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95.転売屋は噂の店を探す
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特に何をしていなくても、時間は流れていく。
いや、何もしていないわけじゃない。
ちゃんと商売はしている。
冒険者が減ったとはいえダンジョンがある限りうちの店に需要はある。
早急に金が欲しい、売るのがめんどくさい、呪われている。
色々な事情で持ち込まれる商品を買い取っては販売し、高く売れる魔物の素材をコツコツと蓄えていく。
それがうちの仕事だ。
加えてアネットが薬師として無双し続けているので働かなくても金は入って来る。
あ、ルティエの商売も順調なので涙貝の卸で同じく金は入る。
不労所得様様ってやつだな。
「ねぇシロウ、面白い話を聞いたんだけど聞く?」
「わざわざそう言う話は面白くない場合が多いから聞かない。」
「もー!聞いてくれてもいいでしょ!」
「わかったわかった、聞くからそんな大声を出すな。」
「エリザ様は構ってほしいんだと思いますよ。」
「それもあるんだけどさぁ・・・。ねぇ散歩しない?」
「はぁ?もう夜だぞ?娼館街以外どこ行くっていうんだよ。」
日が暮れると飲食店以外のほとんどの店は閉店する。
人が出歩かないから商売にならないのが理由だ。
うちもそれに倣いよっぽどの事がない限りは閉店する。
その後イライザさんの店に行ったりすることはあるが散歩をすることはなかった。
街の外は見渡す限りの平原だ。
夜景を楽しむ場所も静かな小川なんかもない。
要はロマンティックな場所なんて夜の蝶達がいる歓楽街以外はないって事だな。
「満月の日にだけ出店しているお店があるんだって、神出鬼没でどこに店を出すかはわからないんだけど、すっごい美味しい物を売ってるって噂なの。」
「美味しい物ってどんなのだよ。」
「さぁ、そこまでは知らない。だから探すのよ。」
「夕食をたらふく食ったからなぁ、〆のラーメン的なのも入らないぞ。」
「甘味ならはいるでしょ?」
「甘すぎるのは無理だ。さっぱりしているのならいけるかもしれんが・・・。」
甘味。
そう聞いた途端ミラとアネットの顔つきが変わった。
ほんと女ってやつは甘いものが好きだなぁ。
こんな時間に甘い物なんて食べたら牛まっしぐらだっていうのに。
三人共スタイルは良いから多少増えても問題ないが、増えすぎは困るぞ。
「広い街ではありません、のんびりと歩けば見つかるのではないでしょうか。」
「幸い今日は満月ですし、腹ごなしにもいいと思います。」
「でしょでしょ!ねぇ行こうよ。」
「この時点で三対一だ、いくしかないだろ。それに女三人で行かせるわけにもいかないしな。」
「ふふふ、そういう所が優しいのよね。」
「但し二時間だ、それ以上探してなかったら帰って寝るぞ。」
「やった!」
エリザが飛び跳ねて大喜びする。
夜の街なぁ。
そう言えばここに来て夜にうろついた事ってなかったきがする。
出る用事もなかったし、娼館に寄る以外は興味すらなかった。
夜の巷を行く、なんてテレビ番組もあった気がする。
もしかすると新しい発見があるかもしれないな。
最近何もなさ過ぎてそう言うのを期待していた部分はある。
そうと決まれば即行動だ。
持ち物は財布だけ。
護衛はエリザがいるから問題ないだろう。
アネットも護身術ぐらいはできるそうだから俺とミラさえ守ってもらえば大丈夫だ。
「しゅっぱーつ!」
「夜なんだからもう少し声を下げろ、迷惑になるだろ。」
「えへへ、ごめんなさい。」
妙にテンションの高いエリザを先頭にゾロゾロと暗い大通りを進む。
街灯がいたるところにある元の世界と違って、明かりなんてポツポツとしかついていない。
それでもビビらず歩けるのは頭上に輝く巨大な月のおかげだ。
デカイ。
重力関係とか大丈夫なのかと不安になるぐらいにデカイ。
そのでかい奴が乳白色の明かりを地上にたくさん届けてくれるおかげで、真昼とは言わないが夜明け前ぐらいの明るさはある。
そう言えばあのバカ兄貴に襲われた日も月明かりがすごかったな。
「う~ん、無いなぁ。」
「大通りにあれば噂じゃなくて普通に情報が出回るだろ。そう言うのは大概人気のない所にあるもんだ。」
「確かにそうね。」
「人気のない所となると、市場とかでしょうか。」
「北側の礼拝所付近も夜は人気がありませんね。」
「礼拝所はちょっとなぁ・・・。」
「シロウ怖いの?」
「怖いというか近づきたくないというか。神聖な場所をうるさくするのもあれだろ?」
そういう事にしているが正直怖い。
昔夜の神社でお百度参りしている人を見てから近づくのが嫌になった。
ただの願掛けだったのかもしれないが、白装束を身に纏っていたからガチの方だと勝手に思っている。
あぁ言うのには近づかないに限る。
「となると市場かな、広さも申し分ないし多少騒いでも大丈夫だし。」
「なら行ってみるか。」
商店街から南通りまでを歩いたがそれらしいものはなかった。
という事で今度は東通りを抜け市場へと向かう。
いつもは沢山の人でにぎわう通路も、真っ暗で誰もいない。
時々ネズミか何かが足元を通りぬけたような気がしたが、確認する事は出来なかった。
「暗いですね。」
「ここまではあの月明かりも届かないみたいだな。」
右腕にミラ、左腕にアネットの胸が押し付けられる。
これが屋外でなければ喜んで抱く所だが、今日は目的が違う。
そう言うのは帰ってからでいいだろう。
因みにアネットももう抱いた後だ。
二人とはまた違う抱き心地に大興奮だったとだけ言っておこう。
翌日二人がかりで襲われたけどな。
「あ、見て!明かりがある!」
「本当だな。あそこには店はなかったはずだが。」
「移動露店か何かでしょうか。」
「なるほど、それなら毎回場所が違うのも頷ける。」
暗闇の通路を抜け市場に出ると、今は閉まっているはずの市場の奥に明かりが見えた。
オレンジ色の明かりに吸い寄せられるように急ぎ足で市場を横切る。
いつもは店で溢れているだけにまっすぐ通り抜けるのはかなり新鮮な気分だ。
「あ、誰かいる。」
「先客がいるようだな。」
「でもでも立ち上がったよ?」
予想通り移動販売式の店のようだ。
チャルメラの屋台みたいな感じで大きな取っ手が付いている。
暗くて見えないが反対側には車輪か何かがついているんだろう。
立ち上がった客はポケットから金を取り出し一言二言何かを話すとこちらに向かってきた。
「団体さんだな、君達も噂を聞いて来た口かい?」
「そうだ。一体何の店なんだ?」
「行けばわかるよ。」
じゃあなと言って満足そうな顔をしたオッサンは去って行った。
酒の臭いはしない。
揚げ物の臭いもない。
うーむ、どうやら主食系ではなさそうだ。
エリザが待ちきれない様子で屋台へと走っていく。
無いはずの尻尾がぶんぶんと左右に揺れているように見えた。
犬だ。
「シロ~ウ!四人大丈夫だって!」
「わかったから大声を出すな。」
市場とはいえ夜だ。
しかも広いだけによく声が通る。
近所迷惑になるだろ。
「いらっしゃいませ。」
「ねぇ、ここが噂のお店?」
「どんな噂かは存じませんが、満月の夜にだけ営業をさせてもらっています。」
「やっぱり!」
どうやら大当たりのようだ。
四人掛けの対面カウンターになっていて、座るとついたてのせいで向こう側は見えなくなっている。
「何の店なんだ?」
「夜のご褒美、でしょうか。」
「ご褒美ねぇ。」
「皆さん朝から夜まで働き通しですから、少しでも癒しを感じていただけるようにお作りしています。」
「メニューはないんだな。」
「はい、一種類しかない物ですから。」
「じゃあ四人分頼む。」
「畏まりました。」
値段も商品も不明。
だがご褒美というぐらいだ、それなりの食い物なんだろう。
甘味っていう線はもしかすると当たりかもしれないな。
席につき出て来るのを待つ。
エリザは首を長くのばし、ミラは静かに目を瞑っている。
アネットはひくひくと匂いを嗅いでいた。
獣人は嗅覚も鋭いらしいが・・・。
「わかるか?」
「甘い匂いはしますが、それよりも薬草もしくは薬湯の香りが強いですね。」
「ふむ、薬か。」
「よくおわかりですね。」
「薬には詳しいんです。でも、あまり嗅いだことのない香りで・・・。」
アネットでもわからないようだ。
「はい、お待たせいたしました。」
そんなこんなで待つこと数分。
念願のそれがカウンターの向こうから姿を現した。
「これは・・・。」
「アイスクリームでしょうか。」
それは真っ白で見た目にはバニラアイスと言われても疑わないフォルムをしていた。
「仕上げにこれをかければ出来上がりです。」
そしてその上にパラパラと緑色の粉末がかけられた。
抹茶パウダーをかけたようになる。
「まぁ食べてみるか。」
「そうですね。」
「いっただっきまーす!」
待ちきれないという感じでエリザが謎の食べ物を口に入れる。
すると目を大きく見開き俺の方を見て来た。
毒?
「美味しい!甘い!」
「すごい、冷たいのにこんなに甘い食べ物初めてです。」
「でも甘いだけでなく少ししょっぱい感じもします。いえ、苦いのでしょうか。」
三人は大興奮だ。
どれ、俺も食べてみるとしよう。
添えられた木製のスプーンでそれを掬い口に入れる。
優しい甘みが舌に広がったと思ったら甘い匂いが一気に鼻を抜ける。
だが甘いだけでなくアネットが言うように若干の苦みを感じた。
なるほど、これで甘みを引き立てているのか。
でも何をかけたんだ?
ってことでパウダーをちょいっと触ってみる。
『月光草の粉末。満月の夜にだけダンジョンの奥に生える月光草を粉末にしたもの。月光草には滋養強壮と安眠作用がある。最近の平均取引価格は銅貨30枚。最安値銅貨25枚、最高値銅貨40枚、最終取引日は30日前と記録されています。』
「月光草か。」
「え、月光草?」
「それをアイスの上にのっけたんだろう。」
「すごい、よくわかりましたね。」
店主が驚いて俺を見る。
すまんズルを使ったんだ、そんな顔で俺を見るな。
「昔こういうのを食べたことをあるんだ。若干の塩気を感じると甘みがより引き立つ。」
「だからこんなに甘いのね。」
「アイスに使われるミルク自身もかなり甘いんだと思います。美味しい・・・。」
どうやらお気に召したようだ。
あっという間に食べてしまい空の器がカウンターに並ぶ。
「なるほど、だから満月の夜にしか店を出さないのか。」
「月光草をつかってるんじゃしかたないわよね。へぇ、あれって苦いだけの草じゃなかったんだ。」
「食べたのか?」
「うん、薬草代わりに食べる事もあるよ。」
滋養強壮にも良いらしいし使用方法としては間違いないんだろう。
「ご満足いただけましたか?」
「あぁ、大満足だ。」
「ありがとうございます。」
「また来月も探しに来るよ、いくらだ?」
「銀貨2枚になります。」
「た・・・いや、それぐらいするか。」
高い。
高いがそんなもんだ。
美味しい物が高いのは当たり前、ましてやこういう特殊な店だそれぐらいするだろう。
惜しくはない味だった。
「毎度ありがとうございます。」
代金を払って席を立つ。
エリザはまだ食べたい様子だったが、一人一つだけという制限があるそうだ。
そうじゃないとすぐに売り切れてしまうんだと。
これだけの味だ、独り占めはよくないよな。
「さぁ帰るか。」
「来てよかったでしょ?」
「あぁ、散歩に出てよかったよ。ありがとな。」
「えへへどういたしまして。」
さっきまで先頭を歩いていたエリザが俺の腕にしがみついてくる。
行きは二人だったし帰りは良いだろう。
こうして、素敵な夜の散歩は無事に終わった・・・はずだったんだが。
「ねぇ、シロウ・・・。」
「シロウ様。」
「御主人様・・・。」
夜も更け誰もが寝静まった頃、俺の部屋に三人が集合していた。
その顔は仄かに赤く、目はとろんとして潤んでいる。
何事だ?
「月光草には滋養強壮の他、催淫作用もあるのを忘れておりました・・・。」
「我慢できないの、ねぇしよ?」
「今日は三人同時でお願いいたします。」
「三人ってお前ら・・・。」
まるでゾンビのように迫ってくる三人が迫って来る。
なにがご褒美だ。
流石にこの人数は無理だろ!
その夜、俺は天国のような地獄を味わうのだった。
次にいく時は人数を減らそう。
翌日そう誓った。
いや、何もしていないわけじゃない。
ちゃんと商売はしている。
冒険者が減ったとはいえダンジョンがある限りうちの店に需要はある。
早急に金が欲しい、売るのがめんどくさい、呪われている。
色々な事情で持ち込まれる商品を買い取っては販売し、高く売れる魔物の素材をコツコツと蓄えていく。
それがうちの仕事だ。
加えてアネットが薬師として無双し続けているので働かなくても金は入って来る。
あ、ルティエの商売も順調なので涙貝の卸で同じく金は入る。
不労所得様様ってやつだな。
「ねぇシロウ、面白い話を聞いたんだけど聞く?」
「わざわざそう言う話は面白くない場合が多いから聞かない。」
「もー!聞いてくれてもいいでしょ!」
「わかったわかった、聞くからそんな大声を出すな。」
「エリザ様は構ってほしいんだと思いますよ。」
「それもあるんだけどさぁ・・・。ねぇ散歩しない?」
「はぁ?もう夜だぞ?娼館街以外どこ行くっていうんだよ。」
日が暮れると飲食店以外のほとんどの店は閉店する。
人が出歩かないから商売にならないのが理由だ。
うちもそれに倣いよっぽどの事がない限りは閉店する。
その後イライザさんの店に行ったりすることはあるが散歩をすることはなかった。
街の外は見渡す限りの平原だ。
夜景を楽しむ場所も静かな小川なんかもない。
要はロマンティックな場所なんて夜の蝶達がいる歓楽街以外はないって事だな。
「満月の日にだけ出店しているお店があるんだって、神出鬼没でどこに店を出すかはわからないんだけど、すっごい美味しい物を売ってるって噂なの。」
「美味しい物ってどんなのだよ。」
「さぁ、そこまでは知らない。だから探すのよ。」
「夕食をたらふく食ったからなぁ、〆のラーメン的なのも入らないぞ。」
「甘味ならはいるでしょ?」
「甘すぎるのは無理だ。さっぱりしているのならいけるかもしれんが・・・。」
甘味。
そう聞いた途端ミラとアネットの顔つきが変わった。
ほんと女ってやつは甘いものが好きだなぁ。
こんな時間に甘い物なんて食べたら牛まっしぐらだっていうのに。
三人共スタイルは良いから多少増えても問題ないが、増えすぎは困るぞ。
「広い街ではありません、のんびりと歩けば見つかるのではないでしょうか。」
「幸い今日は満月ですし、腹ごなしにもいいと思います。」
「でしょでしょ!ねぇ行こうよ。」
「この時点で三対一だ、いくしかないだろ。それに女三人で行かせるわけにもいかないしな。」
「ふふふ、そういう所が優しいのよね。」
「但し二時間だ、それ以上探してなかったら帰って寝るぞ。」
「やった!」
エリザが飛び跳ねて大喜びする。
夜の街なぁ。
そう言えばここに来て夜にうろついた事ってなかったきがする。
出る用事もなかったし、娼館に寄る以外は興味すらなかった。
夜の巷を行く、なんてテレビ番組もあった気がする。
もしかすると新しい発見があるかもしれないな。
最近何もなさ過ぎてそう言うのを期待していた部分はある。
そうと決まれば即行動だ。
持ち物は財布だけ。
護衛はエリザがいるから問題ないだろう。
アネットも護身術ぐらいはできるそうだから俺とミラさえ守ってもらえば大丈夫だ。
「しゅっぱーつ!」
「夜なんだからもう少し声を下げろ、迷惑になるだろ。」
「えへへ、ごめんなさい。」
妙にテンションの高いエリザを先頭にゾロゾロと暗い大通りを進む。
街灯がいたるところにある元の世界と違って、明かりなんてポツポツとしかついていない。
それでもビビらず歩けるのは頭上に輝く巨大な月のおかげだ。
デカイ。
重力関係とか大丈夫なのかと不安になるぐらいにデカイ。
そのでかい奴が乳白色の明かりを地上にたくさん届けてくれるおかげで、真昼とは言わないが夜明け前ぐらいの明るさはある。
そう言えばあのバカ兄貴に襲われた日も月明かりがすごかったな。
「う~ん、無いなぁ。」
「大通りにあれば噂じゃなくて普通に情報が出回るだろ。そう言うのは大概人気のない所にあるもんだ。」
「確かにそうね。」
「人気のない所となると、市場とかでしょうか。」
「北側の礼拝所付近も夜は人気がありませんね。」
「礼拝所はちょっとなぁ・・・。」
「シロウ怖いの?」
「怖いというか近づきたくないというか。神聖な場所をうるさくするのもあれだろ?」
そういう事にしているが正直怖い。
昔夜の神社でお百度参りしている人を見てから近づくのが嫌になった。
ただの願掛けだったのかもしれないが、白装束を身に纏っていたからガチの方だと勝手に思っている。
あぁ言うのには近づかないに限る。
「となると市場かな、広さも申し分ないし多少騒いでも大丈夫だし。」
「なら行ってみるか。」
商店街から南通りまでを歩いたがそれらしいものはなかった。
という事で今度は東通りを抜け市場へと向かう。
いつもは沢山の人でにぎわう通路も、真っ暗で誰もいない。
時々ネズミか何かが足元を通りぬけたような気がしたが、確認する事は出来なかった。
「暗いですね。」
「ここまではあの月明かりも届かないみたいだな。」
右腕にミラ、左腕にアネットの胸が押し付けられる。
これが屋外でなければ喜んで抱く所だが、今日は目的が違う。
そう言うのは帰ってからでいいだろう。
因みにアネットももう抱いた後だ。
二人とはまた違う抱き心地に大興奮だったとだけ言っておこう。
翌日二人がかりで襲われたけどな。
「あ、見て!明かりがある!」
「本当だな。あそこには店はなかったはずだが。」
「移動露店か何かでしょうか。」
「なるほど、それなら毎回場所が違うのも頷ける。」
暗闇の通路を抜け市場に出ると、今は閉まっているはずの市場の奥に明かりが見えた。
オレンジ色の明かりに吸い寄せられるように急ぎ足で市場を横切る。
いつもは店で溢れているだけにまっすぐ通り抜けるのはかなり新鮮な気分だ。
「あ、誰かいる。」
「先客がいるようだな。」
「でもでも立ち上がったよ?」
予想通り移動販売式の店のようだ。
チャルメラの屋台みたいな感じで大きな取っ手が付いている。
暗くて見えないが反対側には車輪か何かがついているんだろう。
立ち上がった客はポケットから金を取り出し一言二言何かを話すとこちらに向かってきた。
「団体さんだな、君達も噂を聞いて来た口かい?」
「そうだ。一体何の店なんだ?」
「行けばわかるよ。」
じゃあなと言って満足そうな顔をしたオッサンは去って行った。
酒の臭いはしない。
揚げ物の臭いもない。
うーむ、どうやら主食系ではなさそうだ。
エリザが待ちきれない様子で屋台へと走っていく。
無いはずの尻尾がぶんぶんと左右に揺れているように見えた。
犬だ。
「シロ~ウ!四人大丈夫だって!」
「わかったから大声を出すな。」
市場とはいえ夜だ。
しかも広いだけによく声が通る。
近所迷惑になるだろ。
「いらっしゃいませ。」
「ねぇ、ここが噂のお店?」
「どんな噂かは存じませんが、満月の夜にだけ営業をさせてもらっています。」
「やっぱり!」
どうやら大当たりのようだ。
四人掛けの対面カウンターになっていて、座るとついたてのせいで向こう側は見えなくなっている。
「何の店なんだ?」
「夜のご褒美、でしょうか。」
「ご褒美ねぇ。」
「皆さん朝から夜まで働き通しですから、少しでも癒しを感じていただけるようにお作りしています。」
「メニューはないんだな。」
「はい、一種類しかない物ですから。」
「じゃあ四人分頼む。」
「畏まりました。」
値段も商品も不明。
だがご褒美というぐらいだ、それなりの食い物なんだろう。
甘味っていう線はもしかすると当たりかもしれないな。
席につき出て来るのを待つ。
エリザは首を長くのばし、ミラは静かに目を瞑っている。
アネットはひくひくと匂いを嗅いでいた。
獣人は嗅覚も鋭いらしいが・・・。
「わかるか?」
「甘い匂いはしますが、それよりも薬草もしくは薬湯の香りが強いですね。」
「ふむ、薬か。」
「よくおわかりですね。」
「薬には詳しいんです。でも、あまり嗅いだことのない香りで・・・。」
アネットでもわからないようだ。
「はい、お待たせいたしました。」
そんなこんなで待つこと数分。
念願のそれがカウンターの向こうから姿を現した。
「これは・・・。」
「アイスクリームでしょうか。」
それは真っ白で見た目にはバニラアイスと言われても疑わないフォルムをしていた。
「仕上げにこれをかければ出来上がりです。」
そしてその上にパラパラと緑色の粉末がかけられた。
抹茶パウダーをかけたようになる。
「まぁ食べてみるか。」
「そうですね。」
「いっただっきまーす!」
待ちきれないという感じでエリザが謎の食べ物を口に入れる。
すると目を大きく見開き俺の方を見て来た。
毒?
「美味しい!甘い!」
「すごい、冷たいのにこんなに甘い食べ物初めてです。」
「でも甘いだけでなく少ししょっぱい感じもします。いえ、苦いのでしょうか。」
三人は大興奮だ。
どれ、俺も食べてみるとしよう。
添えられた木製のスプーンでそれを掬い口に入れる。
優しい甘みが舌に広がったと思ったら甘い匂いが一気に鼻を抜ける。
だが甘いだけでなくアネットが言うように若干の苦みを感じた。
なるほど、これで甘みを引き立てているのか。
でも何をかけたんだ?
ってことでパウダーをちょいっと触ってみる。
『月光草の粉末。満月の夜にだけダンジョンの奥に生える月光草を粉末にしたもの。月光草には滋養強壮と安眠作用がある。最近の平均取引価格は銅貨30枚。最安値銅貨25枚、最高値銅貨40枚、最終取引日は30日前と記録されています。』
「月光草か。」
「え、月光草?」
「それをアイスの上にのっけたんだろう。」
「すごい、よくわかりましたね。」
店主が驚いて俺を見る。
すまんズルを使ったんだ、そんな顔で俺を見るな。
「昔こういうのを食べたことをあるんだ。若干の塩気を感じると甘みがより引き立つ。」
「だからこんなに甘いのね。」
「アイスに使われるミルク自身もかなり甘いんだと思います。美味しい・・・。」
どうやらお気に召したようだ。
あっという間に食べてしまい空の器がカウンターに並ぶ。
「なるほど、だから満月の夜にしか店を出さないのか。」
「月光草をつかってるんじゃしかたないわよね。へぇ、あれって苦いだけの草じゃなかったんだ。」
「食べたのか?」
「うん、薬草代わりに食べる事もあるよ。」
滋養強壮にも良いらしいし使用方法としては間違いないんだろう。
「ご満足いただけましたか?」
「あぁ、大満足だ。」
「ありがとうございます。」
「また来月も探しに来るよ、いくらだ?」
「銀貨2枚になります。」
「た・・・いや、それぐらいするか。」
高い。
高いがそんなもんだ。
美味しい物が高いのは当たり前、ましてやこういう特殊な店だそれぐらいするだろう。
惜しくはない味だった。
「毎度ありがとうございます。」
代金を払って席を立つ。
エリザはまだ食べたい様子だったが、一人一つだけという制限があるそうだ。
そうじゃないとすぐに売り切れてしまうんだと。
これだけの味だ、独り占めはよくないよな。
「さぁ帰るか。」
「来てよかったでしょ?」
「あぁ、散歩に出てよかったよ。ありがとな。」
「えへへどういたしまして。」
さっきまで先頭を歩いていたエリザが俺の腕にしがみついてくる。
行きは二人だったし帰りは良いだろう。
こうして、素敵な夜の散歩は無事に終わった・・・はずだったんだが。
「ねぇ、シロウ・・・。」
「シロウ様。」
「御主人様・・・。」
夜も更け誰もが寝静まった頃、俺の部屋に三人が集合していた。
その顔は仄かに赤く、目はとろんとして潤んでいる。
何事だ?
「月光草には滋養強壮の他、催淫作用もあるのを忘れておりました・・・。」
「我慢できないの、ねぇしよ?」
「今日は三人同時でお願いいたします。」
「三人ってお前ら・・・。」
まるでゾンビのように迫ってくる三人が迫って来る。
なにがご褒美だ。
流石にこの人数は無理だろ!
その夜、俺は天国のような地獄を味わうのだった。
次にいく時は人数を減らそう。
翌日そう誓った。
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気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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