初雪はクリスマスに

シュウ

文字の大きさ
上 下
3 / 17
一章 出会いは寒空の下で

しおりを挟む
 しばらく歩くと、普段見ている駅前とは様変わりしはじめていた。
 きれいな駅前とは違い、古くて暗い感じがした。
 だけど壁の落書き(アート)や店の看板がどこか大人な雰囲気があって、冒険心をくすぐった。

 始めは物珍しさからどんどん奥に進んでいったケントだったが、ふと気づけばほとんど人通りのないところにいた。
 開いている店もなく、古いどころかなんだか汚い感じがする。
 そして壁の落書きが、全然おしゃれでもなくなっていた。
 それに気づくと、なんだかうすら寒くなる。
 強い風が吹いた、
 身体を抱き寄せ、身を震わす。

「そろそろ戻らないと、母さんが早く買い物終わったら心配するしなあ」
  
 誰が聞いているわけでもないのに、ケントはそう言うと元来た道を帰ろうとした。
 
「いいだろう別に」
「そんな怖がることねえって」

 そんな声が聞こえて立ち止まる。
 あまりおだやかでない声だった。
 なんだろうとケントは声の方向に反射的に動く。
 細い路地の、さらに横道をはいっていった。
 ビルの外側に、二階まで続く階段がある。
 一階はなんらかの店なのだがしまっていて、なんだか怖い雰囲気の落書きなどがあった。
 階段の上は踊り場になっていて、そこの奥に店があるのだろうか。
 そして声はこの踊り場からだった。
 
 ケントより何歳か年上の、三人ほどの少年が一人の男の子を取り囲んでいた。
 男の子はカーキ色のセータの上に、大きな白いジャケットを着ている。
 深くかぶった帽子で顔は良く見えないけど、背丈からケントと同じ年ぐらいと思った。
 男の子は明らかにいやがっていた。

「先生が子供の頃はね。かつあげっていって小遣いを奪い取る不良なんていたんだよ」

 そんな話を、担任のシバザキ先生がしていたことを思いだす。
 もしかしてこれがかつあげってやつか?
 
「おい、何をしているんだ!」

 次の瞬間にはケントはそう叫んでいた。
 そして階段まで走ると、一気にかけあがる。
 ケントは正義感が非常に強く、りふじんで間違ったことが大嫌いだった。
 身体が勝手に動いたのである。

 少年たちはケントの声に、一瞬びくりとうろたえた様子を見せた。
 何事かとやたら周囲を見回し始めたのだ。
 そしてケントが階段を駆け上がったころになって、ようやく声の主がケントだって気付いたようだった。
 少年たち、そして男の子の四人がケントをぽかんとした表情で見つめる。

「なんだお前? あっちいってろ」

 ケントが小学生だと思って、少年たちはすごんできた。
 だけどケントはひるまない。彼らの期待通りの行動をとるのは嫌だった。

「ひきょう者の言うことなんか聞くもんか」

 ケントの言葉に中学生たちの対象が、ケントに注がれる

「生意気な奴だな。お前」

 一人がそう言うと、他の二人と一緒にケントを囲むようにゆっくりと広がっていく。
 ケントは少し身をかがめ、かかとを浮かすと一番離れている少年に向かって一気につっこんだ。
 
「な!」

 少年は驚いて反射的に手を伸ばす。
 ケントはフェイントをいれて身体の向きを変えると、ステップを踏んでその手をかいくぐった。
 そして、すぐ近くにいた男の子の手をつかんだ。

「逃げて!」
 
 叫んで引っ張る。
 男の子はビックリした様子だったが、気がついて階段の方に走っていった。

「てめえ!」
 
 少年たちもケントがしたことに気がついて、男の子を追いかけようとする。
 その前にケントは立ちふさがった。

「邪魔だ!」
 
 ケントを払いのけようとする少年から、ひょいと身体を動かして足をかける。
 少年は無様にバランスを崩した。
 ケントはサッカーをやっていて、チームではもちろん地域で一番うまい。トレセンメンバーにも選ばれていた。
 足だってぶっちぎりで速くて、学校対抗のかけっこだっていつも代表で優勝している。
 学校ではいつだってヒーローだった。
 こんな奴らをかわして、逃げるなんて簡単だと思っていた。

 突然強い力が肩にかかって、ケントは床にたたきつけられた。
 少年たちの一人が、服をつかんでケントを引っ張り倒したのだ。

「このガキ……」

 怒りに満ちた目で、ケントを見下ろす少年の顔がうつる。
 小学生ともっと大きな少年の体格差と、これはサッカーでは無いことをケントは考えていなかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あさはんのゆげ

深水千世
児童書・童話
【映画化】私を笑顔にするのも泣かせるのも『あさはん』と彼でした。 7月2日公開オムニバス映画『全員、片想い』の中の一遍『あさはんのゆげ』原案作品。 千葉雄大さん・清水富美加さんW主演、監督・脚本は山岸聖太さん。 彼は夏時雨の日にやって来た。 猫と画材と糠床を抱え、かつて暮らした群馬県の祖母の家に。 食べることがないとわかっていても朝食を用意する彼。 彼が救いたかったものは。この家に戻ってきた理由は。少女の心の行方は。 彼と過ごしたひと夏の日々が輝きだす。 FMヨコハマ『アナタの恋、映画化します。』受賞作品。 エブリスタにて公開していた作品です。

現実でぼっちなぼくは、異世界で勇者になれるのか?

シュウ
児童書・童話
つばさは人付き合いが苦手な男の子。 家でも学校でもうまくいっているとは言い難かった。 そんなある日、つばさは家族旅行の最中に、白いフクロウに導かれて不思議な世界『ヤマのクニ』に迷い込む。 本来平和なこの国は、霧の向こうからやってきた『異形』によって平穏が脅かされていた。 なんの力もない無力な小学生であるつばさだが、都合よく異能力なんてものをもったりも当然していない。 この世界で助けられた少女・サギとともにヤマのクニを旅する。 果たしてつばさは元の世界に帰ることができるのか。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

月夜に秘密のピクニック

すいかちゃん
児童書・童話
日常生活の中に潜む、ちょっとした不思議な話を集めたショートショートです。 「月夜に秘密のピクニック」では、森で不思議な体験をする子供達。 「不思議な街の不思議な店主」では、失恋した少女と不思議な店主。 「記憶の宝石箱」は、記憶を宝石に封じた老人と少年というお話です。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

フツーさがしの旅

雨ノ川からもも
児童書・童話
フツーじゃない白猫と、頼れるアニキ猫の成長物語 「お前、フツーじゃないんだよ」  兄弟たちにそうからかわれ、家族のもとを飛び出した子猫は、森の中で、先輩ノラ猫「ドライト」と出会う。  ドライトに名前をもらい、一緒に生活するようになったふたり。  狩りの練習に、町へのお出かけ、そして、新しい出会い。  二匹のノラ猫を中心に描かれる、成長物語。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

処理中です...