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79.転売屋は原石を磨く(磨かせる)
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オークションに持ち込むネタは見つかった。
だが、エリザの言うようにこのままではただの綺麗な石。
磨いて初めて相場スキルで見たのと同じだけの値段になるのだろう。
石は磨かねばならない。
まるで女と同じだな、なんて馬鹿な事を考えながら翌日ルティエの店を訪れた。
「おはようございます!」
「今日は別の用事で来たんだが、時間大丈夫か?」
「今日はお客さんも少なめなので大丈夫です。どうしたんですか?」
「これを見てくれ。」
不思議そうに首をかしげるルティエに例の石を見せてみる。
すると見る見るうちにその表情が変わり、見た事も無い顔になる。
「なんですかコレ!」
「石だ。」
「石じゃないですよ!宝石の原石じゃないですか、しかもとってもすごい奴です!」
「あぁ、磨けばそうなるだろう。だが、まだただの石だ。」
「普通はこれだけでも十分価値がありますし、そんな冷静でいられるはずないんですけど・・・。シロウさんですもんね。」
「俺だったら何だよ。」
「シロウさんがこの程度でアタフタするはずないなって。」
それは褒められているんだろうか。
っていうか俺の事をどういう風に見ているのだろうか。
今度問い詰める必要がありそうだが、今はその時ではない。
「でだ、これを磨いてほしいんだが・・・。」
「ムリムリムリムリ無理ですよぉ!」
「ノータイムかよ。」
「加工はできますけど研磨は無理です。しかもこれだけの原石傷つけたらどうなるか・・・。」
「そしたらただの石に戻るだけだ。」
「戻るだけって・・・。」
「どうしても無理か?」
「無理です。シロウさんのお願いでもこればっかりは。」
そうか。
ルティエにならできると踏んだんだが、駄目だったか。
まぁ、予想はしていた。
加工と研磨は別物だって聞いた事がある。
プラモの組み立てとカラーリングぐらい違うだろう。
例えが分かりづらいか・・・。
「そうか。」
「ごめんなさい。」
「じゃあ研磨できる奴を紹介してくれ。」
「うーん、これだけの品を磨ける人はそんなにいないと思いますけど・・・。そうだ!フェイさんなら何とかしてくれるかも!」
「フェイ?」
「この通りの奥にいる職人仲間です。腕はいいんですけどクセが強くて、でも私の紹介だって言えば話を聞いてくれるかもしれません!」
「で、後は俺が何とかしろって事だな。」
蛇の道は蛇。
ルティエの所に来て正解だった。
相手が気難しかろうが変人だろうが、仕事をしてくれるのならそれでいい。
この通りに住んでいるという事は、まだ大成していない職人という事になる。
それでも大化けしたルティエが薦めるんだ、期待していいだろう。
「通りの奥だな。」
「研磨機の紋章がぶら下がっていますから。」
「どんな紋章か見当もつかないんだが。」
「行けばわかりますよ。」
なら行ってみようじゃないか。
「あ、いらっしゃいませ。ちょっと待ってください!」
っと、ちょうど新しい客が来たな。
目で挨拶をしてルティエの工房を出る。
客は・・・まためんどくさそうなやつだが何とかするだろう。
そのまま人混みをかき分けながら通りの奥へと足を向ける。
さっきまでたくさんいた人も奥の方はまばらだ。
代わりに耳障りな音が聞こえてくる。
近づくにつれそれは大きくなり、しまいには耳を塞がなければならなくなった。
いけばわかる、確かにそうだ。
最奥の店にはグラインダーのような絵が掛かれた看板がぶら下がっていた。
ここだな。
音が小さくなったタイミングで店の戸を開けた。
「失礼する。」
「失礼するなら帰るよろし。」
開口一番これかよ。
確かにかなり癖のある人物のようだ。
見た目はアジア人ぽくて目が細い。
糸目というやつだろうか。
「ルティエの紹介できたんだ、そう言わずに話を聞いてくれ。」
「ルティエの紹介・・・、なら話だけは聞くアル。」
男は作業を止めこちらに向かってきた。
どうやら話だけは聞いてくれるようだ。
戸を閉め案内されるがまま近くの椅子に座る。
なんていうかどうして職人とかいう人種は掃除が出来ないんだ?
出来る人ももちろんいるが汚い人の方が多い気がする。
寝食を忘れるのもそうだが、自分のことは出来る方がいいとも思うぞ。
パンパンとほこりを払ってから男は反対側の椅子に腰かけた。
「まずは自己紹介だが・・・。」
「買取屋のシロウと言えばこの界隈でも有名アル。特にルティエに涙貝を卸している強欲商人として。」
「それは自己紹介が省けて何よりだ。」
「その強欲がうちに何の用アルか?」
「とりあえずこれを見てくれ。」
こういうタイプには無駄話をしない方がいい。
さっさと要件に入るべくカバンから例のブツを取り出した。
「・・・これをどこで手に入れたアルか?」
「もちろんダンジョンでだ。」
「その体でダンジョンに?信じられないアル。」
「潜ったのは俺じゃないさ、ダンジョンで見つけた冒険者から買い付けたんだ。出所を言う必要はあるのか?」
「盗品はお断りアルよ。」
「盗品じゃない、ちゃんと買い取りの履歴もあるし、なんなら冒険者を連れてきてもいい。」
「・・・その目、嘘はついていないアルね。」
「目を見てわかるのか?」
「邪な目は泳ぎ澱むアル。」
俺にはさっぱりわからんが、こいつが俺の目をじっと見てくるのだけはわかる。
昔から目を見られたら反らすなと言われて来たからな、そのおかげかもしれない。
「信じてもらえたなら何よりだ。依頼は他でもない、この石を世に出せるよう仕上げてやってくれ。」
「見える部分だけで判断できる透明度、そして輝き。これだけのジェイドを磨ける日が来るとは思わなかったアルよ。」
「出来そうか?」
「もちろん、だけど世に出すなら魔加工も必要アルよ?」
「魔加工?」
「この石に命を吹き込む魔法アル。」
そういえば鑑定するにもそんなことが書いてあった気がする。
魔加工することで毒を無効化できるとかなんとか・・・。
そもそも毒の無効化ってそんなに有難いのか?
ゲームじゃゴミ扱いだったと思うんだがなぁ。
「つまり磨きは出来ても加工は出来ないと。紹介してもらう事は可能か?」
「削りが上手く行ったら考えるアルよ。」
「それは失敗すると?」
「失敗しないとは言わないアル。」
それはつまり失敗しないってことだな?
そう来なくっちゃ。
「依頼は前金で銀貨30枚、完成して銀貨20枚だ。納期は五日、可能か?」
「正直ギリギリ・・・でもこの石を世に出せるなら何とかするアルよ。」
「恩に着る。」
「しかし、ルティエに聞いていた通りの男アルねぇ。」
話がまとまりお互いに緊張を緩めた途端、まるで椅子で遊ぶ子供のようにぶらぶらを椅子の前を揺らし始めた。
「なんて聞いているんだ?」
「いきなり来て大仕事を任せてくる金持ち、でも中身はしっかり者って感じアル。」
「半分は当たりだ。」
「金持ちじゃないアルか?」
「いや、しっかり者じゃない。結構ずぼらだ。」
仕事だってミラが居なかったらうまく回っていないだろう。
最近はやることが多すぎてスケジュールを立てないと何をしていいかわからなくなる。
ほんと有能な秘書、もとい奴隷がいて助かるよ。
「そういう所嫌いじゃないアルよ。」
「それはなによりだ。これが前金、他に必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ。」
「掃除でもいいアルか?」
「それぐらいならお安い御用だ。」
契約成立。
金を渡し契約書にサインを貰ってから掃除を始める。
最初は簡単だろうと思っていたのだが、仕事柄石が多く結構しんどい。
終わるころには腕も足もプルプルしていた。
最初はとっつきにくいと思っていたが結構話の分かるやつだった。
癖のある話し方の理由は祖母がこんな話し方だったかららしい。
別の世界から来たが口癖で、随分前に亡くなったそうだが・・・。
俺以外にも飛んできた人がいる。
その事実は俺を大いに驚かせた。
もちろんフェイには何も言っていない。
いつの日かエリザ達に言う日が来るのかもしれないが、当分先だろうな。
「そんじゃま帰るわ。」
「助かったアル。」
「しっかり頼むぞ。」
「美人に仕上げるから期待するよろし。」
「なんだあいつは女だったのか。」
「石は皆女、そう考えたら仕事も楽しくなるアル。」
「そりゃ違いない。」
お互いに笑い合い店を出る。
するとすぐに研磨機が動き出し、あのうるさい音が響き始めた。
これが仕上がればいよいよ命を吹き込むことになる。
成功したら次の職人を紹介してくれるらしいが、類は友を呼ぶっていうし次のやつも変なんだろうなぁ。
オークション開始まであと三週間。
納期的にはギリギリだが・・・。
まぁ何とかなるだろう。
間に合わなければ別の品を出品すればいい。
今回の品ほどじゃないが、それなりの値段にはなるはずだ。
研磨機の音を聞きながら裏通りを進んでいく。
はてさてどんな仕上がりになるのやら。
今から楽しみだな。
だが、エリザの言うようにこのままではただの綺麗な石。
磨いて初めて相場スキルで見たのと同じだけの値段になるのだろう。
石は磨かねばならない。
まるで女と同じだな、なんて馬鹿な事を考えながら翌日ルティエの店を訪れた。
「おはようございます!」
「今日は別の用事で来たんだが、時間大丈夫か?」
「今日はお客さんも少なめなので大丈夫です。どうしたんですか?」
「これを見てくれ。」
不思議そうに首をかしげるルティエに例の石を見せてみる。
すると見る見るうちにその表情が変わり、見た事も無い顔になる。
「なんですかコレ!」
「石だ。」
「石じゃないですよ!宝石の原石じゃないですか、しかもとってもすごい奴です!」
「あぁ、磨けばそうなるだろう。だが、まだただの石だ。」
「普通はこれだけでも十分価値がありますし、そんな冷静でいられるはずないんですけど・・・。シロウさんですもんね。」
「俺だったら何だよ。」
「シロウさんがこの程度でアタフタするはずないなって。」
それは褒められているんだろうか。
っていうか俺の事をどういう風に見ているのだろうか。
今度問い詰める必要がありそうだが、今はその時ではない。
「でだ、これを磨いてほしいんだが・・・。」
「ムリムリムリムリ無理ですよぉ!」
「ノータイムかよ。」
「加工はできますけど研磨は無理です。しかもこれだけの原石傷つけたらどうなるか・・・。」
「そしたらただの石に戻るだけだ。」
「戻るだけって・・・。」
「どうしても無理か?」
「無理です。シロウさんのお願いでもこればっかりは。」
そうか。
ルティエにならできると踏んだんだが、駄目だったか。
まぁ、予想はしていた。
加工と研磨は別物だって聞いた事がある。
プラモの組み立てとカラーリングぐらい違うだろう。
例えが分かりづらいか・・・。
「そうか。」
「ごめんなさい。」
「じゃあ研磨できる奴を紹介してくれ。」
「うーん、これだけの品を磨ける人はそんなにいないと思いますけど・・・。そうだ!フェイさんなら何とかしてくれるかも!」
「フェイ?」
「この通りの奥にいる職人仲間です。腕はいいんですけどクセが強くて、でも私の紹介だって言えば話を聞いてくれるかもしれません!」
「で、後は俺が何とかしろって事だな。」
蛇の道は蛇。
ルティエの所に来て正解だった。
相手が気難しかろうが変人だろうが、仕事をしてくれるのならそれでいい。
この通りに住んでいるという事は、まだ大成していない職人という事になる。
それでも大化けしたルティエが薦めるんだ、期待していいだろう。
「通りの奥だな。」
「研磨機の紋章がぶら下がっていますから。」
「どんな紋章か見当もつかないんだが。」
「行けばわかりますよ。」
なら行ってみようじゃないか。
「あ、いらっしゃいませ。ちょっと待ってください!」
っと、ちょうど新しい客が来たな。
目で挨拶をしてルティエの工房を出る。
客は・・・まためんどくさそうなやつだが何とかするだろう。
そのまま人混みをかき分けながら通りの奥へと足を向ける。
さっきまでたくさんいた人も奥の方はまばらだ。
代わりに耳障りな音が聞こえてくる。
近づくにつれそれは大きくなり、しまいには耳を塞がなければならなくなった。
いけばわかる、確かにそうだ。
最奥の店にはグラインダーのような絵が掛かれた看板がぶら下がっていた。
ここだな。
音が小さくなったタイミングで店の戸を開けた。
「失礼する。」
「失礼するなら帰るよろし。」
開口一番これかよ。
確かにかなり癖のある人物のようだ。
見た目はアジア人ぽくて目が細い。
糸目というやつだろうか。
「ルティエの紹介できたんだ、そう言わずに話を聞いてくれ。」
「ルティエの紹介・・・、なら話だけは聞くアル。」
男は作業を止めこちらに向かってきた。
どうやら話だけは聞いてくれるようだ。
戸を閉め案内されるがまま近くの椅子に座る。
なんていうかどうして職人とかいう人種は掃除が出来ないんだ?
出来る人ももちろんいるが汚い人の方が多い気がする。
寝食を忘れるのもそうだが、自分のことは出来る方がいいとも思うぞ。
パンパンとほこりを払ってから男は反対側の椅子に腰かけた。
「まずは自己紹介だが・・・。」
「買取屋のシロウと言えばこの界隈でも有名アル。特にルティエに涙貝を卸している強欲商人として。」
「それは自己紹介が省けて何よりだ。」
「その強欲がうちに何の用アルか?」
「とりあえずこれを見てくれ。」
こういうタイプには無駄話をしない方がいい。
さっさと要件に入るべくカバンから例のブツを取り出した。
「・・・これをどこで手に入れたアルか?」
「もちろんダンジョンでだ。」
「その体でダンジョンに?信じられないアル。」
「潜ったのは俺じゃないさ、ダンジョンで見つけた冒険者から買い付けたんだ。出所を言う必要はあるのか?」
「盗品はお断りアルよ。」
「盗品じゃない、ちゃんと買い取りの履歴もあるし、なんなら冒険者を連れてきてもいい。」
「・・・その目、嘘はついていないアルね。」
「目を見てわかるのか?」
「邪な目は泳ぎ澱むアル。」
俺にはさっぱりわからんが、こいつが俺の目をじっと見てくるのだけはわかる。
昔から目を見られたら反らすなと言われて来たからな、そのおかげかもしれない。
「信じてもらえたなら何よりだ。依頼は他でもない、この石を世に出せるよう仕上げてやってくれ。」
「見える部分だけで判断できる透明度、そして輝き。これだけのジェイドを磨ける日が来るとは思わなかったアルよ。」
「出来そうか?」
「もちろん、だけど世に出すなら魔加工も必要アルよ?」
「魔加工?」
「この石に命を吹き込む魔法アル。」
そういえば鑑定するにもそんなことが書いてあった気がする。
魔加工することで毒を無効化できるとかなんとか・・・。
そもそも毒の無効化ってそんなに有難いのか?
ゲームじゃゴミ扱いだったと思うんだがなぁ。
「つまり磨きは出来ても加工は出来ないと。紹介してもらう事は可能か?」
「削りが上手く行ったら考えるアルよ。」
「それは失敗すると?」
「失敗しないとは言わないアル。」
それはつまり失敗しないってことだな?
そう来なくっちゃ。
「依頼は前金で銀貨30枚、完成して銀貨20枚だ。納期は五日、可能か?」
「正直ギリギリ・・・でもこの石を世に出せるなら何とかするアルよ。」
「恩に着る。」
「しかし、ルティエに聞いていた通りの男アルねぇ。」
話がまとまりお互いに緊張を緩めた途端、まるで椅子で遊ぶ子供のようにぶらぶらを椅子の前を揺らし始めた。
「なんて聞いているんだ?」
「いきなり来て大仕事を任せてくる金持ち、でも中身はしっかり者って感じアル。」
「半分は当たりだ。」
「金持ちじゃないアルか?」
「いや、しっかり者じゃない。結構ずぼらだ。」
仕事だってミラが居なかったらうまく回っていないだろう。
最近はやることが多すぎてスケジュールを立てないと何をしていいかわからなくなる。
ほんと有能な秘書、もとい奴隷がいて助かるよ。
「そういう所嫌いじゃないアルよ。」
「それはなによりだ。これが前金、他に必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ。」
「掃除でもいいアルか?」
「それぐらいならお安い御用だ。」
契約成立。
金を渡し契約書にサインを貰ってから掃除を始める。
最初は簡単だろうと思っていたのだが、仕事柄石が多く結構しんどい。
終わるころには腕も足もプルプルしていた。
最初はとっつきにくいと思っていたが結構話の分かるやつだった。
癖のある話し方の理由は祖母がこんな話し方だったかららしい。
別の世界から来たが口癖で、随分前に亡くなったそうだが・・・。
俺以外にも飛んできた人がいる。
その事実は俺を大いに驚かせた。
もちろんフェイには何も言っていない。
いつの日かエリザ達に言う日が来るのかもしれないが、当分先だろうな。
「そんじゃま帰るわ。」
「助かったアル。」
「しっかり頼むぞ。」
「美人に仕上げるから期待するよろし。」
「なんだあいつは女だったのか。」
「石は皆女、そう考えたら仕事も楽しくなるアル。」
「そりゃ違いない。」
お互いに笑い合い店を出る。
するとすぐに研磨機が動き出し、あのうるさい音が響き始めた。
これが仕上がればいよいよ命を吹き込むことになる。
成功したら次の職人を紹介してくれるらしいが、類は友を呼ぶっていうし次のやつも変なんだろうなぁ。
オークション開始まであと三週間。
納期的にはギリギリだが・・・。
まぁ何とかなるだろう。
間に合わなければ別の品を出品すればいい。
今回の品ほどじゃないが、それなりの値段にはなるはずだ。
研磨機の音を聞きながら裏通りを進んでいく。
はてさてどんな仕上がりになるのやら。
今から楽しみだな。
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