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90.転売屋は奴隷の今後を説明する

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「俺を助ける為に自分を売ったって聞いた後、血眼になって探した。お前みたいな銀狐が奴隷になったら何をされるかわからない、そう思うといてもたってもいられなかったんだ。」

「私だって怖かった。でも兄さんが助かるのならそれでよかった、お父さんもお母さんも突然生まれた銀狐の私よりも兄さんの方が大切だったから。」

「そんな事ないぞ!お前が家を出て行った時母さんがどれだけ泣いていたか・・・。」

「居なくなってせいせいした、そう言ったの知ってるもの。」

「そ、それは・・・。」

おいおい兄貴、お涙頂戴は失敗みたいだぞ。

このタイミングで嘘はまずいだろ嘘は。

「私は別に大変じゃなかったわ、薬師としてそれなりにやって来れたし。そりゃあ危ない目にも何度か遭ったけど、私の敵じゃなかったもの。」

「昔から強かったもんな。」

「私は強くならないとだめだったの。自分を守るため、そして兄さんを守るためにも。」

「どうして俺の為なんだ?」

「兄さんを捕まえて私をおびき出そうとした奴を何人も知ってるわ。そういう人達に抗う為にも私は強くなったし、兄さんから離れた。でも驚いたわ、兄さんが盗賊になっているって聞いた時は。」

なるほどなぁ、自分と家族を守るためにわざと家を出たのか。

かなりの苦労があったんだろう。

強いっていうのがどれぐらい強いかはわからないが、あの兄貴を反応させずにぶっ叩くぐらいだ、かなりの実力なんだろう。

それでもエリザ程ではないかな?

「お前を探す為に家を出て、助けてもらった人が偶々盗賊だっただけだ。俺達狐人は恩を忘れない、その為に俺は盗賊になったんだ。」

「でも盗賊になったら普通に抜け出せない。」

「あぁ、上納金を納めるか死ぬかのどちらかだ。」

「だから私がお金を収めたの。私の名前は出さないでって言ったのに、聞いてくれなかったのね。」

「俺が聞き出したんだよ。銀髪の狐人って聞いてすぐわかった。」

見た目に特徴があるとすぐに面が割れるんだよな。

俺も若い時は金髪にしていたが、目星の品を買うために並んでいたら何度か追い出されたことがあった。

それ以来染めるのは止めた。

「この辺りじゃ私しかいないし当然よね。」

「それから人づてにお前が売られていくのをずっと追いかけていたんだ。そしてこの街でオークションにかけられると聞いていてもたってもいられなくてな。」

「それでまた悪事に手を染めたのね。」

「俺はお前さえ無事ならそれでいいんだ!」

「そんな事したら何の意味もないじゃない!」

バンと机を叩き立ち上がるバカ兄貴を上回る勢いで机をたたくアネット。

お願いだから机を壊さないでくれよ。

っていうか妹のほうが背が高いんだな。

今気づいた。

「まぁまぁお二人とも落ち着いて、お茶が入りました。」

「片づけは終わったか?」

「エリザ様が手伝ってくださいましたので。」

「その本人はどこにいるんだ?」

「話が終わったら呼んで欲しいそうです。」

「逃げやがったな。」

まぁ、まだ続きそうだし終わったら呼べばいいか。

あいつにもいろいろと動いてもらわないといけないんだよな。

テーブルに香茶が並べられ、空いた向かいにミラが座る。

穏やかなその雰囲気に二人も着席した。

「うん、美味い。」

「お褒めにあずかり光栄です。」

「まぁ、悪事って言ってもやったのは一回だけ。二回目で俺に捕まったし、一回目も幸い面は割れてないからどうにでもなる。フール、最初に盗んだ品まだ持ってるよな。」

「あぁ。」

「なら今すぐそれを返してこい。バレない様に窓際に置いてくるぐらいはできるだろ。」

「それぐらいならできるが・・・。」

「それで無罪放免とまではいかないが、この街での捜査の手は緩むはずだ。あとはほとぼりが冷めるまで他所に行くか、別のことをすればいい。いつまでも上に居られても困る。」

そもそもこいつの飯の面倒を見る必要なんてないんだ。

アネットに会わせるために匿ったが、それももう達成したしいる理由はもうない。

野郎はさっさと出ていけ。

「そうだよな・・・。でも今からか?」

「早ければ早いほうがいい、幸い今日は月も隠れてるしな。だがくれぐれもヘマするんじゃないぞ。」

「わかってる。」

バカ兄貴は席を立つと急いで隠し部屋に上がり、戻ってきた。

一瞬だけアネットのほうを見たが彼女がそれに反応することはなく、そのまま行ってしまった。

まぁ大丈夫だろう。

静かになった部屋にお茶を飲む音だけが響く。

「一つ聞いてもいいですか?」

と、真剣なまなざしでアネットがこちらを見てきた。

「なんだ?」

「どうして私を買ったんですか?」

「兄貴には頼むとは言われたが、正直に言って俺が欲しいと思わなかったら買わないつもりだった。」

「でも金貨330枚も出して買って下さった。」

「あら、300枚じゃなかったんですか?」

「300枚も330枚も同じようなものだろ。」

「それもそうですね。」

一割違うというツッコミはなしだ。

ミラもさほど驚いていない。

「俺が欲しいと思ったからだ。幸いにも買う金はあったからな、だから買った。」

「奴隷になる時に覚悟したんです。どれだけひどい扱いを受けても自分で死ぬことはしないって・・・。でもご主人様はひどく扱うどころか食事まで出して下さった。」

「当然です。金貨330枚も支払って雑に使う主人などバカでしかありません。」

「言うなぁ。」

「その点シロウ様はそのような扱いをすることはありません。安心してお仕事をなさってください。」

「お仕事って、私に何をさせるつもりですか?」

何をさせる。

多分アネットは18禁的な想像をしているんだろうが・・・。

いや、そっちでももちろん使うつもりでいるがメインはそっちじゃない。

二人を差し置いて使うと後が怖いからな。

「薬師だったんだろ?その仕事をしてくれればいい。」

「それだけですか?」

「うちは買取屋だ。魔物の素材や道具を鑑定することができるのか?」

「・・・できません。」

「ならできることをしてもらう。ミラがさっきも言ったがこの街には薬師がいないからな、忙しくなることは覚悟しろよ。」

調合スペースなども今後は必要になるだろう。

倉庫は使えないし、そうなると残っているのは隠し部屋ってことになる。

早急に窓をつけなきゃならないな。

いったいいくらかかるのやら。

「シロウ様のお役に立つことが私たち奴隷の存在理由です。求められればなんでもする覚悟でいてください。」

「求められればってもう少し言い方ってものがあるんじゃないか?」

「何時でも体を開くようにの方がよろしかったですか?」

「いや、そんな見境もなく襲ったりしないから。ほら見ろ、アネットも怯えているじゃないか。」

「いずれは通る道です。決して乱暴にはされませんのでそれは安心していただけるかと。」

「そうですよね。そういう事も含めての奴隷ですから。大丈夫です、覚悟は・・・出来ています。」

「どう見ても覚悟できてないよな、これ。」

「そんなことはありません。奴隷になると決まった時点で覚悟できているはずです。」

それはミラの事であってアネットはそうじゃないと思うんだけど・・・。

いや、これだけの美人だ、出来るのであれば喜んでしますけどね。

むしろ我慢できない。

二人もいてまだしたいのかって?

当たり前だろ、若いんだから。

「ともかく、その辺に関してはおいおいだ。別に今日じゃない。」

「私の時はその日だったじゃありませんか。」

「それは自分から来たからだろ?」

「夜伽も奴隷の立派な仕事です。」

「当分は二人で十分だって。」

酒が入ってるという事は、エリザもその気になっているはずだ。

あいつ、酒が入るとそっちのスイッチも入るからな。

俺としては大歓迎なんだが、その辺も慣れてもらうしかないだろう。

「ともかく、当分は薬師としての仕事をしてもらう。必要な物はこちらで用意するから器具なり材料なり教えてくれ。もちろん高すぎる物は後回しになるから、最低限のものでまずは頼む。」

「わかりました。お役に立てるよう頑張ります。」

「魔物の素材に関しては融通が利きます。それと、時期によっては優先して作ってもらう物も出てくるでしょう。薬師にしか作れない品も多いですから、よい仕込みが出来るかと。」

「出来れば短期で稼げるもので頼む、正直使いすぎた。」

「その辺りはお任せください。」

さすがうちの経理、助かるねぇ。

「ねぇ、話は終わった?」

「来たな飲んだくれ。」

それから必要な品など色々とヒアリングしていると、下から真っ赤な顔をしたエリザが上がってきた。

いい感じに出来上がっているようだ。

「飲んだくれなんかじゃないわよ、まだ素面だもん。」

「どこかだよ。」

「そうだ、アネットさんに聞きたいことがあったんだけど・・・いい?」

「なんでしょうか。」

「銀狐が幸運を呼び込むって本当?」

「さぁ、私個人幸運だった記憶はありませんから。事実奴隷にもなりましたので。」

「そっかぁ、そうよねぇ。」

「でも、ご主人様のような方に買って頂いたことが幸運なのかもしれません。」

「そうよね!シロウはいい人だから大丈夫よ!」

なんだよ、良い人だからって。

どういう基準か教えてくれ。

「私もシロウ様に買って頂きより幸せになりました。もしかするとシロウ様自身が幸運を呼び込むのかもしれません。」

「俺が?冗談じゃない。」

「私も昔よりも羽振りが良くなったし・・・。」

「ご主人様に買って頂いたことで、今後私を狙う輩に襲われる心配がなくなりました。そうか、そういう幸せもあるんですね。」

「おいおい三人共、人を開運アイテムみたいに言うのはやめてくれないか?」

そんなのただの偶然だろう。

俺は別に幸運を呼び込むという理由で買ったんじゃないしな。

「戻ったぞ。」

と、この流れを絶ちきるいい感じでバカ兄貴が戻ってきた。

「お、帰って来たか。見つかってないだろうな。」

「当たり前だ。」

「なるほど、兄がご主人様に捕まったのもその幸運の一つなんですね。」

「何の話だ?」

「確かにそうかもね。あの時私が倉庫にいたぐらいだし。」

「さすがシロウ様です。」

だから止めてくれって言ってるだろうが。

確かにここに来るまでたくさんの幸運に恵まれてきたが、それが俺のおかげだって?

そんなバカなことあるはずないだろ。

そんな俺の意見を聞くはずもなく、三人はキラキラとした目で俺を見てくる。

「なぁ、何の話だ?」

「兄さんは黙っててください。」

「はい・・・。」

妹に一撃で潰されるとは、使えない兄貴だなぁまったく。

「と、とりあえず今後について話し合うぞ。フール、まずはお前だ。」

「俺?」

無理やり話題を変えるためにバカ兄貴を生贄にする。

これで納得するかはわからないが・・・。

まだまだ夜は長くなりそうだ。
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