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85.転売屋はオークションに行く

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「忘れ物はありませんか?」

「あぁ、必要なものは持った。」

「本当に護衛はいらないのね?」

「会場まではレイブさんの馬車だし、中はかなり厳重な警備が敷いてある。問題ないだろう。というよりも、関係者以外立ち入り禁止だからエリザは入れないな。」

「でもミラさんも行かないんでしょ?」

「ミラには店番をしてもらわないといけないからな。倉庫を荒らされて涙貝が品薄ってことになってるから。」

オークション当日。

俺は準備を済ませて迎えの馬車を待っていた。

前夜祭は何とかやり過ごせたが、当日は朝一から参加するように言われてしまった。

まぁ一番めんどくさいのを回避できただけ良しとしよう。

エリザとミラは留守番だ。

彼の相手をしてもらわないといけないのでエリザは俺が戻るまで護衛として待機してもらうことになっている。

「で、もう一度聞くけどアネットさんを買うの?」

「いや、それに関してはまだ未定だ。」

「ふ~ん。」

「なんだよ。」

「別に、どうなるかはまぁ想像できるなって。」

「いっただろ、何人も養えるほどの余裕はないんだよ。」

買えるならば買うかもしれない。

だが必要ないと判断したなら買わない。

バカ男には申し訳ないがそれが現実だ。

彼を匿っているのはあくまでも俺の気まぐれ。

事が収まればさっさとどこかに行ってもらうつもりだ。

「シロウ様のことです、全て丸く収められます。」

「いやいや、どんなプレッシャーかけるんだよ。」

「でなければあの方を匿う理由がありません。何とかしてあげたい、そう思われたからこそ今日まであの部屋に隠していたのです。」

「いや、そうじゃないから。」

「私はそう信じております。」

「・・・どうするかはその時決める。不必要だと判断した場合は買う事はない、わかったな?」

自分に言い聞かせるようにミラにも強く言い聞かせる。

そんなことをしている間に、迎えの馬車が到着したようだ。

「夜中までには戻る。遅くなるようだったら先に寝ておいてくれ。」

「は~い。」

「どうぞお気を付けて。」

財布よし、例のブツよし、追加できる商品よし。

服は・・・まぁ懇親会の流用だが問題ないだろう。

外に出るとちょうど馬車が開いた所でレイブさんが中から手を振っていた。

馬車の周りには屈強な人が四人ほど辺りを伺っている。

なんとまぁ物騒だ事。

「おはようございます、レイブさん。」

「おはようございますシロウ様。このような時間から申し訳ありません。」

「いえ、前夜祭を回避したんです致し方ありませんよ。」

「そう仰っていただけると助かります。」

「長い一日になりそうですね。」

「オークションは今日の夕刻から、それまでは出品準備と出品物の展示になります。追加の品はお持ちになられましたか?」

今日の夕方が本番なのに朝一番に呼び出されるのは何故か。

理由は簡単だ。

俺の嫌いな例の集まりがあるんだとさ。

「えぇ、ご要望がありました通り三点お持ちしました。」

「急な要望にお答えいただき感謝の言葉もありません。」

「こんな時の買取屋ですから。稼がせてもらいますよ。」

ちなみにこの追加の品というのは、急遽レイブさんから頼まれたものだ。

なんでも出品するはずだった貴族が来られなくなってしまい、予定の場所が開いてしまったそうだ。

前倒ししてもいいのだが、それではタイムスケジュールがずれるということで急遽出品の依頼があった。

出品物は俺の物だが出品者はレイブさんということになっている。

出品個数の関係上致し方ない。

寧ろ俺からすれば予定以上の出品で稼げるチャンスなのでありがたい話だ。

「えぇ、ぜひ稼いでいただき奴隷をお買い求めください。」

「なんでもすごい奴隷を出すとか?」

「シロウ様ほどではございませんが、気に入って下さると確信しております。」

「まるで私に買ってほしいみたいな言い方じゃないですか。」

「オークションですので大勢の方に見て頂きますが、私の心はシロウ様にと決めております。」

「個別に取引するほうが安いお約束でしたよね?」

「それはそれ、これはこれでございます。」

ここまで言うなんてよっぽどすごい奴隷なんだろう。

すごい奴隷の定義がよくわからないが、そうなんだろう。

うん。

「出発します!」

よく通る声と同時にギシっと大きな音がして馬車が動き出した。

狭い町だからそんなに時間はかからないが、普段乗らないだけに新鮮だ。

前に乗ったのは・・・懇親会に行ったときか。

もしかするとこの街の外に出ることもあるかもしれないが、その時も馬車を使うんだろうなぁ。

歩いては二度と御免だ。

他愛もない話をしながらあっという間に目的の場所へと到着した。

「ってやっぱりここですよね。」

「いえ、まずはこの奥ですよ。」

「といいますと?」

「まずは街長のお屋敷で歓迎会が催されます。遠くから来て下さる方も多いですから、お出迎えを兼ねてですね。」

「マジですか。」

「その後昼過ぎにオークション会場へ移動して先程お話しした通りになります。昼までの辛抱です、頑張ってください。」

頑張って下さいって貴方ねぇ・・・。

いや、レイブさんに文句を言っても始まらないか。

ここまで来たんだ、行くしかあるまい。

覚悟を決め馬車から降りる。

周りにはたくさんの馬車が止まっており、参加者であろう人達が再会を喜び合ったり難しい顔をして話し込んでいた。

会場前が盛り上がるのはどの世界も同じだな。

ほら、コンサートとか始まる前ってこんな感じじゃなかったか?

「さぁ参りましょう。」

「はい。」

特に親しい人がいるわけではないのでレイブさんの後ろに続いて屋敷までの道を進む。

何度か話しかけられていたレイブさんだったが、俺を気にしてか頭を下げるだけだった。

「別にお話しして下さって構いませんよ?」

「いえ、お屋敷までお連れするのが私の仕事ですから。」

「つまりそこから先は別の方がおられると。」

「あはは、バレるのが早いですねぇ。」

「その人と昼まで一緒ですか・・・。」

イヤな予感しかしないなぁ。

この街で俺と関わりのある人はそれほど多くない。

さらに言えば街長屋敷に出入りできる人間になれば数えるほどしかいない。

レイブさん羊男、そして・・・。

「ようこそお越しくださいました、歓迎いたしますわ。」

「おはようございますアナスタシア様。」

「まぁそうなるよなぁ。」

この人しかいないよな。

副長の奥様にして涙貝を広めてくれたご本人登場だ。

この人に引き継ぐという事は俺をこのまま自由にするつもりはないという事だろう。

はてさて何をさせられるのやら。

「何かご不満でも?」

「とんでもない。素敵なネックレスとイヤリングですね、よくお似合いだ。」

「そうでしょう。夫もいい買い物だったと喜んでいましたわ。」

「それはよかった。」

「ではアナスタシア様、後をお願い致します。」

「任せておきなさい、決して悪いようにはしないわ。」

「お昼の準備までには戻りますので、それまでの間頑張ってください。」

頑張ってくださいって、いったい何をやらせようというのだろうか。

目の前では奥様がニコニコと嬉しそうな顔をしている。

嬉しそう、違うなまるでゲームの順番を待つ子供のようだ。

レイブさんが恭しく頭を下げて人ごみの中へと消えて行った。

さぁ、お昼までの数時間。

一体何が起きるのやら。

「ついてきて、紹介したい人がいるの。」

「紹介?」

「そうよ。前夜祭に来なかったんだから今しか時間が無いの。」

「別に誰かと交友を深めるために来たんじゃないんですがね。」

「知ってるわ。でもこの街にいてあの人に挨拶しないわけにはいかないでしょ。ほら、さっさと来なさい。」

あの人。

今の言い方だとかなり重要なポストにいる人物のようだが・・・。

副長の奥様より上って二人しかいないじゃないか。

俺の心配をよそにどんどんと先を進む奥様の後ろを急いで追いかける。

そんなに広い部屋ではないはずなのに随分と歩いた気がするんだが・・・っと、どうやらついたようだ。

そこだけたくさんの人が集まっており、自分の順番を待っているようだった。

その順番を無視して一番前に突っ込んでいく。

「ローランド様、良いオークションになりますことをお祈り申し上げます。」

「あぁ、遠路はるばるありがとう。」

どうやらタイミングよく話は終わったようだ。

奥様が次の人を制してその人の前に出る。

「ローランド様、やっと捕まえましたわ。」

「いやいや、彼を呼び出していなかった私も悪い。」

「もぅ、そうやって甘やかすからゲイルのように好き勝手するのです。」

「そう言いながら君も強く言わないみたいじゃないか。そんなに気に入っているのかい?」

「私を前にしてあの態度を取れるのは夫を除けばローランド様だけですわ。この間までは。」

「そうかそうか。そんなに気に入ったのか。」

「シロウという者です。さぁ、ローランド様にご挨拶なさい。」

ご挨拶なさいって・・・。

だからこの人は一体誰なんだ?

促されるというよりも無理やり背中を押されて前に出ると、そこにいたのはサンタクロースだった。

いや、本当にそう見える。

真っ白な口と顎髭。

魔法使いの映画に出てきそうだ。

先程の話から察するにそんなにもキツいタイプの人間じゃないようだしな。

「お初にお目にかかります、今年から買取屋を営んでおりますシロウと申します。この度はお招きいただきありがとうございました。」

とりあえず硬苦しい自己紹介をしておけば問題ないだろう。

深々と頭を下げ元の位置に戻ってもその人に動きは無かった。

「聞いていたよりも随分と礼儀正しいじゃないか。」

「当然ですわ。私のような態度を取るようなら追い出している所です。」

「だがそこが気に入っていると言っていたじゃないか。」

「それはそうですが・・・。」

「おぉ、自己紹介が遅れたな。私はローランド、この街の長という職に就いている。あぁ、そんなにかしこまるな。役職だけはえらいただの爺さんだ。」

そういうとサンタクロースはまっすぐに手を伸ばした。
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