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四章 初雪はクリスマスの後に
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「おーっす、みんな。明日から冬休みだね」
教室に入るなり、ケントは先に登校していたクラスメイト達に元気に挨拶をする。
幾人かのクラスメイトが顔を見合わせると、ケントの傍にやってきた。
「おーっすケント、休みどうする? 今年も商店街の公会堂に集まるか?」
「もちろんいくさ」
「明日リュウタんとこで集まってゲームするんだ。お前も来るだろ」
「当然」
「福永君、今週試合なんだって? 試合は出れるの?」
「絶好調。十点は決めるよ」
「明日から冬休みはいいけど、今日はお互いゆううつだよなあ。来年のおこずかいにまで影響しちまう」
「いやなことを思い出させるなよ」
昨日会ったはずなのに、すごく久しぶりな気がした。
そして同時にケントは、自分がどれだけ友達に心配されていたのか実感する。
ケントはしばらく友達に囲まれていたけども、いつものようにチャイムと同時に教室に入ってきた先生の姿を確認すると、輪から解放され、自分の席へと戻った。
「今日は機嫌がいいんだね」
席に座ってしばらくしてから、小声でハルヒサが声をかけてきた。
「いつも以上にニコニコしているよ」
「そう?」
本当に大切な、当たり前のものが見つかったからだとケントは思った。
「でも、今から頭を抱える事になるんだけど」
柴崎先生がクラスメイトを一人ずつ順番に名前を呼んでいた。
二学期の最後の行事である、通信簿の返却が行われているのだ。
「それは普段の行いのせいじゃない?」
そういうハルヒサはとても余裕に見える。
成績のいい子は、通信簿で悩むということは無いのだろう。
ひとしきり軽口をかけあうと、ハルヒサが「でも良かったよ」と口にした。
「もうすっかり悩みはいいみたいだね」
今更だけどもハルヒサには本当にいろいろと助けてもらったと思う。
昨日の事も、ケントがいなければおばあさんは危なかったし、ハルヒサがいなければケントは昨日あそこにいなかった。
そう考えるとおばあさんを本当に助けたのも、ケントが吹っ切れたのも全部ハルヒサのおかげともいえる。
「うん、そうだね。ハルヒサのおかげさ。ありがとう」
素直に礼を言うと、そっぽを向いて頭をかくしぐさをとる。
照れているのをごまかす行為はどうやら同じだなと思った。
「そ、そうかな。じゃあお礼を期待しようかな?」
「いいよ」
「え!?」
ハルヒサが驚いた声を上げる。
その声にケントの方がびっくりしてしまった。
「なんで驚くんだよ」
「だっていいって言うと思わなかったから……」
「自分から言ったのに変なやつだな。ハルヒサにはお世話になったからね。是非ともお礼をさせてよ」
そう言ってハルヒサに笑顔を向ける。
借りた恩を返さないという事は格好悪いことだ。それにあのおじいさんも友達は大切にしなさいと言っていたし。
ハルヒサは「あー」とか「うー」とか頭を抱え込んで、しばらくわけのわからない声を出していた。
なんでこんなに悩むんだろうと、ケントは不思議に思った。
「ハルヒサ! 春久奈美さん。聞こえないのか?」
通信簿の順番は既にハルヒサの番になっていたらしい。
柴崎先生に呼ばれ、慌てた様子でハルヒサが教壇の方に駆け足気味に向かう。
ハルヒサは体育があまり得意ではなく、駆け足すると、いつもなんだかコケそうな感じがして心配だ。
ハルヒサのスカート姿を見ながら漠然と考え、ケントはゆっくりと立ち上がった。
出席番号が一番違いなので、ハルヒサの次に名前が呼ばれるのだ。
先生に手渡された通信簿は、予想通り体育と図工以外は散々たる有様だった。
だけど二学期の総括に『正義感が強く、弱い子を守る非常に優しい子です。今後もこの長所を大切にしてください』と書かれているのを見て、なんだか照れくさくなる。
大人って子供の事をよくみているんだなあと思った。
「ケント」
席に戻るなり、嬉しそうにハルヒサが声をかけてきた。
その様子からきっと通信簿が良かったのだと推測する。
「あのさあ」
小声でハルヒサが耳元にささやきかけてくる。
「お礼だけど、お正月になったら初詣いっしょに行かない?」
「そんなのでいいの」
「うん」
まあ別にいいけど。
「神社に行くってことだよね。商店街にある神社でいいの?
「いいよ」
そこだったら歩いてもいける。
「だったらクラスの他の誰かも誘って・・・・・・・」
「二人きりがいいの!」
なぜか怒られてしまった。
その迫力に、ケントはつい萎縮してしまう。
「わ、わかったよ。二人きりで行こう
とたんにハルヒサは機嫌を直したようだ。
全く神社になんか二人でいって何が楽しいんだろうね。
でもハルヒサはニコニコしていて、なんだかとても幸せそうだ。
「へへへ、振袖着ていこうかな」
そんなことをつぶやいていた。
彼女が幸せそうに笑っていると、ケントもなんだか幸せな気分になってくる。
まあ、ハルヒサが楽しそうにしているし、いいか。
冬休みを前にした子供達の元気な声であふれる教室の中、ケントは心の中でつぶやいた。
教室に入るなり、ケントは先に登校していたクラスメイト達に元気に挨拶をする。
幾人かのクラスメイトが顔を見合わせると、ケントの傍にやってきた。
「おーっすケント、休みどうする? 今年も商店街の公会堂に集まるか?」
「もちろんいくさ」
「明日リュウタんとこで集まってゲームするんだ。お前も来るだろ」
「当然」
「福永君、今週試合なんだって? 試合は出れるの?」
「絶好調。十点は決めるよ」
「明日から冬休みはいいけど、今日はお互いゆううつだよなあ。来年のおこずかいにまで影響しちまう」
「いやなことを思い出させるなよ」
昨日会ったはずなのに、すごく久しぶりな気がした。
そして同時にケントは、自分がどれだけ友達に心配されていたのか実感する。
ケントはしばらく友達に囲まれていたけども、いつものようにチャイムと同時に教室に入ってきた先生の姿を確認すると、輪から解放され、自分の席へと戻った。
「今日は機嫌がいいんだね」
席に座ってしばらくしてから、小声でハルヒサが声をかけてきた。
「いつも以上にニコニコしているよ」
「そう?」
本当に大切な、当たり前のものが見つかったからだとケントは思った。
「でも、今から頭を抱える事になるんだけど」
柴崎先生がクラスメイトを一人ずつ順番に名前を呼んでいた。
二学期の最後の行事である、通信簿の返却が行われているのだ。
「それは普段の行いのせいじゃない?」
そういうハルヒサはとても余裕に見える。
成績のいい子は、通信簿で悩むということは無いのだろう。
ひとしきり軽口をかけあうと、ハルヒサが「でも良かったよ」と口にした。
「もうすっかり悩みはいいみたいだね」
今更だけどもハルヒサには本当にいろいろと助けてもらったと思う。
昨日の事も、ケントがいなければおばあさんは危なかったし、ハルヒサがいなければケントは昨日あそこにいなかった。
そう考えるとおばあさんを本当に助けたのも、ケントが吹っ切れたのも全部ハルヒサのおかげともいえる。
「うん、そうだね。ハルヒサのおかげさ。ありがとう」
素直に礼を言うと、そっぽを向いて頭をかくしぐさをとる。
照れているのをごまかす行為はどうやら同じだなと思った。
「そ、そうかな。じゃあお礼を期待しようかな?」
「いいよ」
「え!?」
ハルヒサが驚いた声を上げる。
その声にケントの方がびっくりしてしまった。
「なんで驚くんだよ」
「だっていいって言うと思わなかったから……」
「自分から言ったのに変なやつだな。ハルヒサにはお世話になったからね。是非ともお礼をさせてよ」
そう言ってハルヒサに笑顔を向ける。
借りた恩を返さないという事は格好悪いことだ。それにあのおじいさんも友達は大切にしなさいと言っていたし。
ハルヒサは「あー」とか「うー」とか頭を抱え込んで、しばらくわけのわからない声を出していた。
なんでこんなに悩むんだろうと、ケントは不思議に思った。
「ハルヒサ! 春久奈美さん。聞こえないのか?」
通信簿の順番は既にハルヒサの番になっていたらしい。
柴崎先生に呼ばれ、慌てた様子でハルヒサが教壇の方に駆け足気味に向かう。
ハルヒサは体育があまり得意ではなく、駆け足すると、いつもなんだかコケそうな感じがして心配だ。
ハルヒサのスカート姿を見ながら漠然と考え、ケントはゆっくりと立ち上がった。
出席番号が一番違いなので、ハルヒサの次に名前が呼ばれるのだ。
先生に手渡された通信簿は、予想通り体育と図工以外は散々たる有様だった。
だけど二学期の総括に『正義感が強く、弱い子を守る非常に優しい子です。今後もこの長所を大切にしてください』と書かれているのを見て、なんだか照れくさくなる。
大人って子供の事をよくみているんだなあと思った。
「ケント」
席に戻るなり、嬉しそうにハルヒサが声をかけてきた。
その様子からきっと通信簿が良かったのだと推測する。
「あのさあ」
小声でハルヒサが耳元にささやきかけてくる。
「お礼だけど、お正月になったら初詣いっしょに行かない?」
「そんなのでいいの」
「うん」
まあ別にいいけど。
「神社に行くってことだよね。商店街にある神社でいいの?
「いいよ」
そこだったら歩いてもいける。
「だったらクラスの他の誰かも誘って・・・・・・・」
「二人きりがいいの!」
なぜか怒られてしまった。
その迫力に、ケントはつい萎縮してしまう。
「わ、わかったよ。二人きりで行こう
とたんにハルヒサは機嫌を直したようだ。
全く神社になんか二人でいって何が楽しいんだろうね。
でもハルヒサはニコニコしていて、なんだかとても幸せそうだ。
「へへへ、振袖着ていこうかな」
そんなことをつぶやいていた。
彼女が幸せそうに笑っていると、ケントもなんだか幸せな気分になってくる。
まあ、ハルヒサが楽しそうにしているし、いいか。
冬休みを前にした子供達の元気な声であふれる教室の中、ケントは心の中でつぶやいた。
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