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二章 恋わずらいはゆううつで
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そうか、恋。
この気持ちは恋というのか。
自分の感情の正体が、名前のあるものだとわかるとケントは少し安心した。
安心して、ふと前を見ると、ケントのすぐ間近に顔があった。
「おぅっ」
ビックリして、椅子から落ちそうになった。
「なに、ぼおっとしているのさ」
そう話しかけてきたのは、隣の席のハルヒサだった。
ピッタリとした紺色のズボンに、斑模様のウール製の長袖を着ている。
その両肘をいつの間にかケントの机の上に置いて、下から顔をのぞき込んでいた。
「別にぼんやりなんかしていないよ」
内心ドキドキしているのを隠して、そうハルヒサに返した。
ハルヒサとは初めて同じクラスになった三年生の時から、三年連続で同じクラスという腐れ縁でもある。
「うそだあ。さっきから何度も呼んでいるんだよ」
「……そんなに何回も呼んだ?」
「ただしくは四回。で、今のが五回目」
まったく気がつかなかった。
「『おぅっ』だっけ?」
「……悪かったよ。なんのようだよ?」
からかうような表情をしていたハルヒサだったが、にらむとふとまじめな顔になった。
「何かあったのかい?」
「……一昨日階段で転んだんだよ」
「怪我じゃなくて別の事。今日はなんか心あらずって感じだよ」
ハルヒサはクラスで一番頭がいい。
だからなのか難しい言葉をよく使い、そしてとても鋭い所があった。
「なんにもないよ」
「だったらそんな風にぼうっとしないでしょ? おぅって」
一瞬だまってしまうと、にまあと表情をくずした。
「どれどれ。悩みがあるなら相談に乗るよ」
そう言って自分の椅子を手繰り寄せると、ケントの机を挟んで反対側に座った。
勢いで椅子の背にかけてあったハルヒサのコートが床に落ちた。こっちの方が近かったので拾って手渡す。
「……ありがとう。あ、いや、さあさあ、話してみな」
少し罰の悪い顔を浮かべながら、ハルヒサはそう言ってきた。
ハルヒサは悪い奴ではない。むしろいい奴だろう。
初めて女の子を好きになったということ。
そんな悩みの相談も受けてくれるかもしれない。
だが自分の感情の正体を知ったばかりで、ケントもじゃあ何を話していいかわからない。
そもそも自分だって、どうしたいかわからないのだ。
あの女の子が何者で、何て名前で、どこに住んでいるかすら知らないというのに。
「サンキュ。でも本当に何でもないからさ」
だからそう言ってやんわりと断った。
ハルヒサは見るからに不満そうな顔を浮かべた。
だけどすぐにからかうようないつもの笑い顔にもどった。
「まあ話したくないならいいけどさ」
なんでもないはずがない、という顔をしていたけど一応は納得してくれたようだ。
「ハルヒサを信用してないわけじゃあないからさ。ありがとう」
「本当に困ったのなら相談しろよ」
そう言って無邪気に笑いかけてくるハルヒサに、ケントは心の中でごめんねとつぶやいた。
この気持ちは恋というのか。
自分の感情の正体が、名前のあるものだとわかるとケントは少し安心した。
安心して、ふと前を見ると、ケントのすぐ間近に顔があった。
「おぅっ」
ビックリして、椅子から落ちそうになった。
「なに、ぼおっとしているのさ」
そう話しかけてきたのは、隣の席のハルヒサだった。
ピッタリとした紺色のズボンに、斑模様のウール製の長袖を着ている。
その両肘をいつの間にかケントの机の上に置いて、下から顔をのぞき込んでいた。
「別にぼんやりなんかしていないよ」
内心ドキドキしているのを隠して、そうハルヒサに返した。
ハルヒサとは初めて同じクラスになった三年生の時から、三年連続で同じクラスという腐れ縁でもある。
「うそだあ。さっきから何度も呼んでいるんだよ」
「……そんなに何回も呼んだ?」
「ただしくは四回。で、今のが五回目」
まったく気がつかなかった。
「『おぅっ』だっけ?」
「……悪かったよ。なんのようだよ?」
からかうような表情をしていたハルヒサだったが、にらむとふとまじめな顔になった。
「何かあったのかい?」
「……一昨日階段で転んだんだよ」
「怪我じゃなくて別の事。今日はなんか心あらずって感じだよ」
ハルヒサはクラスで一番頭がいい。
だからなのか難しい言葉をよく使い、そしてとても鋭い所があった。
「なんにもないよ」
「だったらそんな風にぼうっとしないでしょ? おぅって」
一瞬だまってしまうと、にまあと表情をくずした。
「どれどれ。悩みがあるなら相談に乗るよ」
そう言って自分の椅子を手繰り寄せると、ケントの机を挟んで反対側に座った。
勢いで椅子の背にかけてあったハルヒサのコートが床に落ちた。こっちの方が近かったので拾って手渡す。
「……ありがとう。あ、いや、さあさあ、話してみな」
少し罰の悪い顔を浮かべながら、ハルヒサはそう言ってきた。
ハルヒサは悪い奴ではない。むしろいい奴だろう。
初めて女の子を好きになったということ。
そんな悩みの相談も受けてくれるかもしれない。
だが自分の感情の正体を知ったばかりで、ケントもじゃあ何を話していいかわからない。
そもそも自分だって、どうしたいかわからないのだ。
あの女の子が何者で、何て名前で、どこに住んでいるかすら知らないというのに。
「サンキュ。でも本当に何でもないからさ」
だからそう言ってやんわりと断った。
ハルヒサは見るからに不満そうな顔を浮かべた。
だけどすぐにからかうようないつもの笑い顔にもどった。
「まあ話したくないならいいけどさ」
なんでもないはずがない、という顔をしていたけど一応は納得してくれたようだ。
「ハルヒサを信用してないわけじゃあないからさ。ありがとう」
「本当に困ったのなら相談しろよ」
そう言って無邪気に笑いかけてくるハルヒサに、ケントは心の中でごめんねとつぶやいた。
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