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29.転売屋は最後を見送る

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結論から言えばレイブ氏の言った事は本当だった。

話の通り、ホルトは街の偉い人に目をつけられているらしい。

なんでも偉い人を暗殺しようとした奴が失敗して、武器の出所を吐いてしまったらしい。

間抜けと言えば間抜けだが、そのリスクをわかって商品を売ったのは本人だ。

その後どうなろうと俺の知る所ではない。

それよりもそういう話の裏取りが出来るマスターの方が正直怖いんだが。

「まぁそれを言うな。」

「いったいどこでそんな情報仕入れてくるんだ?」

「この街に長い事居るとな、イヤでもそういった情報が手に入るようになるんだよ。」

「いや、普通ならないだろ。」

「お前も店を構えたらわかる、店を持つという事はそういう事だ。」

どういうことだよ、とは言えなかった。

ようは店を持つことでそういった横のつながりが嫌でも出来るようになるぞと言いたいんだろう。

正直に言ってめんどくさい。

出来ればそういうしがらみ無しで店を持ちたいものなんだが・・・。

そう上手くはいかないらしい。

「で、実際に動くとしたらいつになるとおもう?」

「ゴタゴタになることを考えると感謝祭直前は避けるだろう。となると一か月前って所じゃないか?」

「もちろん本人もそれが分かってるよな?」

「そりゃな。」

「逃げるのは止めないのか?」

「普通に逃げれば捕縛されるだろう。だが人目につかない方法で逃げられた場合はしらん。」

「つまり夜逃げするしかないと。」

「本人が手を下したら別だがあくまでも物品を流しただけだからな、この街を出ていくだけでも十分の報いになる、ってことじゃないか?」

まるで当事者のように語るマスターだったが、最後の最後で言葉を濁した。

なぁ、本当はあんたが実行部隊なんじゃないか?

とはさすがに聞けないだろこの流れだと。

「そんじゃま今のうちに挨拶しておくか。」

「おいおい、傷に塩を塗り込む気か?」

「滅相もない、最後の別れをしに行くだけだよ。向こうも次に入るのが俺とは思っていないだろうからな。」

仮に夜逃げするとなると一番邪魔なのは在庫だ。

そして一番必要な物が現金。

その二つが組み合わさると即ち在庫大放出が行われる可能性が一気に上がる。

ってか間違いなくしている。

俺が売りつけた品はともかくそれなりの品は置いているだろうからそれを買ってやってもいい。

もちろん安ければの話だがな。

折角場所を開けてくれるんだし多少は貢献しておかないと罰が当たるってもんだ。

「私はいかないからね。」

「なんだ聞いてたのか。」

「アイツがどこに行こうと私には関係ないし。」

「別について来いとは言ってないさ、お前はダンジョンにでも潜っていろよ。」

「ふーんだ。」

この前しこたま自分が何者かを思い知らせてやったのに、まだそんな態度をとるかねこの女は。

ま、従順すぎる女よりは張り合いあるか。

じゃじゃ馬の方が乗りこなした時に良く動くともいうし。

「善は急げだ行ってくる。」

「くれぐれも刺されるようなことはしてくれるなよ、年末は何かと忙しいんだ。」

ほらまた。

何でマスターが動くこと前提なんだろうか。

言わぬが仏、聞かぬが花。

とはいえ気になるものは気になる。

まぁいずれ話してくれる日も来るだろう。

ご機嫌斜めのエリザを置いて三日月亭を出て商店街へと足を向ける。

まずはベルナの店、それからホルトの店に行くとしよう。

マスターの言うように刺されても困るからな。

軍資金確保の意味も含めてそれなりの品を持ちベルナの店の戸を叩く。

「イラッシャイ、なんだシロウかニャ。」

「なんだとは何だよ、一応客なんだけど?」

「どうせ今日も買い取りニャ。最近在庫がだぶついて大変ニャんだから少しは貢献して欲しいニャ。」

「まぁそう言うなって、今日はいい品を持って来たからさ。」

腐てくれされる猫娘の前に二つの品を並べてやる。

ゴトンという音と、コトンという音。

異なる二つの品を見てベルナの金色の瞳が大きく見開かれた。

猫目ってちょっと怖いよな。

「こ、これは何ニャ?」

「おいおいそれを見るのが仕事だろ?」

「それはわかってるニャ!いったいどこでこれを手に入れたニャ!?」

「とある奴がダンジョンで見つけてきたんだ。良い品だったからそれなりの値段で買ってやったんだが、よく考えれば俺の手に余る品だからしかるべき奴が売るべきだろうと考えたのさ。」

「ニャニャ、確かにうちならこれを適切に捌けるニャ、ホルトとは違うニャ。」

「とりあえず見てくれ。」

「わかったニャ、ちょいと借りるニャ。」

並べられた二つのブツを大事そうに抱えて猫娘が店の奥へと消えていく。

それからしばらくは奥からよくわからない猫語が聞こえてきたが、それもすぐに聞こえなくなった。

集中しているんだろう。

因みに見つけたのはもちろんエリザだ。

それなりの実力があるだけあって、俺の貸した武器をもって毎日毎日ダンジョンに潜っていると、それなりの品を持って帰って来る。

その中でも今回は隠し部屋の中にあった古びた宝箱から見つけたブツを持って来たってわけだ。

因みにどちらも俺達には不要な物、特に本人は全く興味が無いらしい。

その辺が普通の女と違う所だよな。

「待たせたニャ。」

「どんな感じだ?」

「もう一回きくニャ、これはダンジョンで見つけたので間違いないニャ?」

「あぁ、嘘偽りはない。というか、そこ以外のどこでこれだけの品を見つけるんだよ。」

「確かにその通りニャ。」

「ここ最近在庫がだぶつくぐらい買い取ってもらってるからな、せめてもの罪滅ぼしだよ。」

「罪の意識があるだけましニャ。」

大事そうに査定に出した二つの品をカウンターの上に戻す猫娘。

琥珀色をした大きな水晶と真っ青に輝く石がついた小さな指輪。

「これは過去視の琥珀球ニャ。これを通して景色を見るとはるか昔の景色を再現する事が出来るニャ。さらに流し込んだ魔力量に応じてより古い時代を見る事が出来るニャ。未来視だとかなりの値段がしたんニャけど、今回は過去視だからそれに比べると半分ぐらいの値段ニャ。」

過去視の琥珀球。

今の説明の通り過去を見る事が出来るらしい。

琥珀色っていうかセピア色っていうか、昔の景色を再現するとどうしてあんな色になるんだろうな。

謎だ。

「こっちはラピスドロップの指輪ニャ。水属性の加護を与える指輪で冒険者、特に水魔法を使う魔術師垂涎の品だニャ。少し小さいからネックレス程の効果は出ないけどそれでも十分に価値のある品だニャ。本当に買取でいいのかニャ?これを担保にするならかなりの額を融資出来るニャよ?」

ラピスドロップの指輪。

クリムゾンティアのように装備者に加護を与える品・・・らしい。

あれはティアっていう名前の通り雫の形をしていたけどこっちは小さいから水滴って感じだ。

小さな石だが色が深く、それだけで高い物だとわかる。

因みに相場スキルで見ると琥珀球が金貨5枚、ラピスドロップが金貨10枚で取引されていたので合わせて金貨8枚でエリザから買い取った。

え、安すぎる?

気のせいじゃないかな。

因みにその金を使って即行貸していた剣を買って行ったけどな。

さぁ、いくらで買ってくれる?

「あぁ、買取で構わない。それでいくらになる?」

「そうニャね・・・。ズバリ金貨12枚ニャ!」

「内訳は?」

「琥珀球が金貨4枚、ラピスドロップが金貨8枚ニャ。本当は10枚って言いたいんニャけど、ほかならぬシロウの頼みニャ。」

「それに加えてホルトがいなくなる御礼だな?」

「そ、そんな事ないニャ。」

あからさまなその返事、まぁ間違いなく知っているよな。

さりげなくホルトの店で見たことのある品が店頭に並んでいるし、おそらく安く買い付けてきたんだろう。

喧嘩してはいたが恨みあっていたわけではないし、同業として手を貸してやったって感じかな。

別に犯罪でも何でもない、これを責めるのはお門違いってものだ。

「まぁいいさ。その金額で買ってくれ。」

「わかったニャ。」

「それといくつか買い物をしたいから差額を貰ってもいいか?」

「もちろん大歓迎ニャ!大盤振る舞いしてやるからいっぱい買うんニャよ!」

それから目ぼしい物をいくつか買い付け(格安で)、代金の金貨8枚を貰ってベルナの店を出た。

そのまま大通りを越えて向かいのホルトの店へと向かう。

だが、入り口は固く閉ざされており、中は暗いままだった。

休業中・・・か?

ショーウィンドウから無理やり中を覗くと暗い中でも動いている何かが見える。

中にはいるみたいだな。

どれ、挨拶ぐらいはしておくか・・・。

「それはやめておいた方がよろしいかと。」

突然聞こえてきた声に後ろを振り返ると、イケメンもといレイブ氏がにこやかな笑顔で俺を見ていた。

「これはレイブさんどうしてここに?」

「お客様の所に向かった帰り、ちょうどシロウ様がベルナ様のお店から出てきたものですから。」

「なるほど。」

「事情を知らぬ者ならともかく、知っている者がわざわざ行くのは命を縮める原因になりますよ。」

「在庫処分の手助けをと思っただけですが・・・、やはりそう思いますか。」

「将来の大切なお客様をみすみす逃すのは私も惜しい、どうかここは温かく見送るだけにしてあげてください。」

うーむ、そこまで言われれば致し方ない。

正直俺もそれはやり過ぎかなとは思っていたんだ。

だが、本当に善意で売り上げに貢献できるのならと思ったのは間違いないのだが・・・。

小さな親切大きなお世話ってやつだな。

俺も意地の悪い人間になったものだ、気をつけよう。

「助言に従いましょう。」

「それが最善かと。あ、そうだこの間の件ですがお好みに合いそうな奴隷がおりましてね、算術はもちろんの事接客もこなせますので必ずやシロウ様に気に入っていただけるかと思います。」

って、そんなこと言いながらその店の前で商談し始めたよこの人。

なかなかサイコパスだな。

「それはありがとうございます。ですがその話は店を持ってからということで・・・。」

「おっと、私とした事が急いてしまい申し訳ありません。では、その話が出た時に改めてお伺いいたしましょう。御機嫌ようシロウ様。」

ハッと我に返り照れる事も無く去って行くイケメン奴隷商人。

この俺がつい敬語になってしまうんだから、恐ろしい男だ。

真っ暗な店。

その店に向かって小さく一礼して俺はその場を後にした。

それから二週間後。

まだ夜も明けきらぬ頃にホルトが街を出て行ったと風の噂で聞くことになる。
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