上 下
7 / 1,027

7.転売屋はセドリを考える

しおりを挟む
「あれ、今日は出かけないの?」

「あぁ仕事が無くなったんでね。」

「えぇ!大変じゃない!」

「来月分は稼いだからよしとするさ。」

「え、まだ二日よね?」

「そうだな。まぁ時間はあるしのんびりやるさ。」

出かけずにのんびりと朝食を摂っているとリンカが話しかけてきた。

ちなみに呼び捨てなのは年下だとわかったからだ。

もちろん、元の年齢ではなくの年齢に換算しての話だが。

18でその幼さは犯罪だろと最初は思ったものだが、何でもホビルトという種族は子供ぐらいの大きさにしか成長しないらしい。

そういうのが好みの人間が聞いたら狂喜乱舞しそうだが、有難い事に俺にその趣味は無い。

信じられないといった顔でリンカが裏に戻ったかと思うと、今度はマスターがポットを持ってやってきた。

「大変な目に遭ったみたいだな。」

「マスターにも迷惑をかけたな。」

「なに、こういう商売してたらよくある話だ、気にしてない。もう一杯飲むか?」

「頂くよ。」

紅茶のようなその飲み物はこの世界では香茶と言うらしい。

茶葉を蒸して作っているらしいから同じような物だろう。

「それで、これからどうするんだ?」

「まだ二日だからな、また新しい商売を考えるさ。」

「うちとしては長い事いてくれた方がありがたい、応援してるぞ。」

「せいぜい追い出されない程度に頑張るさ。」

幸いこの二日で稼いだ金を合わせるとこの世界に来たのと同じぐらいの金額は戻ってきた。

それに加えて力の指輪なんて物も手元にある。

これを売ればもうしばらくは安泰だろう。

「マスター、この街に買い取りをやっている店はあるのか?」

「質屋か?」

「いや、買い取りだ。別にそれでも構わないんだが買い取りを主にしている店だな。」

「そうだな、二軒ほどあるがどちらも質がメインだ。わざわざ格安で商品を流すぐらいなら自分で売るのが商売ってもんだろ?」

マスターの言うように自分で売ればまるまる利益が出るんだからわざわざ買い取りに出す必要はない。

でもそれは商人の考えであって、ここに大勢いる冒険者はそうじゃないだろう。

出来るなら早く現金に変えたい、そう考えている奴も少なからずいるはずだ。

そういったやつらは質屋にもっていって流したりしているんだろうが、貸出利息で稼ぐ商売だけに買い取りになると買いたたかれているんだろうなぁ。

「お前が何をしようとしているかはわからないが、質屋に手を出すのだけはやめとけよ。」

「そもそも質入れするものがねぇよ。」

「その体があるだろ、若いだけに買手はすぐつくんじゃないか?」

「やめてくれ、そっちの趣味は無いんだ。」

「そりゃよかった、俺もだ。」

そんな話をしてくるもんだからてっきりそっちの趣味でもあるのかと思ったが、安心した。

自分を質入れするなんざ最後の最後、いや、最後でもその選択肢はないな。

「ちなみに自分を売ったやつはどうなるんだ?」

「奴隷に落とされておしまいさ。」

「おぉこわ、そうならないように祈っておくよ。」

「行くのか?」

「あぁ、今日は下見だから昼には戻る。」

とりあえずは情報収集だ。

鑑定スキルも相場スキルも手に取ったものにしか反応しないからな、出来るだけ多くの品に触れて確認しておきたい。

何が高くて何が安いのか。

その辺がわかれば何か思いつくだろ。

飲み干した二杯目の香茶はポットの中で濃くなったのか少し苦い味がした。


「よぉ、シロウじゃねぇか!」

「ダン!どこに行くんだ?」

と、市場に向かう途中にダンとばったり出くわした。

同じ宿に泊まっているんだから出会いそうなものだが、この二日は朝一で出ていたから出会わなかったんだろう。

「これからちょっとダンジョンにな。」

「後ろにいるのは仲間か?」

「あぁ、即席のメンバーだが問題ない。今日はそんなに深く潜らないつもりだ。」

ダンの後ろには同じく冒険者らしき格好をした三人がだるそうな顔でこちらを見ていた。

「なぁ、ダンジョンに行って何をするんだ?」

「今回は討伐依頼をこなすつもりだ。規定数狩ればギルドから金が出るし、素材も買い取ってもらえる。運が良ければ宝箱から何か出てくるだろ。」

クエストってやつだな。

ゲームの中じゃよくやったが、現実でやるのはごめんだ。

「へぇ、珍しい物も出るのか?」

「大抵ゴミだが、属性付きの武器や能力上昇系の装具が見つかればデカい。」

「力の指輪とかか?」

「いいねぇ、そんなのが出ればこの人数で割っても当分遊べる。自分で買うには高いからなぁ。」

なるほど、欲しいけど手に入らないか。

まぁ普通はそうなるよな。

個人で扱うには金額がデカすぎる。

なんせ100日分の宿泊代と同じだ、よっぽど余裕が無いと買うのは難しいわけだ。

「せいぜい気を付けろよ。」

「まかせとけって!」

張り切ってダンジョンに向かったダンと別れてのんびりと市場へ向かう。

一応管理組合に顔を出すといつものおばさんが心配してくれたので、礼だけ言っておいた。

またお世話になるしこういった気配りは後々役に立つ。

「ほんじゃま始めますかね。」

何が何かわからないのでとりあえず片っ端から手に触れていく。

よう大将これはなんだい?

これは○○だぜ。

そんなやり取りを延々と繰り返し半分回る頃にはもう昼になっていた。

一度宿に戻って食事を済ませ再び市場に戻り今度は反対側から回っていく。

残る半分も回り終えた時、俺はある事に気が付いた。

値段設定がバラバラ過ぎる。

同じ商品でも高いものと安いものでひどい時は二倍以上の差がついている。

あぁもちろん固定価格があるやつは別だが、そうじゃない奴は落差が激しい。

これに関してはこの間力の指輪を手に入れた時に気づいていたが、今日改めて見て回るとその疑問は確信に変わった。

『鑑定スキルでは相場はわからない』と、いう事だ。

話をしながら何人か鑑定スキル持ちの店主に出会ったので、このスキル自体は珍しいものではないんだろう。

だが全員が全員持っているわけではないので鑑定スキルの無い店主程適当な値段設定をしていることが多い。

それどころか鑑定スキルを持っていても相場と値段に差があるケースもあった。

物がわかっても価値がわからなければただのゴミ。

質屋にもっていって買いたたかれるなら自分で売ろうという考えの人が多いのかもしれないが、それは俺にとって非常にチャンスだ。

俺には相場スキルがある。

これと鑑定を駆使すればレア品を見つけることもそれが高いか安いかも見破ることが出来るわけだ。

つまり『セドリ』と呼ばれる手法が使えるわけだな。

あれだよ、古本屋とかリサイクルショップで珍しい品を見つけて、正しい所に売りに行って利益を出すやり方だ。

ネットが普及して物の価値がすぐわかる世の中になっても、知らない人は知らないし調べない人は調べない。

店側も商品すべての価値を把握しているわけではないので、ごくまれにそういったお宝が眠っていることがある。

ようは宝探しだ。

この市場にはそのお宝がゴロゴロ眠っていて、そして俺はそれをリアルタイムで把握できる。

もしこのスキルを元の世界に持って帰れたのなら俺は数年で億万長者になれるだろう。

骨董品なんかの真贋だって一目でわかるんだぜ?

最高じゃないか!

「と、いう事で当分はセドリで食っていくとしよう。」

そうと決まれば早速行動開始だ。

狙い目は小さくて利益率の高い物。

もしくは冒険者が利用しそうなやつがいいだろう。

それを狙ってもう一度市場を回り幾つかいい感じのものを発見できた。

例えば・・・。

『鉄の剣。一般的な鉄の剣、冒険者が普段よく使用する。火属性が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨5枚、最安値が銀貨1枚、最高値は金貨1枚、最終取引日は昨日と記録されています。』

とか、

『硬革の袋。通常より硬い革で作られており丈夫。微弱な拡張魔法が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値が銅貨50枚、最高値は銀貨78枚、最終取引日は三日前と記録されています。』

等もあった。

拡張魔法ってのは入れ物の容積を増やす魔法だろう。

これは自分用にキープしたが、同じようなものを別に見つけてある。

ちなみにどれも普通の値段で売られていたので、鉄の剣は銀貨1枚、硬革の袋に関しては銅貨80枚だった。

問題は値段をどうするかだ。

相場はわかっているからそれにのっとって売れば問題は無い。

だが、相場が正しいというわけでもない。

ダンのセリフにあったように個人で買うとどうしても高くなってしまう。

かといって必要以上に下げれば利益が出ない。

今後せどりをしていくのであればそれなりに資金は必要になるし、数が増えれば置く場所の問題だって出てくる。

今は小さいものに限っているがそれがずっとあり続ける保証はないしな。

暫定的な売値は鉄の剣が銀貨5枚、硬革の袋も同じく銀貨5枚ぐらいにしておくとして、本当にこの価格でいいのか別の視点から確認した方がいいだろう。

そう、質屋だ。

あそこに持ち込んでいくらで売れるのか、もしくは貸してくれるのかを確認すればさらに転売される心配も無くなる。

いくら安く買えたからって、買い取り価格よりも低かったら意味は無いからな。

利益を出してなんぼの商売だ、今までもそうだったんだし異世界で遠慮する必要はないだろう。

「稼げるだけ稼がせてもらおうか。」

そうと決まれば持ち込み用にもう少し仕入れて質屋に向かうとしよう。

目星をつけていた商品を思いだし、相場スキルに導かれるまま俺は目的の露天へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...