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52.転売屋は仕込みの当てが外れる
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「こりゃまたすごいな。」
「凄いってもんじゃないわよ!どうするのよこれ!」
「さぁ、どうしたもんかなぁ。」
昼食を摂る事も許されずエリザに引っ張られて向かった露店は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
泣き叫ぶ子供。
震えあがる女性。
勇敢にも立ち向かい為すすべなく返り討ちに合うオッサン。
いつもは賑やかな露店が、半透明の幽霊によって蹂躙されつつあった。
どうしたもんかと思案していると、四方の入り口から武器を持った人たちが雪崩れ込んできた。
お、治安部隊が投入されたぞ。
冒険者もだ。
彼らは勇敢にも幽霊に向かって武器を振り回し・・・。
「まったく効果が無いな。」
「ちょっと、見てないで何とかしてよ!」
「何とかしてよって言われてもなぁ。俺が悪いわけじゃないし。」
「そうだけど!」
「ちょいとばかし地獄の蓋が開くのが早まっただけだろ?毎年の恒例行事じゃないか。」
そう、これは恒例行事だ。
毎年のように起きている一種のイベントみたいなものだな。
ちょっと違うのは出てくるのが一週間ほど早いという事。
もう一度言うが俺は何も悪くない。
「そうだけど、このままじゃ街中死霊で溢れちゃうわよ!」
「その為に対抗策が考えられてるんだろ?俺が出る幕じゃないさ。」
「対抗策?そんなのあるはずないじゃない!」
「なに?」
「あれはお祭りの時に纏めて作るの、そのお祭りは来週、蓋が開く前に行われるんだから。」
なんてこった。
出現時期が決まっているというのに準備をしていない?
纏めて作る?
そんなバカなことがあっていいのか?
「じゃあ、溢れるだけだな。害はないんだろ?」
「直接的にはないけど、夢に出たりもするし・・・。」
「死んだ人が会いに来るだけの話だ、丁重に迎え火で歓迎してやればいいさ。」
「ねぇ、何でそんなに冷静なの?シロウは初めてだよね?」
「ぶっちゃけ幽霊を見るのは初めてだよ。だがな、死人が戻ってくるのは毎年経験済みなんだ。」
この世界同様元の世界にも死人が戻ってくるイベントはあった。
そう、毎年恒例の『お盆』ってやつだ。
どっちかっていうとこの状況はハロウィンの方が正しいかもしれないが、中身としてはお盆が正しいだろう。
死者の国の入り口が開き、死んだ人間が現世に戻ってくる。
そして、ゆかりある人の前に現れるのだそうだ。
取引板の履歴を調べていると毎年この時期になるとある物がバカ売れしている事に気が付いた。
その流れで色々と調べ、今回の事態も調査済みというわけだな。
ミラが詳しかったのでそれに合わせて仕込みもしてきたんだけど・・・。
まさか時期がずれるとは思わなかった。
この分じゃ今日仕込んだ分は無駄になるだろうが・・・。
ま、なるようになるさ。
「エリザ、ちょうどよかった!」
「ニア!」
「今探しに行くところだったの、すぐに来て!ダンジョンの奥に亀裂が見つかってそこから死霊が溢れたみたい。」
「ダンジョンが原因なの?」
「このままじゃお祭り前に死霊が全部漏れちゃうかも、そうなったら何が起きるかわかんない。」
ほぉ、流出元はダンジョンだったのか。
ご苦労な事だ。
「よぉ、大変だな。」
「シロウさん、貴方も来て!」
「俺も?」
「聞いたわよ、色々と仕込んでいるそうじゃない。色々目を瞑ってあげてるんだから協力してよね。」
「それは強制か?」
「そうよ!」
ならば仕方ない。
緊急の放出要請はギルドとの話し合いの中で約束していた内容だ。
要請を拒否することは可能だが、ギルドとの関係を悪くする気はさらさらない。
大人しく従うとしよう。
「おい、エリザさっさと行くぞ。」
「でも露店が・・・。」
「おっちゃんに見てもらえばいいさ。それかギルドが人を出してくれるだろ、なぁ。」
「もちろん!」
「だ、そうだ。ほら、さっさと行くぞ。」
商品の目録はあるから、仮に盗まれたとしても何がなくなったかはすぐにわかる。
恐らくおっちゃんも来ているはずだから、心配はない・・・はずだ。
エリザの腕を掴み死霊の溢れる露店を離れた。
「で、どういう状況なんだ?」
「ダンジョンから死霊が飛び出して街中大混乱よ。」
「そりゃご愁傷様。だが、自警団や冒険者が束になっても意味ない感じだったぞ。」
「そうね。普通のアンデットだったら属性のついた武器で殴ればなんとかなるけど、悪霊じゃないからヘタに手を出せないって感じかしら。」
「聖水はどうだ?」
「効果があるのは確認済み、教会にあるだけ出してくれってお願いしに行ってるけど、あまり備蓄はないみたいなの。」
まぁそうだろうな。
定期的に俺が買い付けていたからあまり数はないはずだ。
いまだにどう作ってるか謎なんだよなぁ。
大量生産できないみたいだし・・・。
「ダンジョンからって、一体どこから?」
「中層に巨大な壁があったでしょ?何をしても壊れない邪魔な奴。」
「あぁ、あそこね。」
「アレを何とかして割ろうってバカな連中がいるんだけど、そいつらがとうとうやっちゃったの。」
「まさか割ったの!?」
「そのまさかよ。最初はヒビを入れただけだったらしいんだけど、突然そこから飛び出してきたんだって。」
何とまぁ迷惑な話だ。
壊れないんなら放っておけばいいものを・・・。
そこに山があるから登るみたいな残念な奴らはどこにでもいるんだな。
「で、ギルドはどうするつもりなの?」
「このままじゃ街中大混乱だし、ダンジョンは私達の管轄だからなんとかしたいんだけど・・・。」
「食い止める方法が無い。」
「というか材料ね。聖布で抑えれば塞げることは分かったんだけど、量が無いの。来週のお祭りに聖布は必須だからそれ用に全部買い占められちゃって。」
俺は知ってるぞ。
毎年祭りが近くなると聖布とその材料になる糸が買い占められている事を。
普段はあまり使う事が無い聖布だが、この時期だけは値段が三倍いや五倍に跳ね上がっている。
それにいち早く気づいた俺とミラはせっせと仕込みをしていたというわけだ。
もうわかっただろう。
グリーンキャタピラの糸を聖水に浸して一週間寝かすと、聖糸として使えるようになるのだ。
それを織って聖布にするわけだな。
本来は聖布を仕込むべきなんだが、時間が足りないので生地となる糸を仕込み、祭りに合わせて放出するつもりだったのだが・・・。
「それは大変だな。」
「このまま死霊が溢れたら祭りに支障が出るかもしれないし、何より何が起きるかわからないわ。だからお願い!ダンジョンに潜ってヒビをふさいできてほしいの。」
「塞いできてッて材料がないのにどうするのよ!」
「材料ならあるわ。」
「はぁ?ニアさっき材料がないって・・・。」
「聖布は無いけど聖糸はある。シロウさんの所にね。」
ニアさんが自信ありげに、エリザが驚いた顔で俺の方を見てくる。
おいおい、そんな顔で俺を見るなよ。
「先に断っておくが俺は買い占めなんかしないからな。」
「わ、わかってるわよ。」
「でも、聖糸は仕込んでるよね?」
「商人として当然だろ?あぁ、ギルドの買い取り価格は侵してないからな。」
「それももちろんわかってる。やり方はちょっとあれだけど、別に悪い事じゃないしね。」
ほら、一杯無料券は合法だった。
これからもこの作戦を使っても問題ない事が証明されたな。
「でも糸じゃ意味ないんじゃない?」
「糸さえあれば一晩で織れるだけ織って聖布にできるから、それを持って明日の朝一番でダンジョンに潜ってほしいの。報酬は金貨1枚、場所が場所だけに単独での潜入になる、だからエリザに頼むの。」
「確かにあそこは入り組んでるし、知ってる人間が行くべきだけど・・・。高すぎない?」
「これは上役からの依頼でもあるのよ。鎮霊祭は大切なお祭りだから、それを何としてでも成功させたいんでしょうね。」
「ふーん。とりあえずそこに行って布を張ればいいのよね?足りなかったら?」
「戻ってきてもう一回。」
「うへー、でも仕方ないか。金貨1枚だもんね。」
俺にはその場所がどれだけ大変な場所にあるのかは知らないが、エリザの反応を見る限りそんなに難しい場所ではないんだろう。
なにより自分が指名された事が嬉しい、そんな感じさえする。
「頑張って来いよ。」
「任せといて、何としてでも止めて見せるから。」
「戻ったらイライザさんの所で飯にしような、もちろんお前のおごりで。」
「何でよ!」
「金貨1枚も稼ぐんだ、当然だろ。」
「そうだけどぉ・・・。」
金があるやつが奢るってのが冒険者の習わしらしい。
その習わしのせいで今までどれだけ奢らされてきたことか。
今回ぐらいは奢ってもらってもばちは当たらないだろう。
「それじゃあエリザの方は了承してもらったって事で・・・。」
「今度は俺の方だな。」
「糸、あるんですよね。」
「あるぞ。」
その為に仕込んでいたんだからな。
まさかこんな形で放出することになるとは思わなかったが・・・。
くそ、後一週間早ければ全部間に合ったのに、無駄になってしまった。
ここ数日で仕込んだ奴は間に合わないと考えていいだろう。
それでもコツコツ仕込んできた奴がいけるから、そっちで利益が出ればまぁいいか。
「どれだけ用意できます?」
「とりあえず8壺分仕込んである。明日仕上がるやつが二つ、来週が三つって所か。」
「全部買います。」
「来週の分もか?」
「もちろん。」
おぉ、ここに来て来週分も買い取ってくれるのか。
間に合わないと思っていたのに、棚ぼただな。
だが喜ぶのはまだ早い。
問題は値段だ。
「で、いくらで買ってくれる?」
「全部で金貨20枚、それ以上は出せないかな。」
「いや、安すぎだろ。」
「仕込み前のも含んでの金額だし・・・。」
「それでもだ。こういう事情が無ければ金貨30枚は固いんだぞ?」
一壺に糸が約300本入っている。
一本につき銅貨10枚として一壺で銀貨30枚分。
だが、聖水に浸し聖糸になると値段が跳ね上がるんだ。
『聖糸。神聖な力に満たされた糸でこの世ならざるモノやアンデットを封じ込めることが出来る。織る事で聖布にもなる。最近の平均取引価格は銀貨1枚。最安値が銅貨50枚、最高値が銀貨1.7枚、最終取引日が昨日と記録されています。』
つまり、一壺で安く見積もっても金貨3枚分の価値があるわけだ。十壺分で金貨30枚、来週の分も買い取ってくれるんなら金貨39枚になってもおかしくはない。
それが半値っていうのはちょっとなぁ。
「でもこれしか予算が無いのよ。」
「断れば?」
「言ったでしょ、ギルドとして今後の取引をお断りするわ。」
「それは横暴じゃないか?」
「非常事態なの。」
非常事態だからって買い叩いていい理由にはならない。
それこそ、祭りを前に買い占めるやつとやってることが同じだ。
利益は出る。
だが、このまま引き下がるのは癪だ。
はてさて、どうしたもんか。
「凄いってもんじゃないわよ!どうするのよこれ!」
「さぁ、どうしたもんかなぁ。」
昼食を摂る事も許されずエリザに引っ張られて向かった露店は、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
泣き叫ぶ子供。
震えあがる女性。
勇敢にも立ち向かい為すすべなく返り討ちに合うオッサン。
いつもは賑やかな露店が、半透明の幽霊によって蹂躙されつつあった。
どうしたもんかと思案していると、四方の入り口から武器を持った人たちが雪崩れ込んできた。
お、治安部隊が投入されたぞ。
冒険者もだ。
彼らは勇敢にも幽霊に向かって武器を振り回し・・・。
「まったく効果が無いな。」
「ちょっと、見てないで何とかしてよ!」
「何とかしてよって言われてもなぁ。俺が悪いわけじゃないし。」
「そうだけど!」
「ちょいとばかし地獄の蓋が開くのが早まっただけだろ?毎年の恒例行事じゃないか。」
そう、これは恒例行事だ。
毎年のように起きている一種のイベントみたいなものだな。
ちょっと違うのは出てくるのが一週間ほど早いという事。
もう一度言うが俺は何も悪くない。
「そうだけど、このままじゃ街中死霊で溢れちゃうわよ!」
「その為に対抗策が考えられてるんだろ?俺が出る幕じゃないさ。」
「対抗策?そんなのあるはずないじゃない!」
「なに?」
「あれはお祭りの時に纏めて作るの、そのお祭りは来週、蓋が開く前に行われるんだから。」
なんてこった。
出現時期が決まっているというのに準備をしていない?
纏めて作る?
そんなバカなことがあっていいのか?
「じゃあ、溢れるだけだな。害はないんだろ?」
「直接的にはないけど、夢に出たりもするし・・・。」
「死んだ人が会いに来るだけの話だ、丁重に迎え火で歓迎してやればいいさ。」
「ねぇ、何でそんなに冷静なの?シロウは初めてだよね?」
「ぶっちゃけ幽霊を見るのは初めてだよ。だがな、死人が戻ってくるのは毎年経験済みなんだ。」
この世界同様元の世界にも死人が戻ってくるイベントはあった。
そう、毎年恒例の『お盆』ってやつだ。
どっちかっていうとこの状況はハロウィンの方が正しいかもしれないが、中身としてはお盆が正しいだろう。
死者の国の入り口が開き、死んだ人間が現世に戻ってくる。
そして、ゆかりある人の前に現れるのだそうだ。
取引板の履歴を調べていると毎年この時期になるとある物がバカ売れしている事に気が付いた。
その流れで色々と調べ、今回の事態も調査済みというわけだな。
ミラが詳しかったのでそれに合わせて仕込みもしてきたんだけど・・・。
まさか時期がずれるとは思わなかった。
この分じゃ今日仕込んだ分は無駄になるだろうが・・・。
ま、なるようになるさ。
「エリザ、ちょうどよかった!」
「ニア!」
「今探しに行くところだったの、すぐに来て!ダンジョンの奥に亀裂が見つかってそこから死霊が溢れたみたい。」
「ダンジョンが原因なの?」
「このままじゃお祭り前に死霊が全部漏れちゃうかも、そうなったら何が起きるかわかんない。」
ほぉ、流出元はダンジョンだったのか。
ご苦労な事だ。
「よぉ、大変だな。」
「シロウさん、貴方も来て!」
「俺も?」
「聞いたわよ、色々と仕込んでいるそうじゃない。色々目を瞑ってあげてるんだから協力してよね。」
「それは強制か?」
「そうよ!」
ならば仕方ない。
緊急の放出要請はギルドとの話し合いの中で約束していた内容だ。
要請を拒否することは可能だが、ギルドとの関係を悪くする気はさらさらない。
大人しく従うとしよう。
「おい、エリザさっさと行くぞ。」
「でも露店が・・・。」
「おっちゃんに見てもらえばいいさ。それかギルドが人を出してくれるだろ、なぁ。」
「もちろん!」
「だ、そうだ。ほら、さっさと行くぞ。」
商品の目録はあるから、仮に盗まれたとしても何がなくなったかはすぐにわかる。
恐らくおっちゃんも来ているはずだから、心配はない・・・はずだ。
エリザの腕を掴み死霊の溢れる露店を離れた。
「で、どういう状況なんだ?」
「ダンジョンから死霊が飛び出して街中大混乱よ。」
「そりゃご愁傷様。だが、自警団や冒険者が束になっても意味ない感じだったぞ。」
「そうね。普通のアンデットだったら属性のついた武器で殴ればなんとかなるけど、悪霊じゃないからヘタに手を出せないって感じかしら。」
「聖水はどうだ?」
「効果があるのは確認済み、教会にあるだけ出してくれってお願いしに行ってるけど、あまり備蓄はないみたいなの。」
まぁそうだろうな。
定期的に俺が買い付けていたからあまり数はないはずだ。
いまだにどう作ってるか謎なんだよなぁ。
大量生産できないみたいだし・・・。
「ダンジョンからって、一体どこから?」
「中層に巨大な壁があったでしょ?何をしても壊れない邪魔な奴。」
「あぁ、あそこね。」
「アレを何とかして割ろうってバカな連中がいるんだけど、そいつらがとうとうやっちゃったの。」
「まさか割ったの!?」
「そのまさかよ。最初はヒビを入れただけだったらしいんだけど、突然そこから飛び出してきたんだって。」
何とまぁ迷惑な話だ。
壊れないんなら放っておけばいいものを・・・。
そこに山があるから登るみたいな残念な奴らはどこにでもいるんだな。
「で、ギルドはどうするつもりなの?」
「このままじゃ街中大混乱だし、ダンジョンは私達の管轄だからなんとかしたいんだけど・・・。」
「食い止める方法が無い。」
「というか材料ね。聖布で抑えれば塞げることは分かったんだけど、量が無いの。来週のお祭りに聖布は必須だからそれ用に全部買い占められちゃって。」
俺は知ってるぞ。
毎年祭りが近くなると聖布とその材料になる糸が買い占められている事を。
普段はあまり使う事が無い聖布だが、この時期だけは値段が三倍いや五倍に跳ね上がっている。
それにいち早く気づいた俺とミラはせっせと仕込みをしていたというわけだ。
もうわかっただろう。
グリーンキャタピラの糸を聖水に浸して一週間寝かすと、聖糸として使えるようになるのだ。
それを織って聖布にするわけだな。
本来は聖布を仕込むべきなんだが、時間が足りないので生地となる糸を仕込み、祭りに合わせて放出するつもりだったのだが・・・。
「それは大変だな。」
「このまま死霊が溢れたら祭りに支障が出るかもしれないし、何より何が起きるかわからないわ。だからお願い!ダンジョンに潜ってヒビをふさいできてほしいの。」
「塞いできてッて材料がないのにどうするのよ!」
「材料ならあるわ。」
「はぁ?ニアさっき材料がないって・・・。」
「聖布は無いけど聖糸はある。シロウさんの所にね。」
ニアさんが自信ありげに、エリザが驚いた顔で俺の方を見てくる。
おいおい、そんな顔で俺を見るなよ。
「先に断っておくが俺は買い占めなんかしないからな。」
「わ、わかってるわよ。」
「でも、聖糸は仕込んでるよね?」
「商人として当然だろ?あぁ、ギルドの買い取り価格は侵してないからな。」
「それももちろんわかってる。やり方はちょっとあれだけど、別に悪い事じゃないしね。」
ほら、一杯無料券は合法だった。
これからもこの作戦を使っても問題ない事が証明されたな。
「でも糸じゃ意味ないんじゃない?」
「糸さえあれば一晩で織れるだけ織って聖布にできるから、それを持って明日の朝一番でダンジョンに潜ってほしいの。報酬は金貨1枚、場所が場所だけに単独での潜入になる、だからエリザに頼むの。」
「確かにあそこは入り組んでるし、知ってる人間が行くべきだけど・・・。高すぎない?」
「これは上役からの依頼でもあるのよ。鎮霊祭は大切なお祭りだから、それを何としてでも成功させたいんでしょうね。」
「ふーん。とりあえずそこに行って布を張ればいいのよね?足りなかったら?」
「戻ってきてもう一回。」
「うへー、でも仕方ないか。金貨1枚だもんね。」
俺にはその場所がどれだけ大変な場所にあるのかは知らないが、エリザの反応を見る限りそんなに難しい場所ではないんだろう。
なにより自分が指名された事が嬉しい、そんな感じさえする。
「頑張って来いよ。」
「任せといて、何としてでも止めて見せるから。」
「戻ったらイライザさんの所で飯にしような、もちろんお前のおごりで。」
「何でよ!」
「金貨1枚も稼ぐんだ、当然だろ。」
「そうだけどぉ・・・。」
金があるやつが奢るってのが冒険者の習わしらしい。
その習わしのせいで今までどれだけ奢らされてきたことか。
今回ぐらいは奢ってもらってもばちは当たらないだろう。
「それじゃあエリザの方は了承してもらったって事で・・・。」
「今度は俺の方だな。」
「糸、あるんですよね。」
「あるぞ。」
その為に仕込んでいたんだからな。
まさかこんな形で放出することになるとは思わなかったが・・・。
くそ、後一週間早ければ全部間に合ったのに、無駄になってしまった。
ここ数日で仕込んだ奴は間に合わないと考えていいだろう。
それでもコツコツ仕込んできた奴がいけるから、そっちで利益が出ればまぁいいか。
「どれだけ用意できます?」
「とりあえず8壺分仕込んである。明日仕上がるやつが二つ、来週が三つって所か。」
「全部買います。」
「来週の分もか?」
「もちろん。」
おぉ、ここに来て来週分も買い取ってくれるのか。
間に合わないと思っていたのに、棚ぼただな。
だが喜ぶのはまだ早い。
問題は値段だ。
「で、いくらで買ってくれる?」
「全部で金貨20枚、それ以上は出せないかな。」
「いや、安すぎだろ。」
「仕込み前のも含んでの金額だし・・・。」
「それでもだ。こういう事情が無ければ金貨30枚は固いんだぞ?」
一壺に糸が約300本入っている。
一本につき銅貨10枚として一壺で銀貨30枚分。
だが、聖水に浸し聖糸になると値段が跳ね上がるんだ。
『聖糸。神聖な力に満たされた糸でこの世ならざるモノやアンデットを封じ込めることが出来る。織る事で聖布にもなる。最近の平均取引価格は銀貨1枚。最安値が銅貨50枚、最高値が銀貨1.7枚、最終取引日が昨日と記録されています。』
つまり、一壺で安く見積もっても金貨3枚分の価値があるわけだ。十壺分で金貨30枚、来週の分も買い取ってくれるんなら金貨39枚になってもおかしくはない。
それが半値っていうのはちょっとなぁ。
「でもこれしか予算が無いのよ。」
「断れば?」
「言ったでしょ、ギルドとして今後の取引をお断りするわ。」
「それは横暴じゃないか?」
「非常事態なの。」
非常事態だからって買い叩いていい理由にはならない。
それこそ、祭りを前に買い占めるやつとやってることが同じだ。
利益は出る。
だが、このまま引き下がるのは癪だ。
はてさて、どうしたもんか。
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