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98.転売屋は薬を作る理由を知る

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冒険者の持ち込んだ素材の中に偶然アルマディロスの甲羅があったので、そのまま買い取り付着していたコケを採取する事が出来た。

脂を持って帰ってきたアネットがそれを持って急ぎ調合してみた結果、予想通りの効果を得ることができたようだ。

量産は難しいが、それでもある程度の数を作ることはできそうだな。

「取引板への掲示完了しました。」

「こっちもギルドへの依頼終わったわよ。」

「二人共ご苦労さん、首尾はどんな感じだ?」

製薬できると判明してから三日後。

俺たちは量産に向けて行動を開始した。

「モースアルマディロスの甲羅はコケ付きという条件で一匹に付き銀貨3枚の値段にしたわ。かなり高いけど、その分早く集まると思う。五匹分で良かったのよね?」

「そうだ。一匹で結構な量を作れるからな、余っても困る。足りなきゃまた募集すればいい。」

「ニアが何に使うのか気にしてたけど、教えてよかったのよね?」

「隠すような事じゃないからな、取引板にも掲示するし問題ない。」

『モースアルマディロスの甲羅。アルマディロの亜種で全身がコケに覆われている。かなり臆病で捕まえるのが難しい。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨7枚、最終取引日は今より489日前と記録されています。』

冒険者が好んで倒さないかつ、自分から逃げるせいもあってなかなか取引されていないようだった。

この間の冒険者も、逃げていたアルマディロスが突然前に出てきたので偶然討伐したと言っていた。

素材が他に使われるような事も無いようなので今後も俺たち以外に使うことはないだろう。

他の街ではモースタートルで作ればいいし、わざわざアルマディオスにこだわる必要はない。

「オプリムの薬は銀貨2枚で過去に取引されていましたので、銀貨1.5枚で張り出しておきました。初期個数は10個、需要によっては増産すると職員さんには伝えています。」

「薬師がいなかったこともあってかなりの個数取引されていたそうだな。」

「隣町から仕入れるので値段が高くなっているのにもかかわらずです。通常の価格は銀貨1枚ですから倍になっても買いたかったという事でしょう。」

「需要は見込める。あとは増産できるかが勝負だな。」

アルマディオス一匹で100個分の薬が作れる。

今回の取引で500人分。

脂はイライザさんの所に大量に眠っていたので、食器と引き換えに買い取った。

「無理をしないようには言ってありますが、聞いていただけるか・・・。」

「そしたらシロウに抱いてもらえないことにしたらいいのよ。私なら絶対にしないわ。」

「確かにエリザ様や私でしたら効果あるかもしれませんが、アネットさんに効果があるかどうか。」

「まぁ注意はしておいてくれ。ルティエのように倒れられても困る。」

ルティエ同様熱が入ると周りが見えなくなるタイプのようだ。

職人気質に多いのはどうしてなんだろうな。

「フールの言う事は聞かないしね。」

「むしろフールに言わせたほうが効果あるかもしれないぞ。あいつにバカにされたとなったら嫌でも休むだろう。」

「そんなこと言って、あとでどうなっても知らないわよ。」

「困るのはフールだからな、俺に何の問題もない。」

「最低。」

「はっはっは、褒めるな。」

「褒めてないわよ。」

なんだそうなのか、残念。

だが間違いなく効果はあると思うぞ。

『周りが見えなくなるなら兄さんが声をかけてやろうか?』

そんな感じでも反発して休憩するようになるかもしれない。

かもだけどな。

「そういえばその兄貴の姿を見ないんだが、死んだのか?」

「死んでねぇ!」

「なんだ戻ってたのか、声ぐらいかけろよ。」

「今戻ってきたばかりなんだよ。で、アネットがどうかしたのか?」

「なんでもない、気にするなシスコン。」

「なんだよシスコンって。」

お前の事だよとだけ言っておいた。

どうやら本当に偶然帰ってきたようで、鎧には返り血がついている。

「で、今回は何してたんだ?」

「他のPTに声をかけてもらって奥まで行ってたんだ。見てくれよ、なかなかの品だろ?」

そういいながらバカ兄貴が取り出したのは古ぼけた小さな指輪だった。

それを手に取り鑑定してみる。

『体力の指輪。装備すると疲れにくくなり通常以上の活動が出来るようになる。最近の平均取引価格は金貨2枚と銀貨50枚。最安値が金貨1枚、最高値が金貨3枚と銀貨70枚、最終取引日は51日前と記録されています。』

体力の指輪か。

力の指輪より値段が高いのはどんな冒険者でも使えるからだろうか。

何なら冒険者だけじゃなく一般市民も使えるしな。

「ほぉ、体力の指輪か。良い物を当てたな。」

「だろ?均等割りするからできるだけ高く買ってほしいんだけど・・・いくらになる?」

「何人だ?」

「俺を入れて四人だ。」

「そうだな・・・金貨1.6枚ぐらいか。」

「いやいや金貨2枚ぐらいにしてくれよ。」

「そんな高値で買い取れるかよ。」

本当なら金貨1.2枚だが需要から計算して高く買い取ってるんだ。

「この通り!また今度いいやつ持ってくるから!」

「ほかの冒険者も同じことを言うよ。で、今度っていつなんだ?」

「そ、それは・・・。」

「だがまぁ、タイミングがいいのは間違いない。金貨2枚で買い取ってやる。」

「本当か!」

「アネットに感謝するんだな。」

不思議そうな顔をするバカ兄貴にいつの間にかミラが用意してくれていた大量の銀貨を押し付ける。

均等割りするってことは両替する必要があるってことだ。

その辺も考えてうちは代金を渡すようにしている。

こういうのが後々効果があったりするんだよな。

「助かった!」

「無茶すんじゃないぞ。」

重たそうに銀貨の詰まった袋を抱えてバカ兄貴は店を出て行った。

妹思いの兄貴ということにしておいてやるか。

「アネット様にですか?」

「あぁ、言っても無茶をするだろうからな、おまけにはなるだろ。」

「おまけって・・・体力の指輪ってそんな簡単に買えるものじゃないんだけど。シロウと一緒だと金銭感覚がおかしくなるわ。」

「扱っている金額が金額ですから。でも、私がここでお世話になってから一度も高すぎる値段で買い取ったりされないんです。凄いですよね。」

「確かにそうよね。素材も絶対にギルドより安く買ってるし・・・。なんで?」

「企業秘密だ。」

鑑定スキルについては教えているが、相場スキルについては誰にもばらしたことはない。

もし他にいるんだったらばらしていいかもしれないが、見つかるまではダメだ。

ちなみに異世界から来たってことも話していない。

話さずにここまでこれたし今後も言うつもりないしな。

「まぁいいじゃないか。とりあえずこれはアネットに渡してくる。」

「ねぇ、次に手に入ったら私も欲しい。」

「自分で買え。」

「えーケチ!」

ブーブー言うエリザを放っておいて二階に行き、さらに出しっぱなしの階段から隠し部屋へと上がる。

もう隠してないから隠し部屋でもないか。

窓がついたので換気も明るさもばっちりだ。

なんせ天窓まで付いたからね!

「アネットいいか?」

「あ、ご主人様気づきませんでした。」

「あまり根を詰めるな…って言っても無理だろうからこれをつけろ。」

フルミリエの花を粉末にする作業に没頭していて、俺が上がってきたことにすら気が付かず、声をかけて初めて顔を上げた。

素材が集まってから丸二日この調子だ。

目の下にクマが出来ている。

美人が台無しだぞ。

「これは?」

「体力の指輪だ。ミラも真実の指輪を付けているしな、奴隷の証だと思ってくれ。」

「こんなすごいものを、本当にいいのですか?」

嬉しそうに指輪を両手で包み込むアネット。

兄貴が持ってきたのは黙っておくほうがいいだろう。

「いいから渡すんだ。だがこれを付けたからもっと働けっていうわけじゃない、適度に休まないと大変なことになる。と、エリザが言っていたぞ。」

「大変なことですか?」

「聞けばわかる。区切りはいいのか?」

「これを粉末にすれば一段落出来ます。500個分の素材にはまだもう少しかかりますけど。」

「別に一回で500個分作れというわけじゃない、様子を見ていくから少量ずつ作ってくれ。」

「わかりました。」

本当に分かったんだろうか。

これは本当にエリザの作戦を実行する必要があるのかもしれない。

自分から言い出した製薬だから失敗したくないという気持ちが強いのかもしれないが、安心しろ絶対に売れる。

それは過去の統計を見ても明らかだ。

というか、アネットの薬が売れないはずがない。

なにせこの街で一人だけの薬師なんだから。

「なぁアネット、どうしてこの薬を作りたかったんだ?」

「どうして、ですか?」

「儲かるからというのはわかる。だが俺には他の理由があると思うんだが。」

「そんなことありません。」

「本当か?」

「はい。ただご主人様が儲かるにはどうすればいいかを考えて・・・。」

「嘘ついたらもう抱いてやらないぞ。」

「・・・それは卑怯です。」

効果は絶大だ!

あの二人はともかくアネットにも効果があるとは。

しているときはそんなに積極的じゃないからそうでもないのかと思っていたんだがなぁ。

「ってことはやはりあるんだな。」

俺の顔を見て何かをじっと考えているアネット。

あれだろうか、突っ込んじゃいけない部分に首を突っ込んだろうか。

誰にも聞かれたくないことの一つや二つあるもんなぁ。

「子供の頃にこの病気にかかって大変な思いをしたんです。それから毎年この時期になると薬を作る事にしました。」

「なるほどなぁ。」

「それと・・・。」

「まだあるのか?」

「私、子供が好きなんです。元気になった顔を見るとなんだか嬉しくなっちゃって、それで。」

「アネットのおかげで今年からこの街の子供たちが元気になるんだ、良い理由じゃないか。なるほど、無理をする理由が分かった気がする。」

「すみません、お金儲けを理由にしてしまって。」

てっきりアレな理由があるのかと思ったんだが、むしろそういう理由でよかった。

これで安心して売ることが出来る。

「なら余計に無茶は出来ないな。しっかり休め、そしてしっかり作れ。」

「はい、頑張ります!」

「ちなみに俺も感染する可能性が有るのか?」

「大人も罹るので可能性は十分にあります。」

「出来たら一人分くれ。」

「ふふふ、もちろんです。」

この前の花粉症は問題なかったが、元の世界にはない病気も沢山あるだろう。

免疫のない俺がかかる可能性はかなり高いと言えるだろう。

なるほど、そういう理由でも薬師を買って正解だったかもしれないな。

指輪を嵌め、嬉しそうな顔をするアネット。

その笑顔が見れただけで俺は十分だよ。

兄貴が持ってきたってのはやっぱり言わないけどな。
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