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99.転売屋は誕生日を知る

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薬は予想通り大当たりし、庶民に限らず貴族にも良く売れた。

子供だけを想定していたが、大人でも予防の為に飲む人が多いらしく当初の500人分では足りず倍の1000人分を製薬することになったのは想定外だったが・・・。

ま、材料は手に入ったし結果オーライだろう。

100人分ぐらい残った所で売れなくなってきたので終了した。

また患者が増えたりしたら売れるだろうから素材だけ置いておいてもいいかもしれないな。

「水やり終わったよ。」

「ご苦労。」

「いい感じに伸びてきたね。」

「芋はやはり早いな。」

「トポテは8月、シュクレトポテは9月には収穫できるんだって。」

「なら後2か月か。早いなぁ。」

この世界は24カ月で1年を迎える。

だがその間に季節は2回めぐるので、9月は秋になる。

なら季節一回りで1年にしたらいいのに、昔の人が二回りで1年と決めてしまった為に変えられないのだそうだ。

ちなみに誕生日は1年で2度ある。

3月生まれなら2回目の誕生日は15月。

春の生まれはやはり春に誕生日を迎えるそうだ。

俺の感覚では冬と夏が長い気がするな。

この世界に始めてきたのが18月。

実際冬を感じだしたのが22月ぐらいだったから冬が実質4カ月ぐらいある計算になるのか。

夏冬4カ月春秋2カ月。

だから6月の今でももう暑いんだろう。

「そういえばさ、シロウの誕生日っていつなの?」

「俺の誕生日?3月だが?」

「もう終わってるじゃない!」

「そうなるな。」

「言ってよね、プレゼントあげたのに。」

「そんなこと言ったら誰の誕生日も祝ってないぞ。お前はいつなんだよ。」

「8月と20月。」

ふむ、もうすぐか。

この世界に来てエリザと出会った後に誕生日を迎えていたわけだな。

あの頃はバタバタしていたし、誕生日っていう感覚も無かった。

1年が24カ月っていうわけのわからない周期を正しく理解できていなかったからなぁ。

でもこの世界に来て12カ月が経過し、なんとなくその感覚を掴んできた気がする。

さっきも言ったように夏冬が長いだけで12カ月で一応四季が巡る。

ただ単にそれを2回繰り返すだけの話だ。

23~2月までが冬、3~4が春、5~8が夏、9~10が秋、11~14月が冬、15~16が春、17~20が夏、21~22が秋。

これで1年。

そうか、エリザは夏女になるんだなぁ。

なんとなくそんな気がする。

「プレゼント何が欲しい?」

「え、くれるの?」

「去年、違った前回渡せなかったからな。余り高価な物は困るが、考えておけ。」

「わかった。」

なんだ神妙な顔して、そんな真剣に考えるものか?

「なんだか盛り上がっておられましたね。」

「あ、アネット!ねぇ誕生日いつ?」

「6月と18月です。」

「今月じゃない!」

「そういえばそうですね、すっかり忘れていました。」

まさかの今月誕生日かよ。

「シロウがね誕生日プレゼント買ってくれるんだって。ねぇ何が欲しい?」

「奴隷の身でプレゼントなどおこがましいです。ただこうやって穏やかな日々を過ごすことが出来れば。それに、贈り物はもう頂きましたから。」

そう言いながらこの前渡した体力の指輪をうっとりと見つめる。

そんな気は全くなかったが、奇しくも誕生日プレゼントになったっていう事か。

流石俺、完璧じゃないか。

「指輪いいなぁ・・・。」

「そういえばお前にはピアスをやったよな?あれがプレゼントじゃ・・・。」

「だめなの!」

「さよか。」

女心はわからん。

ともかくエリザの誕生日まではまだ日がある、それまでに何か考えるだろう。

で、この流れだと・・・。

「ミラ様の誕生日は何時なのでしょうか。」

「さぁ。」

「え、知らないの?」

「聞いたことないからな。」

「シロウ、最低。」

「お前だって俺の誕生日知らなかっただろうが、お互い様だよお互い様。」

そんなに知ってほしけりゃ自己紹介の時に誕生日も言えよな。

まったく。

「私ちょっと聞いてくる!」

「仕事の邪魔するなよ。」

「わかってるわよ!」

エリザが勢いよく階段を降りていく。

あれは降りるじゃなくて落ちるっていうんじゃないだろうか。

ドタドタドタとうるさい奴だ。

「昔は誕生日を祝ったりしたのか?」

「幼い頃は祝ってもらいましたが、独り立ちしてからは全然です。ずっと一人だったので。」

「そういうもんだよなぁ。」

「でも、今年は本当にうれしかったです。奴隷なのに祝ってもらって、本当に有難うございました。」

「喜んでいるならそれでいい。あぁ、俺の誕生日は気にしないでくれ、何かをしようなんて思わない事だ。」

「どうしてですか?」

「恥ずかしいじゃないか。」

40のオッサンが誕生日なんかではしゃげるかよ。

「ご主人様らしいですね。人の誕生日はお祝いになるのに。」

「それを口実に美味い物が食えるだろ?」

「なるほど。」

「いつもと違う事をするにはきっかけが必要だからな。」

美味い飯を食べるのもうまい酒を飲むのも、〇〇だからとしてしまえば気軽に楽しめる。

そんなこと気にせず良いものを食えばいいんだろうが、残念ながら貧乏性でね。

金はあってもなかなかこの考えは変えられないのさ。

と、再び階段から大きな音が聞こえてくる。

「ミラは12月と24月だって!」

「そんな気がしたよ。」

「え、どうして?」

「冬の女っぽいだろ?」

冬は冬でも真冬って感じだ。

クールで冷静、でも情には厚いタイプってね。

俺が春でアネットとエリザが夏、んでミラが冬か。

マスターは秋っぽいよな。

リンカは春だ。

ルティエも冬でイライザさんは秋。

まぁこの辺は適当だが、二三日したら判明するだろう。

エリザはこういうの好きだからな、あっという間に聞き出してくるさ。

「なんとなくわかるかも。」

「では私とエリザ様は夏の女ですか?」

「えへへ、そんな感じする?」

「あぁそうだな。」

「ご主人様は春ですね。」

「え~、何か似合わない。」

なんだよ似合わないって。

「そうでしょうか、私はよくお似合いだと思います。」

「どこが?」

「優しくて何でも包み込んでくれる感じでしょうか。」

「俺が優しくて包み込む?アネット、熱でもあるんじゃないか?」

「そんなことありません。事実エリザ様も包んでしまわれたじゃありませんか?」

「ん~なんとなくわかるけど・・・。」

俺にはみじんも理解できないんだが。

どういう感覚なんだよ。

謎だ。

それからアネットとミラがむず痒い話を真剣にし始めたので、逃げるようにして店に行く。

客は誰もおらずミラが帳簿の整理をしていた。

「お客様はまだ来られていませんよ。」

「そうみたいだな。ま、そんな日もあるだろう。」

「エリザ様から聞きました、ご主人様の誕生日は過ぎてしまったそうですね。」

「まぁな。それを言えばミラもだろ?」

「私はシロウ様に買って頂きましたから。」

買ってもらったことが誕生日プレゼントになるのか?

むしろ買われたって方じゃないんだろうか。

そう言いながらアネットと同じく指輪を見つめるミラ。

そんなに嬉しいものなのかねぇ。

この調子だと間違いなくエリザも指輪っていうよな。

「それでいいのか?」

「はい。指輪も含めてこれ以上幸せなことはありません。」

「それなら俺が言うことは何もない。あぁ、さっきアネットにも言ったが俺の誕生日が過ぎているからと言って何かしようとするなよ。」

「どうしてですか?」

「恥ずかしいからな。」

ミラはただ笑うだけだった。

よし、これで『忘れていた誕生日プレゼントです』とかいって襲われることはなくなったはずだ。

三人がかりは死ぬ。

マジで死ぬ。

まだ一度しか経験したことはないがそれは目に見えている。

だからそうならないように前もって言っておくんだ。

さすが俺、完璧な計算だ。

「次はエリザ様の誕生日ですね。」

「そうだな、エリザ、アネット、そしてミラの順番だ。」

「次の誕生日は期待してくださいね。」

「出来れば無難に過ごしたいんだが・・・。」

「恐らく、いえ間違いなく無理かと。」

奴隷だからと言ってそこまで主人に尽くす必要はないと思うんだがなぁ。

エリザもそうだ。

もう惚れた腫れたのレベルを超えているんだから、無理をしなくてもいいのに。

困った女たちだよ。

「それだけシロウ様が私達に与えてくれたものが大きいという事です、諦めてください。」

「与えはしたが、返ってくる量がおかしすぎないか?」

「むしろまだ足りませんよ。」

「嘘だろ。」

「嘘ではありません。」

「・・・愛が重い。」

重すぎて俺には支えられないような気がしてきた。

ここはひとつスリム化を図ってだなぁ。

「いらっしゃい。」

「邪魔するぞ。」

「あぁ遠慮なく邪魔してくれ。」

「なんだよいつもと違うじゃねぇか、気持ち悪いな。」

そんなことを考えているといつものように空気を読まず、いや、今日は空気を読んでダンが店にやってきた。

「そういう日もあるんだよ、気にするな。で、今日はどうした?手ぶらみたいだが。」

「悪い。今日は本当に邪魔しに来たんだ。」

「なに?」

「実はな、最近リンカがかなり俺にべったりでダンジョンにも行くなって言いだすんだ。こっちはそれで食ってるのにだぜ?引っぺがしてダンジョンに行くと、戻った時に超不機嫌でさぁ・・・。」

まさかのお前もそっち系の話かよ。

ココは何時からそんな店になったんだ?

相談なら他所に行け他所に。

「リンカ様も寂しいのだと思います。危険な場所に行くわけですから。」

「それはわかるんだが、どうにかならないか?」

「時間を掛けて説得するしかないでしょう。」

「マジかぁ・・・。でもそうだよな、俺だってリンカに何かあったら・・・。」

こりゃ駄目だ。

俺無しで盛り上がってやがる。

上に戻ればエリザ達が、ここにいてもミラ達が甘酸っぱい話をしている。

やってられるか。

そんな彼らを置いて俺は店を出る。

とはいえすることも無く買い付けのお金も持ってきていないので、ぶらぶらと街を歩きふとマスターに愚痴を言おうと三日月亭へ足を延ばしたのが、今日一番の過ちだった。

「あ、シロウさん!聞いて下さいよ!」

終わった。

店に入るやいなやリンカに捕まってしまった。

マスターは俺にサムズアップすると裏へと消えていく。

まじかよ。

「ダンったらひどいんですよ、私が一緒にいたいから行かないでって言ったのにそれを無視してダンジョンに行って、それで・・・。」

今日は厄日だな。

誕生日だかなんだが知らないが、何事もなく平穏に過ごしたい。

色恋なんてまっぴらごめんだ。

そんなことを考えながらマシンガンのように降り注ぐリンカの愚痴を聞かされ続けるのだった。
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