上 下
79 / 1,063

79.転売屋は原石を磨く(磨かせる)

しおりを挟む
オークションに持ち込むネタは見つかった。

だが、エリザの言うようにこのままではただの綺麗な石。

磨いて初めて相場スキルで見たのと同じだけの値段になるのだろう。

石は磨かねばならない。

まるで女と同じだな、なんて馬鹿な事を考えながら翌日ルティエの店を訪れた。

「おはようございます!」

「今日は別の用事で来たんだが、時間大丈夫か?」

「今日はお客さんも少なめなので大丈夫です。どうしたんですか?」

「これを見てくれ。」

不思議そうに首をかしげるルティエに例の石を見せてみる。

すると見る見るうちにその表情が変わり、見た事も無い顔になる。

「なんですかコレ!」

「石だ。」

「石じゃないですよ!宝石の原石じゃないですか、しかもとってもすごい奴です!」

「あぁ、磨けばそうなるだろう。だが、まだただの石だ。」

「普通はこれだけでも十分価値がありますし、そんな冷静でいられるはずないんですけど・・・。シロウさんですもんね。」

「俺だったら何だよ。」

「シロウさんがこの程度でアタフタするはずないなって。」

それは褒められているんだろうか。

っていうか俺の事をどういう風に見ているのだろうか。

今度問い詰める必要がありそうだが、今はその時ではない。

「でだ、これを磨いてほしいんだが・・・。」

「ムリムリムリムリ無理ですよぉ!」

「ノータイムかよ。」

「加工はできますけど研磨は無理です。しかもこれだけの原石傷つけたらどうなるか・・・。」

「そしたらただの石に戻るだけだ。」

「戻るだけって・・・。」

「どうしても無理か?」

「無理です。シロウさんのお願いでもこればっかりは。」

そうか。

ルティエにならできると踏んだんだが、駄目だったか。

まぁ、予想はしていた。

加工と研磨は別物だって聞いた事がある。

プラモの組み立てとカラーリングぐらい違うだろう。

例えが分かりづらいか・・・。

「そうか。」

「ごめんなさい。」

「じゃあ研磨できる奴を紹介してくれ。」

「うーん、これだけの品を磨ける人はそんなにいないと思いますけど・・・。そうだ!フェイさんなら何とかしてくれるかも!」

「フェイ?」

「この通りの奥にいる職人仲間です。腕はいいんですけどクセが強くて、でも私の紹介だって言えば話を聞いてくれるかもしれません!」

「で、後は俺が何とかしろって事だな。」

蛇の道は蛇。

ルティエの所に来て正解だった。

相手が気難しかろうが変人だろうが、仕事をしてくれるのならそれでいい。

この通りに住んでいるという事は、まだ大成していない職人という事になる。

それでも大化けしたルティエが薦めるんだ、期待していいだろう。

「通りの奥だな。」

「研磨機の紋章がぶら下がっていますから。」

「どんな紋章か見当もつかないんだが。」

「行けばわかりますよ。」

なら行ってみようじゃないか。

「あ、いらっしゃいませ。ちょっと待ってください!」

っと、ちょうど新しい客が来たな。

目で挨拶をしてルティエの工房を出る。

客は・・・まためんどくさそうなやつだが何とかするだろう。

そのまま人混みをかき分けながら通りの奥へと足を向ける。

さっきまでたくさんいた人も奥の方はまばらだ。

代わりに耳障りな音が聞こえてくる。

近づくにつれそれは大きくなり、しまいには耳を塞がなければならなくなった。

いけばわかる、確かにそうだ。

最奥の店にはグラインダーのような絵が掛かれた看板がぶら下がっていた。

ここだな。

音が小さくなったタイミングで店の戸を開けた。

「失礼する。」

「失礼するなら帰るよろし。」

開口一番これかよ。

確かにかなり癖のある人物のようだ。

見た目はアジア人ぽくて目が細い。

糸目というやつだろうか。

「ルティエの紹介できたんだ、そう言わずに話を聞いてくれ。」

「ルティエの紹介・・・、なら話だけは聞くアル。」

男は作業を止めこちらに向かってきた。

どうやら話だけは聞いてくれるようだ。

戸を閉め案内されるがまま近くの椅子に座る。

なんていうかどうして職人とかいう人種は掃除が出来ないんだ?

出来る人ももちろんいるが汚い人の方が多い気がする。

寝食を忘れるのもそうだが、自分のことは出来る方がいいとも思うぞ。

パンパンとほこりを払ってから男は反対側の椅子に腰かけた。

「まずは自己紹介だが・・・。」

「買取屋のシロウと言えばこの界隈でも有名アル。特にルティエに涙貝を卸している強欲商人として。」

「それは自己紹介が省けて何よりだ。」

「その強欲がうちに何の用アルか?」

「とりあえずこれを見てくれ。」

こういうタイプには無駄話をしない方がいい。

さっさと要件に入るべくカバンから例のブツを取り出した。

「・・・これをどこで手に入れたアルか?」

「もちろんダンジョンでだ。」

「その体でダンジョンに?信じられないアル。」

「潜ったのは俺じゃないさ、ダンジョンで見つけた冒険者から買い付けたんだ。出所を言う必要はあるのか?」

「盗品はお断りアルよ。」

「盗品じゃない、ちゃんと買い取りの履歴もあるし、なんなら冒険者を連れてきてもいい。」

「・・・その目、嘘はついていないアルね。」

「目を見てわかるのか?」

「邪な目は泳ぎ澱むアル。」

俺にはさっぱりわからんが、こいつが俺の目をじっと見てくるのだけはわかる。

昔から目を見られたら反らすなと言われて来たからな、そのおかげかもしれない。

「信じてもらえたなら何よりだ。依頼は他でもない、この石を世に出せるよう仕上げてやってくれ。」

「見える部分だけで判断できる透明度、そして輝き。これだけのジェイドを磨ける日が来るとは思わなかったアルよ。」

「出来そうか?」

「もちろん、だけど世に出すなら魔加工も必要アルよ?」

「魔加工?」

「この石に命を吹き込む魔法アル。」

そういえば鑑定するにもそんなことが書いてあった気がする。

魔加工することで毒を無効化できるとかなんとか・・・。

そもそも毒の無効化ってそんなに有難いのか?

ゲームじゃゴミ扱いだったと思うんだがなぁ。

「つまり磨きは出来ても加工は出来ないと。紹介してもらう事は可能か?」

「削りが上手く行ったら考えるアルよ。」

「それは失敗すると?」

「失敗しないとは言わないアル。」

それはつまり失敗しないってことだな?

そう来なくっちゃ。

「依頼は前金で銀貨30枚、完成して銀貨20枚だ。納期は五日、可能か?」

「正直ギリギリ・・・でもこの石を世に出せるなら何とかするアルよ。」

「恩に着る。」

「しかし、ルティエに聞いていた通りの男アルねぇ。」

話がまとまりお互いに緊張を緩めた途端、まるで椅子で遊ぶ子供のようにぶらぶらを椅子の前を揺らし始めた。

「なんて聞いているんだ?」

「いきなり来て大仕事を任せてくる金持ち、でも中身はしっかり者って感じアル。」

「半分は当たりだ。」

「金持ちじゃないアルか?」

「いや、しっかり者じゃない。結構ずぼらだ。」

仕事だってミラが居なかったらうまく回っていないだろう。

最近はやることが多すぎてスケジュールを立てないと何をしていいかわからなくなる。

ほんと有能な秘書、もとい奴隷がいて助かるよ。

「そういう所嫌いじゃないアルよ。」

「それはなによりだ。これが前金、他に必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ。」

「掃除でもいいアルか?」

「それぐらいならお安い御用だ。」

契約成立。

金を渡し契約書にサインを貰ってから掃除を始める。

最初は簡単だろうと思っていたのだが、仕事柄石が多く結構しんどい。

終わるころには腕も足もプルプルしていた。

最初はとっつきにくいと思っていたが結構話の分かるやつだった。

癖のある話し方の理由は祖母がこんな話し方だったかららしい。

別の世界から来たが口癖で、随分前に亡くなったそうだが・・・。

俺以外にも飛んできた人がいる。

その事実は俺を大いに驚かせた。

もちろんフェイには何も言っていない。

いつの日かエリザ達に言う日が来るのかもしれないが、当分先だろうな。

「そんじゃま帰るわ。」

「助かったアル。」

「しっかり頼むぞ。」

「美人に仕上げるから期待するよろし。」

「なんだあいつは女だったのか。」

「石は皆女、そう考えたら仕事も楽しくなるアル。」

「そりゃ違いない。」

お互いに笑い合い店を出る。

するとすぐに研磨機が動き出し、あのうるさい音が響き始めた。

これが仕上がればいよいよ命を吹き込むことになる。

成功したら次の職人を紹介してくれるらしいが、類は友を呼ぶっていうし次のやつも変なんだろうなぁ。

オークション開始まであと三週間。

納期的にはギリギリだが・・・。

まぁ何とかなるだろう。

間に合わなければ別の品を出品すればいい。

今回の品ほどじゃないが、それなりの値段にはなるはずだ。

研磨機の音を聞きながら裏通りを進んでいく。

はてさてどんな仕上がりになるのやら。

今から楽しみだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...