98 / 1,027
98.転売屋は薬を作る理由を知る
しおりを挟む
冒険者の持ち込んだ素材の中に偶然アルマディロスの甲羅があったので、そのまま買い取り付着していたコケを採取する事が出来た。
脂を持って帰ってきたアネットがそれを持って急ぎ調合してみた結果、予想通りの効果を得ることができたようだ。
量産は難しいが、それでもある程度の数を作ることはできそうだな。
「取引板への掲示完了しました。」
「こっちもギルドへの依頼終わったわよ。」
「二人共ご苦労さん、首尾はどんな感じだ?」
製薬できると判明してから三日後。
俺たちは量産に向けて行動を開始した。
「モースアルマディロスの甲羅はコケ付きという条件で一匹に付き銀貨3枚の値段にしたわ。かなり高いけど、その分早く集まると思う。五匹分で良かったのよね?」
「そうだ。一匹で結構な量を作れるからな、余っても困る。足りなきゃまた募集すればいい。」
「ニアが何に使うのか気にしてたけど、教えてよかったのよね?」
「隠すような事じゃないからな、取引板にも掲示するし問題ない。」
『モースアルマディロスの甲羅。アルマディロの亜種で全身がコケに覆われている。かなり臆病で捕まえるのが難しい。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨7枚、最終取引日は今より489日前と記録されています。』
冒険者が好んで倒さないかつ、自分から逃げるせいもあってなかなか取引されていないようだった。
この間の冒険者も、逃げていたアルマディロスが突然前に出てきたので偶然討伐したと言っていた。
素材が他に使われるような事も無いようなので今後も俺たち以外に使うことはないだろう。
他の街ではモースタートルで作ればいいし、わざわざアルマディオスにこだわる必要はない。
「オプリムの薬は銀貨2枚で過去に取引されていましたので、銀貨1.5枚で張り出しておきました。初期個数は10個、需要によっては増産すると職員さんには伝えています。」
「薬師がいなかったこともあってかなりの個数取引されていたそうだな。」
「隣町から仕入れるので値段が高くなっているのにもかかわらずです。通常の価格は銀貨1枚ですから倍になっても買いたかったという事でしょう。」
「需要は見込める。あとは増産できるかが勝負だな。」
アルマディオス一匹で100個分の薬が作れる。
今回の取引で500人分。
脂はイライザさんの所に大量に眠っていたので、食器と引き換えに買い取った。
「無理をしないようには言ってありますが、聞いていただけるか・・・。」
「そしたらシロウに抱いてもらえないことにしたらいいのよ。私なら絶対にしないわ。」
「確かにエリザ様や私でしたら効果あるかもしれませんが、アネットさんに効果があるかどうか。」
「まぁ注意はしておいてくれ。ルティエのように倒れられても困る。」
ルティエ同様熱が入ると周りが見えなくなるタイプのようだ。
職人気質に多いのはどうしてなんだろうな。
「フールの言う事は聞かないしね。」
「むしろフールに言わせたほうが効果あるかもしれないぞ。あいつにバカにされたとなったら嫌でも休むだろう。」
「そんなこと言って、あとでどうなっても知らないわよ。」
「困るのはフールだからな、俺に何の問題もない。」
「最低。」
「はっはっは、褒めるな。」
「褒めてないわよ。」
なんだそうなのか、残念。
だが間違いなく効果はあると思うぞ。
『周りが見えなくなるなら兄さんが声をかけてやろうか?』
そんな感じでも反発して休憩するようになるかもしれない。
かもだけどな。
「そういえばその兄貴の姿を見ないんだが、死んだのか?」
「死んでねぇ!」
「なんだ戻ってたのか、声ぐらいかけろよ。」
「今戻ってきたばかりなんだよ。で、アネットがどうかしたのか?」
「なんでもない、気にするなシスコン。」
「なんだよシスコンって。」
お前の事だよとだけ言っておいた。
どうやら本当に偶然帰ってきたようで、鎧には返り血がついている。
「で、今回は何してたんだ?」
「他のPTに声をかけてもらって奥まで行ってたんだ。見てくれよ、なかなかの品だろ?」
そういいながらバカ兄貴が取り出したのは古ぼけた小さな指輪だった。
それを手に取り鑑定してみる。
『体力の指輪。装備すると疲れにくくなり通常以上の活動が出来るようになる。最近の平均取引価格は金貨2枚と銀貨50枚。最安値が金貨1枚、最高値が金貨3枚と銀貨70枚、最終取引日は51日前と記録されています。』
体力の指輪か。
力の指輪より値段が高いのはどんな冒険者でも使えるからだろうか。
何なら冒険者だけじゃなく一般市民も使えるしな。
「ほぉ、体力の指輪か。良い物を当てたな。」
「だろ?均等割りするからできるだけ高く買ってほしいんだけど・・・いくらになる?」
「何人だ?」
「俺を入れて四人だ。」
「そうだな・・・金貨1.6枚ぐらいか。」
「いやいや金貨2枚ぐらいにしてくれよ。」
「そんな高値で買い取れるかよ。」
本当なら金貨1.2枚だが需要から計算して高く買い取ってるんだ。
「この通り!また今度いいやつ持ってくるから!」
「ほかの冒険者も同じことを言うよ。で、今度っていつなんだ?」
「そ、それは・・・。」
「だがまぁ、タイミングがいいのは間違いない。金貨2枚で買い取ってやる。」
「本当か!」
「アネットに感謝するんだな。」
不思議そうな顔をするバカ兄貴にいつの間にかミラが用意してくれていた大量の銀貨を押し付ける。
均等割りするってことは両替する必要があるってことだ。
その辺も考えてうちは代金を渡すようにしている。
こういうのが後々効果があったりするんだよな。
「助かった!」
「無茶すんじゃないぞ。」
重たそうに銀貨の詰まった袋を抱えてバカ兄貴は店を出て行った。
妹思いの兄貴ということにしておいてやるか。
「アネット様にですか?」
「あぁ、言っても無茶をするだろうからな、おまけにはなるだろ。」
「おまけって・・・体力の指輪ってそんな簡単に買えるものじゃないんだけど。シロウと一緒だと金銭感覚がおかしくなるわ。」
「扱っている金額が金額ですから。でも、私がここでお世話になってから一度も高すぎる値段で買い取ったりされないんです。凄いですよね。」
「確かにそうよね。素材も絶対にギルドより安く買ってるし・・・。なんで?」
「企業秘密だ。」
鑑定スキルについては教えているが、相場スキルについては誰にもばらしたことはない。
もし他にいるんだったらばらしていいかもしれないが、見つかるまではダメだ。
ちなみに異世界から来たってことも話していない。
話さずにここまでこれたし今後も言うつもりないしな。
「まぁいいじゃないか。とりあえずこれはアネットに渡してくる。」
「ねぇ、次に手に入ったら私も欲しい。」
「自分で買え。」
「えーケチ!」
ブーブー言うエリザを放っておいて二階に行き、さらに出しっぱなしの階段から隠し部屋へと上がる。
もう隠してないから隠し部屋でもないか。
窓がついたので換気も明るさもばっちりだ。
なんせ天窓まで付いたからね!
「アネットいいか?」
「あ、ご主人様気づきませんでした。」
「あまり根を詰めるな…って言っても無理だろうからこれをつけろ。」
フルミリエの花を粉末にする作業に没頭していて、俺が上がってきたことにすら気が付かず、声をかけて初めて顔を上げた。
素材が集まってから丸二日この調子だ。
目の下にクマが出来ている。
美人が台無しだぞ。
「これは?」
「体力の指輪だ。ミラも真実の指輪を付けているしな、奴隷の証だと思ってくれ。」
「こんなすごいものを、本当にいいのですか?」
嬉しそうに指輪を両手で包み込むアネット。
兄貴が持ってきたのは黙っておくほうがいいだろう。
「いいから渡すんだ。だがこれを付けたからもっと働けっていうわけじゃない、適度に休まないと大変なことになる。と、エリザが言っていたぞ。」
「大変なことですか?」
「聞けばわかる。区切りはいいのか?」
「これを粉末にすれば一段落出来ます。500個分の素材にはまだもう少しかかりますけど。」
「別に一回で500個分作れというわけじゃない、様子を見ていくから少量ずつ作ってくれ。」
「わかりました。」
本当に分かったんだろうか。
これは本当にエリザの作戦を実行する必要があるのかもしれない。
自分から言い出した製薬だから失敗したくないという気持ちが強いのかもしれないが、安心しろ絶対に売れる。
それは過去の統計を見ても明らかだ。
というか、アネットの薬が売れないはずがない。
なにせこの街で一人だけの薬師なんだから。
「なぁアネット、どうしてこの薬を作りたかったんだ?」
「どうして、ですか?」
「儲かるからというのはわかる。だが俺には他の理由があると思うんだが。」
「そんなことありません。」
「本当か?」
「はい。ただご主人様が儲かるにはどうすればいいかを考えて・・・。」
「嘘ついたらもう抱いてやらないぞ。」
「・・・それは卑怯です。」
効果は絶大だ!
あの二人はともかくアネットにも効果があるとは。
しているときはそんなに積極的じゃないからそうでもないのかと思っていたんだがなぁ。
「ってことはやはりあるんだな。」
俺の顔を見て何かをじっと考えているアネット。
あれだろうか、突っ込んじゃいけない部分に首を突っ込んだろうか。
誰にも聞かれたくないことの一つや二つあるもんなぁ。
「子供の頃にこの病気にかかって大変な思いをしたんです。それから毎年この時期になると薬を作る事にしました。」
「なるほどなぁ。」
「それと・・・。」
「まだあるのか?」
「私、子供が好きなんです。元気になった顔を見るとなんだか嬉しくなっちゃって、それで。」
「アネットのおかげで今年からこの街の子供たちが元気になるんだ、良い理由じゃないか。なるほど、無理をする理由が分かった気がする。」
「すみません、お金儲けを理由にしてしまって。」
てっきりアレな理由があるのかと思ったんだが、むしろそういう理由でよかった。
これで安心して売ることが出来る。
「なら余計に無茶は出来ないな。しっかり休め、そしてしっかり作れ。」
「はい、頑張ります!」
「ちなみに俺も感染する可能性が有るのか?」
「大人も罹るので可能性は十分にあります。」
「出来たら一人分くれ。」
「ふふふ、もちろんです。」
この前の花粉症は問題なかったが、元の世界にはない病気も沢山あるだろう。
免疫のない俺がかかる可能性はかなり高いと言えるだろう。
なるほど、そういう理由でも薬師を買って正解だったかもしれないな。
指輪を嵌め、嬉しそうな顔をするアネット。
その笑顔が見れただけで俺は十分だよ。
兄貴が持ってきたってのはやっぱり言わないけどな。
脂を持って帰ってきたアネットがそれを持って急ぎ調合してみた結果、予想通りの効果を得ることができたようだ。
量産は難しいが、それでもある程度の数を作ることはできそうだな。
「取引板への掲示完了しました。」
「こっちもギルドへの依頼終わったわよ。」
「二人共ご苦労さん、首尾はどんな感じだ?」
製薬できると判明してから三日後。
俺たちは量産に向けて行動を開始した。
「モースアルマディロスの甲羅はコケ付きという条件で一匹に付き銀貨3枚の値段にしたわ。かなり高いけど、その分早く集まると思う。五匹分で良かったのよね?」
「そうだ。一匹で結構な量を作れるからな、余っても困る。足りなきゃまた募集すればいい。」
「ニアが何に使うのか気にしてたけど、教えてよかったのよね?」
「隠すような事じゃないからな、取引板にも掲示するし問題ない。」
『モースアルマディロスの甲羅。アルマディロの亜種で全身がコケに覆われている。かなり臆病で捕まえるのが難しい。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨7枚、最終取引日は今より489日前と記録されています。』
冒険者が好んで倒さないかつ、自分から逃げるせいもあってなかなか取引されていないようだった。
この間の冒険者も、逃げていたアルマディロスが突然前に出てきたので偶然討伐したと言っていた。
素材が他に使われるような事も無いようなので今後も俺たち以外に使うことはないだろう。
他の街ではモースタートルで作ればいいし、わざわざアルマディオスにこだわる必要はない。
「オプリムの薬は銀貨2枚で過去に取引されていましたので、銀貨1.5枚で張り出しておきました。初期個数は10個、需要によっては増産すると職員さんには伝えています。」
「薬師がいなかったこともあってかなりの個数取引されていたそうだな。」
「隣町から仕入れるので値段が高くなっているのにもかかわらずです。通常の価格は銀貨1枚ですから倍になっても買いたかったという事でしょう。」
「需要は見込める。あとは増産できるかが勝負だな。」
アルマディオス一匹で100個分の薬が作れる。
今回の取引で500人分。
脂はイライザさんの所に大量に眠っていたので、食器と引き換えに買い取った。
「無理をしないようには言ってありますが、聞いていただけるか・・・。」
「そしたらシロウに抱いてもらえないことにしたらいいのよ。私なら絶対にしないわ。」
「確かにエリザ様や私でしたら効果あるかもしれませんが、アネットさんに効果があるかどうか。」
「まぁ注意はしておいてくれ。ルティエのように倒れられても困る。」
ルティエ同様熱が入ると周りが見えなくなるタイプのようだ。
職人気質に多いのはどうしてなんだろうな。
「フールの言う事は聞かないしね。」
「むしろフールに言わせたほうが効果あるかもしれないぞ。あいつにバカにされたとなったら嫌でも休むだろう。」
「そんなこと言って、あとでどうなっても知らないわよ。」
「困るのはフールだからな、俺に何の問題もない。」
「最低。」
「はっはっは、褒めるな。」
「褒めてないわよ。」
なんだそうなのか、残念。
だが間違いなく効果はあると思うぞ。
『周りが見えなくなるなら兄さんが声をかけてやろうか?』
そんな感じでも反発して休憩するようになるかもしれない。
かもだけどな。
「そういえばその兄貴の姿を見ないんだが、死んだのか?」
「死んでねぇ!」
「なんだ戻ってたのか、声ぐらいかけろよ。」
「今戻ってきたばかりなんだよ。で、アネットがどうかしたのか?」
「なんでもない、気にするなシスコン。」
「なんだよシスコンって。」
お前の事だよとだけ言っておいた。
どうやら本当に偶然帰ってきたようで、鎧には返り血がついている。
「で、今回は何してたんだ?」
「他のPTに声をかけてもらって奥まで行ってたんだ。見てくれよ、なかなかの品だろ?」
そういいながらバカ兄貴が取り出したのは古ぼけた小さな指輪だった。
それを手に取り鑑定してみる。
『体力の指輪。装備すると疲れにくくなり通常以上の活動が出来るようになる。最近の平均取引価格は金貨2枚と銀貨50枚。最安値が金貨1枚、最高値が金貨3枚と銀貨70枚、最終取引日は51日前と記録されています。』
体力の指輪か。
力の指輪より値段が高いのはどんな冒険者でも使えるからだろうか。
何なら冒険者だけじゃなく一般市民も使えるしな。
「ほぉ、体力の指輪か。良い物を当てたな。」
「だろ?均等割りするからできるだけ高く買ってほしいんだけど・・・いくらになる?」
「何人だ?」
「俺を入れて四人だ。」
「そうだな・・・金貨1.6枚ぐらいか。」
「いやいや金貨2枚ぐらいにしてくれよ。」
「そんな高値で買い取れるかよ。」
本当なら金貨1.2枚だが需要から計算して高く買い取ってるんだ。
「この通り!また今度いいやつ持ってくるから!」
「ほかの冒険者も同じことを言うよ。で、今度っていつなんだ?」
「そ、それは・・・。」
「だがまぁ、タイミングがいいのは間違いない。金貨2枚で買い取ってやる。」
「本当か!」
「アネットに感謝するんだな。」
不思議そうな顔をするバカ兄貴にいつの間にかミラが用意してくれていた大量の銀貨を押し付ける。
均等割りするってことは両替する必要があるってことだ。
その辺も考えてうちは代金を渡すようにしている。
こういうのが後々効果があったりするんだよな。
「助かった!」
「無茶すんじゃないぞ。」
重たそうに銀貨の詰まった袋を抱えてバカ兄貴は店を出て行った。
妹思いの兄貴ということにしておいてやるか。
「アネット様にですか?」
「あぁ、言っても無茶をするだろうからな、おまけにはなるだろ。」
「おまけって・・・体力の指輪ってそんな簡単に買えるものじゃないんだけど。シロウと一緒だと金銭感覚がおかしくなるわ。」
「扱っている金額が金額ですから。でも、私がここでお世話になってから一度も高すぎる値段で買い取ったりされないんです。凄いですよね。」
「確かにそうよね。素材も絶対にギルドより安く買ってるし・・・。なんで?」
「企業秘密だ。」
鑑定スキルについては教えているが、相場スキルについては誰にもばらしたことはない。
もし他にいるんだったらばらしていいかもしれないが、見つかるまではダメだ。
ちなみに異世界から来たってことも話していない。
話さずにここまでこれたし今後も言うつもりないしな。
「まぁいいじゃないか。とりあえずこれはアネットに渡してくる。」
「ねぇ、次に手に入ったら私も欲しい。」
「自分で買え。」
「えーケチ!」
ブーブー言うエリザを放っておいて二階に行き、さらに出しっぱなしの階段から隠し部屋へと上がる。
もう隠してないから隠し部屋でもないか。
窓がついたので換気も明るさもばっちりだ。
なんせ天窓まで付いたからね!
「アネットいいか?」
「あ、ご主人様気づきませんでした。」
「あまり根を詰めるな…って言っても無理だろうからこれをつけろ。」
フルミリエの花を粉末にする作業に没頭していて、俺が上がってきたことにすら気が付かず、声をかけて初めて顔を上げた。
素材が集まってから丸二日この調子だ。
目の下にクマが出来ている。
美人が台無しだぞ。
「これは?」
「体力の指輪だ。ミラも真実の指輪を付けているしな、奴隷の証だと思ってくれ。」
「こんなすごいものを、本当にいいのですか?」
嬉しそうに指輪を両手で包み込むアネット。
兄貴が持ってきたのは黙っておくほうがいいだろう。
「いいから渡すんだ。だがこれを付けたからもっと働けっていうわけじゃない、適度に休まないと大変なことになる。と、エリザが言っていたぞ。」
「大変なことですか?」
「聞けばわかる。区切りはいいのか?」
「これを粉末にすれば一段落出来ます。500個分の素材にはまだもう少しかかりますけど。」
「別に一回で500個分作れというわけじゃない、様子を見ていくから少量ずつ作ってくれ。」
「わかりました。」
本当に分かったんだろうか。
これは本当にエリザの作戦を実行する必要があるのかもしれない。
自分から言い出した製薬だから失敗したくないという気持ちが強いのかもしれないが、安心しろ絶対に売れる。
それは過去の統計を見ても明らかだ。
というか、アネットの薬が売れないはずがない。
なにせこの街で一人だけの薬師なんだから。
「なぁアネット、どうしてこの薬を作りたかったんだ?」
「どうして、ですか?」
「儲かるからというのはわかる。だが俺には他の理由があると思うんだが。」
「そんなことありません。」
「本当か?」
「はい。ただご主人様が儲かるにはどうすればいいかを考えて・・・。」
「嘘ついたらもう抱いてやらないぞ。」
「・・・それは卑怯です。」
効果は絶大だ!
あの二人はともかくアネットにも効果があるとは。
しているときはそんなに積極的じゃないからそうでもないのかと思っていたんだがなぁ。
「ってことはやはりあるんだな。」
俺の顔を見て何かをじっと考えているアネット。
あれだろうか、突っ込んじゃいけない部分に首を突っ込んだろうか。
誰にも聞かれたくないことの一つや二つあるもんなぁ。
「子供の頃にこの病気にかかって大変な思いをしたんです。それから毎年この時期になると薬を作る事にしました。」
「なるほどなぁ。」
「それと・・・。」
「まだあるのか?」
「私、子供が好きなんです。元気になった顔を見るとなんだか嬉しくなっちゃって、それで。」
「アネットのおかげで今年からこの街の子供たちが元気になるんだ、良い理由じゃないか。なるほど、無理をする理由が分かった気がする。」
「すみません、お金儲けを理由にしてしまって。」
てっきりアレな理由があるのかと思ったんだが、むしろそういう理由でよかった。
これで安心して売ることが出来る。
「なら余計に無茶は出来ないな。しっかり休め、そしてしっかり作れ。」
「はい、頑張ります!」
「ちなみに俺も感染する可能性が有るのか?」
「大人も罹るので可能性は十分にあります。」
「出来たら一人分くれ。」
「ふふふ、もちろんです。」
この前の花粉症は問題なかったが、元の世界にはない病気も沢山あるだろう。
免疫のない俺がかかる可能性はかなり高いと言えるだろう。
なるほど、そういう理由でも薬師を買って正解だったかもしれないな。
指輪を嵌め、嬉しそうな顔をするアネット。
その笑顔が見れただけで俺は十分だよ。
兄貴が持ってきたってのはやっぱり言わないけどな。
10
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる