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89.転売屋は兄妹の再会を見守る
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「馬鹿じゃないの!」
「さすがシロウ様です。」
帰ってきてすぐ予想していた通りの返事が返ってきて思わず笑ってしまった。
「何笑ってるのよ、金貨300枚よ?信じられない。」
「ですがエリザ様銀狐人と言えば希少種の中の希少種、所有しているとなればそれだけで話題に上がります。知名度が必要な商売であればまさにうってつけではないでしょうか。さらにこの街にいない薬師でもあるそうですし、言えばそれ関係の業務を牛耳れるも同然です。金貨300枚はむしろ安い買い物ともいえるでしょう。」
「安い買い物って・・・。もういいわ、私がおかしいのよね。」
「いや、エリザはいたってまともだ。おかしいのは俺とミラだな。」
奴隷を買ってきた、三億だ。
そう言われたらエリザのような反応をするだろう。
金があるのならいいだろうが、そうじゃないわけだしな。
「いいえ、シロウ様は良い買い物をされました。短期での回収は難しくても10年かからずその金額は稼げると思われます。」
「まぁそうだな、長い目を見ればそうだろう。大丈夫だって、借金したわけじゃないから。」
「そうだったらもっと怒ってるわよ。」
「心配してくれるのか?」
「アンタにいなくなられたら私の帰る場所が無くなるじゃない。」
「可愛い事言うじゃないか。」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。
エリザが獣人で尻尾があったらブンブンと音を立てて揺れているに違いない。
「おっと、とりあえず自己紹介だな。こっちがエリザでこっちがミラだ。」
「エリザよ、冒険者をしてるの。」
「ミラです。シロウ様の奴隷をしております。アネットさんですね、歓迎いたします。」
「アネットです。あの、兄が居るというのはどういうことですか?」
「まぁまぁそう焦るな。とりあえず諸々説明してからだ。」
説明してやりたいのは山々だがここではまずい。
せめて二階に移動しないと。
「先程食事を持って行ったばかりです。起きておられると思いますよ。」
「二人は食べたのか?」
「まだ。」
「終わりましたら直接戻ってくると思っておりましたので用意してございます。」
「ならまずは飯だな。いやー、疲れたマジで疲れた。」
「はいはい、話は聞いてあげるから。」
施錠してカーテンを閉めればこれで終わりっと。
どうすればいいのか分からず戸惑っているアネットさんだったが、先輩のミラがいろいろと教えてくれるだろう。
エリザとともに二階へ上がったが、フールの姿はなかった。
そりゃそうか、居ても困る。
そのまま隠し部屋の階段を動かすと恐る恐るフールが顔をのぞかせてきた。
「なんだアンタか。」
「アンタとはなんだ、せっかく妹を買ってきたっていうのに。」
「なんだって!」
「大きな声出すなって、ほらちょうどいま上がってきた所だ。」
ミラに頼まれて食事を持ってきたんだろう、部屋に入った所でお盆を持ったまま固まってしまうアネットさん。
「にい、さん?」
「アネット!無事でよかった・・・。」
バカ兄貴が転がる様に階段を下りてアネットさんへと駆け寄る。
と、次の瞬間。
『パン!』と乾いた音が部屋に響き、バカ兄貴の首が明後日の方向を向いていた。
えっと、首折れてない?
大丈夫?
っていうか料理は?
どうやらお盆はエリザがとっさに確保したようで無事だった。
ふぅ、晩飯がなくなったかと思ったぜ。
「どうして兄さんがここにいるんですか!」
「アネット?」
「答えてください!もう盗賊からは足を洗う、そういったから私は、わたしは!」
「すまないアネット。でもどうしてもお前を助けたくて。」
「聞きたくありません。兄さんさえいなかったら私は・・・。」
なんだかよくわからないが修羅場のようだ。
はて、バカ兄貴は妹を助けたかったんだよな?
なのにどうして助けたら助けたで首が折れるぐらい殴られたんだ?
ってかよく無事だな。
「ひとまず食事にしましょう。どのような事情があれシロウ様が空腹なのは由々しき事態です。」
「幸い料理は無事だしね。」
「まぁ、なんだ。積もる話はあるだろうがとりあえず飯にするぞ。空腹では気が荒くなるだけだからな。」
「・・・かしこまりました。」
「アネットさんはご主人様にお皿と飲み物を、今日はお酒でよろしいですか?」
「そうだな、歓迎を兼ねていいやつを頼む。」
「そうおっしゃると思いましてレイブ様より頂いていたお酒をご準備しております。」
「やった!」
結構修羅場なのに二人ともマイペースだな。
ミラに促されるようにアネットさんが無言でお皿と料理を並べていく。
いつものように上座に俺が座り、その右横がエリザ左横がミラ、アネットさんは下座でお願いしよう。
そろそろ四人掛けのテーブルじゃ狭くなってきたなぁ。
ぶっちゃけこんな短期間でここまで人数が増えるとは想像してなかったしな。
え、バカ兄貴?
お前は正座だ。
「じゃあ食べるか。」
「はい。」
「ねぇせっかくのお酒だけど何に乾杯するの?」
「新しい奴隷にっていうのは変だよな。」
「別に変ではありませんがせっかく来ていただきましたし、お名前でよろしいかと。」
それもそうだな。
おい奴隷、っていうようなキャラじゃない。
ミラのようにちゃんと名前で呼ぶべきだ。
所有者なんだし呼び捨てでいいだろう。
「そんじゃまぁ、ようこそアネット、歓迎する。」
「ようこそアネットさん。」
「かんぱ~い!」
三人がグラスを掲げる。
うむ、美味い。
「いい酒だな。」
「美味しい!コクがあるのに口に残らない、それにシュワシュワする!」
「他国で作られたスパークリングワインだそうです。この街ではまだ珍しいのだとか。」
「へ~、エールじゃないのにね。」
とか言いながらエールのように飲んでるな。
高い酒なんだぞ、ちょっとは自重しろよな。
っておや?
アネットは今だ料理を口にしていない。
緊張しているというかどうしていいのかわからないようだな。
兄貴はというと同じく正座させられたままうつ向いたままだ。
妹に頬をぶっ叩かれたのがよっぽど効いているようだ。
「どうしたアネット食べないのか?」
「あの、奴隷なのに同席してよろしいのですか?」
「うちでは奴隷だろうが食事は同席だ。慣れてくれ。」
「シロウ様がそれを望んでおられます。遠慮するほうがむしろ失礼になりますよ。」
「シロウはね、奴隷だからって扱うのが苦手なのよ。変でしょ?」
「私を金貨300枚もの大金で買ったのにですか?」
「値段は関係ない。そんなこと言えばこいつは金貨5枚でこっちは金貨50枚だ。」
それぞれ指さすとミラはうなずいていたがエリザが顔を真っ赤にして反論してきた。
「私は奴隷じゃない!」
「知ってるさ。だが寸前だっただろ?」
「そうだけどさぁ。」
「まぁ借金は完済して今は自由の身だ。そのはずなんだがこうしてうちの飯をたかりに来る冒険者だと思ってくれ。」
「たかってないもん。」
「わかってるって、そう拗ねるな。」
「奥様ではないのですね?」
「俺の女ってことにしておいてくれ。」
恋人でも妻でもセフレでもない。
言葉にすると中々に難しいが俺の女であることに違いはない。
本人もそれを了承してる。
それに関してもミラが上手く説明してくれるだろう。
「歓迎会の主賓なんだ、遠慮せず食べろ。」
「そうおっしゃるのであれば・・・いただきます。」
渋々?いや恐る恐る?ともかく慎重に料理を口に入れるアネット。
薬でも盛られていると思ったんだろうか。
奴隷にいい印象がないのかもしれない。
「・・・美味しい。」
「そうだろう。ミラは料理上手だ、当番制だからよろしく頼むぞ。」
「当番ということはご主人様もお作りになるのですか?」
「気が向いたときはな。」
「シロウ様の料理は美味しいですから。」
「ほめても何も出ないぞ。」
「本当のことです。」
そう言われて悪い気はしないよな。
エリザは・・・。
この空気でも気にすることなく料理に食らいつき、酒を流し込んでいる。
まるで我関せずという感じだ。
実際そうだけど。
「まぁ、警戒せず食べてくれ。話はそれからだ。」
「はい。」
「なぁ、俺はどうすりゃいいんだ?」
おっと、バカ兄貴が我に返ったらしい。
俺の横で正座したまますがるような眼で俺を見てくる。
と、アネットが鋭い目つきで兄貴を睨むとバカ兄貴は再び静かになってしまった。
すごいな、耳を見るだけでそれぞれの感情が手に取るようにわかる。
アネットは無表情ながらも耳だけはピンと立ち、バカ兄貴はシュンと耳が下を向いている。
狐人というらしいからイヌ科であることは間違いないだろう。
尻尾は・・・今の所あるのかどうかはわからないな。
「とりあえず大人しく座ってたほうがいいみたいだぞ。飯は食ったんだろ?」
「あ、あぁ。」
「積もる話もあるだろうが俺は腹が減った。それが終わったらゆっくりやってくれ。」
「・・・わかった。」
叱られた犬のように再び正座をする。
その後何事もなかったかのように食事は続き、いい感じに腹が満たされた。
酒は確かに美味かったがアルコールは低いようであまり酔った感じはない。
エリザは物足りなかったのか、途中から自分で買い置きしている酒を飲んでいた。
まぁ自前の酒なので何も言うまい。
これぐらいで酔いつぶれる事もないしな。
「で、だ。良い感じで腹も膨れたし本題に入ろうじゃないか。」
「そうですね。エリザ様食器を片付けますのでお手伝いお願い出来ますか?」
「飲み足りないけど、まぁいいわ。」
まだ飲むのかよ。
でもなんだかんだ言いつつ空気が読めるんだよな、こいつは。
エリザの席にバカ兄貴を座らせ、その向かいにアネットを呼ぶ。
出来ればそこに座りたくないという感じだったが、主人の命令なので致し方ないという雰囲気がすごい。
かなりお怒りのようだ。
これが昔で言う激オコってやつなのか?
「アネット、先に話しておくがこいつはもう盗人から足を洗っている。だから自分の苦労が水の泡になったわけじゃない安心してくれ。」
「ではなぜ兄がここにいるのですか?客ならまだしもあのような部屋にいるんです、普通でないことは来たばかりの私でもわかります。」
「こいつはな、お前を助ける為にうちに盗みに入ったんだ。」
「盗みに!?」
「まぁ、盗む前に捕まってこのざまだ、笑ってやれ。」
「もう二度と盗みはしないって約束したのに。」
「お、俺はお前を助けようとしてそれで・・・!」
「関係ありません!」
髪の毛が逆立つんじゃないかってぐらいに怒りをぶつけるアネット。
事実獣耳付近の毛が逆立っているのを確認した。
すごいな、本当に逆立つんだな。
「まぁ、そう怒るな。こいつにも色々と事情があったようだしとりあえずそれを聞いてやってくれ。」
「本当は聞きたくありませんが・・・ご主人様がそうおっしゃるのであれば。」
ふむ、気性は荒いが主人の命令には忠実。
やはり狐はイヌ科だな。
怒りが静まった所で兄貴がゆっくりと話を始めた。
どうして二人が別れなければならなかったのか、その理由が少しずつ明らかになる。
「さすがシロウ様です。」
帰ってきてすぐ予想していた通りの返事が返ってきて思わず笑ってしまった。
「何笑ってるのよ、金貨300枚よ?信じられない。」
「ですがエリザ様銀狐人と言えば希少種の中の希少種、所有しているとなればそれだけで話題に上がります。知名度が必要な商売であればまさにうってつけではないでしょうか。さらにこの街にいない薬師でもあるそうですし、言えばそれ関係の業務を牛耳れるも同然です。金貨300枚はむしろ安い買い物ともいえるでしょう。」
「安い買い物って・・・。もういいわ、私がおかしいのよね。」
「いや、エリザはいたってまともだ。おかしいのは俺とミラだな。」
奴隷を買ってきた、三億だ。
そう言われたらエリザのような反応をするだろう。
金があるのならいいだろうが、そうじゃないわけだしな。
「いいえ、シロウ様は良い買い物をされました。短期での回収は難しくても10年かからずその金額は稼げると思われます。」
「まぁそうだな、長い目を見ればそうだろう。大丈夫だって、借金したわけじゃないから。」
「そうだったらもっと怒ってるわよ。」
「心配してくれるのか?」
「アンタにいなくなられたら私の帰る場所が無くなるじゃない。」
「可愛い事言うじゃないか。」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。
エリザが獣人で尻尾があったらブンブンと音を立てて揺れているに違いない。
「おっと、とりあえず自己紹介だな。こっちがエリザでこっちがミラだ。」
「エリザよ、冒険者をしてるの。」
「ミラです。シロウ様の奴隷をしております。アネットさんですね、歓迎いたします。」
「アネットです。あの、兄が居るというのはどういうことですか?」
「まぁまぁそう焦るな。とりあえず諸々説明してからだ。」
説明してやりたいのは山々だがここではまずい。
せめて二階に移動しないと。
「先程食事を持って行ったばかりです。起きておられると思いますよ。」
「二人は食べたのか?」
「まだ。」
「終わりましたら直接戻ってくると思っておりましたので用意してございます。」
「ならまずは飯だな。いやー、疲れたマジで疲れた。」
「はいはい、話は聞いてあげるから。」
施錠してカーテンを閉めればこれで終わりっと。
どうすればいいのか分からず戸惑っているアネットさんだったが、先輩のミラがいろいろと教えてくれるだろう。
エリザとともに二階へ上がったが、フールの姿はなかった。
そりゃそうか、居ても困る。
そのまま隠し部屋の階段を動かすと恐る恐るフールが顔をのぞかせてきた。
「なんだアンタか。」
「アンタとはなんだ、せっかく妹を買ってきたっていうのに。」
「なんだって!」
「大きな声出すなって、ほらちょうどいま上がってきた所だ。」
ミラに頼まれて食事を持ってきたんだろう、部屋に入った所でお盆を持ったまま固まってしまうアネットさん。
「にい、さん?」
「アネット!無事でよかった・・・。」
バカ兄貴が転がる様に階段を下りてアネットさんへと駆け寄る。
と、次の瞬間。
『パン!』と乾いた音が部屋に響き、バカ兄貴の首が明後日の方向を向いていた。
えっと、首折れてない?
大丈夫?
っていうか料理は?
どうやらお盆はエリザがとっさに確保したようで無事だった。
ふぅ、晩飯がなくなったかと思ったぜ。
「どうして兄さんがここにいるんですか!」
「アネット?」
「答えてください!もう盗賊からは足を洗う、そういったから私は、わたしは!」
「すまないアネット。でもどうしてもお前を助けたくて。」
「聞きたくありません。兄さんさえいなかったら私は・・・。」
なんだかよくわからないが修羅場のようだ。
はて、バカ兄貴は妹を助けたかったんだよな?
なのにどうして助けたら助けたで首が折れるぐらい殴られたんだ?
ってかよく無事だな。
「ひとまず食事にしましょう。どのような事情があれシロウ様が空腹なのは由々しき事態です。」
「幸い料理は無事だしね。」
「まぁ、なんだ。積もる話はあるだろうがとりあえず飯にするぞ。空腹では気が荒くなるだけだからな。」
「・・・かしこまりました。」
「アネットさんはご主人様にお皿と飲み物を、今日はお酒でよろしいですか?」
「そうだな、歓迎を兼ねていいやつを頼む。」
「そうおっしゃると思いましてレイブ様より頂いていたお酒をご準備しております。」
「やった!」
結構修羅場なのに二人ともマイペースだな。
ミラに促されるようにアネットさんが無言でお皿と料理を並べていく。
いつものように上座に俺が座り、その右横がエリザ左横がミラ、アネットさんは下座でお願いしよう。
そろそろ四人掛けのテーブルじゃ狭くなってきたなぁ。
ぶっちゃけこんな短期間でここまで人数が増えるとは想像してなかったしな。
え、バカ兄貴?
お前は正座だ。
「じゃあ食べるか。」
「はい。」
「ねぇせっかくのお酒だけど何に乾杯するの?」
「新しい奴隷にっていうのは変だよな。」
「別に変ではありませんがせっかく来ていただきましたし、お名前でよろしいかと。」
それもそうだな。
おい奴隷、っていうようなキャラじゃない。
ミラのようにちゃんと名前で呼ぶべきだ。
所有者なんだし呼び捨てでいいだろう。
「そんじゃまぁ、ようこそアネット、歓迎する。」
「ようこそアネットさん。」
「かんぱ~い!」
三人がグラスを掲げる。
うむ、美味い。
「いい酒だな。」
「美味しい!コクがあるのに口に残らない、それにシュワシュワする!」
「他国で作られたスパークリングワインだそうです。この街ではまだ珍しいのだとか。」
「へ~、エールじゃないのにね。」
とか言いながらエールのように飲んでるな。
高い酒なんだぞ、ちょっとは自重しろよな。
っておや?
アネットは今だ料理を口にしていない。
緊張しているというかどうしていいのかわからないようだな。
兄貴はというと同じく正座させられたままうつ向いたままだ。
妹に頬をぶっ叩かれたのがよっぽど効いているようだ。
「どうしたアネット食べないのか?」
「あの、奴隷なのに同席してよろしいのですか?」
「うちでは奴隷だろうが食事は同席だ。慣れてくれ。」
「シロウ様がそれを望んでおられます。遠慮するほうがむしろ失礼になりますよ。」
「シロウはね、奴隷だからって扱うのが苦手なのよ。変でしょ?」
「私を金貨300枚もの大金で買ったのにですか?」
「値段は関係ない。そんなこと言えばこいつは金貨5枚でこっちは金貨50枚だ。」
それぞれ指さすとミラはうなずいていたがエリザが顔を真っ赤にして反論してきた。
「私は奴隷じゃない!」
「知ってるさ。だが寸前だっただろ?」
「そうだけどさぁ。」
「まぁ借金は完済して今は自由の身だ。そのはずなんだがこうしてうちの飯をたかりに来る冒険者だと思ってくれ。」
「たかってないもん。」
「わかってるって、そう拗ねるな。」
「奥様ではないのですね?」
「俺の女ってことにしておいてくれ。」
恋人でも妻でもセフレでもない。
言葉にすると中々に難しいが俺の女であることに違いはない。
本人もそれを了承してる。
それに関してもミラが上手く説明してくれるだろう。
「歓迎会の主賓なんだ、遠慮せず食べろ。」
「そうおっしゃるのであれば・・・いただきます。」
渋々?いや恐る恐る?ともかく慎重に料理を口に入れるアネット。
薬でも盛られていると思ったんだろうか。
奴隷にいい印象がないのかもしれない。
「・・・美味しい。」
「そうだろう。ミラは料理上手だ、当番制だからよろしく頼むぞ。」
「当番ということはご主人様もお作りになるのですか?」
「気が向いたときはな。」
「シロウ様の料理は美味しいですから。」
「ほめても何も出ないぞ。」
「本当のことです。」
そう言われて悪い気はしないよな。
エリザは・・・。
この空気でも気にすることなく料理に食らいつき、酒を流し込んでいる。
まるで我関せずという感じだ。
実際そうだけど。
「まぁ、警戒せず食べてくれ。話はそれからだ。」
「はい。」
「なぁ、俺はどうすりゃいいんだ?」
おっと、バカ兄貴が我に返ったらしい。
俺の横で正座したまますがるような眼で俺を見てくる。
と、アネットが鋭い目つきで兄貴を睨むとバカ兄貴は再び静かになってしまった。
すごいな、耳を見るだけでそれぞれの感情が手に取るようにわかる。
アネットは無表情ながらも耳だけはピンと立ち、バカ兄貴はシュンと耳が下を向いている。
狐人というらしいからイヌ科であることは間違いないだろう。
尻尾は・・・今の所あるのかどうかはわからないな。
「とりあえず大人しく座ってたほうがいいみたいだぞ。飯は食ったんだろ?」
「あ、あぁ。」
「積もる話もあるだろうが俺は腹が減った。それが終わったらゆっくりやってくれ。」
「・・・わかった。」
叱られた犬のように再び正座をする。
その後何事もなかったかのように食事は続き、いい感じに腹が満たされた。
酒は確かに美味かったがアルコールは低いようであまり酔った感じはない。
エリザは物足りなかったのか、途中から自分で買い置きしている酒を飲んでいた。
まぁ自前の酒なので何も言うまい。
これぐらいで酔いつぶれる事もないしな。
「で、だ。良い感じで腹も膨れたし本題に入ろうじゃないか。」
「そうですね。エリザ様食器を片付けますのでお手伝いお願い出来ますか?」
「飲み足りないけど、まぁいいわ。」
まだ飲むのかよ。
でもなんだかんだ言いつつ空気が読めるんだよな、こいつは。
エリザの席にバカ兄貴を座らせ、その向かいにアネットを呼ぶ。
出来ればそこに座りたくないという感じだったが、主人の命令なので致し方ないという雰囲気がすごい。
かなりお怒りのようだ。
これが昔で言う激オコってやつなのか?
「アネット、先に話しておくがこいつはもう盗人から足を洗っている。だから自分の苦労が水の泡になったわけじゃない安心してくれ。」
「ではなぜ兄がここにいるのですか?客ならまだしもあのような部屋にいるんです、普通でないことは来たばかりの私でもわかります。」
「こいつはな、お前を助ける為にうちに盗みに入ったんだ。」
「盗みに!?」
「まぁ、盗む前に捕まってこのざまだ、笑ってやれ。」
「もう二度と盗みはしないって約束したのに。」
「お、俺はお前を助けようとしてそれで・・・!」
「関係ありません!」
髪の毛が逆立つんじゃないかってぐらいに怒りをぶつけるアネット。
事実獣耳付近の毛が逆立っているのを確認した。
すごいな、本当に逆立つんだな。
「まぁ、そう怒るな。こいつにも色々と事情があったようだしとりあえずそれを聞いてやってくれ。」
「本当は聞きたくありませんが・・・ご主人様がそうおっしゃるのであれば。」
ふむ、気性は荒いが主人の命令には忠実。
やはり狐はイヌ科だな。
怒りが静まった所で兄貴がゆっくりと話を始めた。
どうして二人が別れなければならなかったのか、その理由が少しずつ明らかになる。
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「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
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