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73.転売屋は奴隷の頑張りを見届ける

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「俺は知ってるぞ、その女自分の体を売って母親を助けたそうだが、本当はこの男の所に転がり込みたくて自分を売り込んだそうじゃないか。鑑定も出来ない中途半端女のくせによぉ。それにだ、そんな中途半端な女を使って、何が買取屋か。まともな鑑定もできないくせに値段を決めて、客からぼったくってるだけだろうが。いいのかよ、こんな適当な仕事をする店がこの街の一番でよぉ!」

出るわ出るわ不満の嵐。

よくもまぁそんなに口が回るものだと逆に感心してしまった。

ミラの出自については奴隷業の中で色々と情報が出ていたんだろうな。

自分から売り込んでくるなんて事も普通はないだろうし、噂にならないわけがない。

「それにだ、こんな中途半端な女よりもうちの嫁の方が何倍も仕事が出来るぜ。サランラ、こっちにこい!」

と、今度は何を血迷ったか奥さんの自慢を始めやがった。

周りも何言ってんだこいつという空気だが、そんな雰囲気すら感じ取れないようだな。

旦那に呼ばれ同じく空気の読めない嫁が自信満々の顔で馬鹿男の横に並ぶ。

金髪縦ロールとか実在したんだな。

どんだけ高飛車なんだよ。

昔のスポ根少女漫画でしか見たことないぞ、こんな奴。

「アナスタシア様を前にしてなに怒ってるのよ。」

「いやな、商人に使われていながら鑑定も出来ない女に意味はないって事を教えてやろうと思ってな。その点こいつは算術から経営交渉鑑定も含めて俺の代わりとして働けるだけの知識と教養を持ち合わせている最高女だ。まぁ。中途半端な仕事しかできない買取屋には中途半端な女がお似合いだろうけどな。あーっはっは!」

「オーホホホホ。」

二人そろって高笑いまで始めやがった。

おーい、いい加減誰かこいつ等を止めてくれ。

そう羊男に文句を言おうとしたその時、横にいたはずのミラが一歩前に出た。

「私への文句や侮辱は構いませんが、シロウ様とお店への侮辱は許せません。取り下げてください。」

「あぁ?奴隷風情が何を言ってやがる。」

「奥様がどれだけ仕事の出来る方かは存じませんが、私もシロウ様のお力になれるだけの知識と教養を持ち合わせていると自負しております。また、鑑定スキルがなくとも知識と経験があれば十分に物の価値を見極められる、先人たちが培ってきた物を否定するのはお止めください。」

「知識と経験で価値を見極められるだぁ?初めて見たモノをどうやって鑑定するんだって言ってんだよ。それこそ買取屋にはそんな品物がごろごろ来るだろうが、今の今まで困ったことがなかったなんて嘘は許さねぇぞ!」

「もちろんそのような事もあります。ですがその時は聞けばいい、そして調べれば済むだけの話です。たとえどれだけ珍しい品が出て来ても見極められます。」

「いうじゃねぇか。そのセリフ忘れるんじゃねぇぞ。」

俺の為を思ってミラは言ってくれているんだろうが、どんどんと流れが悪い方向に向かっている。

確かに知識と経験があれば見極めることはできるだろう。

時間をかければ調べられるかもしれない。

だが、それにはやはり限界がある。

俺だって鑑定スキルがあるからこの仕事をやろうと思っただけで、それがなければ今頃野垂れ死でいてもおかしくない。

一体どうするつもりなんだろうか。

「おい、誰か珍しい物持ってるやつはいないか?誰も知らないような特別な奴だ!何でもいい、もってこい!」

ミラの売った喧嘩を馬鹿男が買ってしまった。

それこそ、誰も知らないような品物を持ってこられたら鑑定スキルがなきゃ太刀打ちする事はできない。

どうする、止めさせるか?

だが今出て行けばミラの気持ちを踏みにじることになるぞ。

馬鹿男の呼びかけに他の参加者がお互いの顔を見合わせる。

だが誰も名乗り出るものはいなかった。

よしよし、このままながれてくれれば・・・。

「面白そうな余興じゃない、誰も知らないような品なら何でもいいのね?じゃあこれを鑑定して頂戴。」

まさかの人物が名乗りを上げた。

先ほどまでめんどくさそうな顔をしていたのに、今はものすごく笑顔じゃないか。

確かにこの人なら珍しい物を持っているかもしれないが、そうなるとミラの知識で賄える可能性はかなり低くなる。

勘弁してくれ。

奥様が楽しそうに取り出したのは緑色の宝石だった。

どこぞの金持ちしか付けなさそうなゴテゴテの宝石がついた指輪を頭上高く掲げ、懇親会の参加者全員に見せびらかす。

「これを60秒以内に見極めて頂戴。もちろん触ってもいいわよ。」

「いいねぇ、最高の品だ。おい、サランラ現実を見せつけてやれ。」

「わかってますわ!ではアナスタシア様、お預かりいたします。」

奥様が手渡した所からカウントが始まった。

手にした瞬間に目を見開き、そしてニヤニヤと笑いながらこちらを見る。

鑑定スキルを使えば一発だもんな、わからないはずがない。

「おい、一体どうするつもりなんだ?」

「シロウ様このような形になり申し訳ございません。でも、どうしても許せなかったのです。」

「気持ちはありがたいが一体どうするつもりだ?」

「お任せください、私達にはこれがあります。」

そういいながらミラが胸元から取り出したのは、あの真実の指輪だった。

あれ、なんでこれがここにあるんだ?

金庫の奥にしまっていたはずだし、そもそもミラはこいつの存在を知らないはずだ。

「お前、どうしてそれを。」

「何かあるかと思い持ち出しました。勝手をお許しください。」

「そうじゃなくて、それが何かわかっているのか?それは・・・。」

「呪いについてはモニカ様よりお伺いしております。解呪出来ないような強い呪いが込められていると。」

「なら!」

「でも大丈夫です。」

いや、何が大丈夫なのか全くわからない。

モニカから説明を受けているのであれば、余計にその怖さを理解しているはずだ。

呪い殺すまで離れる事のない強力な呪詛。

身に着ければ最後、死ぬまで苦痛にさいなまれる可能性だってある。

「何が大丈夫なんだよ、それは・・・。」

「おい、何をこそこそ言いあってやがる。お前の奴隷が言い出した事だろうが、助言するんじゃねぇぞ!」

と、気付けば馬鹿嫁が奥様に答えを耳打ちしている所だった。

馬鹿男がこちらに近づいて来て、ミラの腕を強引に引っ張る。

「ほら、お前の番だぞ、せいぜいない頭で考えるこったな!」

そして背中をドンと押して奥様の前に送り出した。

気付けば真実の指輪はミラの右薬指にはめられている。

あの馬鹿が。

この男も馬鹿だが俺の為にそこまでするなんて大馬鹿のすることだ。

恥はかいても何の害もない。

恥をかいて死ぬことはないんだ。

だが呪いは間違いなくミラを殺す。

その証拠に今も苦しそうな顔を・・・。

ってあれ?

鑑定物を受け取った瞬間、驚いたように目を見開いたミラ。

しげしげとそれを見回し、しきりに首をかしげていた。

なんだ?

どうした?

あまりの苦しさに我を忘れたのか?

そしてしきりに首を傾げた後カウントを30残した所で奥様にそれを返した。

「どうした、何もわからず観念したか?初めからそうしていればよかったものを・・・。」

「いえ、わかりました。」

「もうわかったの?じゃあ答えを聞かせてもらおうかしら。」

「これは『クイーンドラゴンの涙で作られた指輪』・・・の、偽物です。」

ミラの答えに他の参加者がザワザワと騒ぎ出す。

本人はいたって真面目な顔をしているし、奥様は何も言わず無表情でミラを見つめていた。

偽物だって?

まさかそんなことがありえるのか?

「はーっはっはっは!こいつは馬鹿だ、とんでもない馬鹿だな!中途半端どころか半端にすらなれてないじゃないか。これが偽物だって?わからないからって冗談も大概にしろ!」

「そうですわ。物としてはクイーンドラゴンの涙で合っていても、これを偽物だなんてそんな・・・。」

「本当にそれでいいのね?」

「はい。間違いございません。」

再度の問いかけに自信満々に頷くミラ。

俺は慌てて側に駆け寄り、返却されたソレに指を添えた。

『クイーンドラゴンの涙。クイーンドラゴンの体内で極稀に生成される魔結晶で強力な水と土属性の加護を与える。偽物である。最近の平均取引価格は金貨200枚。最安値が金貨1枚最高値金貨300枚、最終取引日は2年と452日前と記録されています。』

ん、偽物?

俺の鑑定でもそう出てきたが・・・。

発動した鑑定と相場スキルの答えに戸惑っていた次の瞬間、奥様の手から突然それが消えた。

俺が弾き飛ばしてしまったのかと焦ったが、どうやらそうではないらしい。

周りも突然消えた宝石の行方を捜してキョロキョロしている。

「面白い、本当に面白い余興だわ!懇親会なんてめんどくさいだけと思っていたけれど、こんな面白い物が見れるなんて来た甲斐があったってものよ。」

周りの様子がおかしかったのか、奥様は大喜びのご様子だ。

やっぱりめんどくさかったんだな、参加するの。

まぁわかる気がする・・・ってそうじゃない。

笑い出した奥様の方を全員が見ている。

その視線に我に返ったのか、うって変わって冷静な顔をしてミラの方を見つめ直した。

「これを偽物といったわね。」

「はい、申しました。」

「そして貴女は本物だとおもうのね。」

「そ、そうですわ。」

「では答え合わせをしましょう。正解は・・・。」

ごくりと参加者全員が唾を飲む音が聞こえたようなきがした。

俺も飲んだ。

「クイーンドラゴンの涙・・・の偽物。そう、貴女が正解よ。」

ミラの方を指さし奥様がドヤ顔で宣言した。
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