初雪はクリスマスに

シュウ

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一章 出会いは寒空の下で

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 しばらく歩くと、普段見ている駅前とは様変わりしはじめていた。
 きれいな駅前とは違い、古くて暗い感じがした。
 だけど壁の落書き(アート)や店の看板がどこか大人な雰囲気があって、冒険心をくすぐった。

 始めは物珍しさからどんどん奥に進んでいったケントだったが、ふと気づけばほとんど人通りのないところにいた。
 開いている店もなく、古いどころかなんだか汚い感じがする。
 そして壁の落書きが、全然おしゃれでもなくなっていた。
 それに気づくと、なんだかうすら寒くなる。
 強い風が吹いた、
 身体を抱き寄せ、身を震わす。

「そろそろ戻らないと、母さんが早く買い物終わったら心配するしなあ」
  
 誰が聞いているわけでもないのに、ケントはそう言うと元来た道を帰ろうとした。
 
「いいだろう別に」
「そんな怖がることねえって」

 そんな声が聞こえて立ち止まる。
 あまりおだやかでない声だった。
 なんだろうとケントは声の方向に反射的に動く。
 細い路地の、さらに横道をはいっていった。
 ビルの外側に、二階まで続く階段がある。
 一階はなんらかの店なのだがしまっていて、なんだか怖い雰囲気の落書きなどがあった。
 階段の上は踊り場になっていて、そこの奥に店があるのだろうか。
 そして声はこの踊り場からだった。
 
 ケントより何歳か年上の、三人ほどの少年が一人の男の子を取り囲んでいた。
 男の子はカーキ色のセータの上に、大きな白いジャケットを着ている。
 深くかぶった帽子で顔は良く見えないけど、背丈からケントと同じ年ぐらいと思った。
 男の子は明らかにいやがっていた。

「先生が子供の頃はね。かつあげっていって小遣いを奪い取る不良なんていたんだよ」

 そんな話を、担任のシバザキ先生がしていたことを思いだす。
 もしかしてこれがかつあげってやつか?
 
「おい、何をしているんだ!」

 次の瞬間にはケントはそう叫んでいた。
 そして階段まで走ると、一気にかけあがる。
 ケントは正義感が非常に強く、りふじんで間違ったことが大嫌いだった。
 身体が勝手に動いたのである。

 少年たちはケントの声に、一瞬びくりとうろたえた様子を見せた。
 何事かとやたら周囲を見回し始めたのだ。
 そしてケントが階段を駆け上がったころになって、ようやく声の主がケントだって気付いたようだった。
 少年たち、そして男の子の四人がケントをぽかんとした表情で見つめる。

「なんだお前? あっちいってろ」

 ケントが小学生だと思って、少年たちはすごんできた。
 だけどケントはひるまない。彼らの期待通りの行動をとるのは嫌だった。

「ひきょう者の言うことなんか聞くもんか」

 ケントの言葉に中学生たちの対象が、ケントに注がれる

「生意気な奴だな。お前」

 一人がそう言うと、他の二人と一緒にケントを囲むようにゆっくりと広がっていく。
 ケントは少し身をかがめ、かかとを浮かすと一番離れている少年に向かって一気につっこんだ。
 
「な!」

 少年は驚いて反射的に手を伸ばす。
 ケントはフェイントをいれて身体の向きを変えると、ステップを踏んでその手をかいくぐった。
 そして、すぐ近くにいた男の子の手をつかんだ。

「逃げて!」
 
 叫んで引っ張る。
 男の子はビックリした様子だったが、気がついて階段の方に走っていった。

「てめえ!」
 
 少年たちもケントがしたことに気がついて、男の子を追いかけようとする。
 その前にケントは立ちふさがった。

「邪魔だ!」
 
 ケントを払いのけようとする少年から、ひょいと身体を動かして足をかける。
 少年は無様にバランスを崩した。
 ケントはサッカーをやっていて、チームではもちろん地域で一番うまい。トレセンメンバーにも選ばれていた。
 足だってぶっちぎりで速くて、学校対抗のかけっこだっていつも代表で優勝している。
 学校ではいつだってヒーローだった。
 こんな奴らをかわして、逃げるなんて簡単だと思っていた。

 突然強い力が肩にかかって、ケントは床にたたきつけられた。
 少年たちの一人が、服をつかんでケントを引っ張り倒したのだ。

「このガキ……」

 怒りに満ちた目で、ケントを見下ろす少年の顔がうつる。
 小学生ともっと大きな少年の体格差と、これはサッカーでは無いことをケントは考えていなかった。
 
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