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3章 映画撮影

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 上機嫌で先頭を歩くライトに、ぼくらはついて行く。
 自分が主演だといういうことが嬉しいのだろう。
 目立つのが好きなのは、ぼくの脚本と同じである。
 あの日映画を撮ろう、という話になったのだ。
 ぼくがもっているカメラがその場で簡単な編集ができる本格的な奴で、それならどうせなら動画サイトにあげるような動画じゃなくて、映画にしようとライトが言い出したのである。

「ああいうのって脚本とか絵コンテとか必要じゃなかったっけ?」
「脚本ならトヨジのがあるじゃん。あ、そういえば今度見せてねって言ったのにまだみせてもらっていないや」

 終業式の、あの再会した日の約束をどうやら思い出したようだった。

「で、でもぼくのは演劇であって、映画じゃないんだけど」
「まあいいじゃないか。どうせ素人映画だし、オレ達以外に見ることが出来る人間がいるわけでもないし。やってみようぜ」

 松川君の鶴の一声で映画を作ることが決定する。
 その日は松川君が夕方から母方の田舎にしばらく行ってくるとのことで、昼前に解散になった。
 次にライトが来る前に撮影場所や他に必要な器具をそろえるという。

「楽しみだね」
  とライトは帰る前にぼくに笑いかけた。

 そして今日、ライトは白いワンピース姿で改札口から下りてくる。

「映画を撮るっていったらこれでしょ?」

 それはぼくにはわからなかったけど、ふわふわしたスカート姿は、普段と印象が違っていて似合っていた。
「かわいいよ」と松川君が臆面もなく言い「でしょ?」とライトは当然のように受け止めて見せつけるように回る。
 そういうやりとりが自然にできるかどうかが、ぼくと彼らの存在の違いなのだろう。

「撮るなら少しは見渡しが良いところがいいだろ?」

 松川君の提案で撮影場所に移動することになった。
 ぼくは自分のビデオカメラとマイクを台本と一緒に鞄に入れており、松川君は照明代わりといういくつかの懐中電灯と折りたたみの三脚。それからレフ板をもっていた。
 朝とはいえ夏にそれなりに重量のあるものを持って歩いていると自然汗が大量に噴き出してくる。
 もっていたタオルはすぐに汗まみれになった。
 サッカーで外の運動になれている松川君はさすがに足取りは軽いものの、時折「あっつー」と口にしていた。
 ライトはぼくら男連中を済ました顔で非常に軽やかな動きだった。
 荷物が少ないというのを差し置いても一番元気だ。
 やがてたどり着いたのは寂れた神社だった。
 建物が朽ち果て始めていて、おそらくだいぶ前に人がいなくなったのだろう。
 木も多いので自然日影も多く、涼しい反面わびしい雰囲気が強かった。
 寂寥の気持ちを抱くには蝉の鳴き声がうるさすぎるけど。
 小さな山にそって作られたらしく周囲は三階ぐらいの高さがあり、中心からも外れて低い建物が多いこの辺りなら充分すぎるほど見晴らしが良い。

「こんな場所があったんだね」

 ライトが物珍しそうに神社の方をのぞき込んでいた。
 雑草が生い茂っていて変な虫とかいそうだだけど元から気にならないのか。
 それともこの世界の住人ではない自分は虫に何かされることは無いと高をくくっているのか。
 その間にぼくらは準備をする。
 撮影にふさわしい場所を探し、手頃な場所に三脚を立てる。
 懐中電灯をふさわしい場所に置く。日差しの高さなどを計算するとどこに置くのがふさわしいか。

「トヨジ、悩みすぎると日が暮れちまうぞ。素人映画を、さらに素人が作るんだから軽くやろうぜ」

 松川君に少し呆れの感情の交じった声で促され、ぼくは慌てて準備をした。
 ライトが戻ってきたところで二人に台本を渡した。
 今回するのはこんな話だ。
 空からやってきた少女が、現地の少年と出会って恋をし、そして去っていくという古典的な話だ。
 松川君の趣味もあり、SF風味にしてある。
 場面の移り変わりのない同一箇所での短編台本で、長くても二十分ぐらいだと見積もっている。
 二人は台本を音読しつつ、互いの台詞がおかしいのか笑い合っていた。
 軽くこづき合って、小さく何かをささやき合っては楽しげな表情を向け合っている。
 そういう姿を見る度に胸がきりきり痛む。
 あんな風に明るい日差しの下で自然に笑う事ができない。人と触れることができない事への嫉妬だと自分でもわかっている。
 そんな気持ちも、カメラをのぞき込むことで少し収まるような気がした。 
 カメラを通して見る世界はどこか違う。ぼくが演劇の世界に魅せられたように、カメラのフィルターを通した世界はまさしく別世界だった。
 そのカメラの先にはライトが写っている。
 本当の別世界からやってきた彼女はカメラに気づくと、指をいわゆるピースサインでこちらに白い歯を見せた。

「じゃあ始めるよ。最初のカットから」

 これほどしっかりした声が出せることに、自分で驚いた

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