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65.転売屋はお呼ばれする

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魚は美味かった。

美味かったが、ちょっと想像と違った。

もちろんゲテモノとかそういうのじゃない、一応魚の見た目をしている。

だが色が原色だったり、形が歪だったりしてあの魚!って感じのフォルムではなかったというだけの話だ。

色に関しては南国の魚がサンゴに紛れるために原色になるなんてのはある話だし、形も八角とか凸凹している奴もいるから元の世界でも違和感はないかもしれない。

あくまでも俺の中にある『魚』としての想像と違ったって話だ。

味は魚だったから今後もリピートするだろう。

赤身なのか白身なのか微妙な味のやつもあったから、食べ比べは必要だな。

「ねぇシロウ、本当にもう終わりなの?」

「あぁ、予定数には達した。これ以上は買い取らない。」

「でも、他の子からもう少しやってくれって話が・・・。」

「俺の資金が無限にあればそれも可能だが、残念ながらそうじゃない。倉庫にも限界がある、だから終わりだ。そう伝えてくれ。」

「そう・・・よね。」

グリーンスライムの核は予想通り大反響のまま終了した。

その間わずか五日。

発生期間を一週間残しての買い取り終了に、多くの冒険者から延長を望む声を頂いたがさっきも言ったように俺の資金にも限界がある。

すぐに現金化できるのならまだいいが、残念ながら12カ月の長期間熟成に入る品だ。

深追いは自分の懐を痛めるだけ。

見極めも重要、というわけだ。

買取価格は銅貨25枚まで下落、恐らく最終日には20枚前後まで行くだろう。

それを狙って買い付けても良かったのだが、それでは冒険者にお金が回らない。

今回銅貨30枚にしたのは、安く買う事に加えて冒険者にお金を回し、さらに店の宣伝を目的としている。

お陰様で俺の店を知らなかった冒険者に多数来店してもらった。

今後は何もしなくても冒険者同士で宣伝しあってくれるだろう。

何を持って行ったら高く買い取ってくれるのかってね。

「宣伝したお前の立場もあるだろうが・・・。」

「そこは気にしないで。」

「他の品ならいつも通り買い取る、気軽に声をかけるように言ってくれ。」

「わかった、そう言っとくわ。」

あまり派手にやるとギルドから何を言われるかわかったもんじゃない。

サッとやってサッと引く。

それぐらいがちょうどいいんだ。

「シロウ様、ギルド協会の方が参られましたがどうされますか?」

「ギルド協会?」

噂をすればなんとやらだ。

うーむ、別に何も悪いことはしてないけど・・・。

店番をしていたミラが裏庭まで俺を呼びに来たので、核の箱詰めを止め、一息つく。

エリザはあまり興味がないようで不思議そうな顔をしていた。

「何か悪い事したの?」

「いや、身に覚えはないな。」

「でもギルド協会が来るなんて変じゃない?」

「変だから戸惑ってるんだよ。」

「悪いことしてないなら、とりあえず行ってみたら?」

何もしていないんだから変に構える必要も無し。

エリザの言う通りだ。

箱詰めしたのを倉庫に運ぶようにエリザに行ってから店へと向かった。

「ギルド協会の誰が来てるんだ?」

「シープ様ではございませんでしたがそこまでは・・・。」

「いや、あの人じゃないならいいんだ。」

「苦手なのですね。」

「苦手っていうか面倒なんだよ、あの人の相手をするの。」

「なかなか鋭い事を言う方だと聞いております。なるほど、シロウ様にもそういう方がおられるのですね。」

俺にもって、そりゃいるさ。

人間だもの。

店に出るとギルド協会の制服を着た青年が直立不動で待機していた。

「すまない、待たせたな。」

「お忙しい所申し訳ありません。」

「特にこれといって何かをしたつもりは無いが、何の用だ?」

「一先ずこちらの書類をお読みいただけますでしょうか。」

青年はまじめな顔で一枚の紙を差し出してきた。

それを右手で受け取り、目線を落とす。

なになに・・・。

ん?

懇親会?

ギルド協会指名の人間のみ?

うーむ・・・。

目線を戻すと先程同様直立不動の彼が口を開く。

「ギルド協会では今後の街の発展にご協力いただくべく、新進気鋭の店主様にお集まり頂き親睦を深めて頂ければと思っております。異業種の方も多いのでお互いに良い刺激を受けて頂けるのではと考えております。その会に是非シロウ様にもご出席いただけないかと・・・。」

俺と目線が合うと同時に詳しい説明を始めた。

新進気鋭の店主様ねぇ。

持ち上げてくれるのは勝手だが、過度の期待は勘弁願いたい。

「お断りする。」

「え?」

「こういった集まりには興味が無いんだ。異業種と接触した所で俺はしがない買取屋、あまり相乗効果を見込めるような仕事じゃないだろ。それにだ、うちが流行ってるっていうのは冒険者間であって街の住人にではない。むしろそっちに流行ってたら集まりなんて起こしている場合じゃないだろうな。」

あははと笑ってはみるものの、青年は表情一つ変えずジッと俺を見ているだけだ。

「ギルド協会としては是非シロウ様にご参加いただけないかと・・・。」

「強制じゃないんだろ?」

「もちろんです。」

「なら参加する義務はないはずだ。上の人間、そうだな、シープさんにもそう伝えてくれ。」

「・・・畏まりました。」

普通に断るだけでは引き下がらなさそうだったので、シープ氏の名前を出した所案外簡単に引き下がった。

もっと粘ってくるかと思ったんだがな。

書類を返すと無言でそれを受け取り玄関まで戻る。

そして礼儀正しく一礼すると青年は帰って行った。

「よろしいのですか?」

「新進気鋭かなんだか知らないが、要は稼げる連中を離したくないって事だろう。なんせ金貨200枚だ、継続してそれだけ入れば街としては申し分ないからな。それに、懇親会といっても場所を考えるとただの接待だ。」

「それだけ街に認めてもらっているという事ではないでしょうか。」

「もちろんそれはありがたい。だが、それとこれとは話は別だ。なにより、めんどくさい。」

「シロウ様らしいお答えですね。」

俺らしい・・・。

自分の好きなように動くという意味ではそうだな。

長い物に巻かれるってのはあまり好きじゃないんだ。

「終わったわよ。」

「助かった。」

「で、何だったの?」

「接待したいから来てくれって誘いだった。」

「断ったんでしょ?」

「何でわかったんだ?」

「だってシロウだもん。」

エリザもまた俺らしいという。

この世界に来てまだ1年もたっていないし、付き合いはまだまだ短いと思うんだが、そんなに分かりやすいだろうか。

「どこが俺らしいんだ?」

「相手の大きさで自分の考えを曲げない所。」

「そうですね、人の顔を見てコロコロと考えを変えるような浅はかな男とは違います。」

「それは買い被りじゃないか?いくら俺でも相手を見て考えを変えることはあるぞ。」

「嘘よ。そうだったらあの時貴族とやり合ったりしないわ。」

「貴族・・・お話にありましたリング様ですね。」

「そうよ。店の横にいたチーズ売りのおじさんを助ける為にケンカを売っておいてよくそんなこと言えるわね。」

「あの時は相手がどんな人間かわからなかったからだ。」

その後はちゃんとそれ相応の対応をしている・・・と思う。

話し方については本人の了承を得ているんだし、怒られることは無いはずだ。

「ふ~ん、そういう事にしておいてあげる。」

「何だよその含みのある言い方は。」

「べつに~。でも、今回はそうもいかないかもしれないわよ。」

「どういうことだ?」

「ニアがね、『絶対にシロウを呼び出すんだって』旦那さんが言っていたのを聞いているのよ。」

「嘘だろ。」

「嘘じゃないわよ。すごい剣幕だったって言ってたわ。」

ニアの旦那と言えば話に上がった俺の天敵・・・もとい俺が苦手とする人物だ。

その張本人が俺を呼び出すって言ってたってことは・・・。

慌てて入り口の方を振り返ったがもちろん誰もいなかった。

まさか来ないよな?

さっきの彼がギルド協会に戻って報告したとして、そこから本人がここに来るまでの時間を逆算すると・・・。

残り時間は少ない。

「ミラ、店を頼む。」

「お出かけですか?」

「あぁ、日暮れまでには戻ってくるから何かあったらエリザを頼れ。」

「逃げるの?」

「その通りだ。その本人が出てくるのなら面倒なことになるからな。」

ちょうど仕入れにも行こうと思っていたところだ。

急ぎ財布を取りに行き、入り口へと向かう。

こういう時裏口があれば便利なんだが、店の構造上そういうわけにもいかない。

いや、こういう場合は裏口で待ち構えているってのが定石だろう。

そんなことで簡単に俺を捕まえられると思うなよ!

ここは堂々と入り口から出れば・・・。

「おや、シロウさんお出かけですか?」

外に出て最初の一歩目に一番聞きたくない声が聞こえてきた。

まるで壊れたブリキ人形のようにゆっくりとその方向を向く。

そこには息を切らし額に汗を浮かべた羊男シープ氏が今出来る限りの笑顔で立っていた。

まさか走ってくるとは思わなかったな。

「あぁ、そのつもりだが何か用か?」

「えぇ、とても大切な用事がありまして。お時間頂けますよね?」

「無いと言ったら?」

「それなりの対応をさせて頂くまでです。ささ、店にお戻りください。」

いつもと違う強引なやり方に俺は逃げられないことを悟るのだった。
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