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19.転売屋はトラブルに巻き込まれる
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この世界に来て一か月が経った。
草原のど真ん中に放置され、魔物に追い回された時はどうなる事かと思ったが案外どうにかなる物だ。
都合よく会話も出来るし、文字も読める。
食べ物も体に合うってのが最高だな。
国が変われば水も変わる、それで何度大変な目に合ってきたか。
それだけでなく、この世界でも転売屋としてやっていけたのがデカい。
ローリスクハイリターンで食うに困らず、安全に稼ぐことが出来ている。
それも全てこの『鑑定』と『相場』のスキルがあったからだ。
いやー、どこの誰だか知らないが見た目も中身も若返って有難いことこの上ない。
よく元の世界に戻りたいとか漫画では言っていたけど、そんな気は一切ないね。
どうせ戻ってもテンバイヤーと蔑まれるだけ。
それどころか歩道橋の上から落とされた後だろう。
そんな世界に戻るなんてまっぴらごめんだね。
「よぉ、起きたか。」
「おはようマスター。」
「あ、シロウおはよう!いつものでいい?」
「あぁ頼む。」
借りている自室を下りれば気のいい店主と店員が迎えてくれる。
用意される飯も上手い。
当分困らないぐらいの金はある。
最低でもあと一年はこの宿で同じサービスを受け続けることが出来るぐらいにだ。
そんな素敵な状況でこれ以上何を望むんだって?
決まってる、金だよ。
金さえあれば何でもできる、やればできるさ!
って偉い人も言っているじゃないか。
そう、世の中金が全てだ。
それさえあれば、大抵のことは出来るし、何なら人の命だって買える。
この世界はそういう場所なのさ。
「ちょっとシロウ、その顔はまずいんじゃないかな。」
「なんだエリザか。」
美味しい朝食を終え、マスターの入れた香茶を楽しむ時間を邪魔をしてくる影が一つ。
カップを置き俺は大きなため息をついた。
「なんだじゃないわよ、朝からそんな変な顔してどうせろくでもない事を考えてたんでしょ。」
「随分な言い方だな。」
「ねぇ、当ててあげましょうか。」
「いいね当ててみろよ。」
ドヤ顔で俺が何を考えていたかを当て始めたんだが、俺はどうすればいいんだ?
「ズバリお金でしょ?」
「あぁ、半分は正解だよ。」
「え~半分だけ?じゃあ残りの半分は?」
「お前の事だよ。」
「え、嘘!やだぁ、やめてよ朝からそんな。」
何をくねくねしてるんだこの筋肉女は。
やり取りだけ聞けばいい感じの女に聞こえるかもしれないが、中身は筋金入りの脳筋女だぞ。
抱き心地はいいから、顔を見るとつい思い出してしまうんだよな。
「なに発情してんだよ、夜まで我慢しろ。」
「発情なんてしてないから!」
「声がデカいんだよ、飲み屋ならまだしもまだ朝だぞ。」
「だってシロウがそんなこと言うから・・・。」
まったく、最近の若いもんはと昔の俺なら言ったかもしれないな。
だが今の俺はそんなことは言わない。
なんならお望み通り部屋に戻って一発やってもいい。
だが、世間体を考えるとそういうわけにもいかないので後で尻を揉むぐらいにしておいてやろう。
「で、今日はどうしたんだ?」
「力の指輪ってまだ在庫してたよね?」
「あぁ、ダンにもいったが金が無いって断られたからな。」
「買うわ。」
「昨日は防具を買うって話じゃなかったのか?」
「予定していたやつが売れちゃったのよ。だからある物を買っておこうと思って。」
お、朝から良い物が売れたぞ。
買ったのがエリザってのはあれだが、元々狙っていたものみたいだし誰が買おうが売上は売り上げだ。
この一か月、予定よりもいいペースで金が溜まっている。
これでおそらく金貨40枚。
仕入れで減るだろうけど、予定よりも金貨10枚多い計算だ。
この分だと半年以内に目標の金貨200枚は達成できそうだな。
「殊勝な心掛けだな、待ってろ今持ってくる。」
香茶を飲み干し自室へ戻る。
えーっと確かこの辺に・・・っと。
今日は仕入れの予定だしその分の金も持っていくとしよう。
例の場所から金貨を4枚ほど取り出し仕入れ用の革袋に入れ替える。
財布を使い分けている感じだが、銀行の無いこの世界ではこうするしか自衛する方法が無い。
落とす可能性もスられる可能性も否定できないからな、
「お待たせ、ほら力の指輪だ。」
「あー、やっと返って来たぁ。」
「いや、それはお前のやつじゃないから。」
「わかってるわよ。でも今日から私の物でしょ?」
「金払ったらな。」
指輪をエリザの方に転がし代わりにトントンと机を叩いて代金を要求する。
「もぅ、ムード無いなぁ。」
しぶしぶといった感じでエリザが転がした金貨が俺の手のひらにすっぽりと収まった。
毎度あり。
「あと何が残ってるんだ?」
「後は鎧と武器かな。」
「一番でかいやつが残ったか。」
「あーあ、昨日見つけたの絶対に良いやつだったのに、もったいないなぁ。」
「そういうのは縁だからな。代わりに見つけにくい力の指輪が手に入ったんだ、良いじゃないか。」
「まぁそうなんだけどね。」
納得いかない様子のエリザだったが、鎧購入に待ったをかけたのは何を隠そうこの俺だ。
確かに品は悪くなかった。
中々見ない品だし、状態もいい。
だけど効果がなぁ・・・。
『ランドドラゴンのハーフアーマー。ランドドラゴンの革で作られた逸品、適度な軽さでありながら鋼よりも固い強度を持つ。加重の効果が付与されている。最近の平均取引価格は金貨1枚と銀貨45枚、最安値が金貨1枚、最高値金貨2枚と銀貨35枚、最終取引日は420日前と記録されています。』
ランドドラゴン。
名前の通りドラゴンの一種だが空を飛ぶことは出来ない。
代わりに巨体ながらかなりの速度で移動できる、コモドドラゴンのデカい奴・・・らしい。
ドラゴンって爬虫類の仲間だもんな、トカゲもまぁ近種になるんだろう。
図体がデカいだけあって革も固く、でも鉱石よりかは軽いので中堅クラスに重宝される素材らしい。
だがその良さを打ち消す効果が、この『加重』だ。
通常よりも重たく感じる代わりに硬度が上がるそうだが、それではせっかく軽い革を使う意味が無くなってしまう。
重たいのであれば鉱石系、隕鉄クラスの装備を付ける方がより頑丈らしい。
脳筋のエリザは名前と値段で飛びついたが、俺が鑑定でそれを見抜き断念させた。
相場スキルで見ても約一年以上(この世界だと半年ちょっとだが)売れていないことを考えるとかなり値引きをしていることが想像できる。
だってこれだけの品が金貨1枚を切って銀貨95枚で売られているとか、普通じゃ考えられない。
売っているのが冒険者だったら良い装備が手に入ったからいくらでもいい、そんな感じかもしれないが、今回の売主はだいぶ肥えたオッサンだった。
流石にあの体で鎧を身に着けていたって事はないだろう。
大方安値で買い叩いたか、高値で売りつけられたか。
どちらにせよいい品ではないのは間違いないので見送りだ。
それが不満だったんだろう、昨日は俺の部屋に泊まりに来ることはなかった。
これだから女ってやつは。
「今日はどうするんだ?」
「シロウがお店開かないんじゃ稼ぐことも出来ないし、大人しくダンジョンにでも行こうかなぁ。」
「ダンジョンに?」
「力の指輪もあるし、低層だったらギルドで借りた装備で何とかなるから。薬草でも集めて小銭稼いでくる。」
初心者が聞いたら目を丸くするような内容だが、それが出来てしまうんだよこの脳筋娘は。
昨日までと違って今日は力の指輪も装備するから、低層であればほぼ敵なしだろう。
もしもはないと思っている。
今死なれたら借金がまるまる戻ってこないからな、その辺はこいつもわかっているはずだ。
「ほどほどにな。」
「わかってるわよ。」
「エリザさん、お弁当いります?」
「いるいる!おねがいしまーす!」
「おいおい、昨日泊まってないだろ?」
「シロウの分持っていくもん。」
おい、なんで俺の昼飯をお前が持っていくんだよ。
そうツッコム前にマスターが弁当を手渡し、あっという間にエリザは出て行ってしまった。
俺の昼飯・・・。
飯の恨みは怖いんだからな。
「と、いうわけだから昼飯は自分で何とかしてくれ。」
「夕食は大盛にしといてくれよ。」
「いってらっしゃ~い!」
二人に見送られて俺も宿を出る。
一年は働かなくてもいいとはいえ、仕事をしないと先はない。
それにサボるというのが昔から苦手だ。
何もしないなら何かしていた方がいい、貧乏性な性格は体が若返っても変わることはなかった。
「さて、今日も頑張りますかね。」
仕入れ先はいつもの露店。
たまに猫娘に掘り出し物を探しに行くが、そこは向こうもプロ、あまりいい品は見つけられない。
それでも時々はあるので仕入れが悪ければ考えよう。
通いなれた道をのんびりと歩き、市場へと向かう。
なじみの店を冷かしながら新規の出店者を探すのがいつものやり方だ。
一度でも行った店は品が変わってないし、それに過去手に取った商品は相場スキルで把握できる。
マジで便利だわ、これ。
今日は新規出店の店は少ないようで、常連ばかりが店を開けている。
ふむ、早めにベルナの店に行くべきかもしれないな。
そんなことを考えながら市場を歩いていた、その時だった。
「何だこれは!このような紛い物、よくも私に売りつけおったな!」
「そんな!間違いはありません!決して騙すようなつもりは!」
「問答無用!」
五件程先の店で何かトラブルがあったようだ。
男、いや子供?
ともかくそいつが店主に向かって怒鳴った後・・・嘘だろ剣を抜きやがった!
少し聞こえた感じでは偽物をつかまされたことに激高した感じだけど、鑑定持ちなのか?
剣を抜いた瞬間に周りの店主が悲鳴を上げて逃げ出している。
あのまま振り下ろされれば間違いなく店主は死ぬだろう。
せっかくいい気分で買い物してたのに、目の前で殺人とかマジ勘弁してくれ。
って、よく見たら保存食屋のおっちゃんじゃねぇか!
それが分かった瞬間、全く関係ないはずの俺は駆けだしていた。
草原のど真ん中に放置され、魔物に追い回された時はどうなる事かと思ったが案外どうにかなる物だ。
都合よく会話も出来るし、文字も読める。
食べ物も体に合うってのが最高だな。
国が変われば水も変わる、それで何度大変な目に合ってきたか。
それだけでなく、この世界でも転売屋としてやっていけたのがデカい。
ローリスクハイリターンで食うに困らず、安全に稼ぐことが出来ている。
それも全てこの『鑑定』と『相場』のスキルがあったからだ。
いやー、どこの誰だか知らないが見た目も中身も若返って有難いことこの上ない。
よく元の世界に戻りたいとか漫画では言っていたけど、そんな気は一切ないね。
どうせ戻ってもテンバイヤーと蔑まれるだけ。
それどころか歩道橋の上から落とされた後だろう。
そんな世界に戻るなんてまっぴらごめんだね。
「よぉ、起きたか。」
「おはようマスター。」
「あ、シロウおはよう!いつものでいい?」
「あぁ頼む。」
借りている自室を下りれば気のいい店主と店員が迎えてくれる。
用意される飯も上手い。
当分困らないぐらいの金はある。
最低でもあと一年はこの宿で同じサービスを受け続けることが出来るぐらいにだ。
そんな素敵な状況でこれ以上何を望むんだって?
決まってる、金だよ。
金さえあれば何でもできる、やればできるさ!
って偉い人も言っているじゃないか。
そう、世の中金が全てだ。
それさえあれば、大抵のことは出来るし、何なら人の命だって買える。
この世界はそういう場所なのさ。
「ちょっとシロウ、その顔はまずいんじゃないかな。」
「なんだエリザか。」
美味しい朝食を終え、マスターの入れた香茶を楽しむ時間を邪魔をしてくる影が一つ。
カップを置き俺は大きなため息をついた。
「なんだじゃないわよ、朝からそんな変な顔してどうせろくでもない事を考えてたんでしょ。」
「随分な言い方だな。」
「ねぇ、当ててあげましょうか。」
「いいね当ててみろよ。」
ドヤ顔で俺が何を考えていたかを当て始めたんだが、俺はどうすればいいんだ?
「ズバリお金でしょ?」
「あぁ、半分は正解だよ。」
「え~半分だけ?じゃあ残りの半分は?」
「お前の事だよ。」
「え、嘘!やだぁ、やめてよ朝からそんな。」
何をくねくねしてるんだこの筋肉女は。
やり取りだけ聞けばいい感じの女に聞こえるかもしれないが、中身は筋金入りの脳筋女だぞ。
抱き心地はいいから、顔を見るとつい思い出してしまうんだよな。
「なに発情してんだよ、夜まで我慢しろ。」
「発情なんてしてないから!」
「声がデカいんだよ、飲み屋ならまだしもまだ朝だぞ。」
「だってシロウがそんなこと言うから・・・。」
まったく、最近の若いもんはと昔の俺なら言ったかもしれないな。
だが今の俺はそんなことは言わない。
なんならお望み通り部屋に戻って一発やってもいい。
だが、世間体を考えるとそういうわけにもいかないので後で尻を揉むぐらいにしておいてやろう。
「で、今日はどうしたんだ?」
「力の指輪ってまだ在庫してたよね?」
「あぁ、ダンにもいったが金が無いって断られたからな。」
「買うわ。」
「昨日は防具を買うって話じゃなかったのか?」
「予定していたやつが売れちゃったのよ。だからある物を買っておこうと思って。」
お、朝から良い物が売れたぞ。
買ったのがエリザってのはあれだが、元々狙っていたものみたいだし誰が買おうが売上は売り上げだ。
この一か月、予定よりもいいペースで金が溜まっている。
これでおそらく金貨40枚。
仕入れで減るだろうけど、予定よりも金貨10枚多い計算だ。
この分だと半年以内に目標の金貨200枚は達成できそうだな。
「殊勝な心掛けだな、待ってろ今持ってくる。」
香茶を飲み干し自室へ戻る。
えーっと確かこの辺に・・・っと。
今日は仕入れの予定だしその分の金も持っていくとしよう。
例の場所から金貨を4枚ほど取り出し仕入れ用の革袋に入れ替える。
財布を使い分けている感じだが、銀行の無いこの世界ではこうするしか自衛する方法が無い。
落とす可能性もスられる可能性も否定できないからな、
「お待たせ、ほら力の指輪だ。」
「あー、やっと返って来たぁ。」
「いや、それはお前のやつじゃないから。」
「わかってるわよ。でも今日から私の物でしょ?」
「金払ったらな。」
指輪をエリザの方に転がし代わりにトントンと机を叩いて代金を要求する。
「もぅ、ムード無いなぁ。」
しぶしぶといった感じでエリザが転がした金貨が俺の手のひらにすっぽりと収まった。
毎度あり。
「あと何が残ってるんだ?」
「後は鎧と武器かな。」
「一番でかいやつが残ったか。」
「あーあ、昨日見つけたの絶対に良いやつだったのに、もったいないなぁ。」
「そういうのは縁だからな。代わりに見つけにくい力の指輪が手に入ったんだ、良いじゃないか。」
「まぁそうなんだけどね。」
納得いかない様子のエリザだったが、鎧購入に待ったをかけたのは何を隠そうこの俺だ。
確かに品は悪くなかった。
中々見ない品だし、状態もいい。
だけど効果がなぁ・・・。
『ランドドラゴンのハーフアーマー。ランドドラゴンの革で作られた逸品、適度な軽さでありながら鋼よりも固い強度を持つ。加重の効果が付与されている。最近の平均取引価格は金貨1枚と銀貨45枚、最安値が金貨1枚、最高値金貨2枚と銀貨35枚、最終取引日は420日前と記録されています。』
ランドドラゴン。
名前の通りドラゴンの一種だが空を飛ぶことは出来ない。
代わりに巨体ながらかなりの速度で移動できる、コモドドラゴンのデカい奴・・・らしい。
ドラゴンって爬虫類の仲間だもんな、トカゲもまぁ近種になるんだろう。
図体がデカいだけあって革も固く、でも鉱石よりかは軽いので中堅クラスに重宝される素材らしい。
だがその良さを打ち消す効果が、この『加重』だ。
通常よりも重たく感じる代わりに硬度が上がるそうだが、それではせっかく軽い革を使う意味が無くなってしまう。
重たいのであれば鉱石系、隕鉄クラスの装備を付ける方がより頑丈らしい。
脳筋のエリザは名前と値段で飛びついたが、俺が鑑定でそれを見抜き断念させた。
相場スキルで見ても約一年以上(この世界だと半年ちょっとだが)売れていないことを考えるとかなり値引きをしていることが想像できる。
だってこれだけの品が金貨1枚を切って銀貨95枚で売られているとか、普通じゃ考えられない。
売っているのが冒険者だったら良い装備が手に入ったからいくらでもいい、そんな感じかもしれないが、今回の売主はだいぶ肥えたオッサンだった。
流石にあの体で鎧を身に着けていたって事はないだろう。
大方安値で買い叩いたか、高値で売りつけられたか。
どちらにせよいい品ではないのは間違いないので見送りだ。
それが不満だったんだろう、昨日は俺の部屋に泊まりに来ることはなかった。
これだから女ってやつは。
「今日はどうするんだ?」
「シロウがお店開かないんじゃ稼ぐことも出来ないし、大人しくダンジョンにでも行こうかなぁ。」
「ダンジョンに?」
「力の指輪もあるし、低層だったらギルドで借りた装備で何とかなるから。薬草でも集めて小銭稼いでくる。」
初心者が聞いたら目を丸くするような内容だが、それが出来てしまうんだよこの脳筋娘は。
昨日までと違って今日は力の指輪も装備するから、低層であればほぼ敵なしだろう。
もしもはないと思っている。
今死なれたら借金がまるまる戻ってこないからな、その辺はこいつもわかっているはずだ。
「ほどほどにな。」
「わかってるわよ。」
「エリザさん、お弁当いります?」
「いるいる!おねがいしまーす!」
「おいおい、昨日泊まってないだろ?」
「シロウの分持っていくもん。」
おい、なんで俺の昼飯をお前が持っていくんだよ。
そうツッコム前にマスターが弁当を手渡し、あっという間にエリザは出て行ってしまった。
俺の昼飯・・・。
飯の恨みは怖いんだからな。
「と、いうわけだから昼飯は自分で何とかしてくれ。」
「夕食は大盛にしといてくれよ。」
「いってらっしゃ~い!」
二人に見送られて俺も宿を出る。
一年は働かなくてもいいとはいえ、仕事をしないと先はない。
それにサボるというのが昔から苦手だ。
何もしないなら何かしていた方がいい、貧乏性な性格は体が若返っても変わることはなかった。
「さて、今日も頑張りますかね。」
仕入れ先はいつもの露店。
たまに猫娘に掘り出し物を探しに行くが、そこは向こうもプロ、あまりいい品は見つけられない。
それでも時々はあるので仕入れが悪ければ考えよう。
通いなれた道をのんびりと歩き、市場へと向かう。
なじみの店を冷かしながら新規の出店者を探すのがいつものやり方だ。
一度でも行った店は品が変わってないし、それに過去手に取った商品は相場スキルで把握できる。
マジで便利だわ、これ。
今日は新規出店の店は少ないようで、常連ばかりが店を開けている。
ふむ、早めにベルナの店に行くべきかもしれないな。
そんなことを考えながら市場を歩いていた、その時だった。
「何だこれは!このような紛い物、よくも私に売りつけおったな!」
「そんな!間違いはありません!決して騙すようなつもりは!」
「問答無用!」
五件程先の店で何かトラブルがあったようだ。
男、いや子供?
ともかくそいつが店主に向かって怒鳴った後・・・嘘だろ剣を抜きやがった!
少し聞こえた感じでは偽物をつかまされたことに激高した感じだけど、鑑定持ちなのか?
剣を抜いた瞬間に周りの店主が悲鳴を上げて逃げ出している。
あのまま振り下ろされれば間違いなく店主は死ぬだろう。
せっかくいい気分で買い物してたのに、目の前で殺人とかマジ勘弁してくれ。
って、よく見たら保存食屋のおっちゃんじゃねぇか!
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