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37.転売屋は奴隷を買う(買わされる?)

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「レイブさん事情をご説明頂けますか?」

この人とはついさっき・・・っていっても朝か。

ともかく顔を合わせてからそんなに時間はたっていない。

確かに奴隷を見るとは言ったが、まさか奴隷本人に探させるとは聞いてないぞ。

「すみません、ちょっと、息が。」

「シロウ様は事情を知らないと仰っておられます。説明しておく、そういうお約束でしたよね?」

「いやぁ、そのつもり、だったんだけど・・・。ちょっと待ってくれるかな。」

息も絶え絶えの状況で二人から責められるレイブさん。

ぜぇぜぇと息を切らし汗を滴らせるイケメンは絵になるなぁ。

オッサンがこれをやると絵にならないが、これが生まれ持った顔面偏差値ってやつなんだろうか。

この世界に来て昔よりは顔が良くなっているような気がしないでもないが、自分の顔を見る習慣がないだけにイマイチわかっていない。

一応普通の部類なんだろうという事にしているが・・・。

それよりもこのイケメンだよ。

「これをどうぞ。」

「あぁ、助かります。」

偶々水を買ってあったのでレイブ氏に手渡す。

もちろん口はつけてない奴だ、安心してくれ。

「はぁ、落ち着きました。」

「それは何よりです。」

「事情を説明しにギルド協会に向かったんですが、その頃にはもう帰られたと聞きましてね。街中探しましたよ。」

「それはご苦労様です。で、この人は?」

「よく聞いて下さいました!彼女こそ今回ご紹介させて頂きたい奴隷となります。名前は・・・もうお聞きになられましたか?」

「ミラさんと仰るそうですね。」

「その通りです。本来であれば先にシロウ様にお話を通してからお会いさせるはずだったのですが、私の手違いでこんな事になってしまい誠に申し訳ございませんでした。」

自分の奴隷の前だというのに深々と頭を下げるレイブさん。

なんだか奴隷ときくと叩いたり蹴ったりされて虐げられているイメージだけど、横に立つこの人からはそんな雰囲気を全く感じない。

なんていうか対等のような感じだ。

「そういう事でしたら致し方ありません。」

「当初の予定ではお話をさせて頂いたのち、実際に奴隷の見た目、また使い勝手の良さを体験していただくつもりでした。」

「使い勝手のよさとは?」

「算術・交渉・読み書きを含めシロウ様のお仕事に必要なものは全て仕込んでおります。ご覧の通り見た目も美しくスタイルもシロウ様の好みに近いのではないかと。正直な所いかがでございますか?」

「確かに美しい方だとは思います。」

どこで俺の好みを調べたのかは知らないが、かなり近い。

大きすぎず小さすぎず。

むしろここまでドンピシャな人を良く見つけてきたと感心するよ。

「有難うございます、シロウ様。」

「でしたらどうでしょう、このままご使用いただくというのは?」

「ですからその使用というのが良く分かりません。一体何をさせるつもりだったんですか?」

ぶっちゃけるとシモの方にしか思考が行かない。

だが往来のど真ん中で流石にそれは言わないだろう。

「シロウ様のお仕事に同行させ、どれだけ使えるのかを体験していただくつもりでした。ですがそのご様子ですと仕入れはもう終えられたようですね。」

「お陰様で、良い品が見つかりました。」

「それはようございました。ですが困りましたね、このままではシロウ様にご納得いただけません。」

「それは困ります!シロウ様以外の方などお断りです。」

「と、本人は申しておりますが・・・。」

「いや、申しておりますがと言われましても。」

それで買いますという奴がいるんだろうか。

そりゃ美人だし、そっちの方でも使えるんだったら最高だと思うよ?

こちとら体が若返ってそっち方面は常に元気いっぱいだ。

エリザと出来ない日ももちろんあるし、そう考えれば最高かもしれないが・・・。

だがどう考えてもあのセリフが頭を回っている。

『お高いんでしょう?』

そう言いたくて仕方がない。

「そうですか・・・。ですがお気に召したという事が分かっただけでも幸いです。」

「先ほどもお話した通り、払うものを払ってしまい手元に資金が残っていません。購入にはもうしばらくかかるかと。」

「そんな・・・せっかく出会えたのに。」

「致し方ありません。シロウ様の事ですから、必ず迎えに来て下さるでしょう。」

いや、迎えに来て下さるでしょうってなんで買う事前提なんでしょうか。

確かに店番は欲しいと思うけどぶっちゃけ余裕がありません!

「申し訳ありません。まだ店も準備できておらず、これから搬入などの作業もありまして本格始動はまだ先になります。」

「これからお忙しくなられるのですね。」

「そうですね。店の他にもハッサン氏に預けている荷の仕分けや管理も引き続き行わなければなりません。あれもそろそろ捌いてしまわないと。」

やることがあり過ぎて店の方に手が回らない。

俺がもう一人いれば何とかなるのだが・・・。

「では、こういうのはどうでしょうか。」

ポン、と手を叩くレイブさん。

頭に豆電球が見えた気がしたんだが、気のせいか?

「なんでしょうか。」

「本来であれば正式にお話を通して、どのような奴隷か見極めて頂く予定でしたが私の不手際でそれも出来なくなってしまいました。さらに、今後もお忙しい様子。そこでこちらの奴隷をお貸し出ししまして、実際にご使用頂くというのはどうでしょう。」

「それは名案です!私、精一杯働かせて頂きます!」

ミラさんも両手を組んで目を輝かせている。

まさかここまで全て仕込みだったなんてことはないだろうな。

俺に買ってもらうためにあのナンパ男も仕込んでいたとか、この人ならやりかねないぞ。

「いや貸し出しと言いましても・・・。」

「もちろんお代は頂きません。実際使用していただきご不満があれば購入されなくても結構です。ご満足頂けなかったわけですから。」

「そうならない様全身全霊を賭してお仕えいたします。」

「そう言われましてもですね。」

「どうか私にチャンスを頂けませんでしょうか。」

「私からもお願いします!」

その場で土下座しそうな勢いの二人に思わず気圧されてしまう。

先程散っていった野次馬が何事かと集まりだしてもいる。

見る分にはいいが自分が当事者になるのは勘弁願いたい。

特にここでは店を出したりするんだ、変な目で見られては仕事に差し支える。

「どうか頭を上げてください。」

「では・・・。」

「使用するかどうかは別にして一度場所を変えましょう。私の宿で構いませんか?」

「シロウ様のいく場所であればどこでも構いません!」

「それでしたら当店をご利用いただいても構いませんが・・・。」

そこに行こうものなら買うまで出てこれなさそうだから絶対に嫌だ。

こういう話は自分に有利な状況でやらないと大変なことになる・・・気がする。

「場所を変えるだけですから。」

「わかりました。三日月亭にお泊りでしたね、すぐに伺います。ミラ、一度来なさい。」

「でも・・・。」

「悪いようにはしませんから。」

「・・・わかりました。」

渋々といった様子でミラさんも引き下がる。

ふぅ、これで俺の面目は保たれた。

集まりかけた野次馬も面白くないと言った顔で離れていく。

俺は別に娯楽を提供したくてこんなことしているんじゃないからな!

ひとまず場が落ち着いたので急ぎ店に戻り荷物を置く。

一息つくまもなくマスターに事情を説明したところで、二人が再登場した。

一体どんな打ち合わせをしたのやら。

「いらっしゃい。」

「マスター、お久しぶりですね。」

「レイブか。デカくなったな。」

「やだなぁ何時の話をしているんですか、大きくもなりますよ。」

「知り合いだったんですか?」

「昔ちょっとな。俺からしてみればお前らが知り合いの方が驚きだよ。」

「この前ちょっとな。」

さすがこの街最古参の住人。

顔が広いなぁ。

「それで、シロウが奴隷を買うのか?」

「今日は話を聞くだけだ。払うもん払って空っぽなのはマスターも知ってるだろ。」

「それぐらいすぐ稼ぐじゃねぇか。」

「稼げたら苦労してねぇよ。奴隷なんて一体いくらするのやら。」

「そういえば値段をお伝えしておりませんでした。私としたことが、シロウ様相手だと緊張してしまいまして。」

嘘言うな嘘を。

そんな顔してないじゃないか。

絶対わざとだろ。

「俺も聞きたい、この美人はいったいいくらなんだ?」

「なんだマスターも興味あるのか?」

「興味だけだ、うちにはリンカがいるからな。」

「でも仕事が回らなくなったら奴隷がいるだろ?」

「その時はその時で考えるさ。回るような部屋数しか用意してないし、最悪臨時で人を雇えばいい。だがお前の場合はそうもいかないだろ?店番がいないんじゃ話にならないって前に言ってたじゃないか。」

「そうなんだけどさ・・・。」

まさかのマスターまで向こう側になるとは思わなかった。

こりゃ人選を間違ったか?

「そのような要望にもミラであれば応えることが出来るでしょう。一般のお客様だけでなく冒険者相手の接客も可能ですし、計算や帳簿なども問題なくこなせます。ですが一つだけ問題が・・・。」

おっと、ここでマイナスポイントの登場か。

ちゃんとそういう所も言うのはえらいな。

「といいますと?」

「商人の娘でしたので、商品の知識量はかなりのものです。ですが一般に取引されない物や冒険者の持ち込む素材など把握できないものもあるでしょう。残念なことに鑑定スキルまでは授かりませんでした。」

「スキルは後で覚えることが出来ないそうですね。」

「極稀に後天的に授かる場合もございますが、ミラはそうではなかったようです。」

「そういった品に関しては必ず覚えて参ります!どうか、一度だけでも使って頂けないでしょうか。お願いします!」

マイナスポイントを言われ不利を悟ったのか必死になってアピールをするミラさん。

あまりの必死さに思わずウンと言いかけたが、これもまた作戦である可能性が有る。

俺はそんなに甘い男じゃないぞ。

「たっだいまー!」

と、そこに元気よく帰ってくるエリザ。

タイミングがいいのやら悪いのやら・・・。

「なになに、どうしたの?」

「シロウが奴隷を買うんだってよ。」

「だから買うんじゃないんだって、話を聞いているだけだ。」

「え、そうなの?お店を始めるからてっきり買うものだと思ってたんだけど。」

おや?

随分とエリザは好意的だな。

てっきり反対されると思ってたんだが、この世界ではそれが当たり前なのか?

「はじめてお目にかかります、ミラと申します。奥様でよろしいですか?」

「奥様!?ち、違うわよ!シロウとはそんなんじゃないの、タダの冒険者よ。」

「こいつには金を貸してるんだ。」

「そうでしたか。親しいご様子から奥様だとばかり、大変失礼いたしました。」

「別に失礼でもないんだけど・・・。」

「何か言ったか?」

「何でもないわよ!」

っと、今度は急に不機嫌になったぞ。

相変わらず感情の変化が激しい奴だな。

生理前か?

「で、値段を聞いてなかったな。」

「そうでしたそうでした。いやぁすみません、マスターの前で緊張してしまって。」

俺の前って話じゃなかったのかよ。

ってもうどうでもいいや。

「正直に申しましてこの美貌でこれだけの仕事ができる奴隷は中々おりません。さらに男を知りませんから安全ですし具合も申し分ないので、夜の方でもお楽しみいただけることは間違いないでしょう。ずばり、金貨100ま・・・。」

「高いな。」

「・・・と言いたい所ですが、シロウ様にはこれからもご活躍頂きたいとおもっておりますので、金貨50枚、金貨50枚でいかがでしょうか。」

それでも高い。

金貨50枚と言えばこの前見つけた真実の指輪と同じ値段じゃないか。

あれが売れれば元は取れるが、鑑定持ちじゃないのが痛いなぁ・・・。

っておい。

今とんでもない事を思いついたな。

いやいや、流石にそれはまずいだろ。

出来なくはないが、あれの効果をしっかりと調べる必要がある。

まずはそれからだ。

「安いじゃない、シロウ買ったら?」

「有難うございます奥様!」

「だから奥様じゃないって!」

「いや、なんでお前が決めてるんだよ。」

「だってこれだけの美人でお店の事なんでも出来るんでしょ?私じゃその辺分かんないし、シロウの代わりになるんだったら安いんじゃないの?それに、美人だと冒険者が殺到するわよ。」

「俺が言うのもあれだがお買い得じゃないか?本来もう少しするのをそこまで値段下げてるんだ、その金額なら十分稼げるだろ。」

外堀をどんどんと埋められている気分だ。

お前等自分の事じゃないからって好き放題言いやがって。

「いかがでしょう、決して悪いお取引ではないと思いますが・・・。」

「お願いします、シロウ様の所で働かせて下さい!」

働かせてくださいって、決定権はあくまでも俺のはずなんだけど、どんどんと自分が悪役みたいになってくる。

うーむ、確かに悪い話じゃないんだろうけど・・・。

困ったなぁ。

だが何時までもこのままって訳にも行かない。

すっぱり諦めるか、それとも受け入れるのか。

答えはまぁ、出ているか。

「わかったわかったからそんなに騒ぐなって。ただし一度使ってからだ。それで駄目だったら諦めて他をあたれ、わかったな?」

「「ありがとうございます!」」

レイブさんとミラさんが同時に頭を下げる。

やっぱりこれも仕込みなんじゃないだろうか。

エリザが帰ってきたタイミングと言いこの反応といい・・・。

そんな疑心暗鬼の中、何故か奴隷を買う事になってしまった。
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