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三章 決戦はクリスマスイブに
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おじいさんの言っていたコンビニはすぐに見つかった。
飴玉とスナック菓子、それに温かいお茶が入った袋を左手に持ち、ケントはレジを離れる。
出口の前でそんな風に考えていると、目の前で自動ドアが開いた。
入ってきたのはケントと同じ位の背丈の、コートを着た女の子。
なんとなく眺めて、顔に視線をあげると、思わずケントは「あ!」と声を出した。
その顔は忘れるはずもない。
ケントがずっと会いたがっていた、あの女の子だった。
(まさかこんな所で!)
ケントの声に女の子は一瞬立ち止まり、こちらを見る。
だけど立ち止まったのもその一瞬で、そのままケントから視線を外した。
「あの、すみません!」
女の子の背中に思い切って声をかける。
女の子は振りかえってこちらを見た。
「いきなりすみません。おれ、えーと、この間の、その……」
心の準備がないままに再会してしまったので、どう話しかけていいかわからない。
なんとか言葉を探そうとあたふたしてしまった。
「あ、もしかしてこの間の男の子?」
女の子もケントの顔を思い出したようだ。いぶかしげな表情から、とたんに笑顔に変わる。
その表情をみてかあっと顔が赤くなるのをケントは感じた。
「この間はありがとう。君、この近くの子だったの?」
違います。君にもう一度会いたくて、ここまで来ました。
ずっと用意していた言葉を言おうとしたけども、口から言葉が出てこなかった。
心臓がドキドキする。立ったまま並んで見ると、彼女の方が少し背が高いようだった。
改めて顔を見ると、相変わらず大人っぽい整った顔立ちだ。
顔をじっと見ていられなくて、視線を落とす。彼女の着ている白いコートが見えて、その下に着ている服が続いて眼に入る。
ケントの視線はそこで、止まった。
コートから除く服は、ケントよりもっと上の学校に通うお兄さんやお姉さんが着る制服だった。
中学生、いやネクタイの結び目辺りに「高」とかかれた印がみえた。
高校生。
そりゃ大人っぽいはずだ。
「ハルミ」
その声に女の子は反応し、入口の方を向く。この子はハルミと言うらしい。
ハルミの視線につられて、ケントもそっちを向いた。視線の先には、茶髪の色白な男の子がいた。テレビで見るような、タレントみたいな恰好をしている。
男の子はハルミから視線を変えて、ケントの方に向けた。
「誰? その子」
「この間ほら。前に変なのに絡まれたって話したじゃん。その時にちょっと会った子」
「ふうん」と男の子は興味なさげにそのまま雑誌コーナーの方に向かった。
「ごめんね、あいつ愛想悪いから。あんなんだけど根はいいやつだよ。コンサートとかだとすごい声をだすしさ」
やはりハルミはライブに来ていたようだ。
そしてケントはもう一つの目的を思い出した。
「あの、これ……」
ケントはジャンバーのポケットから、あの日ハルミが差し出してくれたハンカチを取り出した。
ハルミはそのハンカチをみて、最初はいぶかしげな表情をうかべたが、「あ」と小さく声をあげた。
「そっか。なんか見当たらないと思ったら君にあの時に渡したんだった」
「大事なものなんでしょ?」
「いいよ、お礼に君にあげる」
そう言ってハルミは笑顔を向ける。
その笑顔は、看護師さんやおじいさんが向けてくるものに近いことに、ケントは気付いた。
「そういやまだ名前を聞いていなかったね。君、名前なんて言うの?」
「ケント、て言います」
ハルミは「そう」と眼を細める。そしてケントが持っている袋に気がついたそぶりを見せた。
「ごめんね。帰るの引き留めちゃったね」
「いいえ……」
「じゃあね、ケント君。バイバイ」
「さようなら」
ケントはハルミにそう告げた。
ハルミはケントに片手を振ると、一度もこちらを振り返らずさっきの男の方に向かっていく。
隣に並ぶと、ケントに見せたのとは違う笑顔を向けながら何やら二人で話していた。
既に偶然再会した男の子の事など、気にもなっていないようだ。
それを確認すると、ケントは自動ドアをくぐった。
あれだけ苦しかった胸の痛みは、不思議と何も感じなかった。
飴玉とスナック菓子、それに温かいお茶が入った袋を左手に持ち、ケントはレジを離れる。
出口の前でそんな風に考えていると、目の前で自動ドアが開いた。
入ってきたのはケントと同じ位の背丈の、コートを着た女の子。
なんとなく眺めて、顔に視線をあげると、思わずケントは「あ!」と声を出した。
その顔は忘れるはずもない。
ケントがずっと会いたがっていた、あの女の子だった。
(まさかこんな所で!)
ケントの声に女の子は一瞬立ち止まり、こちらを見る。
だけど立ち止まったのもその一瞬で、そのままケントから視線を外した。
「あの、すみません!」
女の子の背中に思い切って声をかける。
女の子は振りかえってこちらを見た。
「いきなりすみません。おれ、えーと、この間の、その……」
心の準備がないままに再会してしまったので、どう話しかけていいかわからない。
なんとか言葉を探そうとあたふたしてしまった。
「あ、もしかしてこの間の男の子?」
女の子もケントの顔を思い出したようだ。いぶかしげな表情から、とたんに笑顔に変わる。
その表情をみてかあっと顔が赤くなるのをケントは感じた。
「この間はありがとう。君、この近くの子だったの?」
違います。君にもう一度会いたくて、ここまで来ました。
ずっと用意していた言葉を言おうとしたけども、口から言葉が出てこなかった。
心臓がドキドキする。立ったまま並んで見ると、彼女の方が少し背が高いようだった。
改めて顔を見ると、相変わらず大人っぽい整った顔立ちだ。
顔をじっと見ていられなくて、視線を落とす。彼女の着ている白いコートが見えて、その下に着ている服が続いて眼に入る。
ケントの視線はそこで、止まった。
コートから除く服は、ケントよりもっと上の学校に通うお兄さんやお姉さんが着る制服だった。
中学生、いやネクタイの結び目辺りに「高」とかかれた印がみえた。
高校生。
そりゃ大人っぽいはずだ。
「ハルミ」
その声に女の子は反応し、入口の方を向く。この子はハルミと言うらしい。
ハルミの視線につられて、ケントもそっちを向いた。視線の先には、茶髪の色白な男の子がいた。テレビで見るような、タレントみたいな恰好をしている。
男の子はハルミから視線を変えて、ケントの方に向けた。
「誰? その子」
「この間ほら。前に変なのに絡まれたって話したじゃん。その時にちょっと会った子」
「ふうん」と男の子は興味なさげにそのまま雑誌コーナーの方に向かった。
「ごめんね、あいつ愛想悪いから。あんなんだけど根はいいやつだよ。コンサートとかだとすごい声をだすしさ」
やはりハルミはライブに来ていたようだ。
そしてケントはもう一つの目的を思い出した。
「あの、これ……」
ケントはジャンバーのポケットから、あの日ハルミが差し出してくれたハンカチを取り出した。
ハルミはそのハンカチをみて、最初はいぶかしげな表情をうかべたが、「あ」と小さく声をあげた。
「そっか。なんか見当たらないと思ったら君にあの時に渡したんだった」
「大事なものなんでしょ?」
「いいよ、お礼に君にあげる」
そう言ってハルミは笑顔を向ける。
その笑顔は、看護師さんやおじいさんが向けてくるものに近いことに、ケントは気付いた。
「そういやまだ名前を聞いていなかったね。君、名前なんて言うの?」
「ケント、て言います」
ハルミは「そう」と眼を細める。そしてケントが持っている袋に気がついたそぶりを見せた。
「ごめんね。帰るの引き留めちゃったね」
「いいえ……」
「じゃあね、ケント君。バイバイ」
「さようなら」
ケントはハルミにそう告げた。
ハルミはケントに片手を振ると、一度もこちらを振り返らずさっきの男の方に向かっていく。
隣に並ぶと、ケントに見せたのとは違う笑顔を向けながら何やら二人で話していた。
既に偶然再会した男の子の事など、気にもなっていないようだ。
それを確認すると、ケントは自動ドアをくぐった。
あれだけ苦しかった胸の痛みは、不思議と何も感じなかった。
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