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三章 決戦はクリスマスイブに
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クリスマスイブは終業式の前日だ。
ライブの前売り券と言うやつはすでに売り切れていると、インターネットで調べてくれたハルヒサが言っていた。
どうやったら手に入るのだろうと、しばらく考えてみた。
ライブを見る事が目的ではないので、コンサートが終わるまでに退出口で待っていいということに気がついたのは何日かたってからだった。
平日だから始まるのは夕方みたいだけども、そうすると終わるのは結構遅くになりそうだ。
今のうちから母さんにおそくなる言い訳を考えなければならなかった。
父さんから再び借りた地図と、書きこむためのメモ用紙を交互に見ながら、ケントは急に不安になってきた。
あの子にもう一度会いたいと思っていたけど、向こうはおれをおぼえているだろうか?
あの女の子の事を考えただけで、顔がかあっと熱くなって心臓がドキドキする。
こんなのは初めての経験だ。
同時に女の子に忘れられていたら、嫌われたらと考えると不安で胸が苦しくなる。
これも初めての経験だった。
なんだか自分がいけないことを、いけない気持ちを持ってしまっているのではと頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
一人で頭を抱えて唸っていると、父さんがケントを呼ぶ声が聞こえた。
「地図はもういいかい?」
調べ物は既に終わっている。
ケントは慌てて立ち上がると、父さんの部屋に地図を返しに向かった。
「最近いろいろ頑張っているみたいだね」
部屋に入るなり、父さんは機嫌が良さそうな声でそう言った。
「ケントはお父さんの子供とは思えない位まっすぐな性格に育ったな。お父さん嬉しいよ」
父さんは今日珍しく、夕食の時にお酒を飲んでいた。
少し酔っているのだろう。
ケントは父さんと顔を合わせれられず、下を向いてうつむく。
「でも……おれは父さんのいうようないい子、じゃないかもしれないよ」
「いやそんなこと」と父さんは言いかけて、ケントの様子が真剣そうだった事に気づいて、まじめな顔で「ふむ」と頷いた。
「そうだね。いい子というのはすごく曖昧だね。でも父さんはたとえば親の言う事をよく聞いて、学校の勉強が出来る子がいい子とは違うと思うんだ」
じゃあなんで勉強しなさいと言われるんだろう。ケントの考えが顔に出たのか、父さんは「親は勝手だから、いい子以外にも子供にいろいろ期待するんだけどね」と笑った。
「たとえばこの間。ケントは女の子を助けて名誉の負傷をしたわけだけど」
核心に近い事をいきなり言われて、ケントはドキンと心臓が跳ね上がった。
「でもけがをしてしまって結果としてお母さんを悲しませてしまった。それは悪いことかい?」
「それは……」
母さんとシノブを困らせてしまったのは悪いと思っている。
でもじゃあ自分がやったことが間違いかというと……。
「ケントが行ったことは正しい行為だ。誰でもできることじゃあない。
なぜ誰もができないかというと、どれだけ正しいことをしても、誰かが困ったりすることがあるからだ。
大体は自分自身なんだけどね」
父さんはそういうと、ケントを真剣にみつめた。
「そしてそれでも自分が正しいと思うことをつらぬけるケントはいい子だよ。何を悩んでいるのかわからないけど、とりあえずは自分の思う事をしなさい」
父さんはほほ笑みながら、ケントにそう言った。
なんだか心を見透かされたようだ。やっぱり親ってすごいんだなと、ケントは自分の部屋に戻ってからそう思った。
父さんと話をして、少し気持ちに踏ん切りがついたような気がする。
学校もサッカーも好きだけど、今はそれ以上にあの子に会うことがケントの中では大事なのだ。
実際にライブ会場であの子と会えるかどうかもわからない。
会った所で女の子がケントをどういう風に思うかわからない。
でも……何もしないなんてことは出来ない
ケントは明日への決断をすると、ハンカチを強く握りしめた。
ライブの前売り券と言うやつはすでに売り切れていると、インターネットで調べてくれたハルヒサが言っていた。
どうやったら手に入るのだろうと、しばらく考えてみた。
ライブを見る事が目的ではないので、コンサートが終わるまでに退出口で待っていいということに気がついたのは何日かたってからだった。
平日だから始まるのは夕方みたいだけども、そうすると終わるのは結構遅くになりそうだ。
今のうちから母さんにおそくなる言い訳を考えなければならなかった。
父さんから再び借りた地図と、書きこむためのメモ用紙を交互に見ながら、ケントは急に不安になってきた。
あの子にもう一度会いたいと思っていたけど、向こうはおれをおぼえているだろうか?
あの女の子の事を考えただけで、顔がかあっと熱くなって心臓がドキドキする。
こんなのは初めての経験だ。
同時に女の子に忘れられていたら、嫌われたらと考えると不安で胸が苦しくなる。
これも初めての経験だった。
なんだか自分がいけないことを、いけない気持ちを持ってしまっているのではと頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
一人で頭を抱えて唸っていると、父さんがケントを呼ぶ声が聞こえた。
「地図はもういいかい?」
調べ物は既に終わっている。
ケントは慌てて立ち上がると、父さんの部屋に地図を返しに向かった。
「最近いろいろ頑張っているみたいだね」
部屋に入るなり、父さんは機嫌が良さそうな声でそう言った。
「ケントはお父さんの子供とは思えない位まっすぐな性格に育ったな。お父さん嬉しいよ」
父さんは今日珍しく、夕食の時にお酒を飲んでいた。
少し酔っているのだろう。
ケントは父さんと顔を合わせれられず、下を向いてうつむく。
「でも……おれは父さんのいうようないい子、じゃないかもしれないよ」
「いやそんなこと」と父さんは言いかけて、ケントの様子が真剣そうだった事に気づいて、まじめな顔で「ふむ」と頷いた。
「そうだね。いい子というのはすごく曖昧だね。でも父さんはたとえば親の言う事をよく聞いて、学校の勉強が出来る子がいい子とは違うと思うんだ」
じゃあなんで勉強しなさいと言われるんだろう。ケントの考えが顔に出たのか、父さんは「親は勝手だから、いい子以外にも子供にいろいろ期待するんだけどね」と笑った。
「たとえばこの間。ケントは女の子を助けて名誉の負傷をしたわけだけど」
核心に近い事をいきなり言われて、ケントはドキンと心臓が跳ね上がった。
「でもけがをしてしまって結果としてお母さんを悲しませてしまった。それは悪いことかい?」
「それは……」
母さんとシノブを困らせてしまったのは悪いと思っている。
でもじゃあ自分がやったことが間違いかというと……。
「ケントが行ったことは正しい行為だ。誰でもできることじゃあない。
なぜ誰もができないかというと、どれだけ正しいことをしても、誰かが困ったりすることがあるからだ。
大体は自分自身なんだけどね」
父さんはそういうと、ケントを真剣にみつめた。
「そしてそれでも自分が正しいと思うことをつらぬけるケントはいい子だよ。何を悩んでいるのかわからないけど、とりあえずは自分の思う事をしなさい」
父さんはほほ笑みながら、ケントにそう言った。
なんだか心を見透かされたようだ。やっぱり親ってすごいんだなと、ケントは自分の部屋に戻ってからそう思った。
父さんと話をして、少し気持ちに踏ん切りがついたような気がする。
学校もサッカーも好きだけど、今はそれ以上にあの子に会うことがケントの中では大事なのだ。
実際にライブ会場であの子と会えるかどうかもわからない。
会った所で女の子がケントをどういう風に思うかわからない。
でも……何もしないなんてことは出来ない
ケントは明日への決断をすると、ハンカチを強く握りしめた。
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