26 / 1,238
26.転売屋は買い取り禁止を言い渡される。
しおりを挟む
例の肉に関しては無事に仕込みも終わり、後は熟成次第で何とかなるだろう。
それに加えて譲り受けた不用品の仕分けも無事に終わった。
と言ってもオッサンからもらった分だけなので、リング氏から送られてくる予定の分はまだ到着してすらいない。
何でも結構遠方からアレを探しに来ていたらしい。
戻るのに一か月はかかるという話だ。
ということはだ、戻るのに一か月それから選別だ輸送だとなると遅くても三カ月はかかる計算になるだろう。
ま、忘れた頃にまた連絡があるさ。
ちなみに店の方は権力を使用しても不発に終わった。
だが、相手が相手だけに『もし仮に空き店舗が出た場合は真っ先に連絡をする』という確約を頂けたのでこちらも忘れたころに連絡が来るだろう。
それまでは今まで通りセドリで何とかするしかない。
半年後か一年か・・・。
場所を変えれば環境も変わるので、この街にこだわらなければ店は確保出来るだろう。
それでもこの街に来て一年もたっていない。
根無し草のようにウロウロするよりかはここで居を構えたいと思うのは、年寄りの考えなのだろうか。
「ねぇ、今日はどうするの?」
「毎日それ聞くよな、冒険者ならダンジョンに行けよ。」
「えー、だって昨日も一昨日もダンジョンに潜ったし・・・。今日ぐらいはゆっくりしたいじゃない?」
「ゆっくりって、露店に出たんじゃ休みにならないんじゃないか?」
「そんなことないよ?お金は増えるし、動かない分体を休められるし。」
そういうもんか?
休む時は休む。
それこそ、何もせず一日ぼーっとするぐらいで初めて休みだと思うんだが。
これも年寄りの考え方なのか?
「もぅ、シロウさんってば本当に鈍感ですよね。」
「何だよ藪から棒に。」
「エリザさんはシロウさんと一緒にいたいからそうやって聞いてるんですよ?ねぇエリザさん。」
「ち、違う!私は別にそんな・・・。」
「本人は否定しているぞ?」
「そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃないですか!」
恥ずかしいって、下着も裸もっていうか尻のしわの数まで知られている状況で恥ずかしい事なんてあるのか?
あ、ちなみに今のは例えであってしわの数なんて興味ない事を宣言しておく。
「そうなのか?」
「違う・・・とは言えないかもしれない。」
「なんだハッキリしない奴だな。ベッドではあんなにねだって・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「んだよ、うるさいな。」
「明るい時間にっていうかこんな所でそんなこと言わないでよ恥ずかしい!」
恥ずかしい恥ずかしいって面倒な奴だなぁ。
それに加えて信じられないという顔で俺を睨むリンカ。
こんな会話、冒険者相手のこの店なら日常茶飯事だろ?
「乳繰り合うなら上に行け上に。」
「いや、そこまで発情してないんで。」
「まぁそうだよな。昨日もあれだけ・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「マスターもサイテー!」
「怒られてるぞ?」
「どうやらお子様には早すぎたみたいだな。」
「誰がお子様よ!」
エリザはともかくリンカはどう見てもお子様だろ。
見た目もそうだが中身もな。
ダンのやつさっさと抱いてやればいいものを、見ている方がヤキモキする。
「ともかく!今日はどうするの?」
「今日はホルトの店に不用品を売りに行くつもりだ。だから一緒に来ても儲けは出ないぞ?」
「別にいいわよ。」
「いいわよってつまりどっちなんだ?」
「一緒に行くから!」
そうならそうとハッキリ言えばいいのに。
めんどくさいなぁ。
ともかくそうと決まれば即行動だ。
売れ残りの品々をカートに積んでホルトの店に向かった。(もちろん押すのはエリザだ)
「いらっしゃい、なんやアンタか。」
「せっかく来た客に向かってその態度は無いんじゃないか?」
「別にいいやんか、知らない仲でもないんやし。今日はエリザも一緒かいな。」
「そうよ、悪い?」
「買い物してくれたらうれしいんやけど、外の荷物を見るとそうでもないみたいやね。」
「あぁ、今日も買い取りを頼む。」
「はいはい、んじゃとりあえずここに並べといてや。」
いつもやる気のない態度をとるホルトだが、今日は何時にも増してめんどくさそうな顔をしている。
犬顔なのに。
まぁ、犬は猫よりも表情豊かっていうしそういうもんなんだろう。
エリザと一緒に荷物をカウンターに並べていく。
今回も自前では売れにくそうな品々を選りすぐって持って来てみた。
「ちょいちょい、そんなあるんかいな。」
「あぁ。」
「さすがにその量は無理やで、とりあえずそこまでにしといてや。」
「いつもと変わらないと思うが?」
「いいからそこまでや。査定してくるから大人しゅう待っとき。」
やはり今日は機嫌が悪いようだ。
エリザと顔を見合わせて肩をすくめる。
仕方ない、店内の品を見ながら待つしかないか。
「ねぇねぇシロウ、これ何?」
「ん?」
壁に飾られた高そうな剣をエリザが指さしている。
鑑定するには触らないといけないが・・・、指先ぐらいならいいだろう。
そっと指を伸ばして剣先に触れてみる。
『魔鉱の両手剣、魔石が長い年月かけて鉱物と融合し変化した物。魔法を切り裂くことが出来るが呪われている。最近の平均取引価格は金貨2枚、最安値が金貨1枚、最高値は金貨5枚、最終取引日は1年と170日前と記録されています。』
「魔鉱の剣みたいだが呪われているな。」
「嘘!シロウ大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないか?触ったぐらいで呪われるんならこんな所に飾れないだろうし。」
「そう・・・よね?」
「なんで距離を取るんだよ。」
「別に、何でもないわよ。」
そう言いながらもエリザは離れていく。
一歩近づくと一歩逃げる、それが面白くて気づけば店の中をぐるぐると追いかけまわす格好になった。
「何しとんねん!大人しゅうしとき言うたやろ!」
そんな事をしばらく続けていると、査定を終えたホルトに怒鳴られてしまった。
こんな事で怒られるなんて子供の時以来じゃないか?
「悪かったって、査定は終わったのか?」
「まったく、大の大人が子供みたいに走り回って。何にも壊してへんやろうな。」
「さすがにな。どれだけ吹っ掛けられるかわかったもんじゃない。」
「査定結果を聞く前に言うやんか。」
「おいおい、そんな事で結果を弄るような器の小さい男なのか?」
「アホ言うな、商売に関しては真面目にやるのが信条や。ほな順番に言うで。」
机の上に並べた商品を指さしながらホルトが買い取り品の説明を始める。
「これは魔除けのオーブやな。持ってるだけで魔物が寄ってこない優れものやけど、魔物を相手にする冒険者には無意味な代物や。せやけど街道を行き来するよう人には必須のもんやから、銀貨50枚ってとこや。」
「安すぎないか?」
「よう見てみ、奥がくすんできてるやろ?これは効果が切れて来てる証拠やで。」
「だからその値段か。わかった、続けてくれ。」
そういう理由なら仕方がない。
俺も冒険者相手には売れにくいから持ってきたんだし、値段さえつけば正直構わない。
「ほんでこっちは生活魔法の魔導書やわ。」
「魔法が覚えられるのか?」
「そんなことあらへん、ただの教科書やな。生活魔法なんて非効率的なもの使うぐらいなら自分で掃除した方が早いから使う人なんておらへんよ。でも学者連中が欲しがるかもしれんから銀貨30枚なら買うたる。」
「わかった。」
異世界でおなじみの魔法が使えるようになるのかと思ったが・・・、そう上手くはいかないらしい。
「次はこれやけど・・・。なんでこんなもん持ってるんや?」
「出所は聞かない約束だろ?」
「せやけどこれは奴隷商人しか手に入れられへん代物やで?」
そう言いながら指でくるくると首輪を回しだした。
犬顔で首輪を持っている姿を見ていると昔飼っていた犬を思い出すな。
散歩に行きたくなると自分でハーネスを咥えて持って来たっけ。
『戒めの首輪。これを着けられた者は着けた者に反抗すると首輪が締まり失神させられる。主に奴隷の管理を目的として製造された品。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値が銀貨30枚、最高値銀貨88枚、最終取引日は29日前と記録されています。』
「蛇の道は蛇ってやつさ。」
「まぁええけどな、出所がわからへん品なんて世の中になんぼでもあるし。これに関しては色んな所で使えるから金貨1枚で買わせてもらいます。」
「随分高いんだな。」
「言ったやろ、色んな所で使えるて。」
そう言いながらホルトがにやりと笑う。
笑うと犬歯が見えるので何とも不気味な感じだな。
「後は使い道のあんま無い奴ばかりやから金貨1枚なら買うたりますわ。」
「・・・まぁいいか。」
「交渉成立やな、持ってくるから今度こそ大人しく待っとくんやで。」
しっかりとくぎを刺されてしまったので大人しく待つしかないな。
と言っても金を取りに行っただけだからすぐに戻って来たけど。
「ほな、金貨2枚と銀貨80枚や。」
「確かに。それじゃ残りのやつも・・・。」
金を受け取り残りを査定してもらうとしたその時だった。
「それなんやけどな、うちではもうアンタとの取引を遠慮させてもらいますわ。」
「・・なんだって?」
「言うた通りやこれ以降アンタから商品を買い取るのは止めさせてもらいます。」
さっきまでの気の抜けた感じ、ではなくかなり真剣な目で俺を見てくる。
「理由は?」
「わかるやろ、アンタは商品を持ち込み過ぎたんや。」
「つまり品を捌けないから他所に行けって言うんだな?何でも買い取るホルトの店の名が泣いてるぞ。」
「好きに言いなはれ、とにかくウチではもう買わんから買い取って欲しいんやったらベルナの店にでも持ち込むんでんな。」
それだけ言うと早く帰れと言う感じでシッシと追い払われてしまった。
これ以上は何を言っても無理そうだな。
何か言いたそうにしているエリザを抑えて一度店の外に出る。
外のカートにはまだ半分品が残っているわけだが・・・。
「なによなによ、前までは何でも買い取るって言ってたくせに!」
「まぁ落ち着け、向こうも噂になると覚悟して言ってきてるんだ。予定外ではあるが、気持ちはわかる。」
「何で?シロウは悔しくないの?」
「だいぶ不用品を押し付けてきたからな、流石に金銭的に苦しくなってきたんじゃないか?」
「私達からあれだけ搾り取ってるのに?」
「それ以上の金を吐き出させてきたからな、潮時だったんだろう。」
これまでにかなりの金額を買取させて来たし、ここいらが限界なんだろう。
しかし困ったな。
残りをベルナの店にもっていけば今回は何とかなるかもしれないが、これからの扱いに困る。
特に二カ月先に大量の品が送られてくることは確定しているんだし、それを処理できないと面倒なことになるぞ。
「どうするの?」
「とりあえず今回はベルナの店にお願いするよ。この先の事は・・・おいおい考えるさ。」
「大丈夫だって、シロウならなんとかするでしょ。」
「随分簡単に言うんだな。」
「だって今までもそうだったもん。」
今までは運が良かっただけ、で終わらせるわけにはいかなくなってきた。
目標まではまだまだ金が要る。
その為にも次の一手を考える必要が出てきたという事だろう。
「とりあえず行くか。」
「うん!」
何はともあれ、今は持ってきた品をどうにかしなければならない。
そう気持ちを切り替えるとカートを引いて(引かせて?)目の前のベルナの店に足を向けるのだった。
それに加えて譲り受けた不用品の仕分けも無事に終わった。
と言ってもオッサンからもらった分だけなので、リング氏から送られてくる予定の分はまだ到着してすらいない。
何でも結構遠方からアレを探しに来ていたらしい。
戻るのに一か月はかかるという話だ。
ということはだ、戻るのに一か月それから選別だ輸送だとなると遅くても三カ月はかかる計算になるだろう。
ま、忘れた頃にまた連絡があるさ。
ちなみに店の方は権力を使用しても不発に終わった。
だが、相手が相手だけに『もし仮に空き店舗が出た場合は真っ先に連絡をする』という確約を頂けたのでこちらも忘れたころに連絡が来るだろう。
それまでは今まで通りセドリで何とかするしかない。
半年後か一年か・・・。
場所を変えれば環境も変わるので、この街にこだわらなければ店は確保出来るだろう。
それでもこの街に来て一年もたっていない。
根無し草のようにウロウロするよりかはここで居を構えたいと思うのは、年寄りの考えなのだろうか。
「ねぇ、今日はどうするの?」
「毎日それ聞くよな、冒険者ならダンジョンに行けよ。」
「えー、だって昨日も一昨日もダンジョンに潜ったし・・・。今日ぐらいはゆっくりしたいじゃない?」
「ゆっくりって、露店に出たんじゃ休みにならないんじゃないか?」
「そんなことないよ?お金は増えるし、動かない分体を休められるし。」
そういうもんか?
休む時は休む。
それこそ、何もせず一日ぼーっとするぐらいで初めて休みだと思うんだが。
これも年寄りの考え方なのか?
「もぅ、シロウさんってば本当に鈍感ですよね。」
「何だよ藪から棒に。」
「エリザさんはシロウさんと一緒にいたいからそうやって聞いてるんですよ?ねぇエリザさん。」
「ち、違う!私は別にそんな・・・。」
「本人は否定しているぞ?」
「そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃないですか!」
恥ずかしいって、下着も裸もっていうか尻のしわの数まで知られている状況で恥ずかしい事なんてあるのか?
あ、ちなみに今のは例えであってしわの数なんて興味ない事を宣言しておく。
「そうなのか?」
「違う・・・とは言えないかもしれない。」
「なんだハッキリしない奴だな。ベッドではあんなにねだって・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「んだよ、うるさいな。」
「明るい時間にっていうかこんな所でそんなこと言わないでよ恥ずかしい!」
恥ずかしい恥ずかしいって面倒な奴だなぁ。
それに加えて信じられないという顔で俺を睨むリンカ。
こんな会話、冒険者相手のこの店なら日常茶飯事だろ?
「乳繰り合うなら上に行け上に。」
「いや、そこまで発情してないんで。」
「まぁそうだよな。昨日もあれだけ・・・。」
「ワーワーワーワー!」
「マスターもサイテー!」
「怒られてるぞ?」
「どうやらお子様には早すぎたみたいだな。」
「誰がお子様よ!」
エリザはともかくリンカはどう見てもお子様だろ。
見た目もそうだが中身もな。
ダンのやつさっさと抱いてやればいいものを、見ている方がヤキモキする。
「ともかく!今日はどうするの?」
「今日はホルトの店に不用品を売りに行くつもりだ。だから一緒に来ても儲けは出ないぞ?」
「別にいいわよ。」
「いいわよってつまりどっちなんだ?」
「一緒に行くから!」
そうならそうとハッキリ言えばいいのに。
めんどくさいなぁ。
ともかくそうと決まれば即行動だ。
売れ残りの品々をカートに積んでホルトの店に向かった。(もちろん押すのはエリザだ)
「いらっしゃい、なんやアンタか。」
「せっかく来た客に向かってその態度は無いんじゃないか?」
「別にいいやんか、知らない仲でもないんやし。今日はエリザも一緒かいな。」
「そうよ、悪い?」
「買い物してくれたらうれしいんやけど、外の荷物を見るとそうでもないみたいやね。」
「あぁ、今日も買い取りを頼む。」
「はいはい、んじゃとりあえずここに並べといてや。」
いつもやる気のない態度をとるホルトだが、今日は何時にも増してめんどくさそうな顔をしている。
犬顔なのに。
まぁ、犬は猫よりも表情豊かっていうしそういうもんなんだろう。
エリザと一緒に荷物をカウンターに並べていく。
今回も自前では売れにくそうな品々を選りすぐって持って来てみた。
「ちょいちょい、そんなあるんかいな。」
「あぁ。」
「さすがにその量は無理やで、とりあえずそこまでにしといてや。」
「いつもと変わらないと思うが?」
「いいからそこまでや。査定してくるから大人しゅう待っとき。」
やはり今日は機嫌が悪いようだ。
エリザと顔を見合わせて肩をすくめる。
仕方ない、店内の品を見ながら待つしかないか。
「ねぇねぇシロウ、これ何?」
「ん?」
壁に飾られた高そうな剣をエリザが指さしている。
鑑定するには触らないといけないが・・・、指先ぐらいならいいだろう。
そっと指を伸ばして剣先に触れてみる。
『魔鉱の両手剣、魔石が長い年月かけて鉱物と融合し変化した物。魔法を切り裂くことが出来るが呪われている。最近の平均取引価格は金貨2枚、最安値が金貨1枚、最高値は金貨5枚、最終取引日は1年と170日前と記録されています。』
「魔鉱の剣みたいだが呪われているな。」
「嘘!シロウ大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないか?触ったぐらいで呪われるんならこんな所に飾れないだろうし。」
「そう・・・よね?」
「なんで距離を取るんだよ。」
「別に、何でもないわよ。」
そう言いながらもエリザは離れていく。
一歩近づくと一歩逃げる、それが面白くて気づけば店の中をぐるぐると追いかけまわす格好になった。
「何しとんねん!大人しゅうしとき言うたやろ!」
そんな事をしばらく続けていると、査定を終えたホルトに怒鳴られてしまった。
こんな事で怒られるなんて子供の時以来じゃないか?
「悪かったって、査定は終わったのか?」
「まったく、大の大人が子供みたいに走り回って。何にも壊してへんやろうな。」
「さすがにな。どれだけ吹っ掛けられるかわかったもんじゃない。」
「査定結果を聞く前に言うやんか。」
「おいおい、そんな事で結果を弄るような器の小さい男なのか?」
「アホ言うな、商売に関しては真面目にやるのが信条や。ほな順番に言うで。」
机の上に並べた商品を指さしながらホルトが買い取り品の説明を始める。
「これは魔除けのオーブやな。持ってるだけで魔物が寄ってこない優れものやけど、魔物を相手にする冒険者には無意味な代物や。せやけど街道を行き来するよう人には必須のもんやから、銀貨50枚ってとこや。」
「安すぎないか?」
「よう見てみ、奥がくすんできてるやろ?これは効果が切れて来てる証拠やで。」
「だからその値段か。わかった、続けてくれ。」
そういう理由なら仕方がない。
俺も冒険者相手には売れにくいから持ってきたんだし、値段さえつけば正直構わない。
「ほんでこっちは生活魔法の魔導書やわ。」
「魔法が覚えられるのか?」
「そんなことあらへん、ただの教科書やな。生活魔法なんて非効率的なもの使うぐらいなら自分で掃除した方が早いから使う人なんておらへんよ。でも学者連中が欲しがるかもしれんから銀貨30枚なら買うたる。」
「わかった。」
異世界でおなじみの魔法が使えるようになるのかと思ったが・・・、そう上手くはいかないらしい。
「次はこれやけど・・・。なんでこんなもん持ってるんや?」
「出所は聞かない約束だろ?」
「せやけどこれは奴隷商人しか手に入れられへん代物やで?」
そう言いながら指でくるくると首輪を回しだした。
犬顔で首輪を持っている姿を見ていると昔飼っていた犬を思い出すな。
散歩に行きたくなると自分でハーネスを咥えて持って来たっけ。
『戒めの首輪。これを着けられた者は着けた者に反抗すると首輪が締まり失神させられる。主に奴隷の管理を目的として製造された品。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値が銀貨30枚、最高値銀貨88枚、最終取引日は29日前と記録されています。』
「蛇の道は蛇ってやつさ。」
「まぁええけどな、出所がわからへん品なんて世の中になんぼでもあるし。これに関しては色んな所で使えるから金貨1枚で買わせてもらいます。」
「随分高いんだな。」
「言ったやろ、色んな所で使えるて。」
そう言いながらホルトがにやりと笑う。
笑うと犬歯が見えるので何とも不気味な感じだな。
「後は使い道のあんま無い奴ばかりやから金貨1枚なら買うたりますわ。」
「・・・まぁいいか。」
「交渉成立やな、持ってくるから今度こそ大人しく待っとくんやで。」
しっかりとくぎを刺されてしまったので大人しく待つしかないな。
と言っても金を取りに行っただけだからすぐに戻って来たけど。
「ほな、金貨2枚と銀貨80枚や。」
「確かに。それじゃ残りのやつも・・・。」
金を受け取り残りを査定してもらうとしたその時だった。
「それなんやけどな、うちではもうアンタとの取引を遠慮させてもらいますわ。」
「・・なんだって?」
「言うた通りやこれ以降アンタから商品を買い取るのは止めさせてもらいます。」
さっきまでの気の抜けた感じ、ではなくかなり真剣な目で俺を見てくる。
「理由は?」
「わかるやろ、アンタは商品を持ち込み過ぎたんや。」
「つまり品を捌けないから他所に行けって言うんだな?何でも買い取るホルトの店の名が泣いてるぞ。」
「好きに言いなはれ、とにかくウチではもう買わんから買い取って欲しいんやったらベルナの店にでも持ち込むんでんな。」
それだけ言うと早く帰れと言う感じでシッシと追い払われてしまった。
これ以上は何を言っても無理そうだな。
何か言いたそうにしているエリザを抑えて一度店の外に出る。
外のカートにはまだ半分品が残っているわけだが・・・。
「なによなによ、前までは何でも買い取るって言ってたくせに!」
「まぁ落ち着け、向こうも噂になると覚悟して言ってきてるんだ。予定外ではあるが、気持ちはわかる。」
「何で?シロウは悔しくないの?」
「だいぶ不用品を押し付けてきたからな、流石に金銭的に苦しくなってきたんじゃないか?」
「私達からあれだけ搾り取ってるのに?」
「それ以上の金を吐き出させてきたからな、潮時だったんだろう。」
これまでにかなりの金額を買取させて来たし、ここいらが限界なんだろう。
しかし困ったな。
残りをベルナの店にもっていけば今回は何とかなるかもしれないが、これからの扱いに困る。
特に二カ月先に大量の品が送られてくることは確定しているんだし、それを処理できないと面倒なことになるぞ。
「どうするの?」
「とりあえず今回はベルナの店にお願いするよ。この先の事は・・・おいおい考えるさ。」
「大丈夫だって、シロウならなんとかするでしょ。」
「随分簡単に言うんだな。」
「だって今までもそうだったもん。」
今までは運が良かっただけ、で終わらせるわけにはいかなくなってきた。
目標まではまだまだ金が要る。
その為にも次の一手を考える必要が出てきたという事だろう。
「とりあえず行くか。」
「うん!」
何はともあれ、今は持ってきた品をどうにかしなければならない。
そう気持ちを切り替えるとカートを引いて(引かせて?)目の前のベルナの店に足を向けるのだった。
17
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる