20 / 1,027
20.転売屋は貴族とやり合う
しおりを挟む
頭上高く掲げられる剣。
手で頭を庇い目を閉じるおっちゃん。
「ちょっとまったぁぁぁ!」
そしてそこに大声を上げながら突っ込んでいく俺。
何でこんなことをしたかはマジでわからない。
どう考えても面倒なことになる、だが知り合いが死ぬのを見るのはさすがの俺でも我慢ならなかった。
「何だ貴様は!」
「なんだじゃねぇよ、どこの誰だか知らないが適当な事言って人を殺してもいいもんなのか!?」
「こいつは貴族に対して嘘を言ったのだ、殺す理由には十分だろう。」
「じゃあ何をもって嘘だって言うんだよ。このオッサンとは知り合ってまだ短いが、そんなことを言うような人じゃねぇよ。」
「こいつはこれをブリゴール産のチーズだと言って私に食べさせた、だが私がいつも食べてるそれとはまったく味が違う。それを嘘だと言って何が悪い。」
「馬鹿じゃねぇの、そんな事でこの人を殺そうとしたのかよ。」
理不尽な事でキレる客にはこれまで何度も出会ってきたが、流石にいきなり殺そうとしてくるやつはいなかった。
せいぜい殴り掛かってくるか、罵詈雑言ぶつけてくる程度だ。
そんなやつは勝手に仕入れてきた付け焼刃の知識をひけらかし、それを根拠にイチャモンを付けてくるものだが、どの世界にも同じような奴はいるんだなと呆れてしまう。
「貴様、誰に向かって馬鹿だといっているのかわかっているのか!?」
「生憎この街に来たのは最近で、アンタがどこの誰かは知らないが馬鹿という事だけはわかる。何が味が違うから嘘を言っているだ、これは正真正銘ブリゴール産のチーズだよ、鑑定スキルを持っている俺が証明してやる。」
「鑑定スキル?どうせそれもこいつを助ける為の嘘なのだろう?貴様らはすぐに嘘をつき我々から金をだまし取ろうとするからな、全く卑しいものだ。」
「あんたが信じるか信じないかは勝手だが、仮に本当だとして切り殺したとなったらそれこそ問題になるんじゃないのか?貴族は自分の身勝手で善良な平民を殺していい、そういう決まりでもあんのかよ。」
売り言葉に買い言葉だが、馬鹿には馬鹿だという自覚を持ってもらわなければならない。
正しい物を売って殺されるとか勘弁してくれ。
「では何故こんなにも味が違う。私がいつも食べるブリゴール産のチーズは酸っぱく味も淡白で固いのが特徴だ。だがこれはコクがあり舌触りも滑らかで真逆の物、同じ産地でこれほどの違いが出るはずがなかろう。それをどう証明するというのだ?」
何だこいつ、その程度の事で人を殺そうとしたのかよ。
騒ぎを聞きつけて周りに人が集まってきている。
貴族がどれだけ偉いか知らないが、この人達の前で大恥かかせてやるから覚悟しろよ!
「おっちゃん、いつものアレ教えてやれよ。なんでこのチーズがこんなにも旨くてコクがあるのかってな。」
俺がカットインしたことで少し落ち着いたのか背中に隠れるようにして怯えていたおっちゃんが顔だけ出して話し始める。
「恐れながら申し上げます。当店で扱っている品は素材から熟成場所熟成期間にもこだわって作っており、他のチーズとは仕上がりそのものが違うようになっております。牛にも上質の藁を食べさせていますし、放牧してよく運動もさせていますから乳に味がしっかりと出て、それを加工する際にも温度湿度を徹底して管理しています。以上の理由から味に違いが出ているのかと・・・。」
「同じ場所同じ所で作られながら味が違う?そんなバカな話があってたまるか。」
「いやいや、それがあるからおっちゃんのチーズは旨いんだよ。じゃあ聞くが、なんで同じ場所同じ樹から採れたワインの味が毎年違うんだ?」
「それはその年々で実の熟成が違うからであろう。仕込みの時期や手の加え方が違えば味も変わる、当然のことだ。」
「それなら何でチーズで同じことが起きていると理解できない。手を加えれば味は変わるのは当然の事なんだだろ?それを味が違うから偽物だというのは、ワインにも同じことを言うのか?」
「そ、それは・・・。」
自分の発言に矛盾が出来てしまいしどろもどろになってきた。
周りの視線も気になるのか下を向いてしまう。
そんな簡単な事も理解きないような奴に切り殺されたんじゃおっちゃんも浮かばれないってもんだ。
「それにだ、どこで手に入れたか知らないが今まで自分が食べてきたものが偽物だと何故思わない。」
「我が家に代々出入りする商人から買い付けているのだぞ!あやつがそのような事をするはずが・・・!」
「無いとは言い切れないよな。自分でそれを鑑定したのか?誰か別の人間に確認を取ったのか?代々出入りする商人から買ったからって偽物ではない保証なんてどこにもないはずだ。」
もちろんこれは可能性の話だ。
ただ単に味が違うだけかもしれないし、そうでないかもしれない。
でも今はそんな事よりも目の前の事実を証明する方が先決だ。
「鑑定スキルによって産地まで確定されているのにそれを違うと言い続けるのは子供と同じ。俺の言葉が信じられないのであれば他の鑑定持ちに聞いてみればいい、なぁこの中に鑑定スキルを持った人はいないか!?」
大きな声を出して周りに問いかけてみる。
だが相手が相手だけに中々声を上げてくれる人がいない。
それもまぁ仕方ないよな。
切り捨て御免で剣を抜くような相手に俺みたいに喧嘩を売る馬鹿はいないという事だ。
でもそれじゃあ困るんだが・・・。
「その役目、私では不足でしょうか。」
そんな中俺達を囲んでいた輪の外から声を上げてくれる人が出てきた。
モーゼの如く人混みが割れ、前に進んできたその人物に思わず目が丸くなる。
「・・・鑑定してくれるなら誰でも歓迎だ。」
「その紋章、ギルド職員か?」
「ギルド協会に所属しておりますシープと申します。失礼ながらお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「リングだ。」
「ではリング様どうぞよろしくお願い致します。」
人の間から現れたのは、まさかの人物だった。
何でこんな所に・・・いや、今は好都合か。
「ギルド協会の人間であれば嘘を言う事はあるまい。」
「この天秤に誓ってそのような事は致しません。状況は失礼ながら後ろから見せて頂いておりましたので把握しております、まさかこんな所でお会いするとは思いませんでしたよシロウさん。」
「見ていたなら話は早い、これを鑑定してくれ。」
おっちゃんの屋台からチーズを取り、シープさんに手渡す。
それを両手で持つと目を閉じ小さく俯いた。
「これはブリゴール産のチーズで間違いないようです。」
「なっ・・・!」
「まぁ、そうだろうな。」
「間違いないのか?」
「鑑定スキルは誰が使用しても真実しか写しません。もちろん伝える人間が嘘を言う事はございますが、彼は真実を述べていると証明いたします。」
さすが権力を持っている男の力は違うな。
どこの馬の骨だかわからない奴の言葉は信じられなくても、ギルド協会の言葉なら信じるってのは癪だが、世の中まぁそんなものだ。
現実を受け入れられず呆然とするお貴族様。
周りも貴族が間違っていたという現実にざわついている。
「で、どう落とし前を付けてくれるんだ?アンタは罪のない人間を切り殺そうとしたんだぞ。」
「シ、シロウさん俺は別に。」
「おっちゃんは黙ってな。」
また横から顔を出したおっちゃんを後ろに押し込む。
俺の一言にハッと顔を上げたそいつはものすごい目つきで俺を睨んできた。
だがそんな事でビビる俺じゃない。
相手がだれであれ分があるのはこっちだ。
間違いを認めたんだしこの流れで多少強気でいっても問題ない・・・はずだよな?
「シロウさん、流石に貴族の方を相手にその言葉遣いはまずいんじゃないかな。」
「正しい事を正しいと言うは公平ではないのか?身分により人の命が軽くみられることは不公平ではないのか?そして、その胸に描かれている天秤はそれを現したものじゃないのか?なぁシープさん。」
「確かにこの胸に描かれている天秤は不平等不公平を禁じる我が協会の誇りです。ですが・・・。」
「世の中にはそれを曲げられる口では言えない何かがあるって?そんなことは俺でもわかっているよ。これまでに何度、そんなんで理不尽な思いをしてきたか。だがな、それとこれとは話が違う。こっちは命っていう代えようの無い物を失いかけたんだぞ?それに関して詫び一つできないのは身分以前の問題だろ。」
間違ったことをしたら謝罪をする。
それはどの世界でも同じだと俺は思うがね。
「シープといったな、私をかばってくれた事に礼を言おう。だが、この男の言う通り私がしでかしたことは大きな間違いであった。店主、誤っていたのは私の方だどうか許してほしい。」
貴族・・・リングって野郎が一歩前に出て俺に向かって、いや俺の後ろに隠れるおっちゃんに向かって頭を下げる。
その行為に周りが大きくどよめいた。
「め、滅相もございません!お陰様でこの通り五体無事でございますし、味が違うのも作り方の違いかもしれません。どうか頭を上げてください!」
「殺そうとした私を許すというのか?」
「過ちは誰にでもございます、誰が貴方様を責められましょうか。」
平身低頭、被害者であるはずのおっちゃんが頭を下げているのは何とも言えないが、これがこの世界の常識なんだろう。
俺もたまたまお咎めがなかったものの、江戸時代宜しくいきなり切り捨てられてもおかしくない。
これからは気を付けたほうがいいだろう。
「お前にも迷惑をかけたな。商人の件についてはこちらでも確認をしておく、妄信的に信じていた私にも誤りがあろう。」
「別に、俺はおっちゃんを助けたかっただけだ。その、なんだ。今更なんだが言葉遣いについては許してくれ。」
「普通であれば切り捨ててもおかしくない状況だが、今日に関しては目を瞑ろう。名前は?」
「シロウだ。」
「覚えておくぞ。」
つい名乗ってしまったがこれは面倒な人に名前を覚えられたんじゃないだろうか。
でもシープも名前を知らなかったし、ここの貴族じゃないのか?
ってか、そもそも貴族が何でこんな所に居るんだよ。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ついでだ、答えてやろう。何が聞きたい?」
「なんでこんな所に来たんだ?俺もここに来てまだ一カ月程度だが、貴族が来ているのなんて初めて見たぞ。普通は向こうの商店に行くもんじゃないのか?」
俺の質問にどう答えるか悩んでいるそぶりを見せたが、そいつはすぐに顔を上げまっすぐに俺を見てこういった。
「クリムゾンティアというネックレスを探している。ある商人が手に入れこの街に来たところまでは突き止めたのだが、そこで途絶えてしまってな。私にはどうしてもそれが必要なのだ。」
突然出てきた名前に思わず心臓がドクンと鳴った。
まさかこれを探しているなんて・・・。
俺は胸元に感じるかすかな感触に意識を集中させ、次に何と言うべきか言葉を選び続けた。
手で頭を庇い目を閉じるおっちゃん。
「ちょっとまったぁぁぁ!」
そしてそこに大声を上げながら突っ込んでいく俺。
何でこんなことをしたかはマジでわからない。
どう考えても面倒なことになる、だが知り合いが死ぬのを見るのはさすがの俺でも我慢ならなかった。
「何だ貴様は!」
「なんだじゃねぇよ、どこの誰だか知らないが適当な事言って人を殺してもいいもんなのか!?」
「こいつは貴族に対して嘘を言ったのだ、殺す理由には十分だろう。」
「じゃあ何をもって嘘だって言うんだよ。このオッサンとは知り合ってまだ短いが、そんなことを言うような人じゃねぇよ。」
「こいつはこれをブリゴール産のチーズだと言って私に食べさせた、だが私がいつも食べてるそれとはまったく味が違う。それを嘘だと言って何が悪い。」
「馬鹿じゃねぇの、そんな事でこの人を殺そうとしたのかよ。」
理不尽な事でキレる客にはこれまで何度も出会ってきたが、流石にいきなり殺そうとしてくるやつはいなかった。
せいぜい殴り掛かってくるか、罵詈雑言ぶつけてくる程度だ。
そんなやつは勝手に仕入れてきた付け焼刃の知識をひけらかし、それを根拠にイチャモンを付けてくるものだが、どの世界にも同じような奴はいるんだなと呆れてしまう。
「貴様、誰に向かって馬鹿だといっているのかわかっているのか!?」
「生憎この街に来たのは最近で、アンタがどこの誰かは知らないが馬鹿という事だけはわかる。何が味が違うから嘘を言っているだ、これは正真正銘ブリゴール産のチーズだよ、鑑定スキルを持っている俺が証明してやる。」
「鑑定スキル?どうせそれもこいつを助ける為の嘘なのだろう?貴様らはすぐに嘘をつき我々から金をだまし取ろうとするからな、全く卑しいものだ。」
「あんたが信じるか信じないかは勝手だが、仮に本当だとして切り殺したとなったらそれこそ問題になるんじゃないのか?貴族は自分の身勝手で善良な平民を殺していい、そういう決まりでもあんのかよ。」
売り言葉に買い言葉だが、馬鹿には馬鹿だという自覚を持ってもらわなければならない。
正しい物を売って殺されるとか勘弁してくれ。
「では何故こんなにも味が違う。私がいつも食べるブリゴール産のチーズは酸っぱく味も淡白で固いのが特徴だ。だがこれはコクがあり舌触りも滑らかで真逆の物、同じ産地でこれほどの違いが出るはずがなかろう。それをどう証明するというのだ?」
何だこいつ、その程度の事で人を殺そうとしたのかよ。
騒ぎを聞きつけて周りに人が集まってきている。
貴族がどれだけ偉いか知らないが、この人達の前で大恥かかせてやるから覚悟しろよ!
「おっちゃん、いつものアレ教えてやれよ。なんでこのチーズがこんなにも旨くてコクがあるのかってな。」
俺がカットインしたことで少し落ち着いたのか背中に隠れるようにして怯えていたおっちゃんが顔だけ出して話し始める。
「恐れながら申し上げます。当店で扱っている品は素材から熟成場所熟成期間にもこだわって作っており、他のチーズとは仕上がりそのものが違うようになっております。牛にも上質の藁を食べさせていますし、放牧してよく運動もさせていますから乳に味がしっかりと出て、それを加工する際にも温度湿度を徹底して管理しています。以上の理由から味に違いが出ているのかと・・・。」
「同じ場所同じ所で作られながら味が違う?そんなバカな話があってたまるか。」
「いやいや、それがあるからおっちゃんのチーズは旨いんだよ。じゃあ聞くが、なんで同じ場所同じ樹から採れたワインの味が毎年違うんだ?」
「それはその年々で実の熟成が違うからであろう。仕込みの時期や手の加え方が違えば味も変わる、当然のことだ。」
「それなら何でチーズで同じことが起きていると理解できない。手を加えれば味は変わるのは当然の事なんだだろ?それを味が違うから偽物だというのは、ワインにも同じことを言うのか?」
「そ、それは・・・。」
自分の発言に矛盾が出来てしまいしどろもどろになってきた。
周りの視線も気になるのか下を向いてしまう。
そんな簡単な事も理解きないような奴に切り殺されたんじゃおっちゃんも浮かばれないってもんだ。
「それにだ、どこで手に入れたか知らないが今まで自分が食べてきたものが偽物だと何故思わない。」
「我が家に代々出入りする商人から買い付けているのだぞ!あやつがそのような事をするはずが・・・!」
「無いとは言い切れないよな。自分でそれを鑑定したのか?誰か別の人間に確認を取ったのか?代々出入りする商人から買ったからって偽物ではない保証なんてどこにもないはずだ。」
もちろんこれは可能性の話だ。
ただ単に味が違うだけかもしれないし、そうでないかもしれない。
でも今はそんな事よりも目の前の事実を証明する方が先決だ。
「鑑定スキルによって産地まで確定されているのにそれを違うと言い続けるのは子供と同じ。俺の言葉が信じられないのであれば他の鑑定持ちに聞いてみればいい、なぁこの中に鑑定スキルを持った人はいないか!?」
大きな声を出して周りに問いかけてみる。
だが相手が相手だけに中々声を上げてくれる人がいない。
それもまぁ仕方ないよな。
切り捨て御免で剣を抜くような相手に俺みたいに喧嘩を売る馬鹿はいないという事だ。
でもそれじゃあ困るんだが・・・。
「その役目、私では不足でしょうか。」
そんな中俺達を囲んでいた輪の外から声を上げてくれる人が出てきた。
モーゼの如く人混みが割れ、前に進んできたその人物に思わず目が丸くなる。
「・・・鑑定してくれるなら誰でも歓迎だ。」
「その紋章、ギルド職員か?」
「ギルド協会に所属しておりますシープと申します。失礼ながらお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「リングだ。」
「ではリング様どうぞよろしくお願い致します。」
人の間から現れたのは、まさかの人物だった。
何でこんな所に・・・いや、今は好都合か。
「ギルド協会の人間であれば嘘を言う事はあるまい。」
「この天秤に誓ってそのような事は致しません。状況は失礼ながら後ろから見せて頂いておりましたので把握しております、まさかこんな所でお会いするとは思いませんでしたよシロウさん。」
「見ていたなら話は早い、これを鑑定してくれ。」
おっちゃんの屋台からチーズを取り、シープさんに手渡す。
それを両手で持つと目を閉じ小さく俯いた。
「これはブリゴール産のチーズで間違いないようです。」
「なっ・・・!」
「まぁ、そうだろうな。」
「間違いないのか?」
「鑑定スキルは誰が使用しても真実しか写しません。もちろん伝える人間が嘘を言う事はございますが、彼は真実を述べていると証明いたします。」
さすが権力を持っている男の力は違うな。
どこの馬の骨だかわからない奴の言葉は信じられなくても、ギルド協会の言葉なら信じるってのは癪だが、世の中まぁそんなものだ。
現実を受け入れられず呆然とするお貴族様。
周りも貴族が間違っていたという現実にざわついている。
「で、どう落とし前を付けてくれるんだ?アンタは罪のない人間を切り殺そうとしたんだぞ。」
「シ、シロウさん俺は別に。」
「おっちゃんは黙ってな。」
また横から顔を出したおっちゃんを後ろに押し込む。
俺の一言にハッと顔を上げたそいつはものすごい目つきで俺を睨んできた。
だがそんな事でビビる俺じゃない。
相手がだれであれ分があるのはこっちだ。
間違いを認めたんだしこの流れで多少強気でいっても問題ない・・・はずだよな?
「シロウさん、流石に貴族の方を相手にその言葉遣いはまずいんじゃないかな。」
「正しい事を正しいと言うは公平ではないのか?身分により人の命が軽くみられることは不公平ではないのか?そして、その胸に描かれている天秤はそれを現したものじゃないのか?なぁシープさん。」
「確かにこの胸に描かれている天秤は不平等不公平を禁じる我が協会の誇りです。ですが・・・。」
「世の中にはそれを曲げられる口では言えない何かがあるって?そんなことは俺でもわかっているよ。これまでに何度、そんなんで理不尽な思いをしてきたか。だがな、それとこれとは話が違う。こっちは命っていう代えようの無い物を失いかけたんだぞ?それに関して詫び一つできないのは身分以前の問題だろ。」
間違ったことをしたら謝罪をする。
それはどの世界でも同じだと俺は思うがね。
「シープといったな、私をかばってくれた事に礼を言おう。だが、この男の言う通り私がしでかしたことは大きな間違いであった。店主、誤っていたのは私の方だどうか許してほしい。」
貴族・・・リングって野郎が一歩前に出て俺に向かって、いや俺の後ろに隠れるおっちゃんに向かって頭を下げる。
その行為に周りが大きくどよめいた。
「め、滅相もございません!お陰様でこの通り五体無事でございますし、味が違うのも作り方の違いかもしれません。どうか頭を上げてください!」
「殺そうとした私を許すというのか?」
「過ちは誰にでもございます、誰が貴方様を責められましょうか。」
平身低頭、被害者であるはずのおっちゃんが頭を下げているのは何とも言えないが、これがこの世界の常識なんだろう。
俺もたまたまお咎めがなかったものの、江戸時代宜しくいきなり切り捨てられてもおかしくない。
これからは気を付けたほうがいいだろう。
「お前にも迷惑をかけたな。商人の件についてはこちらでも確認をしておく、妄信的に信じていた私にも誤りがあろう。」
「別に、俺はおっちゃんを助けたかっただけだ。その、なんだ。今更なんだが言葉遣いについては許してくれ。」
「普通であれば切り捨ててもおかしくない状況だが、今日に関しては目を瞑ろう。名前は?」
「シロウだ。」
「覚えておくぞ。」
つい名乗ってしまったがこれは面倒な人に名前を覚えられたんじゃないだろうか。
でもシープも名前を知らなかったし、ここの貴族じゃないのか?
ってか、そもそも貴族が何でこんな所に居るんだよ。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ついでだ、答えてやろう。何が聞きたい?」
「なんでこんな所に来たんだ?俺もここに来てまだ一カ月程度だが、貴族が来ているのなんて初めて見たぞ。普通は向こうの商店に行くもんじゃないのか?」
俺の質問にどう答えるか悩んでいるそぶりを見せたが、そいつはすぐに顔を上げまっすぐに俺を見てこういった。
「クリムゾンティアというネックレスを探している。ある商人が手に入れこの街に来たところまでは突き止めたのだが、そこで途絶えてしまってな。私にはどうしてもそれが必要なのだ。」
突然出てきた名前に思わず心臓がドクンと鳴った。
まさかこれを探しているなんて・・・。
俺は胸元に感じるかすかな感触に意識を集中させ、次に何と言うべきか言葉を選び続けた。
20
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる