが止まりませんなぁ!

ホクホク顔で部屋を出てから小さくガッツポーズを一つ。

砂糖で金を稼ぐとかいつの時代だよって話だが、実際稼げているのでいいじゃないか。

まさかお菓子作りがこんな富を生むとは思っていなかったが、それはそれ。

さぁ明後日は蚤の市だ。

しこたま仕入れさせてもらおうじゃないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...