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88.転売屋は奴隷を落札する

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現れた美人に思わず目を奪われる。

ミラともエリザとも違う、なんていうかエスニック風の美人がそこにいた。

でも普通と違うのはその頭。

ピコピコと動く獣の耳がそこにはあった。

まぁフールが獣人なんだから当たり前なんだけど、彼はどっちかっていうと金色の毛並みだった。

でも妹のはずの彼女の毛並みは銀色だ。

なぜだろう。

その答えは司会者がすぐに教えてくれた。

「ご覧のとおり彼女はただの獣人ではありません。狐人種の中でも特に珍しく持ち主に幸運を呼び込むというあの、銀狐なのです。かつてはその噂から無理矢理攫われた過去もありましたが、保護が叫ばれてからは奴隷として市場に出る事は殆どなくなってしまいました。そんな逸話のあるあの銀狐が、今この場にいるのです。そして、手に入れる事ができる。こんな幸運が他にあるでしょうか!しかもですよ、彼女はつい先日まで他町で薬師として人気を博していたんです。薬師の居ないこの街にとって彼女が出品されるということがどれだけ価値のある事か。それがわからない皆様ではないでしょう。もちろん19歳と若く未使用ですので末永くお楽しみいただけること間違いありません。幸運と金を呼び込む最高のお品です。金貨150枚から!さぁスタートです!」

長々とした紹介が突然終わり、いきなり入札が始まった。

女性はあまり手を上げていないがほとんどの男は手を上げている。

「はい、22番様金貨160枚、41番様金貨170枚・・・。」

入札は金貨10枚単位で行われているにもかかわらず誰も手を下げる様子がない。

そんなにも珍しいのか。

確かに美人だしスタイルもかなりのものだ。

エスニックな美貌がかなりそそられる。

ミラとエリザがいるにもかかわらずだ。

欲しい。

男にそう思わせる顔をしている。

大興奮の入札はさらにヒートアップしてあっという間に金貨250枚を超えた。

俺の品なんて無かったんじゃないか、そんな空気さえある。

すごいなぁ。

だが入札するかと訊かれたら微妙なところだ。

欲しいかと訊かれたら欲しい。

薬師の居ないこの街にとって彼女はまさに金のなる木だ。

儲けようと思ったらなんぼでも儲けることが出来るだろう。

だって商売仇がいないんだ。

値段なんて望むがままだろう。

多少高くても客は買ってくれるわけだしな。

さすがに元を取るにはかなりの時間を要するだろうが、一年や二年で回収するわけでもなし。

それでも、十数年で元は取れるんじゃないだろうか。

後は利益を生み続ける。

その間に他の薬師が来ないとも限らないが・・・。

ミラ曰く薬師ってすごい多岐にわたって仕事があるそうだから、仕事を奪われるってことがないらしい。

すごいなぁ。

儲けを考えるのならぜひ欲しい。

でもなぁ・・・。

手を上げる人間は3人まで減ったが、まだ値段は上がり続けている。

今は金貨275枚。

もうすぐ金貨300枚に届こうかという勢いだ。

金貨300枚って、俺の税金も家賃も余裕で払える金額じゃないか。

この奴隷ってそんなに高くなかったよね?

フールが盗賊を抜けるための資金を用立てるために奴隷になったはずなんだ。

ぼろ儲けもぼろ儲けじゃないか。

まぁ、俺に関して言えばほぼ原価は無いようなものだけどな。

ルティエたちに払ったのが原価みたいなものだ。

それでも金貨3枚にも満たない。

うん、俺も結構ぼろ儲けだわ。

「番号札4番様金貨285枚、番号札22番様金貨295枚、番号札4番様300枚、300枚頂きました!」

途中まで競っていた三人のうち一人が手を下げた。

残るところ二人。

いや、その一人も今ゆっくりと手を下げた。

金貨300枚で確定か。

おおよその金額で言うと三億。

人の命に値段をつけるのはアレだが、それでも元の世界の生涯年収で考えたら十分すぎる金額だろう。

司会者が他の入札者を探している。

と、その時だった。

今迄目を伏せて我々の方を見なかった彼女が突然顔を上げ、まっすぐに前を見た。

その目線の先にいるのは札を上げている男・・・ではなく、中央の男性。

そう、レイブさんだ。

レイブさんはというとその視線を受け、小さく頷くだけだったが・・・。

あれか?おめでとうとかそういう事か?

なんてことを考えながら視線を戻すと、彼女と目が合った。

澄んだ銀色の目をしていた。

まるで心の奥を見透かされるような目。

獣の目でも人の目でもない。

宝石のような瞳がまっすぐに俺を見つめていた。

「金貨300枚、金貨300枚、他におられませんか?手に入るチャンスは今しかありませんよ!さぁ金貨300枚です!」

司会者のうるさい煽りが耳に触る。

でもそんなことが気にならなくなるぐらいにとても綺麗な瞳が俺を見ていた。

そして小さく頷く。

まるでお願いしますとでもいうかのような仕草に・・・。

「お待ちしていました、番号札49番様金貨305枚頂きました!」

思わず手が上がってしまった。

会場中の視線が俺に集まってくる。

なんだよ、そんな顔するなよ。

レイブさんの方を見ると嬉しそうな顔で俺を見ていた。

「番号札4番様310枚!49番様315枚!4番様320枚!」

値上げの応酬が続く。

向こうもかなり苦しそうだが、俺の手は下がらなかった。

そして。

「金貨330枚だ。」

「さ、330枚!番号札49番様330枚です!他におられませんか!」

さも当たり前のように値段を上げた俺を見て、とうとう番号札4番のかなり肥えられた中年のおじ様がその手を下した。

「金貨330枚、金貨330枚です!他におられませんか?おられませんか?で、では、金貨330枚で49番、シロウ様落札ですおめでとうございます!」

割れんばかりの拍手が会場中から聞こえてくる。

その拍手にこたえるように手を振り、そして彼女の方を見る。

無表情だった彼女の顔に初めて感情らしい感情が現れた。

うれしい。

一目でそうわかる幸せそうな顔をしていた。

自分を金で買った男に向かってそんな顔するか?

司会者に呼ばれるがまま壇上へと向かう。

すると、遅れてレイブさんも壇上へとやってきた。

「シロウ様が落札してくださると信じていました。彼女もそれがわかっていたようです。」

「偶然ですよ。先程レイブさんが買って下さらなければそもそも予算がありませんでした。まさかそれを狙って?」

「とんでもない。最近色々とありましてね、身を守るためにぜひと思っていただけです。」

「本当ですか?」

「もちろんです。」

横で司会者が何か五月蝿く喋っているが何を言っているかわからない。

彼女は何も言わずじっと俺だけを見ている。

「で、ではレイブ様よりシロウ様へ奴隷の譲渡をお願いします。本来であれば閉幕後行うものですが金額が大きく、また所有権をはっきりさせた方がいい為にこの場で行わせて頂きます。ではレイブ様首輪をお外しください。」

「わかりました。」

彼女の首に付けられた首輪に向かってレイブさんが手を伸ばす。

ミラの時同様いとも簡単にカシャンという音と共に首輪が外れた。

「ではシロウ様お願いします。」

「わかりました。」

レイブさんから首輪を預かり彼女の首に向かって手を伸ばす。

着用する前に針が俺の手を刺し鋭い痛みが来たが、二度目なので我慢できた。

そのまま彼女の首に首輪がはめられる。

「これにより新たな所有者が移りました。」

「末永くご使用いただければと思います。」

「アネットだったな。」

「え、どうして・・・。」

驚いた顔をするアネット。

いいねぇ、エキゾチック美人の驚いた顔ってのは。

帰ったらエリザになんて言われるかなぁ。

ミラは特に表情を変える事は無いんだろうな。

「過去最高の値段がついた今回のオークション。皆様また四か月後にお会い致しましょう!最高落札者であるシロウ様そしてレイブ様にもう一度拍手をお願いします!」

司会者が閉会を宣言すると同時に再び大きな拍手が会場中に響き渡った。

さぁ、これにて馬鹿騒ぎは終了だ。

さっさと家に帰って・・・。

「出品者、落札者の皆様には会場に残って頂き代金の精算をさせて頂きますので、このままお待ちください。」

って、そうだったそうだった。

手数料を払って代金をもらうんだったな。

って言っても代金のほとんどはアネットを買うのに使ってしまった。

というかむしろ足りるのか?

今になって7点の落札価格を思い出し暗算してみる。

えーっと、うーんと・・・。

たぶん足りる・・・はずだ。

会場から品を置いていた裏へと移り、係の人から落札順に代金を受け取って行く。

手数料を引いてあるのでかなり細かくなってしまった。

中々の量もある。

ジャラジャラと金貨と銀貨の詰まった袋が結構重い。

「お待たせいたしました、ではジェイド・アイの代金になるのですが・・・。」

「差し引きして足りない分をレイブさんにお支払いする方が楽ですよね。」

「仰る通りです。手数料をお引きしまして残り金貨112枚と銀貨20枚になります。」

「おそらく足りると思います。」

テーブルの上に硬貨の詰まった袋をのせる。

あー、疲れた。

「大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。」

「あの、どうして私の名前を?」

「それは帰って話す、今は待ってくれ。」

「申し訳ありません。」

心配してくれたのだろうが、支払いが終わってない以上所有者はレイブさんだ。

事情を話すにはまだ早い。

「確かにございます。こちら残りの金貨12枚と銀貨77枚です、お納めください。」

「わざわざ両替してくれたのか。」

「それも仕事ですので。」

いい仕事してますねぇ。

そして大量の金貨がレイブさんの前に積み上げられる。

プラス、最後に手渡されたのがジェイド・アイだ。

「これで全て完了ですね。」

「えぇ、お疲れさまでした。」

「シロウ様とは引き続き良い取引が出来ると確信しております。どうぞよろしくお願い致します。」

「半年たたないうちに二人も買ったんです、当分はないと思ってください。」

「あはは、そういう事にしておきましょう。」

いや、マジで金が無いんだって。

多少の現金は戻って来たものの、仕入れ代金を考えれば赤字ってことになる。

これはいよいよ本気を出して働かなければならなくなってきたぞ。

おかしいなあ、アレを売って悠々自適の生活を送るはずだったのに、どうしてこうなった。

「帰りの馬車が裏口に用意してございます。ではシロウ様お疲れさまでした。」

「レイブさんお先に失礼します。」

「レイブ様ありがとうございました。」

「シロウ様の所にはミラという奴隷が居ます。彼女の言う事をよく聞くのですよ。」

「はい。」

「シロウ様どうぞお気をつけて。」

握手を交わして会場の裏口から外に出る。

前夜祭はあるのに後夜祭は無いんだな。

ってそりゃそうか、早く帰りたい人が多いんだろう。

俺も早く帰りたい。

先にアネットを馬車に乗せ続いて乗り込む。

「さぁ、帰るか。兄貴が待っているぞ。」

「え?」

「出してくれ。」

あえて返事をせずに俺は馬車を出発させた。

感動の?再会まであと少し。

それよりも先に二人になんて言われる事か。

何故かそっちの心配をしてしまうのだった。
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