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36.転売屋は奴隷と対面する

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「あー疲れた。」

「お疲れ様でした。」

レイブ氏は満足そうな顔をしてギルド協会の建物を出て行った。

30分はしゃべり続けていたんじゃないだろうか。

今回の奴隷がどれだけ素晴らしいかに始まり、俺にはどんな奴隷が必要かを語り、最後には三人ぐらい買うようにと迫られてしまった。

もちろんそんな余裕はないので丁重にお断りしたのだが、最後の最後に引き下がってきたので致し方なく最初の奴隷を見ることを約束してしまったんだが・・・。

大丈夫だよな?

見るだけだよな?

「普段からあんな感じなのか?」

「あそこまで売り込まれるのは珍しいでしょう、それだけシロウさんに期待しているということではないでしょうか。」

「期待ねぇ・・・。」

「勿論うちとしても期待していますよ。」

「おいおい、これ以上何に期待するって言うんだ?」

「一年分の税金と家賃をこんなに簡単に支払う商人は稀ですから。」

そりゃ半年前・・・いや六ヶ月前から計画していたからな。

さすがに計画通りとはさすがに行かなかったが、最後の最後に大穴を当てたのでこうやって支払うことが出来ただけで、余裕がある訳ではないぞ。

一応それなりに蓄えはあるが、奴隷を買うとなるとそれが全部吹き飛ぶ可能性がある。

これから何かと物入りになるし出来るだけキャッシュは置いておきたいんだよね。

「来年追い出されない程度には頑張るさ。」

「ではこちらが納税証明書になります。一年間なくさないように保管下さい。」

「なくしたらどうなるんだ?」

「もう一度収めていただきます。」

「嘘だろ?記録とか残ってるんだし別にいいじゃないか。」

「その記録が改ざんされていない保障はありません。ですからお互いに証拠を保管するんです。」

確かに二重で保管すれば安心だが・・・。

改ざんの可能性ってそもそもそれありきなのはどうなんだ?

「言いたい事は分かるが・・・。まぁいい、店にでも飾っておけばなくさないだろう。」

「そうされる方も多いですね、職員が監査に入っても一目でわかりますから。」

「おい、監査があるなんて聞いてないぞ?」

「よっぽどの事がなければそのようなことは致しません。ですがご禁制の品を扱っているなどの噂が立てば入る必要も出てくるでしょう。当協会は皆様の公平性を保つための組織ですから。」

「せいぜい目をつけられないように気をつけるさ。」

なるほどな、自主性は重んじるけれど派手にやるとまずいわけか。

危ない品は扱わないようにしたほうがいいだろう。

「開店する日なんかは事前に連絡した方がいいのか?」

「出来ればそうしていただけると助かります。色々と準備できますので。」

「花はいらないぞ、捨てるだけだからな。」

「にぎやかしになりますが?」

「買取屋に行列が出来るなんざ不景気もいい所だ、ひっそりとやらせてもらうさ。」

冒険者相手の商売にするつもりだが、一般の客を断る理由もない。

そんな相手が金に困って買取屋に行列を作る日なんて考えたくもないね。

「質屋ではなく買取屋。また面白い商売をお考えになられましたね。」

「専門にするにはコネが足らなさ過ぎるからな、当分は販売と買取の両方でやっていくつもりだ。」

「つまりはコネが出来れば買取に専念すると?」

「俺が仕入れて別の店で売るって方法もある。だがそうするにはもう一件店を開く費用がある訳だが・・・二倍の税金を払えるほど裕福じゃないんでね。」

「その場合は色々と考慮させて頂きますよ。」

「無茶言うなっての。」

仮に半額でいいといわれても金貨300枚に二店舗分の賃料だ。

やってられるか。

その後納税証明書を受け取り予定通り市場へと足を向ける。

感謝祭も終わり、露天はいつもと変わらない雰囲気に戻っていた。

「よぉシロウ。」

「おっちゃん久しぶり。」

「なんでも自前の店を持ったそうじゃないか、さすが出世頭は違うな。」

「おっちゃんこそ貴族からの注文が殺到してるそうじゃないか。こんなところで油売ってていいのか?」

「仕込には時間がかかるんだよ、貴族だろうが順番は守ってもらわないとな。」

保存食をメインで売っているおっちゃんだが、リング氏との一件があってから貴族からの注文が殺到しているそうだ。

おそらくあの人が周りの貴族に紹介したからだろう。

細々とやっていたおっちゃんは急激に事業を拡大する必要が出てきて大忙しらしい。

今じゃ村を上げてチーズの生産をしているとか、いやぁ権力のある人間の発言って怖いねぇ。

「元気そうでよかったよ。」

「シロウの分はいつも置いてるから食べたくなったらいつでも言いに来いよ。」

「そんな事言われたら買わないわけには行かないだろ、ったく商売上手だなぁ。」

「へへ、毎度有り!」

貴族が何ヶ月も待ってるチーズを俺が待たずに買えるってのも変な話だが、これもご縁ってやつだ。

必要数だけもらって後はマスターにでも売りつけよう。

おっちゃんもその辺は理解してくれている。

「あれ、おばちゃんは?」

「ココ最近見てないな。風邪でも引いたんじゃないか?」

「またよろしく言っといてよ。」

「もうここには出さないのか?」

「勿論出すさ、店を開くにも金が要るし。」

「そりゃそうか。」

使った分は稼がなきゃならない。

それよりも気になるのはいつも隣に店を出していたおばちゃんの事だ。

日用品を販売していたんだが感謝祭の前後から姿を見ていない。

おっちゃんの言うように風邪ならいいんだが・・・。

ま、元気になったら出てくるだろ。

「そんじゃまた。」

「おぅ、またな。」

代金を支払って露天の散策を続ける。

感謝祭で金を使いすぎたのか一般人の出店が多いみたいだ。

こりゃ掘り出し物があるかもしれないぞ。

それから夕方まで露天を回り、予想通りいい感じの掘り出し物を多数発見できた。

これも日ごろの行いがいいおかげだろう。

ありがたやありがたや。

「っと・・・あれは何だ?」

大量の荷物を抱えてさぁ帰ろうかと市場の出口に足を向けたときだった。

出口付近に人だかりが出来ている。

っていうか野次馬か?

また何か問題でも起きたんだろう。

関わると面倒だし・・・でも気になるよな。

ってことで野次馬に加わるべく足を向けた。

「やめてください。」

「いいじゃないか、君みたいな美人がこんな所にいるなんてもったいない。どうだい、食事に行かないか?いいお店を知ってるんだ。」

「人を待っているんです、時間なんて有りません。」

「君をそんなに待たせるやつなんて放っておけばいい。随分と長いこと待っていたのはここにいる人達も知っているし、そいつが来たら説明しておいてあげるよ。」

どうやら男が美人をナンパしているようだ。

それを大人数で囲んで見守る・・・もとい観察している感じだな。

なーんだ、しょうもな。

さっさと帰ろう。

人ごみを掻き分けてよく見える場所までいったが無駄足だったようだ。

喧嘩なら賭けが出来るし、暇つぶしにのってやろうかなんて思った俺が間違っていた。

ナンパ野郎には興味ないね。

でも確かに女のほうは美人だったな。

若すぎず老けすぎず、長身で細身。

あんまりボインボインなのって好きじゃないんだ。

でもなさ過ぎるのも面白くない。

その点さっきの女は出るとこはそこそこ出ていたし、おとなしい雰囲気もいい感じだ。

おっと、こんなこというとまたエリザが拗ねるから気をつけないと・・・。

「あ!」

「ん?」

再び人ごみを掻き分けて戻ろうかとしたその時、さっきの美人が一番大きい声を上げた。

無理やり引っ張られでもしたのかと思い振り返るとその人とばっちり目が合った。

なんだ?

どうして俺なんかを・・・。

「シロウ様!」

「え、俺?」

「お探ししておりました、よかった、やっとお会い出来ました。」

美人がナンパ男の手を振り切って駆け寄ってくる。

正面に立たれた瞬間に甘い匂いがふわっと香ってきてドキッとしてしまう。

「おいおい、何だよお前。」

と、ナンパ男が遅れて我に返り慌てて文句を言ってくる。

いや、何だよと言われてもただの通りすがりだよ、とは言いづらい雰囲気だ。

「私は奴隷でシロウ様はご主人様です、貴方になんか用はありませんのでさっさと何処かに行ってください。」

「ご主人様だぁ?」

「そうですよね、シロウ様。」

はい、とは言えないんだけど何この言わなきゃいけない雰囲気。

目の前にいる美人が俺をご主人様と呼んでいる。

っていうか自分の事を奴隷だって?

一体何が何やら・・・これは夢だろうか。

「とりあえずアンタは関係ないみたいだからさっさと何処かに行ってくれ。」

「ったく、自分の奴隷なら首輪ぐらいつけとけよ!紛らわしいだろ!」

「シロウ様になんて無礼な口の利き方を!」

今度は先程まで大人しかった美人が急に態度を変えてナンパ男に噛みつきだしたぞ。

その勢いにたじろいだのか野郎は唾を吐き捨てどこかに消えてしまった。

周りの野次馬も興味を失ったのか散り散りに去っていく。

なんとかこの場は収まったようだ。

「で、君は?」

「私はシロウ様の奴隷です。」

「いや、そうじゃなくて名前。」

「ミラと申します。」

ミラさんが優雅にお辞儀をする。

その立ち振る舞いはどう見ても奴隷っぽくないんだけど・・・。

「ぶっちゃけ俺に奴隷はいないんだけどどういう事?」

「おかしいですね、レイブ様からお話をして頂いているはずなのですが。」

「レイブさんが?」

二人そろって首をかしげる。

と、その時だった。

「シロウ様、探しましたよ!」

露店の奥から手を振って走ってくるイケメン。

どうやらあの人が原因のようだ。
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