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三章 決戦はクリスマスイブに
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「ジングルベル、ジングルベル、鈴が鳴る」
街はイルミネーションに彩られ、いつもの音楽がよりいっそう響き渡っている。
十二月二十四日、クリスマスイブ。
日は一層短くなり、空は暗くなり始めているけども、街は色とりどりの明かりでとても明るくてキレイだ。
寒さはこの数日で一段と増し、コートに手を入れ、背中を丸めて歩く人の姿も見かけられた。
ケントは綿地のシャツの上に日本代表のロゴいりジャンバーという格好で、コンサート会場に向かっている。いつもの格好でそのまま来たからもっと寒いと思っていたのだが、冷たさはそんなに感じなかった。
サッカーの試合直前と同じように、気分が高揚しているためだ。
授業が終わると、ケントはすぐに学校を飛び出した。
幸いサッカーの練習は休みだ。
母さんには友達と遊びに行って、つい遅くなったと言い訳するつもりだった。
コンサートが終わるのは七時らしい。
ケントは一時間以上前に、目的地の前にたどり着いていた。
しばらくコンサート会場前のコンビニで漫画を立ち読みしたあと、時間をつぶすためにケントは外に出かけた。
あの女の子と会ったらどういう風に話しかけようと考えては、顔が熱くなり、コンサートに来なかったらどうしようと考えては不安な気持ちになっていた。
歩道を歩く、ケントより背の高い大人たちの群れを避けるように歩いていたら、いつの間にか人通りの少ない路地裏に入り込んだ。
この辺りになると、仰々しいほどの飾りはとたんに控えめになる。
あの子と会ったのも、こんな人通りが少ないところだった。
ほんの数日前の事を思いだし、また顔が熱くなるのを感じた。
あまり大通りから離れると、道に迷うかもしれないと思い、ケントは元の道を戻りはじめる。
いつの間にか空は完全に暗くなっていた。
さっきのコンビニが見えた頃、ケントはポストの前でしゃがみ込んでいる大柄な人影をみかけた。
何気に見てそのまま通り過ぎようとしたけど、そのまままったく動かない事が気になりだす。他の人は気付かないようだった。
手紙でも落としたのかもしれない。暗いからきっと見つけにくいだろう。
そういう考えが頭をよぎった時には、ケントは回れ右してポストの方に向かっていた。
「大丈夫ですか?」
ケントの声に人影は振り向く。苦しそうな顔をしたおばあさんだ。
話しかけたのが子供だという事で、心配をかけまいとしたのか「大丈夫よ」とゆっくり言う。
しかし言葉とは違い、あまり大丈夫そうに見えない。
それにこのおばあさんはどこかで見たことがあった。
そうだ。いつか病院で会ったおばあさんだ。
「あら……もしかしてケント君かしら?」
おばあさんもケントの事に気がついたようだ。
名前も覚えてもらっていた。ケントの方にほほ笑もうとして、すぐに苦しそうな顔を浮かべた。
「あの、どうしたんですか? ぼくにできることありますか?」
おばあさんは遠慮をしていたようだけども、苦しさに耐えかねたのか「救急車を……」と口にする。
おして自分の上着のポケットをゆびさした。
「わかりました」
ケントはおばあさんのポケットから携帯電話を取り出すと、すぐに一一九番を押す。
電話の向こう側で、すぐに大人の男の人が出た。
ケントはおばあさんが苦しんでいる事を電話越しに伝える。
住所が分からなかったので場所を説明するのに時間がかかったものの、
「ライブ会場近くのコンビニあたりです」
といってなんとかわかってもらえた。
男の人はすぐに出るといって電話をきる。
ケントはおばあさんにもうすぐ救急車がくるから大丈夫だと話かけ続けた。
おばあさんがなんの病気だかわからないけど、危ない時はそばでずっと呼びかけ続けないといけないと、テレビで言っているのを見た事がある。
どれぐらいの時間が経っただろうか。
遠くでサイレンの音が聞こえたかと思うと、その音がだんだん近づいてくる。
やがて街全体に聞こえているんじゃないかと思う位に大きくなり、救急車が姿を見せた。
ケントは顔を輝かせると、そちらに向かって両手を振った。
元々狭い路地な上に、人が多いので救急車はなかなかこちらにこれない。
それでも事情を組んだ大人たちが道を開けていき、やがて救急車はケントのすぐそばに止まった。
中から白い服を着た人が担架をもって降りてくる。
それを見たケントは、張っていたものが切れたらしく、腰が抜けるようにその場に座り込んだ。
そこで初めてケントは、自分が汗をかいている事に気がつく。
風が路地を吹き抜け、寒さで身震いした。
「ほら。君もおばあさんと一緒に乗って」
救急車に乗っている人が、ケントに向かってそう言ってきた。
このおばあさんの孫と勘違いされたみたいだ。
「あの、ぼくは……」
違いますと答えようとする。
かなりの時間が経った。
今からコンサート会場に向かわないと、オフ・サマーとかのライブが終わる時間に間に合わない。
おばあさんはこのまま救急車が病院に連れて行ってくれるはずだ。
もうケントが心配することはない。
「坊や、なにをしているんだい」
でもそうしたらおばあさんは病院でどうすのだろうか。
確かおじいさんと二人暮らしで、おじいさんはとても忙しいと言っていた事をケントは思い出す。
もしおじいさんが病院にこれないようなら、おばあさんは一人ぼっちで苦しい思いをすることになる。
「早く乗って」
白い服を着た人の三度目の呼びかけに頷くと、ケントは救急車に乗り込んだ。
街はイルミネーションに彩られ、いつもの音楽がよりいっそう響き渡っている。
十二月二十四日、クリスマスイブ。
日は一層短くなり、空は暗くなり始めているけども、街は色とりどりの明かりでとても明るくてキレイだ。
寒さはこの数日で一段と増し、コートに手を入れ、背中を丸めて歩く人の姿も見かけられた。
ケントは綿地のシャツの上に日本代表のロゴいりジャンバーという格好で、コンサート会場に向かっている。いつもの格好でそのまま来たからもっと寒いと思っていたのだが、冷たさはそんなに感じなかった。
サッカーの試合直前と同じように、気分が高揚しているためだ。
授業が終わると、ケントはすぐに学校を飛び出した。
幸いサッカーの練習は休みだ。
母さんには友達と遊びに行って、つい遅くなったと言い訳するつもりだった。
コンサートが終わるのは七時らしい。
ケントは一時間以上前に、目的地の前にたどり着いていた。
しばらくコンサート会場前のコンビニで漫画を立ち読みしたあと、時間をつぶすためにケントは外に出かけた。
あの女の子と会ったらどういう風に話しかけようと考えては、顔が熱くなり、コンサートに来なかったらどうしようと考えては不安な気持ちになっていた。
歩道を歩く、ケントより背の高い大人たちの群れを避けるように歩いていたら、いつの間にか人通りの少ない路地裏に入り込んだ。
この辺りになると、仰々しいほどの飾りはとたんに控えめになる。
あの子と会ったのも、こんな人通りが少ないところだった。
ほんの数日前の事を思いだし、また顔が熱くなるのを感じた。
あまり大通りから離れると、道に迷うかもしれないと思い、ケントは元の道を戻りはじめる。
いつの間にか空は完全に暗くなっていた。
さっきのコンビニが見えた頃、ケントはポストの前でしゃがみ込んでいる大柄な人影をみかけた。
何気に見てそのまま通り過ぎようとしたけど、そのまままったく動かない事が気になりだす。他の人は気付かないようだった。
手紙でも落としたのかもしれない。暗いからきっと見つけにくいだろう。
そういう考えが頭をよぎった時には、ケントは回れ右してポストの方に向かっていた。
「大丈夫ですか?」
ケントの声に人影は振り向く。苦しそうな顔をしたおばあさんだ。
話しかけたのが子供だという事で、心配をかけまいとしたのか「大丈夫よ」とゆっくり言う。
しかし言葉とは違い、あまり大丈夫そうに見えない。
それにこのおばあさんはどこかで見たことがあった。
そうだ。いつか病院で会ったおばあさんだ。
「あら……もしかしてケント君かしら?」
おばあさんもケントの事に気がついたようだ。
名前も覚えてもらっていた。ケントの方にほほ笑もうとして、すぐに苦しそうな顔を浮かべた。
「あの、どうしたんですか? ぼくにできることありますか?」
おばあさんは遠慮をしていたようだけども、苦しさに耐えかねたのか「救急車を……」と口にする。
おして自分の上着のポケットをゆびさした。
「わかりました」
ケントはおばあさんのポケットから携帯電話を取り出すと、すぐに一一九番を押す。
電話の向こう側で、すぐに大人の男の人が出た。
ケントはおばあさんが苦しんでいる事を電話越しに伝える。
住所が分からなかったので場所を説明するのに時間がかかったものの、
「ライブ会場近くのコンビニあたりです」
といってなんとかわかってもらえた。
男の人はすぐに出るといって電話をきる。
ケントはおばあさんにもうすぐ救急車がくるから大丈夫だと話かけ続けた。
おばあさんがなんの病気だかわからないけど、危ない時はそばでずっと呼びかけ続けないといけないと、テレビで言っているのを見た事がある。
どれぐらいの時間が経っただろうか。
遠くでサイレンの音が聞こえたかと思うと、その音がだんだん近づいてくる。
やがて街全体に聞こえているんじゃないかと思う位に大きくなり、救急車が姿を見せた。
ケントは顔を輝かせると、そちらに向かって両手を振った。
元々狭い路地な上に、人が多いので救急車はなかなかこちらにこれない。
それでも事情を組んだ大人たちが道を開けていき、やがて救急車はケントのすぐそばに止まった。
中から白い服を着た人が担架をもって降りてくる。
それを見たケントは、張っていたものが切れたらしく、腰が抜けるようにその場に座り込んだ。
そこで初めてケントは、自分が汗をかいている事に気がつく。
風が路地を吹き抜け、寒さで身震いした。
「ほら。君もおばあさんと一緒に乗って」
救急車に乗っている人が、ケントに向かってそう言ってきた。
このおばあさんの孫と勘違いされたみたいだ。
「あの、ぼくは……」
違いますと答えようとする。
かなりの時間が経った。
今からコンサート会場に向かわないと、オフ・サマーとかのライブが終わる時間に間に合わない。
おばあさんはこのまま救急車が病院に連れて行ってくれるはずだ。
もうケントが心配することはない。
「坊や、なにをしているんだい」
でもそうしたらおばあさんは病院でどうすのだろうか。
確かおじいさんと二人暮らしで、おじいさんはとても忙しいと言っていた事をケントは思い出す。
もしおじいさんが病院にこれないようなら、おばあさんは一人ぼっちで苦しい思いをすることになる。
「早く乗って」
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